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859.【ハル視点】後悔
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しばらくアキトを抱きしめていると、ようやく気分が落ち着いてきた。いつまででもこのままでいたい気持ちはあるけれど、今はまず確認の方が大事だ。
そう考えた俺はそっとアキトを解放すると、父に向かって視線を向けた。
「…それで、ここに異世界人がたくさんいるっていうのはどういう事なんだ?」
「あー…最近はだいぶ落ち着いたんだが…その…隣国が、異世界人の召喚を頻繁にしてたんだよ」
――へー隣国が異世界人の召喚をね?
辺境領で言うところの隣国といえば、ヴィレツ国とドノレット王国の二つの候補があがる。だから俺は低い声でぼそりと尋ねた。
「隣国って…どっちだ?」
「ドノレット王国の方だ」
「ドノレット王国…ねぇ」
思わずそう繰り返せば、父は慌てた様子で口を開いた。
「あ、待ってくれ、ハル。最近は代替わりして王家がまともになったから、召喚はちゃんと禁じられているぞ?…なあ、グレース」
そんなに慌てなくても、アキトを召喚したのもそこかと考えていきなり隣国へと攻め入ったりはしないんだがな。
「まぁな。あの頃のドノレット王国は、異世界人の事を召喚してはその知識をただ一方的に利用するだけだった。この世界の事を知って自国から出ていくのが怖かったらしくてな…」
ろくにこの世界の事も教えず、ただ一カ所に閉じ込めていたんだと、母さんは心配そうにチラチラとアキトを見ながら続けた。
できることなら母さんも同じ異世界人であるアキトに、こんな事を伝えたくは無いんだろう。だが、一切何も言わずに、アキトを油断させるわけにはいかない。
そんな母さんの葛藤が伝わってくるような視線だ。
「へぇ……それで?」
「先代の頃もまともな貴族が数人はいてな、時期を見て死んだと報告してからここに逃がしていたんだ」
数人とはいえまともな人も存在していたと知り、少しだけ怒りは和らいだ。だが今度は違う疑問が湧いてきた。
「そうか…それは良かったが…何故わざわざ隣国に逃がしたんだ?」
不思議に思った俺は、首を傾げつつ率直にそう尋ねてみた。
「ああ、たとえ死んだ事にしても、自国では守り切れないからってな」
「…それもそうか」
相手の都合も考えずに、ぽんぽんと異世界人を召喚している奴らだ。権力を持った貴族が、そう簡単に追及の手を緩める事は無いだろう。
確かに隣国へと逃がす方が――安全だな。
「しかもなー義父さん…あーハルにとっての爺さんにな、わざわざ国境まで頭を下げにきたんだってよ」
母さんはそう言って、なかなかに根性があるよなと楽しそうに笑った。
「そうだったな。父上はあの通りの人だったから、全員引き受けるってあっさりと受け入れたんだ」
父さんも懐かしそうに目を細めて笑っている。
なんだかまるでお爺様が死んだみたいな言い方なんだが、アキトが誤解していないだろうか。お爺様はせっかく世代交代をしたからと、今は他国のダンジョンに潜っているような元気な人なんだが。
まあ今度アキトに説明すれば良いか。
「そのまま異世界人たちを受け入れ暮らす場所と知識を与えているうちに、ここが気に入ったと落ち着く人たちもでてきたんだ」
「ああ、もちろんもっと安全な場所が良いとか憧れの地を探すとか言って他の領へと流れていく人もいたぞ?」
「あーごく稀にだが…自分から貴族に囲われたいと出ていった人なんてのもいたよ」
そういう人たちは個人の自由だからと邪魔はせずに送り出してきたんだと、父さんと母さんは笑顔を浮かべている。
「まあそういうわけで、うちの領には結構異世界人はいるんだよ」
だからアキトくんも歓迎だよと、俺の両親はそう話を締めくくった。
今の言い方だと、普通に領民の中に混ざって生活をしているんだろうな。もしかしたら俺の知っている人の中にも、異世界人はいたのかもしれない。
そう思うと、何とも複雑な気分だ。
「なあ…ファーガス兄さんも、ウィル兄さんも…キースも知ってたのか?」
もちろん異世界人が嫌だとか、知識が欲しいとかそういう事じゃない。ただそれを知らずにいた自分が、ひどく情けない。
順番に三人を見つめながら、俺はそう尋ねてみた。
「ああ、知っていた。うちの騎士団にも何人かいるからな」
「あ、うちの隊にもいるねー」
「僕の友達にもいるよ」
「俺は…全く知らなかったんだが…」
もしアキトと出逢った時点で、辺境領には異世界人が多く保護されていると知っていれば――もっと早くアキトを安心させてあげる事ができたんじゃないか?そんな後悔が湧いてくる。
例え俺が幽霊の状態であっても、アキトを辺境領に関係のある場所へと案内して保護を願えたかもしれない。
情けない気分でうなだれた俺の髪を、近づいてきたファーガス兄さんが乱暴にかき混ぜた。力が強いせいで、俺の頭はがくがくと揺れてしまう。ファーガス兄さんはこういう力加減が苦手なんだよな。
「以前のお前は、あまり人に興味が無かったからなぁ」
「ああ、確かに」
昔の俺はそうだったと素直に反省している俺に、ウィル兄さんは笑いながら声をかけてきた。
「まあでも、特別扱いしないハルに救われたって行ってた人もいたからさー悪い事ばかりじゃないよ」
「そう…なのか?」
「僕もね、教えてもらったけどふつうの友達扱いしてるよ?」
ハル兄みたいにねとにっこりと笑うキースは、やっぱり天使だと思う。
そう考えた俺はそっとアキトを解放すると、父に向かって視線を向けた。
「…それで、ここに異世界人がたくさんいるっていうのはどういう事なんだ?」
「あー…最近はだいぶ落ち着いたんだが…その…隣国が、異世界人の召喚を頻繁にしてたんだよ」
――へー隣国が異世界人の召喚をね?
辺境領で言うところの隣国といえば、ヴィレツ国とドノレット王国の二つの候補があがる。だから俺は低い声でぼそりと尋ねた。
「隣国って…どっちだ?」
「ドノレット王国の方だ」
「ドノレット王国…ねぇ」
思わずそう繰り返せば、父は慌てた様子で口を開いた。
「あ、待ってくれ、ハル。最近は代替わりして王家がまともになったから、召喚はちゃんと禁じられているぞ?…なあ、グレース」
そんなに慌てなくても、アキトを召喚したのもそこかと考えていきなり隣国へと攻め入ったりはしないんだがな。
「まぁな。あの頃のドノレット王国は、異世界人の事を召喚してはその知識をただ一方的に利用するだけだった。この世界の事を知って自国から出ていくのが怖かったらしくてな…」
ろくにこの世界の事も教えず、ただ一カ所に閉じ込めていたんだと、母さんは心配そうにチラチラとアキトを見ながら続けた。
できることなら母さんも同じ異世界人であるアキトに、こんな事を伝えたくは無いんだろう。だが、一切何も言わずに、アキトを油断させるわけにはいかない。
そんな母さんの葛藤が伝わってくるような視線だ。
「へぇ……それで?」
「先代の頃もまともな貴族が数人はいてな、時期を見て死んだと報告してからここに逃がしていたんだ」
数人とはいえまともな人も存在していたと知り、少しだけ怒りは和らいだ。だが今度は違う疑問が湧いてきた。
「そうか…それは良かったが…何故わざわざ隣国に逃がしたんだ?」
不思議に思った俺は、首を傾げつつ率直にそう尋ねてみた。
「ああ、たとえ死んだ事にしても、自国では守り切れないからってな」
「…それもそうか」
相手の都合も考えずに、ぽんぽんと異世界人を召喚している奴らだ。権力を持った貴族が、そう簡単に追及の手を緩める事は無いだろう。
確かに隣国へと逃がす方が――安全だな。
「しかもなー義父さん…あーハルにとっての爺さんにな、わざわざ国境まで頭を下げにきたんだってよ」
母さんはそう言って、なかなかに根性があるよなと楽しそうに笑った。
「そうだったな。父上はあの通りの人だったから、全員引き受けるってあっさりと受け入れたんだ」
父さんも懐かしそうに目を細めて笑っている。
なんだかまるでお爺様が死んだみたいな言い方なんだが、アキトが誤解していないだろうか。お爺様はせっかく世代交代をしたからと、今は他国のダンジョンに潜っているような元気な人なんだが。
まあ今度アキトに説明すれば良いか。
「そのまま異世界人たちを受け入れ暮らす場所と知識を与えているうちに、ここが気に入ったと落ち着く人たちもでてきたんだ」
「ああ、もちろんもっと安全な場所が良いとか憧れの地を探すとか言って他の領へと流れていく人もいたぞ?」
「あーごく稀にだが…自分から貴族に囲われたいと出ていった人なんてのもいたよ」
そういう人たちは個人の自由だからと邪魔はせずに送り出してきたんだと、父さんと母さんは笑顔を浮かべている。
「まあそういうわけで、うちの領には結構異世界人はいるんだよ」
だからアキトくんも歓迎だよと、俺の両親はそう話を締めくくった。
今の言い方だと、普通に領民の中に混ざって生活をしているんだろうな。もしかしたら俺の知っている人の中にも、異世界人はいたのかもしれない。
そう思うと、何とも複雑な気分だ。
「なあ…ファーガス兄さんも、ウィル兄さんも…キースも知ってたのか?」
もちろん異世界人が嫌だとか、知識が欲しいとかそういう事じゃない。ただそれを知らずにいた自分が、ひどく情けない。
順番に三人を見つめながら、俺はそう尋ねてみた。
「ああ、知っていた。うちの騎士団にも何人かいるからな」
「あ、うちの隊にもいるねー」
「僕の友達にもいるよ」
「俺は…全く知らなかったんだが…」
もしアキトと出逢った時点で、辺境領には異世界人が多く保護されていると知っていれば――もっと早くアキトを安心させてあげる事ができたんじゃないか?そんな後悔が湧いてくる。
例え俺が幽霊の状態であっても、アキトを辺境領に関係のある場所へと案内して保護を願えたかもしれない。
情けない気分でうなだれた俺の髪を、近づいてきたファーガス兄さんが乱暴にかき混ぜた。力が強いせいで、俺の頭はがくがくと揺れてしまう。ファーガス兄さんはこういう力加減が苦手なんだよな。
「以前のお前は、あまり人に興味が無かったからなぁ」
「ああ、確かに」
昔の俺はそうだったと素直に反省している俺に、ウィル兄さんは笑いながら声をかけてきた。
「まあでも、特別扱いしないハルに救われたって行ってた人もいたからさー悪い事ばかりじゃないよ」
「そう…なのか?」
「僕もね、教えてもらったけどふつうの友達扱いしてるよ?」
ハル兄みたいにねとにっこりと笑うキースは、やっぱり天使だと思う。
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