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886.【ハル視点】屋台の歓迎
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大通りから見れば人が少ないように見える市場も、中に入ってしまえばたくさんの人で賑わっている。商業ギルドがわざわざ人寄せをしようとするぐらいには、市場に人が集まる時間でもあるからな。
「ね、ハル、ここの市場の名前って何ていうの?」
「ウェルマ市場だね」
「ウェルマ市場かぁ…由来はやっぱり領主一家の名前?」
そう尋ねてくるアキトに俺は由来はねと小さく頷いた。
「ただ街の名前がウェルマールなのに市場の名前も同じだと混乱するかもしれない。そんな理由で市場を立ち上げた商人が、短縮した名前をつけたんだ」
だからウェルマ市場と説明すれば、アキトはへぇーと感心の声をあげた。
「黒髪の兄ちゃん、そう説明されてるって事はもしかして初めて来たのかい!?」
不意にそう声をかけてきたのは、たまたま隣にあった屋台の筋肉質な店員だ。
アキトは急に声をかけられた事に少し驚いた様子だったが、俺は柔らかく笑いながら答えた。ここの市場の店員は距離を詰めるのが早いんだよな。
「ああ、俺の伴侶候補は初めて辺境に来たんだ」
「そうなのか。金髪の兄さんの方は、ここの出身なのかい?」
店員の男性は日焼けした顔に優しい笑みを浮かべて、そう尋ねてきた。
どうやら俺の事を知っている領民というわけでは無いようだ。
さすがに現領主である父さんと次期領主であるファーガス兄さんは広く顔が知られているが、俺とウィル兄、それにキースは名前はともかく顔まではあまり知られていないからな。
「ああ、そうだよ」
ここで目立つつもりは無いからと、俺はさらりとそう答えた。
「そうかそうか!黒髪の兄ちゃん、金髪の兄さんも、もしよければこれもらってくれ」
放物線を描いてアキトの手元をめがけて投げられたのは、綺麗な赤色をした両手にあまるサイズの果物だった。まさかここでルプティが出てくるとは思わなかったな。
「え、もらっちゃって良いんですか?」
慌てて尋ねるアキトに、男性は朗らかに笑いながら頷いた。
「店主、これはルプティじゃないか。本当に良いのか?」
甘みの強いシャリシャリとした果肉が特徴の、この辺りではかなり珍しい果物だ。
「ああ、売り物にする程の数がねぇから、常連さんにおまけしてたんだが――初めて辺境に来た人に出逢うなんて滅多にねぇ事だしな」
気にせず貰ってくれと続けた店員は、甘くてうまいぞーと自慢げにそう行って笑った。
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
アキトと二人でお礼を言えば、店員は照れくさそうにぶんぶんと手を振った。
「店主の屋台は、果物と野菜を取り扱ってるのか?」
「ああ、色々と取り扱ってるよ。鮮度にも自信があるぜ」
屋台に並んでいるのは自分で育てたものと壁の向こうで採取してきたものが、ちょうど半々だそうだ。辺境の壁の向こうで採取をして来る事ができるなら、おそらくこの男性はかなり腕が良いんだろうな。
ここで礼を言って受け取るだけというのも、アキトは気にするかもしれない。そう思った俺は、ちらりと並んでいる屋台の品物に視線を向けた。
「そうか…あ、アキト、あれ」
良い物があるじゃないか。俺がそっと指差したのは、昨日市場でアキトが気にしていたとげとげの黄色の果物だ。
「あ、昨日ハルに教えてもらった…えっと、リグールの実だっけ?」
たったあれだけのやりとりなのにきちんと名前を覚えているアキトに感心しながら、俺は口を開いた。
「そうそう、折角だしいくつか買っていこうか」
「あー気を使ってるなら無理しなくて良いんだぜ?」
男性は明らかな困り顔で、あれはただ辺境領にようこそって気持ちだから押し売りするつもりは無かったんだと続けた。
「押し売りされるなんて思ってないさ」
本気でアキトを歓迎してくれていたのは、俺にも分かっている。
「気を使ってるわけじゃないです」
「そうかい?」
「昨日から気になってたんですよ。トライプールでは見かけない果物なので」
そうアキトが答えれば、男性はトライプールから来たのかと驚いていた。
「トライプールでは、うちの領主様の息子さんが働いているんだぜ」
予想外の言葉に、アキトと俺は思わず顔を見合わせてしまった。顔は知らなくても名前と動向ぐらいは知られているんだな。
「ああ、知ってるよ」
「有名ですからね」
正体を明かすつもりはないから、こう答えるしかないか。俺とアキトが笑いながら答えれば、男性は嬉しそうに笑っている。
「それじゃあリグールの実を、5つ頼む」
「はいよっ!」
俺達が本当に欲しいものだと理解してくれたのか、男性は元気に返事をしてくれた。
まあこの後、たくさんのおまけをつけようとしてくる店員男性と、何とかおまけを回避しようとするアキトと俺の攻防戦が繰り広げられたんだがな。
攻防戦は、最終的には両者ひきわけで終了した。
「ね、ハル、ここの市場の名前って何ていうの?」
「ウェルマ市場だね」
「ウェルマ市場かぁ…由来はやっぱり領主一家の名前?」
そう尋ねてくるアキトに俺は由来はねと小さく頷いた。
「ただ街の名前がウェルマールなのに市場の名前も同じだと混乱するかもしれない。そんな理由で市場を立ち上げた商人が、短縮した名前をつけたんだ」
だからウェルマ市場と説明すれば、アキトはへぇーと感心の声をあげた。
「黒髪の兄ちゃん、そう説明されてるって事はもしかして初めて来たのかい!?」
不意にそう声をかけてきたのは、たまたま隣にあった屋台の筋肉質な店員だ。
アキトは急に声をかけられた事に少し驚いた様子だったが、俺は柔らかく笑いながら答えた。ここの市場の店員は距離を詰めるのが早いんだよな。
「ああ、俺の伴侶候補は初めて辺境に来たんだ」
「そうなのか。金髪の兄さんの方は、ここの出身なのかい?」
店員の男性は日焼けした顔に優しい笑みを浮かべて、そう尋ねてきた。
どうやら俺の事を知っている領民というわけでは無いようだ。
さすがに現領主である父さんと次期領主であるファーガス兄さんは広く顔が知られているが、俺とウィル兄、それにキースは名前はともかく顔まではあまり知られていないからな。
「ああ、そうだよ」
ここで目立つつもりは無いからと、俺はさらりとそう答えた。
「そうかそうか!黒髪の兄ちゃん、金髪の兄さんも、もしよければこれもらってくれ」
放物線を描いてアキトの手元をめがけて投げられたのは、綺麗な赤色をした両手にあまるサイズの果物だった。まさかここでルプティが出てくるとは思わなかったな。
「え、もらっちゃって良いんですか?」
慌てて尋ねるアキトに、男性は朗らかに笑いながら頷いた。
「店主、これはルプティじゃないか。本当に良いのか?」
甘みの強いシャリシャリとした果肉が特徴の、この辺りではかなり珍しい果物だ。
「ああ、売り物にする程の数がねぇから、常連さんにおまけしてたんだが――初めて辺境に来た人に出逢うなんて滅多にねぇ事だしな」
気にせず貰ってくれと続けた店員は、甘くてうまいぞーと自慢げにそう行って笑った。
「ありがとうございます!」
「ありがとう」
アキトと二人でお礼を言えば、店員は照れくさそうにぶんぶんと手を振った。
「店主の屋台は、果物と野菜を取り扱ってるのか?」
「ああ、色々と取り扱ってるよ。鮮度にも自信があるぜ」
屋台に並んでいるのは自分で育てたものと壁の向こうで採取してきたものが、ちょうど半々だそうだ。辺境の壁の向こうで採取をして来る事ができるなら、おそらくこの男性はかなり腕が良いんだろうな。
ここで礼を言って受け取るだけというのも、アキトは気にするかもしれない。そう思った俺は、ちらりと並んでいる屋台の品物に視線を向けた。
「そうか…あ、アキト、あれ」
良い物があるじゃないか。俺がそっと指差したのは、昨日市場でアキトが気にしていたとげとげの黄色の果物だ。
「あ、昨日ハルに教えてもらった…えっと、リグールの実だっけ?」
たったあれだけのやりとりなのにきちんと名前を覚えているアキトに感心しながら、俺は口を開いた。
「そうそう、折角だしいくつか買っていこうか」
「あー気を使ってるなら無理しなくて良いんだぜ?」
男性は明らかな困り顔で、あれはただ辺境領にようこそって気持ちだから押し売りするつもりは無かったんだと続けた。
「押し売りされるなんて思ってないさ」
本気でアキトを歓迎してくれていたのは、俺にも分かっている。
「気を使ってるわけじゃないです」
「そうかい?」
「昨日から気になってたんですよ。トライプールでは見かけない果物なので」
そうアキトが答えれば、男性はトライプールから来たのかと驚いていた。
「トライプールでは、うちの領主様の息子さんが働いているんだぜ」
予想外の言葉に、アキトと俺は思わず顔を見合わせてしまった。顔は知らなくても名前と動向ぐらいは知られているんだな。
「ああ、知ってるよ」
「有名ですからね」
正体を明かすつもりはないから、こう答えるしかないか。俺とアキトが笑いながら答えれば、男性は嬉しそうに笑っている。
「それじゃあリグールの実を、5つ頼む」
「はいよっ!」
俺達が本当に欲しいものだと理解してくれたのか、男性は元気に返事をしてくれた。
まあこの後、たくさんのおまけをつけようとしてくる店員男性と、何とかおまけを回避しようとするアキトと俺の攻防戦が繰り広げられたんだがな。
攻防戦は、最終的には両者ひきわけで終了した。
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