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880.市場の違和感
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スーラさんのお店のあったきちんとした店の並んでいる区画を抜ければ、またたくさんの屋台が並ぶ区画へと戻ってきた。
このくるくると景色が変わる感じも、他の街の市場には無い特徴かもしれないな。楽しいから良いんだけど。
周りをぐるりと見回してみると、どうやらこのあたりの屋台で取り扱われているのは果物や野菜、肉といったような食材では無いみたいだ。
思わず思いっきり香りを吸い込んでしまうような良い香りが、そこら中に漂っている。
「アキト、ここから先は、料理の屋台が多い区画だよ」
「うん、すっごく良い香りがしてるもんね」
この辺りに料理の屋台が集まってるんだろうなと香りだけで気づいちゃったぐらい、食欲をそそる良い香りだ。この香りを嗅いでいるだけで、どんどんお腹が空いてくる気すらする。
「あー腹減ったー」
「狩り頑張ったもんなーさて今日は何食おうかな」
「んー俺はやっぱり今日はスクリの炒め煮かなー」
「あーそれ良いな。あのちょっと辛味のある味な。食べたくなったわ」
近くを通っていた冒険者のそんな会話に、思わず耳を傾けてしまった。辛味のある炒め物だけだったらへぇーと思っただけで終わったからもしれないけど、炒め煮ってなんだろう。初めてきく料理だ。
「アキト、ちょうど昼食時だし、気になるのを探しに行こうか」
今日のお昼は屋台で買おうって言ってくれてたもんね。好きに買って楽しんで良いよって事か。
「うん、楽しみ!まずは見て回ろうか!」
ワクワクしながら市場の中を歩いてみた感想は、どれもこれも美味しそうだった。
「何にするか決まった?」
「えーと、まだ悩んでる…」
いつもは即決な俺が珍しく悩んでいる姿に、ハルは驚くでもなくただ優しく笑いかけてくれた。
「そうか、じゃあ気になったものは何かあった?」
「えーっと…」
気になったものはいっぱいあったんだよ。あったんだけどね。それよりも違う意味で気になって仕方ないものがあるせいか、食べたいものが全然考えられていない状況だ。
そんな事を考えながら、俺は市場へと視線を向ける。
もし昨日のうちに辺境領には保護されてる異世界人が多いんだよって話を聞いていなかったら、きっと俺はこの光景にもっと驚いて、うろたえてただろうな。
ハルの家族はあんなに大事な情報を、出逢ったばかりの俺を信じて明かしてくれた。そのおかげで、今はまだなんとか平静を保てている。
心の中でハルの家族に感謝の気持ちを抱きながら、俺はぐるりともう一度屋台を見回した。
だってここから見える範囲だけでも、やきとり、丸ごとのりんご飴、フライドポテトの屋台があるんだよね。
焼き鳥はまあもしかしたら焼いた鳥って事で、似ても似つかないようなこの世界の料理なのかもしれない。
でも、後の二つはどう考えてもおかしいんだよね。
だってこの世界にはりんごもポテトも存在してない筈なのに、名前がずばり『りんご』と『ポテト』なんだよ。
もちろんどちらにも似た味の果物や野菜があるのは知ってるんだけど、この世界ではそもそも名前が違う。それなのに料理名となると、急に俺に馴染みのある名前になってるんだよ?
こんなの確実に、異世界人がらみだよね。
「美味しいフライドポテトはいかがですかー?」
「りんご飴はこのまま齧っても良いし、カットもできるよー」
そんな風に呼び込みの声が聞こえてくるんだけど、なんだかすごく違和感がある。異世界なのに俺の国の料理名が叫ばれてるーってどうしても思ってしまう。
あ、でもトライプールの屋台で食べたフライドチキンみたいに、レシピが伝わってるだけって可能性もあるか。うっかり屋台の人に異世界人ですかと声をかけないように、俺ももう一度気を引き締めておこう。
「ハル、あのフライドポテトってのと、それにりんごあめも気になるんだけど」
「うん。それじゃあその屋台から行ってみようか」
「あ、ハルが気になる屋台も入れてよ?」
「俺はそうだな…あのやきとりが気になるな」
あーこれは。ハルってば、絶対俺の視線の先を見て選んだよね。そうは思ったけど、俺は指摘はせずにそっとハルを見上げた。
「ありがと、ハル」
「ん?食べたいのは本当だからお礼はいらないよ?」
そこはどういたしましてじゃないのか。
「じゃあ、ハル、大好き!」
「それは光栄だな。俺もアキトが大好きだよ!」
このくるくると景色が変わる感じも、他の街の市場には無い特徴かもしれないな。楽しいから良いんだけど。
周りをぐるりと見回してみると、どうやらこのあたりの屋台で取り扱われているのは果物や野菜、肉といったような食材では無いみたいだ。
思わず思いっきり香りを吸い込んでしまうような良い香りが、そこら中に漂っている。
「アキト、ここから先は、料理の屋台が多い区画だよ」
「うん、すっごく良い香りがしてるもんね」
この辺りに料理の屋台が集まってるんだろうなと香りだけで気づいちゃったぐらい、食欲をそそる良い香りだ。この香りを嗅いでいるだけで、どんどんお腹が空いてくる気すらする。
「あー腹減ったー」
「狩り頑張ったもんなーさて今日は何食おうかな」
「んー俺はやっぱり今日はスクリの炒め煮かなー」
「あーそれ良いな。あのちょっと辛味のある味な。食べたくなったわ」
近くを通っていた冒険者のそんな会話に、思わず耳を傾けてしまった。辛味のある炒め物だけだったらへぇーと思っただけで終わったからもしれないけど、炒め煮ってなんだろう。初めてきく料理だ。
「アキト、ちょうど昼食時だし、気になるのを探しに行こうか」
今日のお昼は屋台で買おうって言ってくれてたもんね。好きに買って楽しんで良いよって事か。
「うん、楽しみ!まずは見て回ろうか!」
ワクワクしながら市場の中を歩いてみた感想は、どれもこれも美味しそうだった。
「何にするか決まった?」
「えーと、まだ悩んでる…」
いつもは即決な俺が珍しく悩んでいる姿に、ハルは驚くでもなくただ優しく笑いかけてくれた。
「そうか、じゃあ気になったものは何かあった?」
「えーっと…」
気になったものはいっぱいあったんだよ。あったんだけどね。それよりも違う意味で気になって仕方ないものがあるせいか、食べたいものが全然考えられていない状況だ。
そんな事を考えながら、俺は市場へと視線を向ける。
もし昨日のうちに辺境領には保護されてる異世界人が多いんだよって話を聞いていなかったら、きっと俺はこの光景にもっと驚いて、うろたえてただろうな。
ハルの家族はあんなに大事な情報を、出逢ったばかりの俺を信じて明かしてくれた。そのおかげで、今はまだなんとか平静を保てている。
心の中でハルの家族に感謝の気持ちを抱きながら、俺はぐるりともう一度屋台を見回した。
だってここから見える範囲だけでも、やきとり、丸ごとのりんご飴、フライドポテトの屋台があるんだよね。
焼き鳥はまあもしかしたら焼いた鳥って事で、似ても似つかないようなこの世界の料理なのかもしれない。
でも、後の二つはどう考えてもおかしいんだよね。
だってこの世界にはりんごもポテトも存在してない筈なのに、名前がずばり『りんご』と『ポテト』なんだよ。
もちろんどちらにも似た味の果物や野菜があるのは知ってるんだけど、この世界ではそもそも名前が違う。それなのに料理名となると、急に俺に馴染みのある名前になってるんだよ?
こんなの確実に、異世界人がらみだよね。
「美味しいフライドポテトはいかがですかー?」
「りんご飴はこのまま齧っても良いし、カットもできるよー」
そんな風に呼び込みの声が聞こえてくるんだけど、なんだかすごく違和感がある。異世界なのに俺の国の料理名が叫ばれてるーってどうしても思ってしまう。
あ、でもトライプールの屋台で食べたフライドチキンみたいに、レシピが伝わってるだけって可能性もあるか。うっかり屋台の人に異世界人ですかと声をかけないように、俺ももう一度気を引き締めておこう。
「ハル、あのフライドポテトってのと、それにりんごあめも気になるんだけど」
「うん。それじゃあその屋台から行ってみようか」
「あ、ハルが気になる屋台も入れてよ?」
「俺はそうだな…あのやきとりが気になるな」
あーこれは。ハルってば、絶対俺の視線の先を見て選んだよね。そうは思ったけど、俺は指摘はせずにそっとハルを見上げた。
「ありがと、ハル」
「ん?食べたいのは本当だからお礼はいらないよ?」
そこはどういたしましてじゃないのか。
「じゃあ、ハル、大好き!」
「それは光栄だな。俺もアキトが大好きだよ!」
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