生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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890.【ハル視点】屋台料理

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 今日の昼食は屋台でとらないかと提案したのは俺だった。

 アキトは元々屋台を見て回るのが好きだ。特に新しい街に辿り着くと、屋台を巡る度にキラキラと嬉しそうに目を輝かせている。

 なんでもその街ならではの特産品が使われていたり、他の街では見た事のない珍しい料理があるのが面白いらしい。

 俺もアキトもそれなりに量を食べるから、あれこれと色々なものを少しずつ食べる事が出来るのも楽しいんだそうだ。

 俺の家族に会うために辺境領まで来てくれたんだから、せっかくならここの屋台もぜひ見て回って欲しい。

 辺境領行きが決まった時からそう思っていたんだが、ここで問題が一つだけある。

 優しいアキトは、どうしても俺の気持ちを優先しようとしてしまうんだ。

 いや、もちろん俺の事を考えてあれこれと気を回してくれるのは嬉しい。嬉しいんだが、同時に俺もアキトを喜ばせたいと思ってしまう。

 今朝も昼食の話をした途端、アキトはどこでも良いよとさらりと口にした。

 久しぶりの故郷だし行きたい場所とかもあるでしょう?と言いたげにじっと見つめてくるアキトに、俺は笑顔で答えた。

「それなら屋台の料理にしようか」
「えっと…それって俺のため?」

 アキトのためと言うよりは、楽しそうにしているアキトを見たいという俺の願いを叶えるためかな。

 だがこれをそのまま伝えても、アキトは納得はしてくれない。きっと不思議そうにするだけだろうと簡単に想像ができた。

「俺はねアキトと出会う前は、屋台を使うのは急いでいる時ぐらいだったんだ」
「え、そうなんだ。じゃあお店に行ってたの?」
「あー…うん。暇さえあれば白狼亭に通ってたね…」

 そう答えれば、アキトはクスリと笑みを浮かべた。

「でもアキトと一緒に屋台を回るようになってから、すっかり屋台が好きになっちゃってね」

 これは別にアキトを説得するために作り上げた話というわけじゃない。以前はよく分からなかった屋台の良さを、俺に教えてくれたのはアキトだ。

「…本当に?」
「ああ、今までは手軽に食べられるものばかり選んでたんだ。でもアキトがこれは見たことないとか、あれは初めての料理だとか教えてくれるから楽しくて」
「そうなんだ…?」

 まだ納得してくれていないらしいアキトに、俺は笑顔で続けた。

「俺の剣と愛しの伴侶候補様に誓って本当です」
「誓ったりしなくて良いのに!」

 慌てた様子で信じるよと言ってくれたアキトは、本当に可愛かった。



 まああの時はまさか異世界の料理の屋台があるとは、想像もしていなかったんだがな。 

「アキト、まずはどこから行く?」
「えーっと、まずはフライドポテトかな!」

 そう言ってアキトが指差したのはフライドポテトの屋台だ。華やかな赤色と黄色の屋根が目立っている。

「フライドポテトの屋台はこちらですよーあ、お客さん達、ここが最後尾だよ!」

 ここの屋台はどうやらかなりの人気店らしく、店の前にはずらりと列ができていた。呼び込みの男が声を張り上げながらも慣れた様子で列を整理しているから、多分普段からこのぐらい混んでるんだろう。

 列に並んでしばらく待つと、すぐに俺達の番がやってきた。どうやらフライドポテトという料理は、エクユという野菜を細く切って油で揚げたものらしい。

 一気に大量に揚げているからなのか、列が動く時は一気に動くようだ。

「はいよーおまたせ!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「こちらこそありがとう!揚げたてだから、火傷には気を付けてね~」

 そんな言葉と共に満面の笑みで手渡されたその料理は、巨大な葉を使ってぐるりと包まれている。中にはきっとあの細長いエクユの揚げたものが入っているんだろう。

 どこから開けるのかと葉を手に眺めていると、アキトは器用に蓋を見つけてぺらりとめくりあげた。

 ずらりと並んだフライドポテトというエクユの揚げ物を、アキトの指がそっと摘まみあげる。すぐに口に運ばずにじっと俺の顔を見つめているのは、同時に食べようという誘いだろうか。

 そっとフライドポテトに手を伸ばせば、アキトは笑顔で口を開いた。同じタイミングで口にいれた俺は、口内に広がったその旨味に驚いた。

 噛んだ瞬間に広がるサクサクした食感と、味付けは塩だけだろうか。どちらかというと素朴な味だが、揚げてあるせいか食べ応えもありそうだ。

「ん、美味しい!」
「ああ、これは確かに美味いな…」

 ただ油で揚げただけの単純な調理方法なのに、驚くほどうまい。野菜を揚げた料理なら俺も食べた事があるが、これほど細く切ってから揚げたのは初めて食べたかもしれない。

 この切り方があの味に繋がるんだろうか。

「美味しいね」
「ああ、食べやすいのも良いな」

 料理を口に運びつつニコニコと嬉しそうに笑いかけてきたアキトに、俺も笑顔で頷いた。

 ああ、そういえば前にトライプールで食べたフライドチキンというものも、アキトの世界の料理だと言っていたな。ふとそんな事を思い出した。

 フライドというのはこの料理を考案した人の名前か、それともどこかの地名なのだろうか。いやどちらも同じ調理法のようだから、それを意味しているのかもしれない。

 そんな事をぼんやりと考えている間も、フライドポテトという料理をつまむ手は止まらない。

 うん、これはかなり癖になる味だな。冷えた酒にもよく合いそうだ。これは酒好きのレーブンとローガンに教えてやらないとだな。



 続いて訪れたのは、俺が選んだやきとりの屋台だ。

 一体どんな料理なのかと思ったら、売っているものは鳥の肉を使った串焼きのようだ。

 もしかしてアキトの思っていた料理とは違うんじゃないかと心配になってしまったが、アキトは嬉しそうに笑みを浮かべている。

 味は二種類で分かりやすい塩味の他に、タレという甘辛い味付けもあった。鳥肉の間に細長い見慣れない野菜の挟まったものもあり、アキトはそれも欲しいと即決で購入を決めた。

 そのどれもが絶品だった。

 二人にはすこし多いかもしれないと思うほどの量を買ってくれていたんだが、あっという間に無くなってしまった。ああ、もう少し食べたかったな。そう思った瞬間、アキトが口を開いた。

「ね、ハル。もう少し食べたくない?」

 悪戯っぽく尋ねてくるアキトに、俺も笑顔で答える。

「うん、もう少し食べたいな」
「よし、もう一回並ぼうか」
「そうしよう」



「おや、兄さんら、また来てくれたのかい?」

 店番をしている女性の明るい声に、隣で無言のままやきとりを焼いていた男性が不意にすっと視線をあげた。

 さっきから真剣な表情で焼き続けていて、まるで一流の職人のようだなと思っていた男性だ。

「ああ、美味すぎてあっという間になくなったんだ」
「すっごく美味しかったです」

 アキトと二人でそう答えれば、女性はパァァッと明るい笑みを浮かべた。

「そりゃあ嬉しいねぇ、ねぇ、あんた!」
「ああ…ありがとよ」

 表情こそ変わらなかったがぼそりとそう呟いた男性は、屋台を後にするアキトと俺にまた来いと小さな声でそう声をかけてくれた。

「はい、絶対にまた来ます」
「お待ちしてますよー」
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