867 / 1,179
866.【ハル視点】食事会の後
しおりを挟む
アキトが異世界出身だと知っても、誰一人として態度を変える事は無かった。それはアキトにとっても俺にとっても、本当に嬉しい事だった。
温かく受け入れられた事が心から嬉しいと言いたげなアキトと笑い合っていると、不意にラスが口を開いた。
「ケイリー様とグレース様ぁ…」
あ、この声の低さはまずいやつだ。ピリッと室内の空気が変わったのが分かる。指名されたのは両親だからと、俺を含めて全員がそっと距離を取る。
「ちょっと良いかい?」
両親はコクコクと頷くと、姿勢を正して座りなおした。
「さっきの反応からして、アキトくんが訳アリだってのは、あんたら二人はある程度想像できていたんだよな?」
「ああ」
「はい」
答えた両親を、ラスはじっと順番に見つめた。
「なら何故出身地の話題になった時点で、俺を退出させなかったんだ?」
「ラスはアキトくんの爺様だと言っていたから…」
「それだけじゃあ理由としては弱いと分かってて言ってるだろ?」
ずばりと切って捨てるように否定されて、父さんはうっと言葉につまった。
「あんたら家族が、伴侶のみならず家族の事も大切にするのは分かってる。だが、俺はあくまでさっき知り会ったばかりの部外者だろうが…」
もっと情報管理を徹底しろと叱るラスに、両親は神妙な顔で頷いている。
最強夫婦と呼ばれる辺境領領主夫妻を捕まえてこんな風に説教ができるのは、今となってはラスと執事長ぐらいだろうな。
ラスになら知られても大丈夫だと確信があったから、俺も止めなかったんだがな。ここで両親を叱ろうとした事が、どれだけアキトを気にかけているかの証明にもなっている。
説教を終えたラスはくるりと振り返ると、今度はアキトに向かって口を開いた。
「アキトくん、俺は自分の孫の秘密を誰かに話したりはしないと。愛用の包丁に誓う」
さらりと孫のようなものから孫に格上げされているな。まあラスなら良いか。わざわざ料理人の命と言われる事もある、包丁に誓ってくれたんだ。
また息子たちの話を聞かせてくれとアキトに笑いかけると、ラスはすぐに広間から出て行った。
後に残されたのはびっくり顔のアキトと、神妙な顔の両親、そして笑いを堪えている俺達兄弟と静かにその様子を見守っているその伴侶だけだった。
「今日は疲れただろうし、そろそろ解散としようか」
ファーガス兄さんの声に頷いて、俺達はすみやかに解散する事に決めた。
このままここにいても、両親から何故助けてくれなかったとか、逃げただろうとか言われるだけだろうしな。
広間を出て、アキトと二人で部屋へ向かって歩き出す。メイドの案内は今回は断らせてもらった。というのも、アキトがかなり眠そうなんだよな。
もしどこかで力尽きた時にメイドがいたとなると、抱き上げて運んだ事をきっとアキトは気にするだろう。
そんな配慮だったが、アキトは予想に反して何とか自分の足で歩いて部屋までは辿り着いた。
まあ部屋に入るなり寝ぼけたまま自分と俺に浄化魔法をかけて、そのままベッドに飛び込もうとしたんだが。
さすがにこの礼服のまま寝かせるわけにはいかないからと、俺は慌ててアキトの服を脱がせて部屋着へと着替えさせることになった。
翌朝、目が覚めると、幸せそうに眠るアキトの顔が視界に飛び込んできた。ぐっすりと眠ったままのアキトの様子に、これはまだ起きだしそうにないなと俺はそっと起き上がる。
両親に伝言を伝えてもらうためにメイドでも捕まえようかと部屋から出れば、一人の侍従がドアの近くに佇んでいた。
「おはようございます、ハロルド様」
「ああ、おはようプーカ」
目の前に立っているプーカは細身の体つきだが、侍従の中では一番腕の立つ男だ。おそらく騎士を立たせておくよりも威圧感が無いからと選ばれた、アキトの護衛だろう。
「アキト様は…?」
「まだ眠っているんだ、ここは頼んで良いか?」
信頼できるプーカがここにいてくれるなら、メイドに伝言を頼むよりも直接両親に会いに行った方が良いだろう。そう考えて尋ねれば、プーカは誇らし気に敬礼をしてくれた。
「もちろん、光栄です」
ハロルド様が戻るまで誰一人中には入らせませんと続けたプーカに頷いて、俺は廊下を歩き出した。
この時間なら、両親はおそらく執務室にいるだろう。早朝のうちに書類仕事を終わらせて昼間はあちこちを飛び回っているからな。
そう目星をつけてまっすぐ部屋へと向かえば、執務室の外には執事長のボルトが立っていた。
「おはようございます、ハロルド様」
「おはよう、ボルト」
「もしハロルド様がいらっしゃったら、通すようにと言われております」
ボルトはそう言うなりさっとドアを開くと、ハロルド様がいらっしゃいましたと声をかけてくれた。
「ああ、来たか。おはようハル」
「ハルー、おはよう!」
軽い言葉に、俺も笑顔で答える。
「おはよう、父さん、母さん」
温かく受け入れられた事が心から嬉しいと言いたげなアキトと笑い合っていると、不意にラスが口を開いた。
「ケイリー様とグレース様ぁ…」
あ、この声の低さはまずいやつだ。ピリッと室内の空気が変わったのが分かる。指名されたのは両親だからと、俺を含めて全員がそっと距離を取る。
「ちょっと良いかい?」
両親はコクコクと頷くと、姿勢を正して座りなおした。
「さっきの反応からして、アキトくんが訳アリだってのは、あんたら二人はある程度想像できていたんだよな?」
「ああ」
「はい」
答えた両親を、ラスはじっと順番に見つめた。
「なら何故出身地の話題になった時点で、俺を退出させなかったんだ?」
「ラスはアキトくんの爺様だと言っていたから…」
「それだけじゃあ理由としては弱いと分かってて言ってるだろ?」
ずばりと切って捨てるように否定されて、父さんはうっと言葉につまった。
「あんたら家族が、伴侶のみならず家族の事も大切にするのは分かってる。だが、俺はあくまでさっき知り会ったばかりの部外者だろうが…」
もっと情報管理を徹底しろと叱るラスに、両親は神妙な顔で頷いている。
最強夫婦と呼ばれる辺境領領主夫妻を捕まえてこんな風に説教ができるのは、今となってはラスと執事長ぐらいだろうな。
ラスになら知られても大丈夫だと確信があったから、俺も止めなかったんだがな。ここで両親を叱ろうとした事が、どれだけアキトを気にかけているかの証明にもなっている。
説教を終えたラスはくるりと振り返ると、今度はアキトに向かって口を開いた。
「アキトくん、俺は自分の孫の秘密を誰かに話したりはしないと。愛用の包丁に誓う」
さらりと孫のようなものから孫に格上げされているな。まあラスなら良いか。わざわざ料理人の命と言われる事もある、包丁に誓ってくれたんだ。
また息子たちの話を聞かせてくれとアキトに笑いかけると、ラスはすぐに広間から出て行った。
後に残されたのはびっくり顔のアキトと、神妙な顔の両親、そして笑いを堪えている俺達兄弟と静かにその様子を見守っているその伴侶だけだった。
「今日は疲れただろうし、そろそろ解散としようか」
ファーガス兄さんの声に頷いて、俺達はすみやかに解散する事に決めた。
このままここにいても、両親から何故助けてくれなかったとか、逃げただろうとか言われるだけだろうしな。
広間を出て、アキトと二人で部屋へ向かって歩き出す。メイドの案内は今回は断らせてもらった。というのも、アキトがかなり眠そうなんだよな。
もしどこかで力尽きた時にメイドがいたとなると、抱き上げて運んだ事をきっとアキトは気にするだろう。
そんな配慮だったが、アキトは予想に反して何とか自分の足で歩いて部屋までは辿り着いた。
まあ部屋に入るなり寝ぼけたまま自分と俺に浄化魔法をかけて、そのままベッドに飛び込もうとしたんだが。
さすがにこの礼服のまま寝かせるわけにはいかないからと、俺は慌ててアキトの服を脱がせて部屋着へと着替えさせることになった。
翌朝、目が覚めると、幸せそうに眠るアキトの顔が視界に飛び込んできた。ぐっすりと眠ったままのアキトの様子に、これはまだ起きだしそうにないなと俺はそっと起き上がる。
両親に伝言を伝えてもらうためにメイドでも捕まえようかと部屋から出れば、一人の侍従がドアの近くに佇んでいた。
「おはようございます、ハロルド様」
「ああ、おはようプーカ」
目の前に立っているプーカは細身の体つきだが、侍従の中では一番腕の立つ男だ。おそらく騎士を立たせておくよりも威圧感が無いからと選ばれた、アキトの護衛だろう。
「アキト様は…?」
「まだ眠っているんだ、ここは頼んで良いか?」
信頼できるプーカがここにいてくれるなら、メイドに伝言を頼むよりも直接両親に会いに行った方が良いだろう。そう考えて尋ねれば、プーカは誇らし気に敬礼をしてくれた。
「もちろん、光栄です」
ハロルド様が戻るまで誰一人中には入らせませんと続けたプーカに頷いて、俺は廊下を歩き出した。
この時間なら、両親はおそらく執務室にいるだろう。早朝のうちに書類仕事を終わらせて昼間はあちこちを飛び回っているからな。
そう目星をつけてまっすぐ部屋へと向かえば、執務室の外には執事長のボルトが立っていた。
「おはようございます、ハロルド様」
「おはよう、ボルト」
「もしハロルド様がいらっしゃったら、通すようにと言われております」
ボルトはそう言うなりさっとドアを開くと、ハロルド様がいらっしゃいましたと声をかけてくれた。
「ああ、来たか。おはようハル」
「ハルー、おはよう!」
軽い言葉に、俺も笑顔で答える。
「おはよう、父さん、母さん」
785
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる