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862.辺境領の朝食

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 その場にいる全員から順番にハグをされて、慣れないながらもなんとか俺からもハグを返していく。

 おはようとか元気かとか、よく眠れたかとか、みんな声をかけてくれるんだよね。だから答えつつハグをしてたんだけど、気づけばまたウィリアムさんが抱きついてきていた。

 一人一回じゃないの?これっていつまで続くんだろうと思っていたハグ祭りは、ハルの一言で終了した。

「もうそろそろ終わりにしないか?」
「なんだなんだ、目の前でアキトが抱きしめられてるの見て、妬いてるのかぁ?」

 面白そうに笑ったグレースさんの揶揄い混じりの言葉に、ハルはあっさりと頷いてみせた。

「こんなに嬉しそうな顔されたら、当然妬くよ」
「ごまかしたりしないんだな、ハルは」

 潔いと感心したように呟いたファーガスさんに、ハルはごまかしてどうするのと普段通りの声で返す。

「まぁでも、みんなにアキトを抱きしめるなとは言わないよ?」
「すぐに止めに入ると思っていたから、正直すこし驚いたよ。私は伴侶になってすぐは、グレースに近づくなと両親すら威嚇したものだが…」

 だからケイリーさんはハルの様子次第では、止めに入るつもりだったらしい。当の本人が微笑ましそうに見守ってたから、自分も参加したそうだ。

 流しそうになったけど、ケイリーさん…ご両親にも威嚇したんだ。

「照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑っていたからね」

 もしすこしでもアキトが嫌がっていたら、絶対止めに入っていたよとハルはにっこり笑顔で続けた。

「それに、アキトが一番良い顔をするのは俺の腕の中だから」

 だから我慢すると続けたハルが伸ばしてきた腕に、俺は笑顔で飛び込んだ。



 しばらくしてからやってきた執事さんは、まだ入り口近くで集まっていた俺たちに気づくと困り顔で声をかけてきた。

「さきほど料理長に全員揃ったとお伝えしましたから、そろそろお座りください」
「ああ、すまない。ほらみんなも適当に座ってくれ」

 ケイリーさんの言葉に、全員が席へ向かって歩き出す。

「ハル、適当って…?」
「ああ、朝食の席は好きに決めて良いんだよ」

 好きに決めると言われると、逆に困ってしまう。どこに座ろうかなとうろうろと視線を動かせば、先に座っていたグレースさんが笑顔で手招きしてくれた。

「ほら、アキト、こっちおいで」
「呼ばれてるね」
「うん。ハルはどこに座るの?」

 俺の隣の席もまだ空いてはいるんだよ。でもどうやらファーガスさんとマチルダさん、ウィリアムさんとジルさんもバラバラに座るみたいなんだよね。

 長い机のあっちこっちに散らばってるから、たぶん伴侶同士も離れて座るんだと思う。

「そうだな…俺はアキトの向かい側にしようかな?」
「え、ハル兄、アキトさんの隣じゃないの!?」

 びっくり顔で確認するキースくんに、ハルは今日は向かいで良いよと優しく答えた。

「じゃあ…えっと…アキトさん、僕が隣でも良いですか?」

 もじもじしながら尋ねてくれるキースくんに、俺は満面の笑顔で答えた。

「もちろん、大歓迎だよ!」
「わーい、良かったー!」

 こどもらしい笑顔を浮かべたキースくんは、軽やかに俺の隣の席へと腰を下ろした。



 ほどなく運ばれてきたのは、大きなお皿に山のように盛り付けられた料理の数々だった。

 サラダやスープ、種類豊富なパンはもちろん、ふわっふわのオムレツや、艶やかなてりのついた骨付き鳥肉、パスタみたいな麺料理、さらには牛肉っぽい巨大な肉の塊まである。

 すっごく豪勢な夕飯ぐらいの大ボリュームだ。

「あー、初めて見ると驚かれるんだが、うちの領は朝食からしっかり食べるんだよ」

 ケイリーさんとグレースさんによれば、これは朝からしっかり食べておかないといざと言う時に動けないという数代前の領主様の教えらしい。

 それがじわじわと浸透して、今では領民も朝はしっかり食べるようになってきているそうだ。

 本当に歴代の領主様が慕われているんだな。

「なるほど」
「あ、さすがに全種類食べろとは言わないぞ!」

 グレースさんは私でも全種類はさすがにきついとからりと笑った。

「そうそう好きなものを選んでくれ」

 まるで朝食バイキングみたいなんだけど、盛り付けはメイドさんがしてくれるらしい。

 あれもこれも美味しそうで、どれを選ぶべきか悩んでしまう。いや美味しそうじゃないか、ラスさんが作ってくれたなら間違いなく美味しい。

 サラダと透明なスープ、あとあの真っ白なパンは絶対欲しい。あの一番端にあるグラタンみたいなのも。

 うーん。肉もたべたいけど、牛肉の塊と骨付き鳥肉両方はむりかもしれない。

 悩みに悩む俺に、向かいに座るハルから助け船がきた。

「アキト、肉は薄切りとかすこしだけにもしてもらえるよ?」
「えっ…じゃあそれでお願いします!」

 勢いこんで頼めば、俺の担当だというメイドさんはかしこまりましたと笑顔を見せてくれた。
 


 
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