上 下
851 / 1,112

850.ハルの殺気

しおりを挟む
 ハルの言葉でくるりとこちらを振り返った笑顔のケイリーさんは、首を傾げている俺に気づくと一瞬で慌てた表情に変わった。

「すまないね、アキトくん」

 最初にそう謝罪の言葉を口にしたケイリーさんは、申し訳なさそうに眉を下げながら続けた。

「決して君の出身地の事を、軽んじてる――というわけじゃないんだよ?嫌だったかい?」
「あ、いえ…気にしないでください」

 正直あんまり重く受け止められるよりは、このぐらいのう受け止め方の方が気楽だとすら思う。だから別にそこは、俺は全く気にしてないんだけどね。

 でもまあ、ちょっと予想外の反応ではあったな。

 俺が異世界人だと知ったら、もっと珍しいものを見たみたいな反応をされるのかなーとなんとなく思ってたから。

 それでも良いと思って打ち明けたんだけどさ、そもそも俺が異世界人だって事に驚いた様子がかけらも無いんだよね。

 当たり前のように受け入れたうえで、もっとひどい想像について話していたわけで…。

「なぜ、そんなに、落ち着いているのかって、聞いてるんだけど?」

 自分の質問に答える様子の無いケイリーさんを、ハルはじっと見つめながら途切れ途切れにもう一度尋ねた。ああ、珍しくハルが苛立ってる。

「あー…えっとな、そもそもの話なんだが、おそらくこの王国で異世界人が一番多いのはうちの領だと思うんだ」

 どういう意味だろう?と俺が首を傾げた隣で、ハルはまるで地を這うような低い声で尋ねる。

「は?それはどういう意味だ?」
「あー、これは思った通りの反応だな」

 ハルの反応をみて、グレースさんは楽し気に声をあげて笑いだした。

「まず初めに俺の剣と最愛の伴侶に誓って言うが、異世界人が多いと言ってもうちの領が召喚しているわけじゃないからな?その殺気はしまえ」

 ケイリーさんはそう言うと、じろりとハルを見据えた。え、殺気出てたの?ハルから?驚いて思わず視線を向ければ、ハルはそっと目を反らしている所だった。

 わーこれはたぶん無意識に出た殺気を指摘されて、きまずくなってるやつだ!珍しい姿だとこっそりと喜ぶ俺の視線の先で、ハルは気まずそうに口を開く。

「あー…殺気を出して悪かった。この世界にアキトを呼んだのが―アキトを苦しめたのが―うちの領なのかと勝手に誤解した」

 ハルはそう言うと、素直にその場にいる全員に向かって謝罪した。思わず俺も一緒になって頭を下げる。

 ハルの謝罪を受けたケイリーさんは、苦笑しながらまあ気持ちは分かると答えた。グレースさんも予想通りすぎて笑えたと豪快に笑っている。

「むしろここで殺気を出さなかったら、俺はハルがアキトくんの伴侶に相応しくないかもと思ったかもな」

 ファーガスさんはそう言って、ハルに柔らかく笑いかけた。

 え、俺がハルの伴侶に相応しくないとかじゃなくて、ハルが俺の伴侶に相応しくないなの?ハルのお兄さんなのに、ハルに厳しくない?いや、お兄さんだから厳しいんだろうか。

 ぐるぐるとそんな事を考えている俺には気づかずに、周りの会話はどんどん続いていく。

「うんうん。ジルをあてはめて考えてみたんだけどさ、今のは俺も殺気出すよ」

 仕方ない仕方ないと、ウィリアムさんも軽く受け入れている。

 ハルと一緒に順番に視線を向ければ、マチルダさんとジルさん、それにラスさんも笑って頷いてくれた。

 後はキースくんだけかなとハルと一緒に視線を向ければ、キースくんは申し訳なさそうにしょんぼりと肩を落としている所だった。

「キースくん?」
「アキトさんが言いたくない事を言わせてしまってごめんなさい」
「ううん。さっきも言ったけど、本当に大丈夫だよ」
「でも、ハル兄が…殺気…」

 僕のせいだと呟いた今にも泣き出しそうなキースくんの頭を、隣に座っていたジルさんの手がそっと撫でた。

「キースくん、今のはハルさんのアキトさんへの愛情が、殺気になっただけですよ?」
「愛情が…?」
「ええ。本気でこの場にいる誰かに殺気を飛ばしたわけじゃないです」

 ああ、そっか。この領がって言ってたのは、そういう意味だったのか。ジルさんの言葉で、すこしだけあった違和感にやっと納得がいった。

 ハルはここにいる誰かが、異世界人を召喚しているのかもと思ったわけじゃない。辺境領の誰かがしているのかもと想像して、つい殺気を洩らしてしまったのか。

 それであの殺気は、俺への愛情だと。

「ハル、俺のためにありがとう」

 思わずそう口に出して言えば、これだからアキトはと言いながらハルに思いっきり抱きしめられました。

 揶揄うように周りから色々な声や笑い声が飛んできたけど、泣きそうだったキースくんが復活したから良しと思う事にしよう。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...