893 / 1,179
892.装備の屋台
しおりを挟む
フライドポテトにやきとり、りんご飴まで食べれば、さすがに俺のお腹はいっぱいになった。調子に乗ってやきとりのお代わりまでしちゃったから、余計にかもしれない。
ハルも満足したと笑顔を見せてくれたから、料理の屋台巡りは終了だ。
「これからどうしようか?」
「これから?」
「そう。もし人が多すぎて疲れたなら、今日はここまでにしても良いんだけど…?」
そう言って俺の顔を覗き込んだハルの表情は、面白そうな笑顔だった。俺がここまでって言うわけが無いって分かってる顔だね。
正解です。
「俺はまだ市場巡りの続きしたいな。そう聞くってことはまだ先があるんだよね?」
そう尋ねてみれば、ハルは笑顔でコクリと頷いた。
「このまま進み続けたら、最終的に市場を通り抜けて違う通りに出るんだ。まだ端まではかなり距離があるよ?」
後悔しない?と言いたげなハルに、笑って頷いた。
「そうなんだ!楽しみ!」
「俺も楽しみだよ。のんびりと見て回ろうか」
「うん、そうしよう」
急ぐ予定もないからと、俺達はそのままのんびりと市場の中の散策を楽しんだ。
奥に行けば行くほどたくさんの人がいるみたいだけど、すれ違う人たちは料理の屋台の話をしているからこれからご飯なのかな。
「あ、この辺りは装備品が多いんだね」
「ああ、本当だね」
こうやって市場の屋台に普通に冒険者用の装備が並んでいるのは、他の街では見たことのない光景だな。さすが危険だと言われる辺境領って感じだ。
まあ辺境領に来てからまだ一度も危険な目にあってないから、正直に言うと辺境領が危険な場所だっていう実感は全然無いんだけどね。
でも辺境行きが決まるなり、真剣な表情をしたハルからいっぱい注意事項を言われたからね。油断はしないように気をつけようとは思ってるよ。
「折角なら何か良いものが無いか見て回ろうか?」
「うん、良いね」
もしかしたらここに並んでいる冒険者装備の屋台の中に、何か掘り出し物があるかもしれない。そう思うとワクワクしてくる。ちょっとした宝探し気分だ。
俺とハルは二人揃って、装備品を扱っているお店を順番に周り出した。
「いらっしゃい!」
笑顔でそう声をかけてくれた屋台の店員さんは、身軽な前衛冒険者が好むような装備で全身を固めている。
「悪い、今こっちの相手してっから、ゆっくり見ててくれるか?」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
俺とハルがそう答えれば、店員さんはそのまま大剣を見ていたお客さんに向き直った。
一つの大剣を指差してこっちの方が良いと主張する客に、店員さんは値段は安いがこっちの方があんたに合ってると勧めているみたいだ。高い物が売れるならそれで良いって考えでは無いみたいだ。
ちらりと視線を向けてみたハルは、小さく笑ってこっちから見ようかと俺を手招いた。
「なんだか…面白いやりとりだね」
「彼は商人と言うよりは鍛冶職人なんだろうね」
だが良い目をしていると、ハルは小さな声で呟くと楽し気に笑ってみせた。
各種武器類はもちろん、マントや胸当て、全身鎧まで所せましと並んでいる光景は、圧巻の一言だった。
「このマントはヒコーの皮だね。軽いからアキトにもお勧めだよ?」
「んー…でも今のマント気に入ってるからなぁ」
ハルが選んでくれたやつだし、まだどこも痛んでないからね。マントはいらないかな。
「そっか」
そんな会話をしていると、店員さんが待たせてすまないなと声をかけてきた。大剣を選んでいたお客さんは、どうやら店員さんのお勧めの方を買って帰ったみたいだ。
「何か気になるものはあったかい?」
俺は特に無かったけど、ハルはすぐさま店員さんの後ろに飾るようにして置かれていた短剣を指差した。
「そこの短剣が気になってるんだが…」
「あー…これはな…ちょっと持ってみな?」
そう言って無造作に渡された短剣を受け取るなり、ハルはパチパチと何度か瞬きを繰り返した。
「これは…随分軽いんだな?」
「ああ、素材も物も良いんだがな…軽量すぎて兄さんには物足りないだろ?」
その剣を使いこなせる人にはお勧めできないと、店員さんはハルに向かってはっきりとそう言いきった。
本当に売る気が無いんだな。
「俺には確かに軽すぎるが…アキト?」
「あ、そっちの兄ちゃんにか?」
それなら話は変わるなと、店員さんは俺に視線を向けた。
ハルも満足したと笑顔を見せてくれたから、料理の屋台巡りは終了だ。
「これからどうしようか?」
「これから?」
「そう。もし人が多すぎて疲れたなら、今日はここまでにしても良いんだけど…?」
そう言って俺の顔を覗き込んだハルの表情は、面白そうな笑顔だった。俺がここまでって言うわけが無いって分かってる顔だね。
正解です。
「俺はまだ市場巡りの続きしたいな。そう聞くってことはまだ先があるんだよね?」
そう尋ねてみれば、ハルは笑顔でコクリと頷いた。
「このまま進み続けたら、最終的に市場を通り抜けて違う通りに出るんだ。まだ端まではかなり距離があるよ?」
後悔しない?と言いたげなハルに、笑って頷いた。
「そうなんだ!楽しみ!」
「俺も楽しみだよ。のんびりと見て回ろうか」
「うん、そうしよう」
急ぐ予定もないからと、俺達はそのままのんびりと市場の中の散策を楽しんだ。
奥に行けば行くほどたくさんの人がいるみたいだけど、すれ違う人たちは料理の屋台の話をしているからこれからご飯なのかな。
「あ、この辺りは装備品が多いんだね」
「ああ、本当だね」
こうやって市場の屋台に普通に冒険者用の装備が並んでいるのは、他の街では見たことのない光景だな。さすが危険だと言われる辺境領って感じだ。
まあ辺境領に来てからまだ一度も危険な目にあってないから、正直に言うと辺境領が危険な場所だっていう実感は全然無いんだけどね。
でも辺境行きが決まるなり、真剣な表情をしたハルからいっぱい注意事項を言われたからね。油断はしないように気をつけようとは思ってるよ。
「折角なら何か良いものが無いか見て回ろうか?」
「うん、良いね」
もしかしたらここに並んでいる冒険者装備の屋台の中に、何か掘り出し物があるかもしれない。そう思うとワクワクしてくる。ちょっとした宝探し気分だ。
俺とハルは二人揃って、装備品を扱っているお店を順番に周り出した。
「いらっしゃい!」
笑顔でそう声をかけてくれた屋台の店員さんは、身軽な前衛冒険者が好むような装備で全身を固めている。
「悪い、今こっちの相手してっから、ゆっくり見ててくれるか?」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
俺とハルがそう答えれば、店員さんはそのまま大剣を見ていたお客さんに向き直った。
一つの大剣を指差してこっちの方が良いと主張する客に、店員さんは値段は安いがこっちの方があんたに合ってると勧めているみたいだ。高い物が売れるならそれで良いって考えでは無いみたいだ。
ちらりと視線を向けてみたハルは、小さく笑ってこっちから見ようかと俺を手招いた。
「なんだか…面白いやりとりだね」
「彼は商人と言うよりは鍛冶職人なんだろうね」
だが良い目をしていると、ハルは小さな声で呟くと楽し気に笑ってみせた。
各種武器類はもちろん、マントや胸当て、全身鎧まで所せましと並んでいる光景は、圧巻の一言だった。
「このマントはヒコーの皮だね。軽いからアキトにもお勧めだよ?」
「んー…でも今のマント気に入ってるからなぁ」
ハルが選んでくれたやつだし、まだどこも痛んでないからね。マントはいらないかな。
「そっか」
そんな会話をしていると、店員さんが待たせてすまないなと声をかけてきた。大剣を選んでいたお客さんは、どうやら店員さんのお勧めの方を買って帰ったみたいだ。
「何か気になるものはあったかい?」
俺は特に無かったけど、ハルはすぐさま店員さんの後ろに飾るようにして置かれていた短剣を指差した。
「そこの短剣が気になってるんだが…」
「あー…これはな…ちょっと持ってみな?」
そう言って無造作に渡された短剣を受け取るなり、ハルはパチパチと何度か瞬きを繰り返した。
「これは…随分軽いんだな?」
「ああ、素材も物も良いんだがな…軽量すぎて兄さんには物足りないだろ?」
その剣を使いこなせる人にはお勧めできないと、店員さんはハルに向かってはっきりとそう言いきった。
本当に売る気が無いんだな。
「俺には確かに軽すぎるが…アキト?」
「あ、そっちの兄ちゃんにか?」
それなら話は変わるなと、店員さんは俺に視線を向けた。
836
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる