884 / 1,112
883.【ハル視点】幸せな光景
しおりを挟む
部屋に戻った俺達は、そのまますぐに街へ出るための準備に取り掛かる事になった。
「服はどうしたら良いのかな?」
アキトはこのままで良い?と自分の着ている服を指差してそう尋ねてきた。
「うーん、大丈夫だとは思うんだけど、万が一に備えてある程度の準備はしておいたほうが良いかな」
「ある程度の準備って例えば…?」
「一般的には装備を身に着けて行くか、それとも魔導収納鞄の中に武器や装備を入れて持っていくかのどちらかかな」
辺境領ではただ買い物目的の女性やこどもたちでも、魔導収納袋の中に武器や防具を持っているのが普通だと告げれば、アキトは驚いた様子だった。
他の領ではたしかにあり得ない風習かもしれない。
「じゃあ冒険者装備でも良いんだ?」
「ああ、もちろん大丈夫だよ。ただもしアキトが身軽に見て回りたいって言うなら、装備を魔導収納鞄の中に入れておくのでも良いよ」
「んー…もうこの冒険者装備に慣れたから、むしろこれが身軽って感じがするんだよね」
出逢ってすぐの頃と比べたら、アキトはすっかり立派な冒険者になったな。
「そっか、それなら今日は俺も冒険者装備で行こうかな。ただ、マントは無くても良いかもしれない」
特に市場に行くならマントは邪魔になるかもしれないからな。
「うん、じゃあマントは外しておこうかな」
素直なアキトはすぐにいそいそとマントを外してくれる。
「一応、鞄にしまっておこうか」
「分かった」
「これで準備終わりかな?」
「そうだな」
「ハルのふるさと見て回れるの、楽しみだ!」
そう嬉しそうに笑って教えてくれたアキトが、たまらなく愛おしかった。
二人並んで玄関を目指して廊下を歩いていると、数冊の本を抱えたジルさんとキースが向かい側から歩いてきた。
もしかしたら昨日言ってた読書会を、これからするのかもしれないな。
「ああ、アキトさんとハルさんは今から出発されるんですか?」
「はいっ!」
「ああ、用意も出来たしな」
「ハルさんがいれば道案内は完璧でしょうし、アキトさんはのんびりと街歩きを楽しんでくださいね」
ジルさんはにっこりと笑うと、優しい声でアキトに向かって話しかけた。どうやらアキトは、ジルさんにも気に入られているみたいだな。いや、船の上での挨拶の時点で既に気に入られていた、が正しいだろうか。
「はい、ハルに案内してもらって、思いっきり楽しんできます」
「そうだ、ハルさん。今の所、特に危険な情報は入っていません」
なるほど。ジルさんはこれが言いたかったのか。もしかしたら、ここでジルさんとキースに出逢ったのすら計算のうちなのかもしれないな。
「たすかるよ。ありがとう、ジルさん。ついでに…一つ聞いても良いかな?」
「ええ、何でもどうぞ?」
「俺も久しぶりに街に出るから…大通りの店はだいぶ入れ替わってるかな?」
そう尋ねれば、ジルさんはすぐに頷いてくれた。
「ああ、そうですよね…大通りの中でも有名店はそれほど変わっていませんね」
指を折りながらいくつかの店の名前をあげると、ジルさんはたくさんの情報を提供してくれた。
裏道にある俺が好きだった衣服を扱っていた店が閉店したとか、どこどこにできた魔道具のお店が最近は人気だとか――そういう話だ。
誰が聞いても問題のない街の情報の中には、私たちはあまり好きじゃないんですがと前置きをされる店も混ざっている。なるほど、そこは避けた方が良い店だな。
さすがに伝え方がうまいなと感心していると、キースの小さな声が聞こえてきた。
「あの…アキトさん」
「うん、なぁに、キースくん?」
これは俺やジルさんの会話が終わってしまうと、キースが気にして黙ってしまうやつかもしれない。思わずジルさんをじっと見つめれば、すぐに小さな頷きが返ってきた。
「そういえばマティさんのお勧めのお店については、もう聞きましたか?」
「いや、今回はまだ聞いていないな」
「最近は大通りから一本入った場所にあるお店がお気に入りらしいんですよ。ただ店の詳細はまだ教えてもらえていないんです」
実際に一緒に行こうと言われていてと、ジルさんは続けた。
「そうかそれは残念だな」
「マティさんに直接聞けば、アキトさんのためなら教えてもらえるかもしれませんよ」
いつも通りの表情を意識して会話を続けながら、俺はそっと目だけを動かしてアキトとキースの様子を伺った。
「その…今度、僕も一緒に街におでかけ…したい、です!」
どうやらキースは、勇気を振り絞って何とかアキトを誘う事ができたようだ。ただ口にした瞬間、我儘を言ってしまったと言いたげな表情を浮かべているのが気になる。
アキトはきっと喜んでると思うぞと思わず口を挟みたくなってしまったが、ここはぐっと我慢だ。ジルさんからも黙っていて下さいと言いたげな視線をもらってしまったしな。
「うん、もちろん!」
「やったぁ!」
嬉しそうにパァァッと笑ったキースの姿を見て、アキトがふわりと笑みを浮かべる。そうすると今度はアキトの笑顔を見たキースも、ニコニコとまた笑い返す。
なんて幸せな光景だろう。ああ、でも会話を止めて見つめていたら、すぐにバレてしまうな。そう考えた俺は普通に声をかける事に決めた。
「何だか楽しそうだな」
ジルさんと俺は、さも今気づいたような雰囲気でアキトとキースに視線を向けた。二人の会話をじっくり観察していたと言うつもりはないからな。
「今度、僕も連れていってくださいって言ったの」
「お、そうなのか」
「うん、アキトさんはもちろんって言ってくれたよ」
「それは良かったな。その時は兄さんも一緒に行って良いかな?」
俺がそう質問すれば、キースは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
「もちろんっ!」
「服はどうしたら良いのかな?」
アキトはこのままで良い?と自分の着ている服を指差してそう尋ねてきた。
「うーん、大丈夫だとは思うんだけど、万が一に備えてある程度の準備はしておいたほうが良いかな」
「ある程度の準備って例えば…?」
「一般的には装備を身に着けて行くか、それとも魔導収納鞄の中に武器や装備を入れて持っていくかのどちらかかな」
辺境領ではただ買い物目的の女性やこどもたちでも、魔導収納袋の中に武器や防具を持っているのが普通だと告げれば、アキトは驚いた様子だった。
他の領ではたしかにあり得ない風習かもしれない。
「じゃあ冒険者装備でも良いんだ?」
「ああ、もちろん大丈夫だよ。ただもしアキトが身軽に見て回りたいって言うなら、装備を魔導収納鞄の中に入れておくのでも良いよ」
「んー…もうこの冒険者装備に慣れたから、むしろこれが身軽って感じがするんだよね」
出逢ってすぐの頃と比べたら、アキトはすっかり立派な冒険者になったな。
「そっか、それなら今日は俺も冒険者装備で行こうかな。ただ、マントは無くても良いかもしれない」
特に市場に行くならマントは邪魔になるかもしれないからな。
「うん、じゃあマントは外しておこうかな」
素直なアキトはすぐにいそいそとマントを外してくれる。
「一応、鞄にしまっておこうか」
「分かった」
「これで準備終わりかな?」
「そうだな」
「ハルのふるさと見て回れるの、楽しみだ!」
そう嬉しそうに笑って教えてくれたアキトが、たまらなく愛おしかった。
二人並んで玄関を目指して廊下を歩いていると、数冊の本を抱えたジルさんとキースが向かい側から歩いてきた。
もしかしたら昨日言ってた読書会を、これからするのかもしれないな。
「ああ、アキトさんとハルさんは今から出発されるんですか?」
「はいっ!」
「ああ、用意も出来たしな」
「ハルさんがいれば道案内は完璧でしょうし、アキトさんはのんびりと街歩きを楽しんでくださいね」
ジルさんはにっこりと笑うと、優しい声でアキトに向かって話しかけた。どうやらアキトは、ジルさんにも気に入られているみたいだな。いや、船の上での挨拶の時点で既に気に入られていた、が正しいだろうか。
「はい、ハルに案内してもらって、思いっきり楽しんできます」
「そうだ、ハルさん。今の所、特に危険な情報は入っていません」
なるほど。ジルさんはこれが言いたかったのか。もしかしたら、ここでジルさんとキースに出逢ったのすら計算のうちなのかもしれないな。
「たすかるよ。ありがとう、ジルさん。ついでに…一つ聞いても良いかな?」
「ええ、何でもどうぞ?」
「俺も久しぶりに街に出るから…大通りの店はだいぶ入れ替わってるかな?」
そう尋ねれば、ジルさんはすぐに頷いてくれた。
「ああ、そうですよね…大通りの中でも有名店はそれほど変わっていませんね」
指を折りながらいくつかの店の名前をあげると、ジルさんはたくさんの情報を提供してくれた。
裏道にある俺が好きだった衣服を扱っていた店が閉店したとか、どこどこにできた魔道具のお店が最近は人気だとか――そういう話だ。
誰が聞いても問題のない街の情報の中には、私たちはあまり好きじゃないんですがと前置きをされる店も混ざっている。なるほど、そこは避けた方が良い店だな。
さすがに伝え方がうまいなと感心していると、キースの小さな声が聞こえてきた。
「あの…アキトさん」
「うん、なぁに、キースくん?」
これは俺やジルさんの会話が終わってしまうと、キースが気にして黙ってしまうやつかもしれない。思わずジルさんをじっと見つめれば、すぐに小さな頷きが返ってきた。
「そういえばマティさんのお勧めのお店については、もう聞きましたか?」
「いや、今回はまだ聞いていないな」
「最近は大通りから一本入った場所にあるお店がお気に入りらしいんですよ。ただ店の詳細はまだ教えてもらえていないんです」
実際に一緒に行こうと言われていてと、ジルさんは続けた。
「そうかそれは残念だな」
「マティさんに直接聞けば、アキトさんのためなら教えてもらえるかもしれませんよ」
いつも通りの表情を意識して会話を続けながら、俺はそっと目だけを動かしてアキトとキースの様子を伺った。
「その…今度、僕も一緒に街におでかけ…したい、です!」
どうやらキースは、勇気を振り絞って何とかアキトを誘う事ができたようだ。ただ口にした瞬間、我儘を言ってしまったと言いたげな表情を浮かべているのが気になる。
アキトはきっと喜んでると思うぞと思わず口を挟みたくなってしまったが、ここはぐっと我慢だ。ジルさんからも黙っていて下さいと言いたげな視線をもらってしまったしな。
「うん、もちろん!」
「やったぁ!」
嬉しそうにパァァッと笑ったキースの姿を見て、アキトがふわりと笑みを浮かべる。そうすると今度はアキトの笑顔を見たキースも、ニコニコとまた笑い返す。
なんて幸せな光景だろう。ああ、でも会話を止めて見つめていたら、すぐにバレてしまうな。そう考えた俺は普通に声をかける事に決めた。
「何だか楽しそうだな」
ジルさんと俺は、さも今気づいたような雰囲気でアキトとキースに視線を向けた。二人の会話をじっくり観察していたと言うつもりはないからな。
「今度、僕も連れていってくださいって言ったの」
「お、そうなのか」
「うん、アキトさんはもちろんって言ってくれたよ」
「それは良かったな。その時は兄さんも一緒に行って良いかな?」
俺がそう質問すれば、キースは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
「もちろんっ!」
693
お気に入りに追加
4,145
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?
トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!?
実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。
※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。
こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる