生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
855 / 1,179

854.【ハル視点】アキト好みの

しおりを挟む
「ヌキプルのスープです」

 そんな言葉と共に運ばれてきたのは、模様の入った美しい器に入った真っ白なスープだった。

 ヌキプルのスープは、こういう形式ではあまり出てこない料理だ。見た目が地味で華やかさがないため、どちらかというと普段の料理に分類されるからな。

 ただ今回はあえてこれを選んだんだろう。

 アキトは色をたくさん使った派手なものよりも、すこし落ち着いた色合いの料理が好きだと伝えたから。どうやら華やかさは器で演出したようだ。

「あ!アキトさん、これ僕の一番好きなスープなんです!」

 まさかここで出てくるとは思っていなかったんだろうな。ヌキプルのスープが大好きなキースは、分かりやすくキラキラと目を輝かせてパッとアキトを見た。

「キースくんの好きなスープなんだ?」
「はいっ!アキトさんにも食べてもらえて嬉しい!」

 そう言ってニコニコと笑みを見せるキースに、アキトも嬉しそうに優しい微笑みを返している。

 あー可愛い弟と、最愛の伴侶候補のやりとりは癒されるなぁ。緩んでしまいそうな頬に力を入れて、俺はそっとアキトに向けて声をかけた。

「アキトはきっと好きだと思うよ」

 俺の言葉を聞くなりワクワクした表情になったアキトは、そっとスプーンに手を伸ばした。

 ぱくりと口に含むなり、アキトはふにゃりと笑みを浮かべた。あ、気に入ってくれるかなとドキドキしてたらしいキースも、嬉しそうな笑みに変わったな。

 ヌキプルは少し甘みのあるホクホクとした食感が特徴の野菜だが、アキトの好みにはあってると思ったんだよな。どうやら俺の予想は当たったみたいだ。

「うん、キースくん、これ美味しいね!」
「良かったーこの甘さが好きなんです」
「しつこくないのにほんのり甘いね」
「そうなんです!」

 元気に答えるキースを微笑ましく見つめているアキトが、たまらなく可愛い。頭を撫でたいけれど、さすがに食事中に手を伸ばすわけにもいかないか。

 ぐっと我慢していると、不意にジルさんが口を開いた。

「もしかして、アキトくんはヌキプルを知らなかったんじゃないですか?」

 ジルさんの質問に、アキトはすぐにひとつ頷いた。

「はい、今初めて名前を知りました…よく分かりましたね?」

 感想ぐらいしか言ってないのにと不思議そうにじっと見つめるアキトに、ジルさんはふふと優しい笑みを浮かべて答える。

「ヌキプルはこの辺りではわりとよく使われる野菜なんですが、トライプール周辺では滅多にみないものですから」

 ああ、ウィル兄と一緒にあちこちへ移動しているジルさんだから気づけたのか。

「そうなんですか」
「ええ、なかなか面白い見た目の野菜なので、機会があればハルさんと一緒に市場で探してみてください」

 すこし悪戯っぽくそう続けたジルさんに、周りのみんなも笑いながら口々にそうしたら良いと声を揃える。

 ああ、確かにヌキプルの見た目は中々に変わっているからな。

 あの見た目にはきっとアキトも驚くだろうが、落ち着いたらレーブンとローガンへの土産に買いたいと言い出すと思う。

 今ここで口で説明するのは簡単だけど、せっかくならアキトが驚く反応もみたいんだよな。

 ちらりと視線を向けてきたアキトに、俺は悪戯っぽく笑いかける。

「ヌキプル、探してみる?」

 折角なら自分の目で見る?と尋ねれば、アキトは元気に頷いてくれた。

「うん、探してみよう!」

 この好奇心旺盛な所も、冒険者らしくて可愛い。

「辺境領でしたい事がまた増えたな」
「良い事だよね?」
「ああ、間違いなく良い事だよ。俺はアキトにもっとここを知って欲しいし、できれば好きになって欲しいからね」

 穏やかにそう続けた俺の言葉に、周りの皆もコクコクと頷いた。



 順序良く運ばれてくる料理は、どれも本当に美味しかった。

 魚料理に使われていたのは、近くのダンジョン内にある池で釣った魔魚だった。かなり捕獲難易度は高い筈なんだが、依頼でも出したんだろうか――いや、魚料理の感想を口にしたアキトを母さんがニッコニコで見つめているから、採ってきたのは母か。

 淡泊な白身の魚と香草の効いた力強いソースがとてもよく合っていて絶品だったが。

 今日のコースの肉料理は、俺の大好きなステーキだった。ラスの焼くステーキはやっぱり美味しくて、感動しながら食べ進めていけばあっという間に無くなってしまった。

 もう無くなってしまったと思った瞬間におかわりが運ばれてきたのには、ちょっと笑ってしまった。俺が喜んで食べると予想していたラスの采配だろう。

 もちろん二皿目も美味しく完食した。後でラスにお礼を言わないとな。

 色々な料理が少しずつ振る舞われた後、一番最後に登場したデザートは、まるで花を閉じ込めたような見た目の繊細なゼリーだ。

 色とりどりの花のように見えているのは、全て辺境領の特産である果物だ。たくさんの種類の果物を使えば使うほど、味を調和させるのは難しくなる筈なんだがな。

 そこを調和させるのが、料理人の腕らしい。

「これは料理長の一番得意なデザートなんだよ」

 俺も久しぶりに食べるなとすこしワクワクしながら説明すれば、アキトは見惚れるようにしてじっくりと目で楽しんだ後で、そっとスプーンを手に取った。

 躊躇しながらもそっとすくいあげたゼリーを、アキトはぱくりと口に運んだ。

「っ…んー!」

 感想も言わずに目を閉じてふるふると震えているアキトに、周りのみんなからの視線が集まってくる。いや、この反応は多分美味しかったんだと思うんだが。

 そう思いながらも周りからの声をかけろと言いたげな視線に耐えかねて、俺はアキトに声をかけた。

「アキト、どう?」
「すごい」

 本当に美味しかったんだなと微笑ましく思えたのはどうやら俺だけだったらしい。

「すごい…?」

 美味しいとかじゃなくてすごい?と不思議そうに繰り返した父さんに、俺は苦笑しながら答えた。

「ああ、アキトは本当に美味しいと言葉が出なくなるんだよ」

 うんうんと何度も頷くアキトの姿に、俺の言葉が本当だと分かったらしい。みんなもホッとした様子でそれぞれがデザートを食べ始めた。

「…すごい」

 まだすごいとしか言えないままか。

 どうやらこのゼリーは、かなりアキトの好みに合ったみたいだな。さすがラスだと感心しながら、俺も自分のデザートに手を伸ばした。
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...