生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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891.【ハル視点】りんご飴

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 職人気質の男性が丹精込めて焼いたやき鳥は、追加分もやはり文句なしに美味かった。二人揃ってペロリとたいらげて、今度はりんご飴の屋台へと足を向ける。

 どうやらアキトはフライドポテト、焼き鳥ときての、〆のお菓子にしたいらしい。

 りんご飴の屋台は最初の二つほどは混んでいなかったから、すぐに買うことができた。

 ちなみに俺の分のりんご飴は、アキトのお勧めで細かく切り分けてもらった。アキトの分は丸ごと串に刺さった少し変わった形状だ。

 どちらも果物一個分という同じ量だが、提供方法が違うのはなかなか面白いな。

 串に刺さったりんご飴を片手に持ったアキトは、もう片方の手で俺の手をそっと握るとそのまま歩き出した。

 ここの市場には椅子やテーブルの設置はされていないが、店の前以外ならどこで何を食べても良いと決まっている。

 だからアキトに手を引かれて目指すのは店の無い道の端だ。

「あの辺りなら良いかな?」
「ああ、良いんじゃないかな」

 ちょうど人が移動したばかりの隙間に、アキトと二人で身体を滑りこませて場所を確保する。

「食べて良い?」

 ワクワクしているアキトも可愛いなと思いながら、俺はもちろんどうぞと答えた。

「いただきまーす」

 小さな声でポツリとそう呟いてから、アキトは大きく口を開けた。

 巨大な飴に挑むアキトを微笑ましく見守っていたんが、次の瞬間に響いたガリッという予想外の音に俺は大きく目を見開いた。

「ア、アキト?すごい音がしたんだが…大丈夫なのか?」

 もしかして歯が折れたんじゃないかと思うぐらいの音だった。思わず歯は無事かとのぞき込んでしまったが、アキトは笑顔を浮かべて答えた。

「うん、大丈夫!期待してた通りの味で美味しいよ!」
「美味しいなら良かった…ん…だが…」

 あれほどすごい音が出る食べ物は、俺が知る限りでは他に無い。

 アキトが幸せそうに笑っているから本当に美味しいんだろうなとは思うんだが、どうしても味の想像ができない。

「ね、硬いけどハルも齧ってみる?」

 悪戯っぽく笑ったアキトはそう言うなり、手に持ったままのりんご飴をくるりと回して俺に向かって差し出してきた。

 心配になってしまうぐらいにはすごい音がしていたから、りんご飴というのはきっとかなり硬いんだろうなと想像はついている。ちなみに俺は特に硬い食べ物が好きだというわけでも無い。

 それでもこんなに嬉しそうに手に持ったまま食べさせようとしてくれるのを、俺が拒否できるわけがない。

「いただきます」

 ぽつりとそう呟いてから、大きく口を開いてりんご飴に齧りついてみる。ガキッと歯に伝わってくる硬さに、思わず目を見開いてしまった。

 まさか、ここまで硬いとは思わなかった。

 これはもっと力を込めないと無理だなと、歯に渾身の力を込めてみたがそれでもりんご飴を割ることはできなかった。

「これは…なんというか…すごいな。…甘いという事しか分からなかった」

 アキト相手に、確かに美味しいななんて嘘を吐くのは嫌だ。そんな気持ちで素直な感想を口にすれば、アキトは楽しそうにクスクスと笑った。

「食べ方にコツがあるだけなんだけどね。今度はハルが買った方食べてみて?」

 そう言いながらアキトが指差したのは俺が持っていた、切り分けてもらった方のりんご飴だ。細い串が刺さっているのを利用して持ち上げてみれば、まるごとの果物が分厚い飴で覆われているのが分かった。

 こんなに分厚い飴なのか。それなら噛み切れないのも無理は無いと思ってから、だがアキトは気軽に食べていたなと苦笑してしまう。

 気に入ってくれるかなとソワソワした様子のアキトに笑みを見せてから、俺は覚悟を決めてりんご飴のかけらを口に放り込んだ。

 さっきのあの硬さを頭の片隅で思い出しながらも恐る恐る噛んでみれば、想像よりも遥かに軽い力でパキッと飴が割れた。

 切り分けただけでこんなに違うのかと驚いていると、今度はシャクリと軽い食感と果汁の旨味が口内に広がる。

 果物の旨味と分厚い飴の食感、甘みと酸味のつり合いが取れている。

「これは美味いな!しかも切っただけなのに、こんなに食べやすくなるとは!」

 なるほど。アキトが美味しいと言っていたのはこの味か。無事に同じものを味わう事ができた嬉しさに、思わず笑みがこぼれてしまった。

 うん、この味は俺も好きな味だな。
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