859 / 1,179
858.【ハル視点】嫌な予感
しおりを挟む
俺の言葉でくるりとこちらを振り返った父さんは、面白いと言いたげな笑顔だった。まあ次の瞬間には、首を傾げているアキトに気づいて一瞬で慌てた表情に変わったが。
「すまないね、アキトくん」
最初にそう謝罪の言葉を口にした父さんは、申し訳なさそうに眉を下げながら続けた。
「決して君の出身地の事を、軽んじてる――というわけじゃないんだよ?嫌だったかい?」
「あ、いえ…気にしないでください」
何とかそう答えたアキトは当然驚いた様子ではあったが、俺よりは落ち着いているようだ。
一般的に異世界人と聞けば、反応はだいたい四つに分けられる。
ひとつ、異世界の知識を得るために、情報を聞き出し利用しようとする者。
ふたつ、そのまま囲い込み、知識ごと自分のものにしようと画策する者。
みっつ、王族や貴族、豪商などに差しだすことで、見返りを得ようとする者。
よっつ、珍獣でも見るような目で、面白がって観察する者。
ここにいるみんなの表情は、そのどれにも当てはまってはいない。隠しているとかそういう事では無い。さすがに家族の隠している感情ぐらいは、俺にも読む事ができるからな。
だからこそ何故こんな反応なのかが分からない。あまりにも当たり前のように受け入れたうえで、もっとひどい想像について話されるなんて思ってもみなかった。
「なぜ、そんなに、落ち着いているのかって、聞いてるんだけど?」
父をじっと見つめながら、俺は途切れ途切れにもう一度尋ねた。早く答えろと視線に意思を込めて見つめれば、父は困った様子で視線を反らした。
「あー…えっとな、そもそもの話なんだが、おそらくこの王国で異世界人が一番多いのはうちの領だと思うんだ」
それはつまり?異世界人だと聞いても動じない理由は―――?
一番あって欲しくない嫌な想像が、どうしても頭から離れない。俺はぐっともう一度拳を握りしめると、地を這うような低い声で尋ねた。
「は?それはどういう意味だ?」
「あー、これは思った通りの反応だな」
俺の反応をみて、母さんは楽し気に声をあげて笑いだした。そこまで心配しなくて良いと言いたいのだろうが、そんな反応すら今の俺は冷静に受け取れない。
「まず初めに俺の剣と最愛の伴侶に誓って言うが、異世界人が多いと言ってもうちの領が召喚しているわけじゃないからな?その殺気はしまえ」
父さんはそう言うと、じろりと俺を見据えた。ああ、うまく隠しているつもりだったがやっぱり漏れてしまっていたのか。ちらりと視線を向ければ、母さんも苦笑して俺を見ている。
俺はそっと視線を反らして殺気を消した。
「あー…殺気を出して悪かった。この世界にアキトを呼んだのが―アキトを苦しめたのが―うちの領なのかと勝手に誤解した」
さすがに俺の家族が関わっているとまでは思わなかったが、この領の誰かが召喚しているのかとは思ってしまった。それを素直に口にした俺は、その場にいる全員に向かって謝罪した。
何故か何も悪くないアキトまで、一緒になって頭を下げてくれているのが気配で分かる。
「まあ気持ちは分かるから気にするな」
俺の謝罪を受けた父さんは、苦笑しつつそう答えてくれた。母さんに至っては、予想通りすぎて笑えたと豪快に笑っている。
「むしろここで殺気を出さなかったら、俺はハルがアキトくんの伴侶に相応しくないかもと思ったかもな」
ファーガス兄さんはそう言って、俺に向かって柔らかく笑いかけた。伴侶にしたいと決めた相手を本気で守れないなら、お前にアキトの伴侶になる資格は無いと言いたいんだろう。
うちの家族は伴侶を大事にする一族だからな。
「うんうん。ジルをあてはめて考えてみたんだけどさ、今のは俺も殺気出すよ」
仕方ない仕方ないと、ウィリアム兄さんも軽く受け入れてくれた。想像だけでも目つきが鋭くなっているから、よほど面白くなかったんだろうな。
アキトと一緒に順番に視線を向ければ、マティさんとジルさん、それにラスも笑って頷いてくれた。さすがにあの兄たちの伴侶だけあって、マティさんとジルさんも落ち着いた反応だな。
後はキースだけかなと視線を向ければ、キースは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落としている所だった。
「キースくん?」
アキトが声をかければ、キースは震える声で答えた。
「アキトさんが言いたくない事を言わせてしまってごめんなさい」
「ううん。さっきも言ったけど、本当に大丈夫だよ」
「でも、ハル兄が…殺気…」
僕のせいだと呟いた今にも泣き出しそうなキースの頭を、隣に座っていたジルさんの手がそっと撫でた。
「キースくん、今のはハルさんのアキトさんへの愛情が、殺気になっただけですよ?」
「愛情が…?」
「ええ。本気でこの場にいる誰かに殺気を飛ばしたわけじゃないです」
ジルさんには、そんなところまで分かってしまったのか。確かにここにいる誰かに向けた殺気では無かったが…と考えていると、不意にアキトがじっと俺を見つめてから口を開いた。
「ハル、俺のためにありがとう」
迂闊にも殺気を出してしまったのに、まさかここでお礼の言葉を言われるとはな。ジルさんの言ったように、あれは愛情の形だと受け入れてくれたということだ。
「これだからアキトは」
たまらないなと思いながら、俺は思いっきりアキトの身体を抱きしめた。
揶揄うように周りから色々な声が飛んできた。
「こらーいちゃつくなー」
「まあ良いじゃないか」
「そうそう、さすがにこれは邪魔したら駄目だ」
そんな声に混じって、泣きそうだったキースが楽し気に笑っている声が聞こえてきた。俺の殺気のせいで戸惑わせてしまったから、あとで忘れずに謝罪しておかないとな。
「すまないね、アキトくん」
最初にそう謝罪の言葉を口にした父さんは、申し訳なさそうに眉を下げながら続けた。
「決して君の出身地の事を、軽んじてる――というわけじゃないんだよ?嫌だったかい?」
「あ、いえ…気にしないでください」
何とかそう答えたアキトは当然驚いた様子ではあったが、俺よりは落ち着いているようだ。
一般的に異世界人と聞けば、反応はだいたい四つに分けられる。
ひとつ、異世界の知識を得るために、情報を聞き出し利用しようとする者。
ふたつ、そのまま囲い込み、知識ごと自分のものにしようと画策する者。
みっつ、王族や貴族、豪商などに差しだすことで、見返りを得ようとする者。
よっつ、珍獣でも見るような目で、面白がって観察する者。
ここにいるみんなの表情は、そのどれにも当てはまってはいない。隠しているとかそういう事では無い。さすがに家族の隠している感情ぐらいは、俺にも読む事ができるからな。
だからこそ何故こんな反応なのかが分からない。あまりにも当たり前のように受け入れたうえで、もっとひどい想像について話されるなんて思ってもみなかった。
「なぜ、そんなに、落ち着いているのかって、聞いてるんだけど?」
父をじっと見つめながら、俺は途切れ途切れにもう一度尋ねた。早く答えろと視線に意思を込めて見つめれば、父は困った様子で視線を反らした。
「あー…えっとな、そもそもの話なんだが、おそらくこの王国で異世界人が一番多いのはうちの領だと思うんだ」
それはつまり?異世界人だと聞いても動じない理由は―――?
一番あって欲しくない嫌な想像が、どうしても頭から離れない。俺はぐっともう一度拳を握りしめると、地を這うような低い声で尋ねた。
「は?それはどういう意味だ?」
「あー、これは思った通りの反応だな」
俺の反応をみて、母さんは楽し気に声をあげて笑いだした。そこまで心配しなくて良いと言いたいのだろうが、そんな反応すら今の俺は冷静に受け取れない。
「まず初めに俺の剣と最愛の伴侶に誓って言うが、異世界人が多いと言ってもうちの領が召喚しているわけじゃないからな?その殺気はしまえ」
父さんはそう言うと、じろりと俺を見据えた。ああ、うまく隠しているつもりだったがやっぱり漏れてしまっていたのか。ちらりと視線を向ければ、母さんも苦笑して俺を見ている。
俺はそっと視線を反らして殺気を消した。
「あー…殺気を出して悪かった。この世界にアキトを呼んだのが―アキトを苦しめたのが―うちの領なのかと勝手に誤解した」
さすがに俺の家族が関わっているとまでは思わなかったが、この領の誰かが召喚しているのかとは思ってしまった。それを素直に口にした俺は、その場にいる全員に向かって謝罪した。
何故か何も悪くないアキトまで、一緒になって頭を下げてくれているのが気配で分かる。
「まあ気持ちは分かるから気にするな」
俺の謝罪を受けた父さんは、苦笑しつつそう答えてくれた。母さんに至っては、予想通りすぎて笑えたと豪快に笑っている。
「むしろここで殺気を出さなかったら、俺はハルがアキトくんの伴侶に相応しくないかもと思ったかもな」
ファーガス兄さんはそう言って、俺に向かって柔らかく笑いかけた。伴侶にしたいと決めた相手を本気で守れないなら、お前にアキトの伴侶になる資格は無いと言いたいんだろう。
うちの家族は伴侶を大事にする一族だからな。
「うんうん。ジルをあてはめて考えてみたんだけどさ、今のは俺も殺気出すよ」
仕方ない仕方ないと、ウィリアム兄さんも軽く受け入れてくれた。想像だけでも目つきが鋭くなっているから、よほど面白くなかったんだろうな。
アキトと一緒に順番に視線を向ければ、マティさんとジルさん、それにラスも笑って頷いてくれた。さすがにあの兄たちの伴侶だけあって、マティさんとジルさんも落ち着いた反応だな。
後はキースだけかなと視線を向ければ、キースは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落としている所だった。
「キースくん?」
アキトが声をかければ、キースは震える声で答えた。
「アキトさんが言いたくない事を言わせてしまってごめんなさい」
「ううん。さっきも言ったけど、本当に大丈夫だよ」
「でも、ハル兄が…殺気…」
僕のせいだと呟いた今にも泣き出しそうなキースの頭を、隣に座っていたジルさんの手がそっと撫でた。
「キースくん、今のはハルさんのアキトさんへの愛情が、殺気になっただけですよ?」
「愛情が…?」
「ええ。本気でこの場にいる誰かに殺気を飛ばしたわけじゃないです」
ジルさんには、そんなところまで分かってしまったのか。確かにここにいる誰かに向けた殺気では無かったが…と考えていると、不意にアキトがじっと俺を見つめてから口を開いた。
「ハル、俺のためにありがとう」
迂闊にも殺気を出してしまったのに、まさかここでお礼の言葉を言われるとはな。ジルさんの言ったように、あれは愛情の形だと受け入れてくれたということだ。
「これだからアキトは」
たまらないなと思いながら、俺は思いっきりアキトの身体を抱きしめた。
揶揄うように周りから色々な声が飛んできた。
「こらーいちゃつくなー」
「まあ良いじゃないか」
「そうそう、さすがにこれは邪魔したら駄目だ」
そんな声に混じって、泣きそうだったキースが楽し気に笑っている声が聞こえてきた。俺の殺気のせいで戸惑わせてしまったから、あとで忘れずに謝罪しておかないとな。
750
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる