894 / 1,103
893.軽い短剣
しおりを挟む
「まずいくつか聞きたいんだが…そっちの兄ちゃんは前衛か後衛どっちだ?」
そう尋ねてくれたお兄さんに、俺は後衛ですと笑顔で答えた。グレースさんもそうだったけど、体格的に後衛だろうと決めつけずに聞いてくれるのって嬉しいものだな。
辺境領以外ではだいたい後衛だろ?って聞かれてたんだけどさ。
「そうか、後衛か…ちなみに武器については…聞いても良いのか?」
何故かお兄さんはそこで俺じゃなく、ハルを見つめてそう尋ねた。なんで?と思わずハルを見つめてしまったんだけど、ハルはふわりと笑って頷いた。
「ああ、気づかってくれてありがとう。アキト、言って大丈夫だよ」
「えっと…魔法使い…です?」
今まで普通に後衛の魔法使いですって自己紹介してきた。それなのに急に今になってそう聞かれた理由が分からなくて、答えがちょっと疑問形になってしまった。
明らかに困惑している俺の答えに、ハルはすぐに理由を教えてくれた。
「辺境ではね、どんな武器を使うかを隠そうとする人もいるんだ」
「えっ…武器を隠すの?なんで?」
でも装備してるものを見たら分かるよねと思ったけど、武器の類は全て魔導収納鞄にしまい込んでいる冒険者とか、分からないようにわざといくつかの種類を装備してる冒険者も多いんだって。
そう言われて周りを見てみれば、確かに腰には剣、足には短剣、背中には弓みたいにいくつかの武器を装備している人も結構いるな。逆に防具の類は全部装備してるのに、武器は持ってないって人も結構いる。
「他の地域にはあまりないんだけど、辺境では見知らぬ人から一緒に依頼を受けないかと勧誘される事があるんだ。特に特殊な魔物の討伐依頼とかなんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
「他の地域では基本的に知り合いとチームを組むとか、もしくは冒険者ギルドが間に立つよね?それを全く知らない人に直接声をかけられてチームを組む事になるんだけど…どう思う?」
ああ、そっかブレイズ達と一緒に行ったああいう特殊な依頼に、知らない人と組んで行くって事か。それは…ちょっと怖いかもしれない。
「どんな人達か分からない人と組むのはちょっと怖いね」
信用して良いかも分からないし、きちんと連携ができるかも分からない。そんな依頼仲間は嫌だ。
「そうだよね。だから勧誘されないようにと、わざと分からないように誤魔化してる人が多いんだ」
「説明は終わったかい?」
店員のお兄さんは、ハルの説明が終わるまで静かに待っていてくれた。
「あ、待たせてごめんなさい」
「いや、気にしないでくれ。それで…こんなに人が多い場所で言っちゃって良かったのかい?」
すこし心配そうなお兄さんに、ハルはにっこりと笑って答えた。
「ああ、大丈夫だよ。もしアキトに依頼をしたい人がいたなら、俺がきちんと色々と調べてからしか依頼は受けないからね」
そう言ってハルは周りをぐるりと見渡した。ん?と思って一緒になって周りを見てみたけど、別に気になる人はいなかった。なんだったんだろう。
「伴侶候補の兄さんがそうまで言うなら、まあ良いか。それで?後衛の魔法使いって事は普段は魔法で、いざと言う時のための武器って事だよな?」
お兄さんは何故か苦笑しながらそう続けた。
「ああ、そうだね。一応投げナイフと剣は持ってるけど…ここまで軽いならアキトに良いかなと思って」
「それなら良いかもしれない。兄ちゃんちょっとそれ持ってみな?」
店員さんの言葉を受けて、ハルは俺の手にそっと短剣を渡してくれた。
両手で鞘に入ったままの短剣を受け取った俺は、そのあまりの軽さに驚いてしまった。もしかしたら、俺が持ってる投げナイフよりも軽いかもしれないぐらいの重さしかない。
しかもただ軽いだけじゃない。柄の部分には指の形に合うように凹凸があって、不思議と手に馴染む。
「こんなに軽いの?!え、すごい」
「鞘はつけたままで、ちょっと構えてみな?」
店員さんの言葉に従って、俺は少しだけ腰を落として短剣を構えた。ハルに教えてもらった、一番基本の姿勢。攻撃にも防御にも動きやすい体勢だ。
「兄ちゃん、後衛にしてはかなり筋が良いな」
構えを取っただけなのに褒められてしまった。教えてくれたハルのおかげだけどね。
「あの、これ欲しいです」
売らないって言われたらどうしようと思いながらも店員さんに主張すれば、お兄さんは楽し気に笑って答えた。
「その短剣は兄ちゃんにぴったりだからな、文句なんて無いよ」
「やった!」
「良かったね、アキト」
何か形として残るものも買いたいなと思ってたんだけど、まさかこんなに軽い短剣だとは思ってなかったな。
きちんと手入れをして使えば武器は長い間使えるってハルも言ってたし、大事に大事に使おう。
そう尋ねてくれたお兄さんに、俺は後衛ですと笑顔で答えた。グレースさんもそうだったけど、体格的に後衛だろうと決めつけずに聞いてくれるのって嬉しいものだな。
辺境領以外ではだいたい後衛だろ?って聞かれてたんだけどさ。
「そうか、後衛か…ちなみに武器については…聞いても良いのか?」
何故かお兄さんはそこで俺じゃなく、ハルを見つめてそう尋ねた。なんで?と思わずハルを見つめてしまったんだけど、ハルはふわりと笑って頷いた。
「ああ、気づかってくれてありがとう。アキト、言って大丈夫だよ」
「えっと…魔法使い…です?」
今まで普通に後衛の魔法使いですって自己紹介してきた。それなのに急に今になってそう聞かれた理由が分からなくて、答えがちょっと疑問形になってしまった。
明らかに困惑している俺の答えに、ハルはすぐに理由を教えてくれた。
「辺境ではね、どんな武器を使うかを隠そうとする人もいるんだ」
「えっ…武器を隠すの?なんで?」
でも装備してるものを見たら分かるよねと思ったけど、武器の類は全て魔導収納鞄にしまい込んでいる冒険者とか、分からないようにわざといくつかの種類を装備してる冒険者も多いんだって。
そう言われて周りを見てみれば、確かに腰には剣、足には短剣、背中には弓みたいにいくつかの武器を装備している人も結構いるな。逆に防具の類は全部装備してるのに、武器は持ってないって人も結構いる。
「他の地域にはあまりないんだけど、辺境では見知らぬ人から一緒に依頼を受けないかと勧誘される事があるんだ。特に特殊な魔物の討伐依頼とかなんだけど」
「へぇ、そうなんだ」
「他の地域では基本的に知り合いとチームを組むとか、もしくは冒険者ギルドが間に立つよね?それを全く知らない人に直接声をかけられてチームを組む事になるんだけど…どう思う?」
ああ、そっかブレイズ達と一緒に行ったああいう特殊な依頼に、知らない人と組んで行くって事か。それは…ちょっと怖いかもしれない。
「どんな人達か分からない人と組むのはちょっと怖いね」
信用して良いかも分からないし、きちんと連携ができるかも分からない。そんな依頼仲間は嫌だ。
「そうだよね。だから勧誘されないようにと、わざと分からないように誤魔化してる人が多いんだ」
「説明は終わったかい?」
店員のお兄さんは、ハルの説明が終わるまで静かに待っていてくれた。
「あ、待たせてごめんなさい」
「いや、気にしないでくれ。それで…こんなに人が多い場所で言っちゃって良かったのかい?」
すこし心配そうなお兄さんに、ハルはにっこりと笑って答えた。
「ああ、大丈夫だよ。もしアキトに依頼をしたい人がいたなら、俺がきちんと色々と調べてからしか依頼は受けないからね」
そう言ってハルは周りをぐるりと見渡した。ん?と思って一緒になって周りを見てみたけど、別に気になる人はいなかった。なんだったんだろう。
「伴侶候補の兄さんがそうまで言うなら、まあ良いか。それで?後衛の魔法使いって事は普段は魔法で、いざと言う時のための武器って事だよな?」
お兄さんは何故か苦笑しながらそう続けた。
「ああ、そうだね。一応投げナイフと剣は持ってるけど…ここまで軽いならアキトに良いかなと思って」
「それなら良いかもしれない。兄ちゃんちょっとそれ持ってみな?」
店員さんの言葉を受けて、ハルは俺の手にそっと短剣を渡してくれた。
両手で鞘に入ったままの短剣を受け取った俺は、そのあまりの軽さに驚いてしまった。もしかしたら、俺が持ってる投げナイフよりも軽いかもしれないぐらいの重さしかない。
しかもただ軽いだけじゃない。柄の部分には指の形に合うように凹凸があって、不思議と手に馴染む。
「こんなに軽いの?!え、すごい」
「鞘はつけたままで、ちょっと構えてみな?」
店員さんの言葉に従って、俺は少しだけ腰を落として短剣を構えた。ハルに教えてもらった、一番基本の姿勢。攻撃にも防御にも動きやすい体勢だ。
「兄ちゃん、後衛にしてはかなり筋が良いな」
構えを取っただけなのに褒められてしまった。教えてくれたハルのおかげだけどね。
「あの、これ欲しいです」
売らないって言われたらどうしようと思いながらも店員さんに主張すれば、お兄さんは楽し気に笑って答えた。
「その短剣は兄ちゃんにぴったりだからな、文句なんて無いよ」
「やった!」
「良かったね、アキト」
何か形として残るものも買いたいなと思ってたんだけど、まさかこんなに軽い短剣だとは思ってなかったな。
きちんと手入れをして使えば武器は長い間使えるってハルも言ってたし、大事に大事に使おう。
902
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる