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888.【ハル視点】果実水の飲み比べ
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「お二人のご希望が果実水なのでしたら、こちらへどうぞ」
スーラはそう言うと、俺たちを店の奥にあるL字型のカウンター前へと案内してくれた。
壁に沿うような形で配置されているL字のカウンターの上には、注ぎ口のついた巨大な瓶がずらりと並んでいる。それぞれの瓶の中には、色とりどりの果実水がたっぷりと満たされていて見た目も華やかだ。
メンクから果実水に力を入れているとは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかったな。
「うわぁ…」
「すごいな」
思わず二人揃ってそんな事を呟いてしまうぐらい、圧倒的な存在感のあるカウンターだった。
「ここにあるのが、私のお店で取り扱っている全ての果実水です」
どこか誇らし気にスーラがそう教えてくれた。
「こんなに色々な種類があるのか」
「すごい種類ですね…」
一般的に果実水の店や屋台の取り扱い数は多くても4~5種類。少ないお店なら1種類だけで勝負するなんて所もあるんだが、ここはざっと数えただけでも30種類以上はありそうだ。
「喜んでいただければ嬉しいです」
スーラさんはそう言ってニコリと笑ったが、アキトと俺は思わず顔を見合わせた。
もちろんたくさんの種類の中から選ぶ事ができるのは良い事だ。果実水が好きなアキトは既に目を輝かせてワクワクしている。だがこれだけの種類があると、選ぶのもかなり大変そうだな。
ワクワクしながらもどれにしようかと真剣に悩みだした俺達に、スーラは笑顔で話しかけてきた。
「ハル様、アキト様、当店はかなり果実水の種類が多いので、色々な種類の果実水の飲み比べも行っていますよ」
「飲み比べ…?」
さすがにこれだけの種類の果実水をたくさん飲むのは無理じゃないか?
そう思ってアキトを見れば、アキトも不思議そうに首を傾げていた。
そんな俺達にスーラは説明不足でしたねと謝りながら、小さなグラスを見せてくれた。透き通る美しいそのグラスは、二本の指で軽くつまんで持ち上げられるほどの小ささだ。
こんなグラスは初めてみたな。
「こちらのグラス10個に色々な種類の果実水を注いでずらりと並べ、一番好きなものを注文するという方式です」
なるほど、これならそれほど量も多くないか。よく考えられていると感心していると、スーラの説明はさらに続いた。
「ちなみに最後の注文は、この場ですぐに飲むためにコップ一杯分を頼むのでも良いですし、持ち帰るために瓶で頼むのでもお好きな方を選んでいただけます」
仮に飲み比べで満足してもう飲めないとなったとしても、瓶で買って持ちかえるという選択肢があるのか。
本当によく考えられているな。
「それは面白いな」
「そんなにたくさん試して良いんですか?」
「ええ、もちろんです」
アキトはさっそく果実水の入ったボトルの説明を見比べている。
「これは…普段からやってるのか?」
「ええ、お二人だけの特別待遇ではありませんよ。ハル様はそういうのお嫌いでしょう?」
「ああ…まあな」
正確に言えば、俺の身分や家柄を見てされる特別待遇が嫌いなだけだが。
「ご希望のお客さんには誰でも無料で行っているサービスですから、安心してご利用くださいね」
そう言われたが、ボトルからこちらに視線を向けたアキトは、少し困った様子でぽつりと尋ねた。
「あの…これって、お店は損をするんじゃないですか?」
「いいえ、とんでもない。うちの果実水は美味しいですから、だいたい皆様、数種類はお買い上げくださいますから」
損は無いですと言いきったスーラは、しばらく見ない間に随分な商売上手になったようだ。まあここまで内情を教えてくれたのは、アキトが本気で心配そうにしていたからなんだろうが。
「それなら頼もうか」
「うん、この量なら試してみたい」
「お二人が気になるものだけで選ばれても良いですし、好みを言って頂ければお勧めもしていますよ」
「それはぜひお願いしたいです」
選ぶのに悩んでいたので助かりますと打ちあけたアキトの隣で、俺も頼みたいとスーラに声をかけた。
アキトは純粋に助けて欲しくてだろうが、俺は一体どんなものを選んでくれるのかと興味本位だ。
「それでは、お二人のお好きな味を、それぞれ教えていただけますか」
そうして好みの味を相談してスーラに選んでもらった物と、俺達が選んだ気になった物を合わせての試し飲みは想像以上に楽しい時間だった。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」
丁寧にドアの前まで見送りに来てくれたスーラに礼を言って、俺達はまた市場の人混みの中へと足を踏み入れた。
「アキト、本当に買うのは四種類だけで良かったの?」
「うん、どれも美味しかったけど、俺はあの四種類が良いと思ったから」
納得して選んだよと笑ったアキトは、俺をちらりと見上げて尋ねた。
「ハルこそ、二種類しか選んでなかったよね?」
「ああ、でもあれが美味しかったからな―――あれ、そういえば、両方スーラが選んでくれた味だったな…」
「あー、俺の買ったのも三つはスーラさんが選んでくれた奴だ…」
二人して顔を見合わせた俺達は、スーラの商売上手っぷりに感心してしまった。
次にメンクに会ったら、スーラはすごいなと言っておかないとな。
スーラはそう言うと、俺たちを店の奥にあるL字型のカウンター前へと案内してくれた。
壁に沿うような形で配置されているL字のカウンターの上には、注ぎ口のついた巨大な瓶がずらりと並んでいる。それぞれの瓶の中には、色とりどりの果実水がたっぷりと満たされていて見た目も華やかだ。
メンクから果実水に力を入れているとは聞いていたが、まさかここまでとは思わなかったな。
「うわぁ…」
「すごいな」
思わず二人揃ってそんな事を呟いてしまうぐらい、圧倒的な存在感のあるカウンターだった。
「ここにあるのが、私のお店で取り扱っている全ての果実水です」
どこか誇らし気にスーラがそう教えてくれた。
「こんなに色々な種類があるのか」
「すごい種類ですね…」
一般的に果実水の店や屋台の取り扱い数は多くても4~5種類。少ないお店なら1種類だけで勝負するなんて所もあるんだが、ここはざっと数えただけでも30種類以上はありそうだ。
「喜んでいただければ嬉しいです」
スーラさんはそう言ってニコリと笑ったが、アキトと俺は思わず顔を見合わせた。
もちろんたくさんの種類の中から選ぶ事ができるのは良い事だ。果実水が好きなアキトは既に目を輝かせてワクワクしている。だがこれだけの種類があると、選ぶのもかなり大変そうだな。
ワクワクしながらもどれにしようかと真剣に悩みだした俺達に、スーラは笑顔で話しかけてきた。
「ハル様、アキト様、当店はかなり果実水の種類が多いので、色々な種類の果実水の飲み比べも行っていますよ」
「飲み比べ…?」
さすがにこれだけの種類の果実水をたくさん飲むのは無理じゃないか?
そう思ってアキトを見れば、アキトも不思議そうに首を傾げていた。
そんな俺達にスーラは説明不足でしたねと謝りながら、小さなグラスを見せてくれた。透き通る美しいそのグラスは、二本の指で軽くつまんで持ち上げられるほどの小ささだ。
こんなグラスは初めてみたな。
「こちらのグラス10個に色々な種類の果実水を注いでずらりと並べ、一番好きなものを注文するという方式です」
なるほど、これならそれほど量も多くないか。よく考えられていると感心していると、スーラの説明はさらに続いた。
「ちなみに最後の注文は、この場ですぐに飲むためにコップ一杯分を頼むのでも良いですし、持ち帰るために瓶で頼むのでもお好きな方を選んでいただけます」
仮に飲み比べで満足してもう飲めないとなったとしても、瓶で買って持ちかえるという選択肢があるのか。
本当によく考えられているな。
「それは面白いな」
「そんなにたくさん試して良いんですか?」
「ええ、もちろんです」
アキトはさっそく果実水の入ったボトルの説明を見比べている。
「これは…普段からやってるのか?」
「ええ、お二人だけの特別待遇ではありませんよ。ハル様はそういうのお嫌いでしょう?」
「ああ…まあな」
正確に言えば、俺の身分や家柄を見てされる特別待遇が嫌いなだけだが。
「ご希望のお客さんには誰でも無料で行っているサービスですから、安心してご利用くださいね」
そう言われたが、ボトルからこちらに視線を向けたアキトは、少し困った様子でぽつりと尋ねた。
「あの…これって、お店は損をするんじゃないですか?」
「いいえ、とんでもない。うちの果実水は美味しいですから、だいたい皆様、数種類はお買い上げくださいますから」
損は無いですと言いきったスーラは、しばらく見ない間に随分な商売上手になったようだ。まあここまで内情を教えてくれたのは、アキトが本気で心配そうにしていたからなんだろうが。
「それなら頼もうか」
「うん、この量なら試してみたい」
「お二人が気になるものだけで選ばれても良いですし、好みを言って頂ければお勧めもしていますよ」
「それはぜひお願いしたいです」
選ぶのに悩んでいたので助かりますと打ちあけたアキトの隣で、俺も頼みたいとスーラに声をかけた。
アキトは純粋に助けて欲しくてだろうが、俺は一体どんなものを選んでくれるのかと興味本位だ。
「それでは、お二人のお好きな味を、それぞれ教えていただけますか」
そうして好みの味を相談してスーラに選んでもらった物と、俺達が選んだ気になった物を合わせての試し飲みは想像以上に楽しい時間だった。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています」
丁寧にドアの前まで見送りに来てくれたスーラに礼を言って、俺達はまた市場の人混みの中へと足を踏み入れた。
「アキト、本当に買うのは四種類だけで良かったの?」
「うん、どれも美味しかったけど、俺はあの四種類が良いと思ったから」
納得して選んだよと笑ったアキトは、俺をちらりと見上げて尋ねた。
「ハルこそ、二種類しか選んでなかったよね?」
「ああ、でもあれが美味しかったからな―――あれ、そういえば、両方スーラが選んでくれた味だったな…」
「あー、俺の買ったのも三つはスーラさんが選んでくれた奴だ…」
二人して顔を見合わせた俺達は、スーラの商売上手っぷりに感心してしまった。
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