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871.【ハル視点】食前の言葉
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運ばれてきた料理の盛りつけられた二枚の皿を見て、アキトは驚いた様子で大きく目を見開いた。何か不手際でもあったのかと、メイド長のリモが心配そうに姿勢を正した。
アキトはリモの視線にも気づかず、ただまじまじと料理を観察している。
特に何かを言うわけでもなく、ただ盛り付けた料理を見つめられる。そんな不思議なアキトの行動に、周りの皆もすこし困惑した様子だ。
んー、でもこれは周りが思っているような良く無い意味の反応じゃないと思うんだよな。
俺はそれを周りに伝えるべくふふと声を上げて笑ってみせた。途端にリモが肩の力を抜いたから、俺の意図はきちんと伝わったらしい。
ぱっと視線を上げたアキトと、ぱちりと目が合う。俺は悪戯っぽい笑みを浮かべながら口を開いた。
「今のアキトの気持ち、当ててみせようか?」
「うん、言ってみて?」
正解できるかな?と少し挑戦的な笑顔は、滅多に見せない珍しい表情だな。
「こんな一瞬で、こんなに綺麗に盛り付けてくれてすごい!」
アキトが言いそうな言い方まで真似してみせた俺は、続けてどう?あってる?とゆるりと首を傾げた。
「うん、あってる!ハルすごいね。何で分かったの?」
「んー、盛りつけられた料理をみてびっくりして、それからまじまじと観察してたからね。感動したか感心したかどっちかだろうなと思って」
「盛りつけられたら余計美味しそうに見えるからすごいなーって思ってたんだ」
ニコニコと褒めるアキトの後ろで、リモが誇らし気に笑ったのが印象的だった。
「用意は良さそうかな?」
全員の前に料理が並んだ事を確認してから、父さんは笑顔で続けた。
「それじゃあ食べようか」
周りのみんなを見てはニコニコと嬉しそうにしているアキトに、父さんとファーガス兄さんの笑顔はすこしひきつっている。
ただ家族と一緒にご飯を食べる。それだけの事にこんなにも喜ぶアキトに、思う所でもあったんだろうな。
ただ、あまり表情に出したらアキトが気にするだろう。俺は感情を隠しきれていない二人を、ちろりと横目で見た。
視線を感じてか慌てて表情を変えたから、わざわざ注意する必要も無いか。それよりも今は、アキトと一緒に食前の言葉を言うとしよう。
「「いただきます」」
タイミングを測ってそう口に出せば、アキトはパッと俺を見た。うーん、予想通りの可愛い反応だな。
今日も可愛いなぁと見つめていると、アキトは頬を赤く染めたり視線を反らしたりと忙しそうだ。その反応も可愛いと更に笑みが深くなってしまう。
「いただき、ます…?」
俺にとっての至福の時間を終わらせたのは、たどたどしく繰り返す父さんの言葉だった。
周りを見てみれば、もう食べ始めても良いはずなのに誰も動いていない。いや、それどころか、その場にいる家族全員が、不思議そうに俺たちを見つめている。
まあ、こういう反応になるだろうなとは思っていたんだが。
「なあ、さっきのいただきますって何だ?」
率直にそう尋ねたのは、母さんだ。こういう時に裏表なく尋ねてくれるのは、説明が早くなって助かる。
「あ、えっといただきますっていうのは…俺の故郷での食前の挨拶なんです」
かしこいアキトはきちんと言葉を選んで続けた。室内にはまだメイドや侍従達もたくさんいるからな。ここで異世界とは言わずに故郷と表現したのは正解だ。
「あーそういえばなんか聞いたことあるなー」
ウィル兄さんはそう言うと、ふわりとアキトに向かって笑みを浮かべた。
異世界人に馴染みがあると言うのなら、本当にその言葉を聞いたことがあるんだろうか。それとも使用人たちに不信感を与えないために、わざとそう言ったんだろうか。どちらの可能性もあるな。
俺と同じ考えに至ったらしいアキトは、ウィル兄に向けて目礼を送った。すかさず片目を瞑って答えているから、後者かもしれないな。
「さっきハルも言っていたよな?」
隣に座っていたファーガス兄さんの言葉に、コクリと頷いてから答える。
「ああ、うん。俺もアキトと一緒にいるうちにすっかり癖になっちゃってね」
「なるほど…」
じっとアキトと俺を順番に見比べていた母さんは、不意に父さんをまっすぐ見つめて尋ねた。
「なあ、そういえばうちには食前の挨拶って習慣が無いよな?」
「ああ、確かに無いな」
先代の頃から無かったからなとあっさりと頷いた父さんに、母さんはパッと笑顔になった。良い事を思いついたと言いたげな表情からして、言いたい事は大体想像はつくな。
「無いなら、アキトの故郷の挨拶を取り入れたら良いんじゃないか?」
うん、やっぱりそうなるよな。もしかしたらそうなるかもなとは思っていたんだが、あまりにも予想通りの展開だ。
俺にとっては予想通りでもアキトにとっては予想外の展開だったらしく、アキトは焦りながらぶんぶんと首を振った。だがそんな事で母さんは動じない。アキトが否定する前にと、どう思う?と皆に向かって尋ねた。
「ああ、それは良いな」
「食べようと声をかけるより良いかもしれませんね」
「俺も賛成ー」
「僕も言ってみたい!」
「私も賛成しよう」
どんどん出てくる賛成の声に、アキトは慌てた様子で俺に視線を向けた。
「アキト、ごめんね。こうなったら、多分止めても無駄だから」
最初から想像できていたのに止めなくてごめんねと思いながら、俺はアキトに向かって笑いかけた。
アキトはリモの視線にも気づかず、ただまじまじと料理を観察している。
特に何かを言うわけでもなく、ただ盛り付けた料理を見つめられる。そんな不思議なアキトの行動に、周りの皆もすこし困惑した様子だ。
んー、でもこれは周りが思っているような良く無い意味の反応じゃないと思うんだよな。
俺はそれを周りに伝えるべくふふと声を上げて笑ってみせた。途端にリモが肩の力を抜いたから、俺の意図はきちんと伝わったらしい。
ぱっと視線を上げたアキトと、ぱちりと目が合う。俺は悪戯っぽい笑みを浮かべながら口を開いた。
「今のアキトの気持ち、当ててみせようか?」
「うん、言ってみて?」
正解できるかな?と少し挑戦的な笑顔は、滅多に見せない珍しい表情だな。
「こんな一瞬で、こんなに綺麗に盛り付けてくれてすごい!」
アキトが言いそうな言い方まで真似してみせた俺は、続けてどう?あってる?とゆるりと首を傾げた。
「うん、あってる!ハルすごいね。何で分かったの?」
「んー、盛りつけられた料理をみてびっくりして、それからまじまじと観察してたからね。感動したか感心したかどっちかだろうなと思って」
「盛りつけられたら余計美味しそうに見えるからすごいなーって思ってたんだ」
ニコニコと褒めるアキトの後ろで、リモが誇らし気に笑ったのが印象的だった。
「用意は良さそうかな?」
全員の前に料理が並んだ事を確認してから、父さんは笑顔で続けた。
「それじゃあ食べようか」
周りのみんなを見てはニコニコと嬉しそうにしているアキトに、父さんとファーガス兄さんの笑顔はすこしひきつっている。
ただ家族と一緒にご飯を食べる。それだけの事にこんなにも喜ぶアキトに、思う所でもあったんだろうな。
ただ、あまり表情に出したらアキトが気にするだろう。俺は感情を隠しきれていない二人を、ちろりと横目で見た。
視線を感じてか慌てて表情を変えたから、わざわざ注意する必要も無いか。それよりも今は、アキトと一緒に食前の言葉を言うとしよう。
「「いただきます」」
タイミングを測ってそう口に出せば、アキトはパッと俺を見た。うーん、予想通りの可愛い反応だな。
今日も可愛いなぁと見つめていると、アキトは頬を赤く染めたり視線を反らしたりと忙しそうだ。その反応も可愛いと更に笑みが深くなってしまう。
「いただき、ます…?」
俺にとっての至福の時間を終わらせたのは、たどたどしく繰り返す父さんの言葉だった。
周りを見てみれば、もう食べ始めても良いはずなのに誰も動いていない。いや、それどころか、その場にいる家族全員が、不思議そうに俺たちを見つめている。
まあ、こういう反応になるだろうなとは思っていたんだが。
「なあ、さっきのいただきますって何だ?」
率直にそう尋ねたのは、母さんだ。こういう時に裏表なく尋ねてくれるのは、説明が早くなって助かる。
「あ、えっといただきますっていうのは…俺の故郷での食前の挨拶なんです」
かしこいアキトはきちんと言葉を選んで続けた。室内にはまだメイドや侍従達もたくさんいるからな。ここで異世界とは言わずに故郷と表現したのは正解だ。
「あーそういえばなんか聞いたことあるなー」
ウィル兄さんはそう言うと、ふわりとアキトに向かって笑みを浮かべた。
異世界人に馴染みがあると言うのなら、本当にその言葉を聞いたことがあるんだろうか。それとも使用人たちに不信感を与えないために、わざとそう言ったんだろうか。どちらの可能性もあるな。
俺と同じ考えに至ったらしいアキトは、ウィル兄に向けて目礼を送った。すかさず片目を瞑って答えているから、後者かもしれないな。
「さっきハルも言っていたよな?」
隣に座っていたファーガス兄さんの言葉に、コクリと頷いてから答える。
「ああ、うん。俺もアキトと一緒にいるうちにすっかり癖になっちゃってね」
「なるほど…」
じっとアキトと俺を順番に見比べていた母さんは、不意に父さんをまっすぐ見つめて尋ねた。
「なあ、そういえばうちには食前の挨拶って習慣が無いよな?」
「ああ、確かに無いな」
先代の頃から無かったからなとあっさりと頷いた父さんに、母さんはパッと笑顔になった。良い事を思いついたと言いたげな表情からして、言いたい事は大体想像はつくな。
「無いなら、アキトの故郷の挨拶を取り入れたら良いんじゃないか?」
うん、やっぱりそうなるよな。もしかしたらそうなるかもなとは思っていたんだが、あまりにも予想通りの展開だ。
俺にとっては予想通りでもアキトにとっては予想外の展開だったらしく、アキトは焦りながらぶんぶんと首を振った。だがそんな事で母さんは動じない。アキトが否定する前にと、どう思う?と皆に向かって尋ねた。
「ああ、それは良いな」
「食べようと声をかけるより良いかもしれませんね」
「俺も賛成ー」
「僕も言ってみたい!」
「私も賛成しよう」
どんどん出てくる賛成の声に、アキトは慌てた様子で俺に視線を向けた。
「アキト、ごめんね。こうなったら、多分止めても無駄だから」
最初から想像できていたのに止めなくてごめんねと思いながら、俺はアキトに向かって笑いかけた。
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