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881.ふたつの屋台

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 今日の昼食が屋台ごはんっていうのは、珍しく俺の希望じゃなくてハルからの提案なんだ。

 久しぶりに辺境領に帰ってきたんだし、ハルにだって行きたいお店とかもきっとあるだろうな。辺境領にもステーキが美味しいお店があるって言ってたし、もしかしたらそこを選ぶのかもしれない。

 そう考えた俺は先手必勝とばかりに、どこでも良いよって言ったんだけどね。ハルはそれなら屋台の料理にしようかって答えたんだ。

「えっと…それって俺のため?」

 ハルには俺が屋台好きなのは、しっかり知られちゃってるからね。

 特に新しい街に辿り着くと、だいたい屋台を見て回ってるような気がする。その街の特産品がたっぷり使われてたり、他の街では見た事のない珍しい料理が存在してたりして面白いんだよね。

 いろんなものを少しずつ食べられるのも好きだし、どれにしようと悩みながら人混みの中をウロウロするのも楽しい。

 だから屋台ごはんは大歓迎なんだけど、ハルが無理してないかなーってちょっと気になって聞いてみたんだ。

「アキトと出会う前は、屋台を使うのは急いでいる時ぐらいだったんだ」
「そうなんだ。じゃあお店に行ってたの?」
「あー…うん。暇さえあれば白狼亭に通ってたのね…」

 なるほど。暇さえあればローガンさんのステーキを食べに行ってたのか。ハルは好物ならいくら食べ続けても、嫌いにならないタイプみたいだ。

「でもアキトと一緒に屋台を回るようになってから、すっかり屋台が好きになっちゃってね」
「…本当に?」
「ああ、今までは手軽に食べられるものばかり選んでたんだ。でもアキトがこれは見たことないとか、あれは初めての料理だとか教えてくれるから楽しくて」

 そう言って笑ったハルは、俺の剣と愛しの伴侶候補様に誓って本当ですなんて宣言までしてくれた。

 それが今朝の話だ。



 あの話をしたときは、まさか色んな意味で気になる屋台がこんなにたくさんあるとは思ってなかったけどね。

「アキト、まずはどこから行く?」
「えーっと、まずはフライドポテトかな!」

 フライドポテトの屋台は赤と黄色の色味の屋根が、やけに目立っていた。うーん、どうしてもとあるファーストフードが思い浮かぶな。

「フライドポテトの屋台はこちらですよーあ、お客さん達、ここが最後尾だよ!」

 ここの屋台はかなりの人気店らしく、店の前にはずらりと列ができていた。呼び込みの人が声を張り上げながらも慣れた様子で列を整理しているから、多分普段からこのぐらい混んでるんだろうな。

 感心しながら列に並んできびきびと列をさばくお兄さんを見つめている間に、あっという間に俺達の番がやってきた。一気に大量に揚げているからなのか、列が動く時は一気に動くみたいだ。

「はいよーおまたせ!」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
「こちらこそありがとう!揚げたてだから、火傷には気を付けてね~」

 そんな言葉と共に満面の笑みで手渡されたフライドボテトは、巨大な葉っぱで包まれていた。中身も見えない不思議な包み方だなと思ったんだけど、蓋のようになっていたところをペロリとめくってみれば中にはフライドポテトがずらりと立たせるようにして並んでいた。

 うん、やっぱりこれは、俺の世界のファーストフードのポテトをイメージしてると思う。

 そっと指でつまんで口に運んでみれば、口内に広がったのは懐かしいあの味だった。塩がすこし多めなのが俺の好みにあってる。

「ん、美味しい!」
「ああ、これは確かに美味いな…」

 揚げて塩を振っただけの単純な調理法なのにとハルは驚いた様子だったけど、ニコニコと嬉しそうに食べ進めていた。



 続いて訪れたのは、ハルが俺のために選んでくれたやきとりの屋台だ。なんとなくりんご飴はデザートかなと思ったからこの順番にしただけなんだけどね。

 結論から言えば、やきとりは俺も知っているあのやきとりだったよ。しかも塩の焼きとりとタレの焼きとりが、きちんと両方用意されてたんだ。さらには間にネギが挟まったネギま串まであって、嬉しいを通り越して感動してしまった。

 ワクワクしながらたくさん買い込んだんだけど、二人で食べたらすぐになくなっちゃって、寂しそうな肉好きのハルのためにもう一度列に並びなおした。

「おや、兄さんら、また来てくれたのかい?」

 店番をしているおばさんの驚いたような明るい声に、隣で無言のままやきとりを焼いていたおじさんが不意に視線をあげた。さっきから真剣な表情で焼き続けていて、職人さんみたいだなと思っていたおじさんだ。邪魔しちゃったかな。

「ああ、美味すぎてあっという間になくなったんだ」
「すっごく美味しかったです」

 ハルと二人でそう答えれば、おばさんはパァァッと笑みを浮かべた。

「そりゃあ嬉しいねぇ、ねぇ、あんた!」
「ああ…ありがとよ」

 ぼそりとそう呟いたおじさんは、屋台を後にする俺とハルにまた来いと小さな声でそう声をかけてくれた。

 こういう交流も嬉しいんだよね。絶対にまた来ますと、俺とハルは揃って手を振った。
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