868 / 1,103
867.【ハル視点】父と母
しおりを挟む
背後でゆっくりとドアが閉まるのを待って、俺は両親に視線を向けた。
「アキトくんは?」
「さすがに疲れたみたいで、まだ眠ってるよ」
「なんだ、一人で置いてきたのか?」
俺の行動を咎めるというよりは、よく一人で置いてここまで来れたなと言いたげな父さんの言葉に、思わず笑ってしまった。
「メイドに伝言でも頼もうかと思ったんだが…プーカを配置してくれていたからね」
騎士にしなかったのはアキトへの配慮だろうと感謝の言葉を述べたが、二人ともきょとんと驚いた様子で顔を見合わせた。
「騎士じゃなくて侍従の中でも一番腕が立つプーカか…手配をしたのはグレースかい?」
「いいや、私じゃないな。私でもケイリーでも無いなら…おそらくボルトだろうな」
なるほど、礼を言う相手はボルトか。
「プーカがいるなら任せる気持ちも分かる」
「そうだな」
人柄、忠誠心、そして強さ。全てが信頼できると笑い合っている両親に、俺は既に答えの分かっている質問を投げかけた。
「父さんと母さんの会いたがっていた伴侶候補を連れてきたわけだけど…どうだった?」
「いやぁ、まさかあそこまで良い子だとは思っていなかったな。私を見ても全く怯えないし」
あんなに尊敬の目で見られては照れくさいぐらいだと、父は嬉しそうに笑っている。
「私は腕試しに対して反撃をしようとした時点で、もう気に入っちゃったからなぁ」
母さんはそう言うと、カラカラと笑った。
「アキトは本当に明るくて優しい良い子だ…ただ…」
「ただ…?」
母はどこからどうみてもアキトを気に入っている。だから何の心配もなく、俺は穏やかな気持ちで続きを言ってくれと促す事ができた。
「出身地の話を聞いて、もっと大事にしたいと思ったよ」
「ああ、そうだ。その話なんだが…ハル?」
そう言ってすっと姿勢を正した父は、まっすぐに俺を見つめて口を開いた。これは真剣な話だなと、俺もすっと背筋を伸ばして見返した。
「はい」
「私は私の剣と愛するグレースの名に誓って、アキトくんの秘密を守りその知識を悪用しないとここで誓うよ」
「そうだな。私も私の剣とケイリーの名に誓う」
父さんはともかく、母さんにまでそんな事を言われるとは思っていなかったな。言わなくても分かるだろうと考える人なのに、わざわざ口にしてくれるとは。
「本来ならアキトくんに直接言うべきなんだとは思うんだが――もしアキトくんに言うと重荷に思うかもしれないと思ってな」
「そうそう、ハルが代わりに受け取っておいてくれよ」
「はい、ありがとうございます」
心からの感謝を込めた言葉に、二人は微笑ましそうに笑ってくれた。
「そうだ、この後1時間ほどしたら朝食を食べる予定なんだが、もしよければアキトくんと一緒にどうだ?」
「ウィルとジルも昨日はこっちに泊ってるから、今朝は全員が揃うぞ」
ああ、昨日は別邸には戻らなかったのか。全員参加の朝食会か。昨日の反応からして、きっとアキトは参加したいと言うだろうな。
「アキトが起きてくれば…だな」
「もちろん無理に起こしたりしなくて良いさ。ああ、それともしアキトくんが時間までに起きてこなかったら、この話は伝えなくて良いからな」
父が優しく笑いながらそう言えば、隣から母も口を開いた。
「あ、もうひとつ追加で。もし起きてきても、体調が悪そうだったら伝えないでくれるか?」
誘われたって知ったら、アキトは無理して来ようとするだろう?と笑う母さんは、アキトの事をよく分かっているみたいだ。
「分かった。アキトが起きたら様子を見て、もし参加するようならプーカに伝言を頼むよ」
「ああ、それで良い」
「もう戻っても良いぞ?」
いくらプーカに任せてきたと言っても、気になるんだろうと笑う両親に礼を言って俺は執務室を後にした。
部屋の外に控えていたボルトにプーカの配置に対しての礼を言えば、どういたしましてと笑顔が返ってきた。やっぱり手配してくれたのはボルトだったみたいだな。
「アキト様の護衛をしたいと、騎士も侍従もたくさん名乗り出ましたよ」
珍しくもクスクスと笑いながら、ボルトはそう教えてくれた。
「なんだ、そうなのか?」
「ええ、最終的には騎士はどうしても威圧感があるので、初日は侍従が良いだろうと――メイド長の意見で決まりましたね」
そして護衛を兼ねるなら一番強い私が行くと主張したプーカが、その任を勝ち取ったらしい。
「メイド長にも礼を言っておいてくれるか?」
「かしこまりました」
アキトはまだ眠っているだろうか。早く部屋に戻ろうと、俺は廊下を早歩きで歩き出した。
「アキトくんは?」
「さすがに疲れたみたいで、まだ眠ってるよ」
「なんだ、一人で置いてきたのか?」
俺の行動を咎めるというよりは、よく一人で置いてここまで来れたなと言いたげな父さんの言葉に、思わず笑ってしまった。
「メイドに伝言でも頼もうかと思ったんだが…プーカを配置してくれていたからね」
騎士にしなかったのはアキトへの配慮だろうと感謝の言葉を述べたが、二人ともきょとんと驚いた様子で顔を見合わせた。
「騎士じゃなくて侍従の中でも一番腕が立つプーカか…手配をしたのはグレースかい?」
「いいや、私じゃないな。私でもケイリーでも無いなら…おそらくボルトだろうな」
なるほど、礼を言う相手はボルトか。
「プーカがいるなら任せる気持ちも分かる」
「そうだな」
人柄、忠誠心、そして強さ。全てが信頼できると笑い合っている両親に、俺は既に答えの分かっている質問を投げかけた。
「父さんと母さんの会いたがっていた伴侶候補を連れてきたわけだけど…どうだった?」
「いやぁ、まさかあそこまで良い子だとは思っていなかったな。私を見ても全く怯えないし」
あんなに尊敬の目で見られては照れくさいぐらいだと、父は嬉しそうに笑っている。
「私は腕試しに対して反撃をしようとした時点で、もう気に入っちゃったからなぁ」
母さんはそう言うと、カラカラと笑った。
「アキトは本当に明るくて優しい良い子だ…ただ…」
「ただ…?」
母はどこからどうみてもアキトを気に入っている。だから何の心配もなく、俺は穏やかな気持ちで続きを言ってくれと促す事ができた。
「出身地の話を聞いて、もっと大事にしたいと思ったよ」
「ああ、そうだ。その話なんだが…ハル?」
そう言ってすっと姿勢を正した父は、まっすぐに俺を見つめて口を開いた。これは真剣な話だなと、俺もすっと背筋を伸ばして見返した。
「はい」
「私は私の剣と愛するグレースの名に誓って、アキトくんの秘密を守りその知識を悪用しないとここで誓うよ」
「そうだな。私も私の剣とケイリーの名に誓う」
父さんはともかく、母さんにまでそんな事を言われるとは思っていなかったな。言わなくても分かるだろうと考える人なのに、わざわざ口にしてくれるとは。
「本来ならアキトくんに直接言うべきなんだとは思うんだが――もしアキトくんに言うと重荷に思うかもしれないと思ってな」
「そうそう、ハルが代わりに受け取っておいてくれよ」
「はい、ありがとうございます」
心からの感謝を込めた言葉に、二人は微笑ましそうに笑ってくれた。
「そうだ、この後1時間ほどしたら朝食を食べる予定なんだが、もしよければアキトくんと一緒にどうだ?」
「ウィルとジルも昨日はこっちに泊ってるから、今朝は全員が揃うぞ」
ああ、昨日は別邸には戻らなかったのか。全員参加の朝食会か。昨日の反応からして、きっとアキトは参加したいと言うだろうな。
「アキトが起きてくれば…だな」
「もちろん無理に起こしたりしなくて良いさ。ああ、それともしアキトくんが時間までに起きてこなかったら、この話は伝えなくて良いからな」
父が優しく笑いながらそう言えば、隣から母も口を開いた。
「あ、もうひとつ追加で。もし起きてきても、体調が悪そうだったら伝えないでくれるか?」
誘われたって知ったら、アキトは無理して来ようとするだろう?と笑う母さんは、アキトの事をよく分かっているみたいだ。
「分かった。アキトが起きたら様子を見て、もし参加するようならプーカに伝言を頼むよ」
「ああ、それで良い」
「もう戻っても良いぞ?」
いくらプーカに任せてきたと言っても、気になるんだろうと笑う両親に礼を言って俺は執務室を後にした。
部屋の外に控えていたボルトにプーカの配置に対しての礼を言えば、どういたしましてと笑顔が返ってきた。やっぱり手配してくれたのはボルトだったみたいだな。
「アキト様の護衛をしたいと、騎士も侍従もたくさん名乗り出ましたよ」
珍しくもクスクスと笑いながら、ボルトはそう教えてくれた。
「なんだ、そうなのか?」
「ええ、最終的には騎士はどうしても威圧感があるので、初日は侍従が良いだろうと――メイド長の意見で決まりましたね」
そして護衛を兼ねるなら一番強い私が行くと主張したプーカが、その任を勝ち取ったらしい。
「メイド長にも礼を言っておいてくれるか?」
「かしこまりました」
アキトはまだ眠っているだろうか。早く部屋に戻ろうと、俺は廊下を早歩きで歩き出した。
805
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる