857 / 1,179
856.【ハル視点】止められない流れ
しおりを挟む
「あの…でも俺は別に料理に詳しいってわけじゃないんですけど…」
誉められて喜ぶというよりはすこし申し訳なさそうにそう告げたアキトに、ラスはいいやとすぐに首を振った。
「味覚が鋭くて素直な感想を教えてくれるのが一番だ」
むしろ料理の仕方とか味付けにあれこれと口出しされるのは、料理人の誇りに関わるからなと渋い顔をしている。ラス相手にそんな事をする奴が存在するのか…?
「だから安心して、バカ息子共の飯を楽しんでやってくれ」
ふわりと笑いながらそう言ったラスの笑顔は、レーブンとローガンにそっくりだった。うん、こうしてみるとさすがに親子だなと思えるな。
あんなに強面なのに、不思議な事に笑うと一気に柔らかい雰囲気になるんだよな。まあその笑みを浮かべる事が滅多に無いっていうのも、そっくりなんだが。
そんな事を考えながらアキトと笑い合っていると、不意にラスがハッと息を飲んだ。何だ、どうしたと視線を向けた先で、ラスは感動した様子で続けた。
「そうか…レーブンが息子扱いをしてるなら、俺の孫みたいなものじゃないか?」
「あー…ローガンと同じ理論だな…」
本当にそっくりだよと呆れながら答えた俺を綺麗に無視して、ラスはアキトを見つめて尋ねた。
「もちろんアキトくんが迷惑だと言うなら、孫扱いはやめておくが…どうだろう?俺の孫は嫌かい?」
もし断れずにいるだけで本当は嫌なら、レーブンとローガンにも俺から注意するぞ。そう続けたラスは、今は真剣な表情をしている。
ああ、一番言いたかったのはそれか。
こんなに素直で可愛いアキトがあの二人を相手にと想像したら、本気で心配になったんだな。
アキトは少しだけ考えてから、うんと一つ頷いてから口を開いた。
「いえ、あの…嬉しいです。祖父母は幼い頃に亡くなりましたし、両親とは…もう会えないかもしれないので……」
そこでアキトは言葉に詰まってしまった。
そうだよな。アキトはある日突然この世界に来たと言っていた。別れの言葉すら言えずに唐突に引き離されたんだ。会いたいとそう思うのは当然の事だろう。
何も言えなくなってじっとアキトを見つめていると、周りの視線が集まっているのに気づいた。しんと静まり返った部屋に、父の声が響いた。
「あー…アキトくん、ご両親は…その…」
「あ、いえ、両親は生きてます!」
誤解させてしまったと慌てた様子で声をあげたアキトに、みんなはホッと息を吐いた。この流れはもしかしたら、まずいかもしれない。
「ん?生きてるのに会えないのか?」
不思議そうに尋ねた母さんの質問に、アキトはこくりと頷いた。
「はい、えっと…故郷には、気軽に戻れないので」
そうだよな。そう聞かれたら素直なアキトはそう答えるよな。でも余計に流れがまずくなった気がする。
慌てる俺の視線の先、父と母が顔を見合わせた。
「こう見えて私は知り合いや友人はかなり多いんだ。伝手を使えば、たとえ異国であっても移動する事は可能だよ?」
父は滅多に使おうとしない英雄ケイリー・ウェルマールとしての伝手を、アキトを故郷に帰らせるためだけに使おうとしているみたいだ。
「アキトくん、俺の管轄にはダンジョンの管理も含まれているんだ。つまりダンジョンから出た珍しい魔道具もたくさん保管している」
中には簡易の転移魔法陣のような機能があるものもあるよと、ファーガス兄さんはさらりと続けた。悪用されないためにと保管している物だが、アキトのためなら使っても良いだろうと言いたげだ。
その魔道具で戻る事ができる場所なら、俺が何とかして手に入れているに決まっているだろう。そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、俺は周りの会話に耳を傾けた。
「えっと…でも…」
「もうすぐ私たちとも家族になるんだ。遠慮はしなくて良いからね」
「そうだぞ、どんどん頼ってくれ」
ああ、ついには母さんまで一緒になって、アキトを説得しようとし始めている。例え俺がここで何を言っても、もうこの流れは止められない。そんな気がする。
どうすればアキトが帰れるかを相談し始めた父と母、そしてファーガス兄さんをぼんやりと眺める事ぐらいしかできない。
「待ってください、皆さん落ち着いて。アキトさんが戸惑っていますから」
ジルさんの穏やかだが説得力のある声に、みんながぴたりと口を閉ざした。ありがとう、ジルさん。
「そうそう。みんなジルの言う通り落ち着いてー」
ウィル兄さんはニコニコ笑顔で周りを見回している。俺の伴侶は最高と今にも言い出しそうな自慢げな表情だ。ああ、確かにジルさんは素晴らしい人だな。
「もっとはっきりさせるべき事があるだろう?」
艶やかに笑ったマティさんは、アキトの方をちらりと流し見た。待て、待ってくれ。慌てる俺の予想に反して、一番重要な事を尋ねたのはキースだった。
「アキトさんって…どこの出身なんですか?」
キースの質問に、アキトはぎくりと固まった。
誉められて喜ぶというよりはすこし申し訳なさそうにそう告げたアキトに、ラスはいいやとすぐに首を振った。
「味覚が鋭くて素直な感想を教えてくれるのが一番だ」
むしろ料理の仕方とか味付けにあれこれと口出しされるのは、料理人の誇りに関わるからなと渋い顔をしている。ラス相手にそんな事をする奴が存在するのか…?
「だから安心して、バカ息子共の飯を楽しんでやってくれ」
ふわりと笑いながらそう言ったラスの笑顔は、レーブンとローガンにそっくりだった。うん、こうしてみるとさすがに親子だなと思えるな。
あんなに強面なのに、不思議な事に笑うと一気に柔らかい雰囲気になるんだよな。まあその笑みを浮かべる事が滅多に無いっていうのも、そっくりなんだが。
そんな事を考えながらアキトと笑い合っていると、不意にラスがハッと息を飲んだ。何だ、どうしたと視線を向けた先で、ラスは感動した様子で続けた。
「そうか…レーブンが息子扱いをしてるなら、俺の孫みたいなものじゃないか?」
「あー…ローガンと同じ理論だな…」
本当にそっくりだよと呆れながら答えた俺を綺麗に無視して、ラスはアキトを見つめて尋ねた。
「もちろんアキトくんが迷惑だと言うなら、孫扱いはやめておくが…どうだろう?俺の孫は嫌かい?」
もし断れずにいるだけで本当は嫌なら、レーブンとローガンにも俺から注意するぞ。そう続けたラスは、今は真剣な表情をしている。
ああ、一番言いたかったのはそれか。
こんなに素直で可愛いアキトがあの二人を相手にと想像したら、本気で心配になったんだな。
アキトは少しだけ考えてから、うんと一つ頷いてから口を開いた。
「いえ、あの…嬉しいです。祖父母は幼い頃に亡くなりましたし、両親とは…もう会えないかもしれないので……」
そこでアキトは言葉に詰まってしまった。
そうだよな。アキトはある日突然この世界に来たと言っていた。別れの言葉すら言えずに唐突に引き離されたんだ。会いたいとそう思うのは当然の事だろう。
何も言えなくなってじっとアキトを見つめていると、周りの視線が集まっているのに気づいた。しんと静まり返った部屋に、父の声が響いた。
「あー…アキトくん、ご両親は…その…」
「あ、いえ、両親は生きてます!」
誤解させてしまったと慌てた様子で声をあげたアキトに、みんなはホッと息を吐いた。この流れはもしかしたら、まずいかもしれない。
「ん?生きてるのに会えないのか?」
不思議そうに尋ねた母さんの質問に、アキトはこくりと頷いた。
「はい、えっと…故郷には、気軽に戻れないので」
そうだよな。そう聞かれたら素直なアキトはそう答えるよな。でも余計に流れがまずくなった気がする。
慌てる俺の視線の先、父と母が顔を見合わせた。
「こう見えて私は知り合いや友人はかなり多いんだ。伝手を使えば、たとえ異国であっても移動する事は可能だよ?」
父は滅多に使おうとしない英雄ケイリー・ウェルマールとしての伝手を、アキトを故郷に帰らせるためだけに使おうとしているみたいだ。
「アキトくん、俺の管轄にはダンジョンの管理も含まれているんだ。つまりダンジョンから出た珍しい魔道具もたくさん保管している」
中には簡易の転移魔法陣のような機能があるものもあるよと、ファーガス兄さんはさらりと続けた。悪用されないためにと保管している物だが、アキトのためなら使っても良いだろうと言いたげだ。
その魔道具で戻る事ができる場所なら、俺が何とかして手に入れているに決まっているだろう。そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、俺は周りの会話に耳を傾けた。
「えっと…でも…」
「もうすぐ私たちとも家族になるんだ。遠慮はしなくて良いからね」
「そうだぞ、どんどん頼ってくれ」
ああ、ついには母さんまで一緒になって、アキトを説得しようとし始めている。例え俺がここで何を言っても、もうこの流れは止められない。そんな気がする。
どうすればアキトが帰れるかを相談し始めた父と母、そしてファーガス兄さんをぼんやりと眺める事ぐらいしかできない。
「待ってください、皆さん落ち着いて。アキトさんが戸惑っていますから」
ジルさんの穏やかだが説得力のある声に、みんながぴたりと口を閉ざした。ありがとう、ジルさん。
「そうそう。みんなジルの言う通り落ち着いてー」
ウィル兄さんはニコニコ笑顔で周りを見回している。俺の伴侶は最高と今にも言い出しそうな自慢げな表情だ。ああ、確かにジルさんは素晴らしい人だな。
「もっとはっきりさせるべき事があるだろう?」
艶やかに笑ったマティさんは、アキトの方をちらりと流し見た。待て、待ってくれ。慌てる俺の予想に反して、一番重要な事を尋ねたのはキースだった。
「アキトさんって…どこの出身なんですか?」
キースの質問に、アキトはぎくりと固まった。
691
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
竜王陛下、番う相手、間違えてますよ
てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。
『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ
姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。
俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!? 王道ストーリー。竜王×凡人。
20230805 完結しましたので全て公開していきます。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる