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892.装備の屋台

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 フライドポテトにやきとり、りんご飴まで食べれば、さすがに俺のお腹はいっぱいになった。調子に乗ってやきとりのお代わりまでしちゃったから、余計にかもしれない。

 ハルも満足したと笑顔を見せてくれたから、料理の屋台巡りは終了だ。

「これからどうしようか?」
「これから?」
「そう。もし人が多すぎて疲れたなら、今日はここまでにしても良いんだけど…?」

 そう言って俺の顔を覗き込んだハルの表情は、面白そうな笑顔だった。俺がここまでって言うわけが無いって分かってる顔だね。

 正解です。

「俺はまだ市場巡りの続きしたいな。そう聞くってことはまだ先があるんだよね?」

 そう尋ねてみれば、ハルは笑顔でコクリと頷いた。

「このまま進み続けたら、最終的に市場を通り抜けて違う通りに出るんだ。まだ端まではかなり距離があるよ?」

 後悔しない?と言いたげなハルに、笑って頷いた。

「そうなんだ!楽しみ!」
「俺も楽しみだよ。のんびりと見て回ろうか」
「うん、そうしよう」



 急ぐ予定もないからと、俺達はそのままのんびりと市場の中の散策を楽しんだ。

 奥に行けば行くほどたくさんの人がいるみたいだけど、すれ違う人たちは料理の屋台の話をしているからこれからご飯なのかな。

「あ、この辺りは装備品が多いんだね」
「ああ、本当だね」

 こうやって市場の屋台に普通に冒険者用の装備が並んでいるのは、他の街では見たことのない光景だな。さすが危険だと言われる辺境領って感じだ。

 まあ辺境領に来てからまだ一度も危険な目にあってないから、正直に言うと辺境領が危険な場所だっていう実感は全然無いんだけどね。

 でも辺境行きが決まるなり、真剣な表情をしたハルからいっぱい注意事項を言われたからね。油断はしないように気をつけようとは思ってるよ。

「折角なら何か良いものが無いか見て回ろうか?」
「うん、良いね」

 もしかしたらここに並んでいる冒険者装備の屋台の中に、何か掘り出し物があるかもしれない。そう思うとワクワクしてくる。ちょっとした宝探し気分だ。

 俺とハルは二人揃って、装備品を扱っているお店を順番に周り出した。

「いらっしゃい!」

 笑顔でそう声をかけてくれた屋台の店員さんは、身軽な前衛冒険者が好むような装備で全身を固めている。

「悪い、今こっちの相手してっから、ゆっくり見ててくれるか?」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」

 俺とハルがそう答えれば、店員さんはそのまま大剣を見ていたお客さんに向き直った。

 一つの大剣を指差してこっちの方が良いと主張する客に、店員さんは値段は安いがこっちの方があんたに合ってると勧めているみたいだ。高い物が売れるならそれで良いって考えでは無いみたいだ。

 ちらりと視線を向けてみたハルは、小さく笑ってこっちから見ようかと俺を手招いた。

「なんだか…面白いやりとりだね」
「彼は商人と言うよりは鍛冶職人なんだろうね」

 だが良い目をしていると、ハルは小さな声で呟くと楽し気に笑ってみせた。

 各種武器類はもちろん、マントや胸当て、全身鎧まで所せましと並んでいる光景は、圧巻の一言だった。

「このマントはヒコーの皮だね。軽いからアキトにもお勧めだよ?」
「んー…でも今のマント気に入ってるからなぁ」

 ハルが選んでくれたやつだし、まだどこも痛んでないからね。マントはいらないかな。

「そっか」

 そんな会話をしていると、店員さんが待たせてすまないなと声をかけてきた。大剣を選んでいたお客さんは、どうやら店員さんのお勧めの方を買って帰ったみたいだ。

「何か気になるものはあったかい?」

 俺は特に無かったけど、ハルはすぐさま店員さんの後ろに飾るようにして置かれていた短剣を指差した。

「そこの短剣が気になってるんだが…」
「あー…これはな…ちょっと持ってみな?」

 そう言って無造作に渡された短剣を受け取るなり、ハルはパチパチと何度か瞬きを繰り返した。

「これは…随分軽いんだな?」
「ああ、素材も物も良いんだがな…軽量すぎて兄さんには物足りないだろ?」

 その剣を使いこなせる人にはお勧めできないと、店員さんはハルに向かってはっきりとそう言いきった。

 本当に売る気が無いんだな。

「俺には確かに軽すぎるが…アキト?」
「あ、そっちの兄ちゃんにか?」

 それなら話は変わるなと、店員さんは俺に視線を向けた。
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