生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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874.街巡りの準備

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 辺境領巡りだとワクワクしながら部屋に戻った俺は、すぐに街へとでかけるための準備に取り掛かった。

 まあでかけるための準備って言っても、普段の冒険者装備を身に着けるだけなんだけどね。

 ハルいわく、万が一に備えてある程度の準備はしておいたほうが良いらしい。

 ちなみに辺境領ではただ買い物目的の女性やこどもたちでも、魔導収納袋の中に武器や防具を持っているのが普通らしい。いざという時に役立つからって、すごい意識の高さだと思う。

「もしアキトが身軽に見て回りたいって言うなら、装備を魔導収納鞄の中に入れておくのでも良いよ」
「んー…もうこの冒険者装備に慣れたから、むしろこれが身軽って感じがするんだよね」

 最初はファンタジー映画みたいだってこっそり興奮してた胸当てとかマントにも、もうすっかり慣れたなと思える。なんだか冒険者らしくなれた気がして嬉しい。

「そっか、それなら今日は俺も冒険者装備で行こうかな。ただ、マントは無くても良いかもしれない」
「うん、じゃあマントは外しておこうかな」
「一応、鞄にしまっておこうか」
「分かった」

 俺は丁寧にマントを畳んでから、魔導収納鞄にしまいこんだ。ハルも隣で同じようにマントを畳んでいたから、これで準備は完了かな。



 玄関を目指して廊下を歩いていると、数冊の本を抱えたジルさんとキースくんが向かい側から歩いてきた。

 あ、もしかしたら、昨日言ってた読書の会をするのかな。

 ウィリアムさんもお昼までは仕事が無いって言ってたし、キースくんがニコニコ笑顔だからきっと楽しい予定のはず。

「ああ、アキトさんとハルさんは今から出発されるんですか?」
「はいっ!」
「ああ、用意も出来たしな」
「ハルさんがいれば道案内は完璧でしょうし、アキトさんはのんびりと街歩きを楽しんでくださいね」

 ジルさんはにっこりと笑って、優しい声でそう言ってくれた。

「はい、ハルに案内してもらって、思いっきり楽しんできます」
「そうだ、ハルさん。今の所、特に危険な情報は入っていません」

 あ、そういえばジルさんとウィリアムさんは、情報収集が得意な隊だって言ってたな。ハルはジルさんに向かって、助かるよと素直に口にした。

「ありがとう、ジルさん。ついでに…一つ聞いても良いかな?」
「ええ、何でもどうぞ?」
「俺も久しぶりに街に出るから…大通りの店はだいぶ入れ替わってるかな?」
「ああ、そうですよね…大通りの中でも有名店はそれほど変わっていませんね」

 指を折りながらいくつかの店の名前をあげたジルさんは、そのままハルと話し始めた。

 裏道にあるハルが好きだった衣服を扱っていたお店が無くなったとか、どこどこにできた魔道具のお店が最近は人気だとか――そういう話だ。

 トライプールの街の話ならある程度は理解できるかもしれないけど、ウェルマールの街はまだ大通りぐらいしか分からない。土地勘が無いから会話に参加できないなとふと視線を動かせば、もじもじと身体を揺らしているキースくんに気がついた。

 ちらちらと見つめてくる視線からして、何か俺に話したい事でもあるのかな?

 そーっと近づいていってしゃがみこめば、視線が近くなったキースくんは嬉しそうにニパッと笑いかけてくれる。うん、可愛い。

「あの…アキトさん」
「うん、なぁに、キースくん?」

 自分でも驚くほど甘い声が出た。

「その…今度、僕も一緒に街におでかけ…したい、です!」

 言ってしまったと言いたげな表情に、俺はすぐに口を開いた。

「うん、もちろん!」

 さすがにキースくんが街に出た事が無いとか外出に制限があるとかだったら、即答はできなかったんだけどね。でも、ハルから色々話を聞いて、キースくんも街に出てるって知ってるからね。

 事前にハルから色々聞いておいて良かった。

「やったぁ!」

 嬉しそうに笑ったキースくんが可愛くて思わず笑みをこぼせば、キースくんもニコニコとまた笑い返してくれる。

「何だか楽しそうだな」

 二人でニコニコと笑い合っている間に、どうやらジルさんとのお話は終わっていたみたいだ。

「今度、僕も連れていってくださいって言ったの」
「お、そうなのか」
「うん、アキトさんはもちろんって言ってくれたよ」
「それは良かったな。その時は兄さんも一緒に行って良いかな?」

 ハルの質問に、キースくんはパァァッと笑みを浮かべた。

「もちろんっ!」
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