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894.面白い野菜ヌキプル

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 市場の中には、本当に色んなお店があった。

 和紙みたいな紙をたくさん取り扱っている紙の専門店とか、魔物素材の中でも爪だけを集めたお店とか、なぜか一種類の果物だけしか取り扱って無いお店とか本当に色々だった。

 ちなみに一種類だけのお店は、この果物が一番うまいからだとガッハッハッと笑いながら言われたよ。気になって買っちゃったんだけど、隣の果物の屋台の人からその言い方は周りの屋台に迷惑だって叱られてた。

 あれは申し訳ないけどちょっと面白かったな。

 あと市場の途中には、ダンジョン産だという魔道具がずらりと並んだ屋台もあったよ。気にはなったんだけど、あそこはやめておこうってハルが言うから立ち寄らなかった。

 途中ですれ違った二人組の男性にハルから声をかけてそのお店の情報を教えてたから、あれがジルさんの言ってたあまりよくないお店なのかな。

 目立たないようにか服装は私服だったけど、あの二人組は多分騎士団の人だと思うんだ。

 そんな事を何度か繰り返して、ハルのチェックに通ったお店だけを見て回っているうちにふと気になるものが目についた。
 
「ね、ハル、あれって…何?」

 そう尋ねながら俺がそっと指差したのは、ここから見えるいくつかの屋台の上に掲げられている灰色の丸いものだった。

 屋台の
看板?それにしては文字や模様、絵すら入っていないんだよね。しかも一つの屋台ならともかく、いくつかの屋台にってのはちょっとおかしい。

 見れば見るほど、ただのつやつやとした丸い物体にしか見えない。あれには一体どんな意味があるんだろう。

「どれ?ああ、あれはね…」

 何でも知ってるハルが俺に説明をしようとしてくれた瞬間、雲の切れ目があったのか不意に太陽の光が辺り一面を照らした。

 その瞬間、その丸いものが光を反射して七色に輝いた。

「えええ…何あれ…すっごい光ってる」
「あれがヌキプルだよ」
「え…ヌキプルってあの真っ白なスープに使われてたやつ!?」

 キースくんの好物だって言ってたあのスープだよねと念を押してみれば、ハルはそうだよと悪戯っぽく笑って答えた。

「ヌキプルは普通に並べておいても灰色で目立たないからね。ああやって太陽の光を反射する場所に1個だけ飾ってるんだ」

 そうすればこの屋台ではヌキプルを売ってるってパッと見て分かるから、らしい。つまりヌキプルがそれだけ人気のある野菜だって事だよね。

 あーなるほど。あれがジルさんが見た目が面白いから探してみてと言ってたヌキプルか。確かにこれは面白いやつだ。

 七色に光っているように見える果物なんて見たことがあるわけがないのに、何だか既視感を覚える。なんだっけとすこしだけ考えてみると、ゲーミングキーボードって言葉がポンッと思い浮かんだ。

 ゲーム用のコントローラーとかキーボードが、七色に光るやつが売ってるんだよね。ゲーミング何とかって呼ばれる、七色に光るやつ。

 前にどんな意味があるんだろうと友達と一緒に調べてみたら、特に意味は無いとか格好良いだけとかそんな説明が出てきて笑ったんだ。

 つまりヌキプルはゲーミング野菜。

 そんな事を考えてしまった俺が思わずクスリと笑った瞬間、背後から声が聞こえてきた。

「え、すっごい派手な飾りがある。ね、あれ何?」
「ああ、あれは太陽の光を反射するヌキプルって野菜だな。お前…もうすこし外歩けよ…辺境領の名産品だぞ?」
「そうなんだ?」
「そうなんだって…お前な…」
「今日は珍しくこんな人混みに出てきたんだから、細かい事言うなって!」

 ケラケラと笑ったお兄さんはそれにしてもと続けた。

「あれはゲーミング野菜って感じだな」
「ゲー…何だって?」
「あー、えっとな、七色に光る物?を俺の故郷ではそう言うんだよ」

 あまりに気になる返答にそっと振り返れば、長めに前髪を伸ばした黒髪黒目の細身のお兄さんが連れのお兄さんと話している所だった。

 あれ…この人、見た目と今さっきの会話からして…?

 思わずじっと見つめてしまった俺に、細身のお兄さんはハッとした様子ですぐさま口を開いた。

「あー、ごめん、俺の声でかかった?」
「あ。いえ…違います。あの、俺も同じ事を思ってたので…気になって…」

 いきなりこんな事言われても困るよね。慌ててすみませんと謝ろうとしたけれど、お兄さんは俺の髪色と目を順番に見て、たちまち人懐こそうな笑顔になった。

「あ!もしかして同郷なのかな!?」
「かもしれないです!」
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