生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
863 / 1,179

862.辺境領の朝食

しおりを挟む
 その場にいる全員から順番にハグをされて、慣れないながらもなんとか俺からもハグを返していく。

 おはようとか元気かとか、よく眠れたかとか、みんな声をかけてくれるんだよね。だから答えつつハグをしてたんだけど、気づけばまたウィリアムさんが抱きついてきていた。

 一人一回じゃないの?これっていつまで続くんだろうと思っていたハグ祭りは、ハルの一言で終了した。

「もうそろそろ終わりにしないか?」
「なんだなんだ、目の前でアキトが抱きしめられてるの見て、妬いてるのかぁ?」

 面白そうに笑ったグレースさんの揶揄い混じりの言葉に、ハルはあっさりと頷いてみせた。

「こんなに嬉しそうな顔されたら、当然妬くよ」
「ごまかしたりしないんだな、ハルは」

 潔いと感心したように呟いたファーガスさんに、ハルはごまかしてどうするのと普段通りの声で返す。

「まぁでも、みんなにアキトを抱きしめるなとは言わないよ?」
「すぐに止めに入ると思っていたから、正直すこし驚いたよ。私は伴侶になってすぐは、グレースに近づくなと両親すら威嚇したものだが…」

 だからケイリーさんはハルの様子次第では、止めに入るつもりだったらしい。当の本人が微笑ましそうに見守ってたから、自分も参加したそうだ。

 流しそうになったけど、ケイリーさん…ご両親にも威嚇したんだ。

「照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑っていたからね」

 もしすこしでもアキトが嫌がっていたら、絶対止めに入っていたよとハルはにっこり笑顔で続けた。

「それに、アキトが一番良い顔をするのは俺の腕の中だから」

 だから我慢すると続けたハルが伸ばしてきた腕に、俺は笑顔で飛び込んだ。



 しばらくしてからやってきた執事さんは、まだ入り口近くで集まっていた俺たちに気づくと困り顔で声をかけてきた。

「さきほど料理長に全員揃ったとお伝えしましたから、そろそろお座りください」
「ああ、すまない。ほらみんなも適当に座ってくれ」

 ケイリーさんの言葉に、全員が席へ向かって歩き出す。

「ハル、適当って…?」
「ああ、朝食の席は好きに決めて良いんだよ」

 好きに決めると言われると、逆に困ってしまう。どこに座ろうかなとうろうろと視線を動かせば、先に座っていたグレースさんが笑顔で手招きしてくれた。

「ほら、アキト、こっちおいで」
「呼ばれてるね」
「うん。ハルはどこに座るの?」

 俺の隣の席もまだ空いてはいるんだよ。でもどうやらファーガスさんとマチルダさん、ウィリアムさんとジルさんもバラバラに座るみたいなんだよね。

 長い机のあっちこっちに散らばってるから、たぶん伴侶同士も離れて座るんだと思う。

「そうだな…俺はアキトの向かい側にしようかな?」
「え、ハル兄、アキトさんの隣じゃないの!?」

 びっくり顔で確認するキースくんに、ハルは今日は向かいで良いよと優しく答えた。

「じゃあ…えっと…アキトさん、僕が隣でも良いですか?」

 もじもじしながら尋ねてくれるキースくんに、俺は満面の笑顔で答えた。

「もちろん、大歓迎だよ!」
「わーい、良かったー!」

 こどもらしい笑顔を浮かべたキースくんは、軽やかに俺の隣の席へと腰を下ろした。



 ほどなく運ばれてきたのは、大きなお皿に山のように盛り付けられた料理の数々だった。

 サラダやスープ、種類豊富なパンはもちろん、ふわっふわのオムレツや、艶やかなてりのついた骨付き鳥肉、パスタみたいな麺料理、さらには牛肉っぽい巨大な肉の塊まである。

 すっごく豪勢な夕飯ぐらいの大ボリュームだ。

「あー、初めて見ると驚かれるんだが、うちの領は朝食からしっかり食べるんだよ」

 ケイリーさんとグレースさんによれば、これは朝からしっかり食べておかないといざと言う時に動けないという数代前の領主様の教えらしい。

 それがじわじわと浸透して、今では領民も朝はしっかり食べるようになってきているそうだ。

 本当に歴代の領主様が慕われているんだな。

「なるほど」
「あ、さすがに全種類食べろとは言わないぞ!」

 グレースさんは私でも全種類はさすがにきついとからりと笑った。

「そうそう好きなものを選んでくれ」

 まるで朝食バイキングみたいなんだけど、盛り付けはメイドさんがしてくれるらしい。

 あれもこれも美味しそうで、どれを選ぶべきか悩んでしまう。いや美味しそうじゃないか、ラスさんが作ってくれたなら間違いなく美味しい。

 サラダと透明なスープ、あとあの真っ白なパンは絶対欲しい。あの一番端にあるグラタンみたいなのも。

 うーん。肉もたべたいけど、牛肉の塊と骨付き鳥肉両方はむりかもしれない。

 悩みに悩む俺に、向かいに座るハルから助け船がきた。

「アキト、肉は薄切りとかすこしだけにもしてもらえるよ?」
「えっ…じゃあそれでお願いします!」

 勢いこんで頼めば、俺の担当だというメイドさんはかしこまりましたと笑顔を見せてくれた。
 


 
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...