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858.【ハル視点】嫌な予感
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俺の言葉でくるりとこちらを振り返った父さんは、面白いと言いたげな笑顔だった。まあ次の瞬間には、首を傾げているアキトに気づいて一瞬で慌てた表情に変わったが。
「すまないね、アキトくん」
最初にそう謝罪の言葉を口にした父さんは、申し訳なさそうに眉を下げながら続けた。
「決して君の出身地の事を、軽んじてる――というわけじゃないんだよ?嫌だったかい?」
「あ、いえ…気にしないでください」
何とかそう答えたアキトは当然驚いた様子ではあったが、俺よりは落ち着いているようだ。
一般的に異世界人と聞けば、反応はだいたい四つに分けられる。
ひとつ、異世界の知識を得るために、情報を聞き出し利用しようとする者。
ふたつ、そのまま囲い込み、知識ごと自分のものにしようと画策する者。
みっつ、王族や貴族、豪商などに差しだすことで、見返りを得ようとする者。
よっつ、珍獣でも見るような目で、面白がって観察する者。
ここにいるみんなの表情は、そのどれにも当てはまってはいない。隠しているとかそういう事では無い。さすがに家族の隠している感情ぐらいは、俺にも読む事ができるからな。
だからこそ何故こんな反応なのかが分からない。あまりにも当たり前のように受け入れたうえで、もっとひどい想像について話されるなんて思ってもみなかった。
「なぜ、そんなに、落ち着いているのかって、聞いてるんだけど?」
父をじっと見つめながら、俺は途切れ途切れにもう一度尋ねた。早く答えろと視線に意思を込めて見つめれば、父は困った様子で視線を反らした。
「あー…えっとな、そもそもの話なんだが、おそらくこの王国で異世界人が一番多いのはうちの領だと思うんだ」
それはつまり?異世界人だと聞いても動じない理由は―――?
一番あって欲しくない嫌な想像が、どうしても頭から離れない。俺はぐっともう一度拳を握りしめると、地を這うような低い声で尋ねた。
「は?それはどういう意味だ?」
「あー、これは思った通りの反応だな」
俺の反応をみて、母さんは楽し気に声をあげて笑いだした。そこまで心配しなくて良いと言いたいのだろうが、そんな反応すら今の俺は冷静に受け取れない。
「まず初めに俺の剣と最愛の伴侶に誓って言うが、異世界人が多いと言ってもうちの領が召喚しているわけじゃないからな?その殺気はしまえ」
父さんはそう言うと、じろりと俺を見据えた。ああ、うまく隠しているつもりだったがやっぱり漏れてしまっていたのか。ちらりと視線を向ければ、母さんも苦笑して俺を見ている。
俺はそっと視線を反らして殺気を消した。
「あー…殺気を出して悪かった。この世界にアキトを呼んだのが―アキトを苦しめたのが―うちの領なのかと勝手に誤解した」
さすがに俺の家族が関わっているとまでは思わなかったが、この領の誰かが召喚しているのかとは思ってしまった。それを素直に口にした俺は、その場にいる全員に向かって謝罪した。
何故か何も悪くないアキトまで、一緒になって頭を下げてくれているのが気配で分かる。
「まあ気持ちは分かるから気にするな」
俺の謝罪を受けた父さんは、苦笑しつつそう答えてくれた。母さんに至っては、予想通りすぎて笑えたと豪快に笑っている。
「むしろここで殺気を出さなかったら、俺はハルがアキトくんの伴侶に相応しくないかもと思ったかもな」
ファーガス兄さんはそう言って、俺に向かって柔らかく笑いかけた。伴侶にしたいと決めた相手を本気で守れないなら、お前にアキトの伴侶になる資格は無いと言いたいんだろう。
うちの家族は伴侶を大事にする一族だからな。
「うんうん。ジルをあてはめて考えてみたんだけどさ、今のは俺も殺気出すよ」
仕方ない仕方ないと、ウィリアム兄さんも軽く受け入れてくれた。想像だけでも目つきが鋭くなっているから、よほど面白くなかったんだろうな。
アキトと一緒に順番に視線を向ければ、マティさんとジルさん、それにラスも笑って頷いてくれた。さすがにあの兄たちの伴侶だけあって、マティさんとジルさんも落ち着いた反応だな。
後はキースだけかなと視線を向ければ、キースは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落としている所だった。
「キースくん?」
アキトが声をかければ、キースは震える声で答えた。
「アキトさんが言いたくない事を言わせてしまってごめんなさい」
「ううん。さっきも言ったけど、本当に大丈夫だよ」
「でも、ハル兄が…殺気…」
僕のせいだと呟いた今にも泣き出しそうなキースの頭を、隣に座っていたジルさんの手がそっと撫でた。
「キースくん、今のはハルさんのアキトさんへの愛情が、殺気になっただけですよ?」
「愛情が…?」
「ええ。本気でこの場にいる誰かに殺気を飛ばしたわけじゃないです」
ジルさんには、そんなところまで分かってしまったのか。確かにここにいる誰かに向けた殺気では無かったが…と考えていると、不意にアキトがじっと俺を見つめてから口を開いた。
「ハル、俺のためにありがとう」
迂闊にも殺気を出してしまったのに、まさかここでお礼の言葉を言われるとはな。ジルさんの言ったように、あれは愛情の形だと受け入れてくれたということだ。
「これだからアキトは」
たまらないなと思いながら、俺は思いっきりアキトの身体を抱きしめた。
揶揄うように周りから色々な声が飛んできた。
「こらーいちゃつくなー」
「まあ良いじゃないか」
「そうそう、さすがにこれは邪魔したら駄目だ」
そんな声に混じって、泣きそうだったキースが楽し気に笑っている声が聞こえてきた。俺の殺気のせいで戸惑わせてしまったから、あとで忘れずに謝罪しておかないとな。
「すまないね、アキトくん」
最初にそう謝罪の言葉を口にした父さんは、申し訳なさそうに眉を下げながら続けた。
「決して君の出身地の事を、軽んじてる――というわけじゃないんだよ?嫌だったかい?」
「あ、いえ…気にしないでください」
何とかそう答えたアキトは当然驚いた様子ではあったが、俺よりは落ち着いているようだ。
一般的に異世界人と聞けば、反応はだいたい四つに分けられる。
ひとつ、異世界の知識を得るために、情報を聞き出し利用しようとする者。
ふたつ、そのまま囲い込み、知識ごと自分のものにしようと画策する者。
みっつ、王族や貴族、豪商などに差しだすことで、見返りを得ようとする者。
よっつ、珍獣でも見るような目で、面白がって観察する者。
ここにいるみんなの表情は、そのどれにも当てはまってはいない。隠しているとかそういう事では無い。さすがに家族の隠している感情ぐらいは、俺にも読む事ができるからな。
だからこそ何故こんな反応なのかが分からない。あまりにも当たり前のように受け入れたうえで、もっとひどい想像について話されるなんて思ってもみなかった。
「なぜ、そんなに、落ち着いているのかって、聞いてるんだけど?」
父をじっと見つめながら、俺は途切れ途切れにもう一度尋ねた。早く答えろと視線に意思を込めて見つめれば、父は困った様子で視線を反らした。
「あー…えっとな、そもそもの話なんだが、おそらくこの王国で異世界人が一番多いのはうちの領だと思うんだ」
それはつまり?異世界人だと聞いても動じない理由は―――?
一番あって欲しくない嫌な想像が、どうしても頭から離れない。俺はぐっともう一度拳を握りしめると、地を這うような低い声で尋ねた。
「は?それはどういう意味だ?」
「あー、これは思った通りの反応だな」
俺の反応をみて、母さんは楽し気に声をあげて笑いだした。そこまで心配しなくて良いと言いたいのだろうが、そんな反応すら今の俺は冷静に受け取れない。
「まず初めに俺の剣と最愛の伴侶に誓って言うが、異世界人が多いと言ってもうちの領が召喚しているわけじゃないからな?その殺気はしまえ」
父さんはそう言うと、じろりと俺を見据えた。ああ、うまく隠しているつもりだったがやっぱり漏れてしまっていたのか。ちらりと視線を向ければ、母さんも苦笑して俺を見ている。
俺はそっと視線を反らして殺気を消した。
「あー…殺気を出して悪かった。この世界にアキトを呼んだのが―アキトを苦しめたのが―うちの領なのかと勝手に誤解した」
さすがに俺の家族が関わっているとまでは思わなかったが、この領の誰かが召喚しているのかとは思ってしまった。それを素直に口にした俺は、その場にいる全員に向かって謝罪した。
何故か何も悪くないアキトまで、一緒になって頭を下げてくれているのが気配で分かる。
「まあ気持ちは分かるから気にするな」
俺の謝罪を受けた父さんは、苦笑しつつそう答えてくれた。母さんに至っては、予想通りすぎて笑えたと豪快に笑っている。
「むしろここで殺気を出さなかったら、俺はハルがアキトくんの伴侶に相応しくないかもと思ったかもな」
ファーガス兄さんはそう言って、俺に向かって柔らかく笑いかけた。伴侶にしたいと決めた相手を本気で守れないなら、お前にアキトの伴侶になる資格は無いと言いたいんだろう。
うちの家族は伴侶を大事にする一族だからな。
「うんうん。ジルをあてはめて考えてみたんだけどさ、今のは俺も殺気出すよ」
仕方ない仕方ないと、ウィリアム兄さんも軽く受け入れてくれた。想像だけでも目つきが鋭くなっているから、よほど面白くなかったんだろうな。
アキトと一緒に順番に視線を向ければ、マティさんとジルさん、それにラスも笑って頷いてくれた。さすがにあの兄たちの伴侶だけあって、マティさんとジルさんも落ち着いた反応だな。
後はキースだけかなと視線を向ければ、キースは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落としている所だった。
「キースくん?」
アキトが声をかければ、キースは震える声で答えた。
「アキトさんが言いたくない事を言わせてしまってごめんなさい」
「ううん。さっきも言ったけど、本当に大丈夫だよ」
「でも、ハル兄が…殺気…」
僕のせいだと呟いた今にも泣き出しそうなキースの頭を、隣に座っていたジルさんの手がそっと撫でた。
「キースくん、今のはハルさんのアキトさんへの愛情が、殺気になっただけですよ?」
「愛情が…?」
「ええ。本気でこの場にいる誰かに殺気を飛ばしたわけじゃないです」
ジルさんには、そんなところまで分かってしまったのか。確かにここにいる誰かに向けた殺気では無かったが…と考えていると、不意にアキトがじっと俺を見つめてから口を開いた。
「ハル、俺のためにありがとう」
迂闊にも殺気を出してしまったのに、まさかここでお礼の言葉を言われるとはな。ジルさんの言ったように、あれは愛情の形だと受け入れてくれたということだ。
「これだからアキトは」
たまらないなと思いながら、俺は思いっきりアキトの身体を抱きしめた。
揶揄うように周りから色々な声が飛んできた。
「こらーいちゃつくなー」
「まあ良いじゃないか」
「そうそう、さすがにこれは邪魔したら駄目だ」
そんな声に混じって、泣きそうだったキースが楽し気に笑っている声が聞こえてきた。俺の殺気のせいで戸惑わせてしまったから、あとで忘れずに謝罪しておかないとな。
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