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872.【ハル視点】家族だけの食事
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「では改めて――いただきます」
父さんは控え目にそう声をあげた。
「いただきまーす!」
明るく叫んだのは母さんだ。
「いただきます」
「いただきます」
落ち着いた声で呟いたファーガス兄さんの声に、マティさんも笑顔で続いた。
ウィル兄が悪戯っぽく笑いながらいただきますと声をあげれば、ジルさんも微笑みながら口を開いた。
「私も、いただきます」
「いただきます!」
口々に食前の言葉を口にする周りを見て、キースも楽しそうに声をあげた。
アキトはまだ少し困った顔で、そんな皆を見つめていた。
みんな楽しんでいるんだから気にしなくて良いと思うんだが、優しいアキトは気になるんだろうか。そっと視線を向けてきたアキトに、俺はできるだけ優しく微笑んだ。
「いただきます」
もう一度そう口にした俺に、アキトはハッと顔をあげた。
「…いただきます」
噛み締めるように告げられたその言葉に、色々な感情が込められているのが伝わってくる。
急に家族から引き離されて異世界に来たアキトにとって、きっとこの言葉は数少ない元の世界と繋がる接点なんだろう。
大丈夫だろうかと様子を伺えば、すこしだけ目が潤んでいるのに気づいた。もし今アキトが泣き出したとしても、揶揄うような人はここにはいない。だから俺は何も言わずに、正面に座るアキトの姿をじっと見つめていた。
もしアキトが泣き顔を隠そうとしたら――。無理やりこの部屋から連れ出すことも考えていたんだが、アキトはぐっと涙を堪えると顔をあげてから口を開いた。
「どれもすごく美味しそうですね!」
気持ちを切り替えたのか急な話題転換だったが、母は気にした様子もなく笑顔で答えた。
「どれも美味いぞ」
うん、あれはアキトの感情の揺らぎに気づいた上で、指摘せずにいるな。そういう所はああ見えて母の方が察しが良いんだよな。
「昨日みたいに豪華で正式な形式の料理も、もちろん美味いんだが――ラスの作るこういう料理も、私は好きなんだ」
「あー分かる。こういう気取らない料理も美味しいよねー」
母に次いで察しの良いウィル兄さんも、笑顔でうんうんと頷いている。
「あ、アキトくん、私のお勧めはオムレツだよ」
わざわざ身を乗り出してそう教えたのは、優しい笑みを浮かべたマティさんだった。っどうやらアキトが話題転換したいならと、分かりやすく話題に乗ってくれるつもりらしい。
「ラスのオムレツは中に細かく刻んだ野菜が入ってるんだ」
「へぇーそれは美味しそうですね」
「最初は野菜嫌いな子どものために作ってたんだが、大人にも人気でね」
「あ、僕はそっちのサラダも好きです」
「俺は、パンは白パンが一番美味しいと思うなー」
わいわいと話しかけるみんなのおかげか、気づけばアキトも自然な笑みを浮かべていた。うん、どうやら無事に涙は止まったみたいだ。
和やかな雰囲気の中で食べる朝食の料理は、どれも絶品だった。ラスの作るオムレツは本当に美味しい。肉料理が一番好きな俺でも、食べる度に新鮮に感動し素直にそう思う味だ。
肉料理ももちろん素晴らしかった。シュリュという巨大な角のある魔物の塊肉を焼きあげ切り分けたその料理は、普段なら朝食に出すような料理では無い。
どちらかというと夕食――いや、晩餐会で出されるような料理だ。
おそらくこれは孫であるアキトに美味しいものを食べさせたいと、料理長のラスが無理やりメニューに加えたんだろう。
さすがにみんなも少しだけ驚いた様子だったが、美味しいものが食べられるなら良いかと誰一人として指摘したりはしなかった。
俺やはもちろん厚切りにして貰ったが、アキトは薄切りにしてもらって幸せそうに口に運んでいた。美味しそうに食べているアキトを見ていると、胸が温かくなるな。
本来なら食事中に給仕のメイド達が席を外す事はそうは無いんだが、今日は父の指示で既に全員が部屋から出ている。メイド長のリモですら文句も言わずに部屋から出ていったから、事前に説明があったんだろう。
アキトが慣れるまでは、家族だけで食べたいとでも言ったんだろうな。
だがそのおかげで、この場にいる全員がのびのびと食事を楽しめた。普段なら皿の料理が無くなれば盛り付けられるのを待つんだが、今日は自分で盛り付けに行く事ができる。
わいわいと盛り付けが上手い、下手だと騒ぎながら取り分けるのも楽しかった。
折角ならこんな機会でもないとできない事がしたいな。俺はそんな気持ちでふと浮かんだ思いつきを口にした。
「ねぇ、アキト。このシュリュ肉の薄切りと、あっちのサラダをパンに挟んだら美味しいと思わない?」
にっこりと笑って声をかけながら、俺はシュリュ肉とサラダの載った皿を指差した。指の先を順番に見たアキトは、キラキラと目を輝かせた。それは絶対に美味しいやつだとか考えていそうな顔だな。
まあアキトが反応するよりも前に、やってみようとみんながわっと移動してしまったんだがな。あれにはついついアキトと二人で声を出して笑ってしまった。
アキトのためにとサンドイッチを作って手渡せば、アキトも自分が挟んだやつを俺に手渡してくれた。
そうしたらそれを見ていた母さんと父さん、ファーガス兄さんとマティさん、ウィル兄さんとジルさんまで、お互いの作ったものを交換し始めてしまった。
俺とアキトのやりとりが羨ましかったんだろうな。だがこうなると、伴侶のいないキースだけが一人きりになってしまう。だからキースの分のサンドイッチは、アキトと俺で作る事になった。
嬉しそうに受け取ってくれるキースは、やっぱり今日も可愛かった。
ラスの作った料理を挟んでいるんだから当然なのかもしれないが、サンドイッチはものすごく美味しかった。
父さんは控え目にそう声をあげた。
「いただきまーす!」
明るく叫んだのは母さんだ。
「いただきます」
「いただきます」
落ち着いた声で呟いたファーガス兄さんの声に、マティさんも笑顔で続いた。
ウィル兄が悪戯っぽく笑いながらいただきますと声をあげれば、ジルさんも微笑みながら口を開いた。
「私も、いただきます」
「いただきます!」
口々に食前の言葉を口にする周りを見て、キースも楽しそうに声をあげた。
アキトはまだ少し困った顔で、そんな皆を見つめていた。
みんな楽しんでいるんだから気にしなくて良いと思うんだが、優しいアキトは気になるんだろうか。そっと視線を向けてきたアキトに、俺はできるだけ優しく微笑んだ。
「いただきます」
もう一度そう口にした俺に、アキトはハッと顔をあげた。
「…いただきます」
噛み締めるように告げられたその言葉に、色々な感情が込められているのが伝わってくる。
急に家族から引き離されて異世界に来たアキトにとって、きっとこの言葉は数少ない元の世界と繋がる接点なんだろう。
大丈夫だろうかと様子を伺えば、すこしだけ目が潤んでいるのに気づいた。もし今アキトが泣き出したとしても、揶揄うような人はここにはいない。だから俺は何も言わずに、正面に座るアキトの姿をじっと見つめていた。
もしアキトが泣き顔を隠そうとしたら――。無理やりこの部屋から連れ出すことも考えていたんだが、アキトはぐっと涙を堪えると顔をあげてから口を開いた。
「どれもすごく美味しそうですね!」
気持ちを切り替えたのか急な話題転換だったが、母は気にした様子もなく笑顔で答えた。
「どれも美味いぞ」
うん、あれはアキトの感情の揺らぎに気づいた上で、指摘せずにいるな。そういう所はああ見えて母の方が察しが良いんだよな。
「昨日みたいに豪華で正式な形式の料理も、もちろん美味いんだが――ラスの作るこういう料理も、私は好きなんだ」
「あー分かる。こういう気取らない料理も美味しいよねー」
母に次いで察しの良いウィル兄さんも、笑顔でうんうんと頷いている。
「あ、アキトくん、私のお勧めはオムレツだよ」
わざわざ身を乗り出してそう教えたのは、優しい笑みを浮かべたマティさんだった。っどうやらアキトが話題転換したいならと、分かりやすく話題に乗ってくれるつもりらしい。
「ラスのオムレツは中に細かく刻んだ野菜が入ってるんだ」
「へぇーそれは美味しそうですね」
「最初は野菜嫌いな子どものために作ってたんだが、大人にも人気でね」
「あ、僕はそっちのサラダも好きです」
「俺は、パンは白パンが一番美味しいと思うなー」
わいわいと話しかけるみんなのおかげか、気づけばアキトも自然な笑みを浮かべていた。うん、どうやら無事に涙は止まったみたいだ。
和やかな雰囲気の中で食べる朝食の料理は、どれも絶品だった。ラスの作るオムレツは本当に美味しい。肉料理が一番好きな俺でも、食べる度に新鮮に感動し素直にそう思う味だ。
肉料理ももちろん素晴らしかった。シュリュという巨大な角のある魔物の塊肉を焼きあげ切り分けたその料理は、普段なら朝食に出すような料理では無い。
どちらかというと夕食――いや、晩餐会で出されるような料理だ。
おそらくこれは孫であるアキトに美味しいものを食べさせたいと、料理長のラスが無理やりメニューに加えたんだろう。
さすがにみんなも少しだけ驚いた様子だったが、美味しいものが食べられるなら良いかと誰一人として指摘したりはしなかった。
俺やはもちろん厚切りにして貰ったが、アキトは薄切りにしてもらって幸せそうに口に運んでいた。美味しそうに食べているアキトを見ていると、胸が温かくなるな。
本来なら食事中に給仕のメイド達が席を外す事はそうは無いんだが、今日は父の指示で既に全員が部屋から出ている。メイド長のリモですら文句も言わずに部屋から出ていったから、事前に説明があったんだろう。
アキトが慣れるまでは、家族だけで食べたいとでも言ったんだろうな。
だがそのおかげで、この場にいる全員がのびのびと食事を楽しめた。普段なら皿の料理が無くなれば盛り付けられるのを待つんだが、今日は自分で盛り付けに行く事ができる。
わいわいと盛り付けが上手い、下手だと騒ぎながら取り分けるのも楽しかった。
折角ならこんな機会でもないとできない事がしたいな。俺はそんな気持ちでふと浮かんだ思いつきを口にした。
「ねぇ、アキト。このシュリュ肉の薄切りと、あっちのサラダをパンに挟んだら美味しいと思わない?」
にっこりと笑って声をかけながら、俺はシュリュ肉とサラダの載った皿を指差した。指の先を順番に見たアキトは、キラキラと目を輝かせた。それは絶対に美味しいやつだとか考えていそうな顔だな。
まあアキトが反応するよりも前に、やってみようとみんながわっと移動してしまったんだがな。あれにはついついアキトと二人で声を出して笑ってしまった。
アキトのためにとサンドイッチを作って手渡せば、アキトも自分が挟んだやつを俺に手渡してくれた。
そうしたらそれを見ていた母さんと父さん、ファーガス兄さんとマティさん、ウィル兄さんとジルさんまで、お互いの作ったものを交換し始めてしまった。
俺とアキトのやりとりが羨ましかったんだろうな。だがこうなると、伴侶のいないキースだけが一人きりになってしまう。だからキースの分のサンドイッチは、アキトと俺で作る事になった。
嬉しそうに受け取ってくれるキースは、やっぱり今日も可愛かった。
ラスの作った料理を挟んでいるんだから当然なのかもしれないが、サンドイッチはものすごく美味しかった。
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