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876.朝のウェルマールの街
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迷う事も魔物に出会う事もなく無事に森を抜けて市街地へと辿り着いた俺とハルは、そのままゆっくりと大通りを歩き始めた。特に急いでるわけじゃないから、だいぶのんびりした移動だ。
「もし気になる場所やものがあれば、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう。ハルもね」
ちゃんと言っておかないと、ハルは俺に気を使って自分の意見を言ってくれないかもしれないからね。最近お決まりになりつつある俺の返しに、ハルは苦笑しながらもこくりと一つ頷いてくれた。
良かったとハルに向かって笑いかけながら、まだそれほど人の多く無い大通りを進んでいく。
普段の混雑具合を知らないから昨日と比べるしかないんだけど、通りにいる人の数が少ない気がする。まだお昼前だから――なのかな?これからどんどん人が増えていくんだろうか。
そんな事をぼんやりと考えながら通りを進んでいくと、不意にたくさんの人が集まっている場所が見えてきた。
「あれって…」
そう口にしながらよくよく見てみれば、あの建物は昨日教えてもらった商業ギルドみたいだ。綺麗な布がかかってるから、たぶん間違いないと思う。本当にたくさんの人が集まっているのを見て、思わず足を止めた。
「ハル、もしかして何かあったのかな?」
すこしだけ心配になりながらそう尋ねた俺に、ハルは優しい笑顔をみせてくれた。ただハルが笑ってるってだけで、危険は無いんだなって安心できるからすごい。
「ああ、安心して良いよ。あれは毎朝恒例の抽選販売だから」
「え、抽選販売…?」
なんか予想外な単語が出てきたね。
「そう、毎朝数点だけお買い得商品を用意して、抽選をしてるんだ」
売ってる商品はだいたい100グルから1000グルぐらいで、とんでもなくお安い値段設定らしい。ただ、あの人混みに入って待ってる人だけが参加できるというシステムらしい。
「まだ今なら抽選が始まる前だから、参加してみる?」
アキトは運が良いから当たるかもよとハルは悪戯っぽく笑ってそう提案してくれたけど、俺は慌ててぶんぶんと首を振った。
「あの人混みに入っていく気合は、俺には無いよ」
あーでももしここに俺の母さんがいたら、喜んで飛び込んでいったかもしれないな。バーゲンとかタイムセールに、果敢に挑戦する人だから。しかもばっちり戦利品をゲットしてはまた飛び込んでいくような人だ。
「そっか、興味が無いなら行こうか」
「うん」
人だかりに元気に突入していく人たちとすれ違いながら、俺とハルは更に足を進めていく。
「あ、冒険者ギルドはどうする?」
ハルがちらりと視線を向けたのは、あの見た目が砦みたいな冒険者ギルドの建物だ。うーん、あの砦みたいな建物の内装は一体どんな感じなのかとか、どんな依頼があるんだろうとか、興味はあるんだけどね。今回はスルーかな。
「今度依頼を受ける時で良いかな」
「それもそうだね」
今日こそはB級の魔物を倒すぞと騒いでいる冒険者らしき一団を見送って、俺とハルはまた歩き出した。
「あ、見えてきたね!」
「ああ、今日は随分と早く着いたな」
最速記録更新かもしれないと明るく笑うハルに、俺も笑って答える。
「道が空いてたからね…ってあれ…?」
そういえばあんなにいた幽霊が、今日は全然いなかったなと今になって急に気づいたんだ。
時間はあまりかからなかったとはいえ、領主城から市場までは結構な距離がある。でもここまで来る間に、みかけた幽霊はたったの二人だけだ。
きびきびと動く雑貨屋の若い店主をニコニコ笑顔で見守っていたお爺さんの幽霊と、あの人だかりの商業ギルド前で楽し気に抽選を見守っていたお兄さんの幽霊だけだ。
「ハル…すごい事に気づいたんだけど」
「うん、俺も同じ事に今気づいたよ」
誰が聞いてるか分からないからとわざとぼかして話せば、ハルもすかさず乗ってきてくれた。ハルのこういう察しが良い所も好きだ。
「うーん、なんでだろう…?探し物が見つかったとか?」
それなら良いんだけど、皆同時に探し物が見つかるとかそうそう無い事だよね。
「それか場所を移動したか…かな?」
他の場所に探しに行ってるのかもしれないよというハルの考えも、確かにありそうだな。
「まあ考えてても仕方ないかな」
「うん、気にせずに市場を見て回ろうか」
「うんっ!」
「まずはあっちかな」
「もし気になる場所やものがあれば、いつでも言ってね」
「うん、ありがとう。ハルもね」
ちゃんと言っておかないと、ハルは俺に気を使って自分の意見を言ってくれないかもしれないからね。最近お決まりになりつつある俺の返しに、ハルは苦笑しながらもこくりと一つ頷いてくれた。
良かったとハルに向かって笑いかけながら、まだそれほど人の多く無い大通りを進んでいく。
普段の混雑具合を知らないから昨日と比べるしかないんだけど、通りにいる人の数が少ない気がする。まだお昼前だから――なのかな?これからどんどん人が増えていくんだろうか。
そんな事をぼんやりと考えながら通りを進んでいくと、不意にたくさんの人が集まっている場所が見えてきた。
「あれって…」
そう口にしながらよくよく見てみれば、あの建物は昨日教えてもらった商業ギルドみたいだ。綺麗な布がかかってるから、たぶん間違いないと思う。本当にたくさんの人が集まっているのを見て、思わず足を止めた。
「ハル、もしかして何かあったのかな?」
すこしだけ心配になりながらそう尋ねた俺に、ハルは優しい笑顔をみせてくれた。ただハルが笑ってるってだけで、危険は無いんだなって安心できるからすごい。
「ああ、安心して良いよ。あれは毎朝恒例の抽選販売だから」
「え、抽選販売…?」
なんか予想外な単語が出てきたね。
「そう、毎朝数点だけお買い得商品を用意して、抽選をしてるんだ」
売ってる商品はだいたい100グルから1000グルぐらいで、とんでもなくお安い値段設定らしい。ただ、あの人混みに入って待ってる人だけが参加できるというシステムらしい。
「まだ今なら抽選が始まる前だから、参加してみる?」
アキトは運が良いから当たるかもよとハルは悪戯っぽく笑ってそう提案してくれたけど、俺は慌ててぶんぶんと首を振った。
「あの人混みに入っていく気合は、俺には無いよ」
あーでももしここに俺の母さんがいたら、喜んで飛び込んでいったかもしれないな。バーゲンとかタイムセールに、果敢に挑戦する人だから。しかもばっちり戦利品をゲットしてはまた飛び込んでいくような人だ。
「そっか、興味が無いなら行こうか」
「うん」
人だかりに元気に突入していく人たちとすれ違いながら、俺とハルは更に足を進めていく。
「あ、冒険者ギルドはどうする?」
ハルがちらりと視線を向けたのは、あの見た目が砦みたいな冒険者ギルドの建物だ。うーん、あの砦みたいな建物の内装は一体どんな感じなのかとか、どんな依頼があるんだろうとか、興味はあるんだけどね。今回はスルーかな。
「今度依頼を受ける時で良いかな」
「それもそうだね」
今日こそはB級の魔物を倒すぞと騒いでいる冒険者らしき一団を見送って、俺とハルはまた歩き出した。
「あ、見えてきたね!」
「ああ、今日は随分と早く着いたな」
最速記録更新かもしれないと明るく笑うハルに、俺も笑って答える。
「道が空いてたからね…ってあれ…?」
そういえばあんなにいた幽霊が、今日は全然いなかったなと今になって急に気づいたんだ。
時間はあまりかからなかったとはいえ、領主城から市場までは結構な距離がある。でもここまで来る間に、みかけた幽霊はたったの二人だけだ。
きびきびと動く雑貨屋の若い店主をニコニコ笑顔で見守っていたお爺さんの幽霊と、あの人だかりの商業ギルド前で楽し気に抽選を見守っていたお兄さんの幽霊だけだ。
「ハル…すごい事に気づいたんだけど」
「うん、俺も同じ事に今気づいたよ」
誰が聞いてるか分からないからとわざとぼかして話せば、ハルもすかさず乗ってきてくれた。ハルのこういう察しが良い所も好きだ。
「うーん、なんでだろう…?探し物が見つかったとか?」
それなら良いんだけど、皆同時に探し物が見つかるとかそうそう無い事だよね。
「それか場所を移動したか…かな?」
他の場所に探しに行ってるのかもしれないよというハルの考えも、確かにありそうだな。
「まあ考えてても仕方ないかな」
「うん、気にせずに市場を見て回ろうか」
「うんっ!」
「まずはあっちかな」
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