上 下
850 / 1,103

849.俺の出身地は

しおりを挟む
 どうしよう。何て答えれば良いんだろう。

 もし俺が言いたくないですと答えれば、きっとここにいる優しい人達はすぐに引いてくれるだろう。

 説得力のある理由なんてパッとは思いつけないけど、仕切りなおせばハルが相談にのってくれるしきっと一緒に考えてくれる。

 でも、ハルの家族に嘘を吐くのは――嫌だな。

 まだ会って数時間の相手なのにおかしいと思うかもしれないけど、俺の体質を本気で心配してくれてるし、俺の事も家族だと言ってくれる。そんな人達だからね。

 それにもしうまく誤魔化せたとしても、いつかは話さないと駄目になるよね。

 ぐるりと広間の中を見回してみる。

 今この部屋の中にいるのは、ケイリーさんとグレースさん、それにファーガスさんとマチルダさん、ウィリアムさんとジルさん、キースくんに、ラスさんだけだ。

 執事のボルトさんは、ごゆっくりどうぞってラスさんを置いて出て行っちゃったからね。

 ラスさんなんて本当についさっき会ったばかりの相手だけど、あのレーブンさんとローガンさんのお父さんってだけで俺の警戒心は作動しなかった。

 うんとひとつ頷いてから、俺はハルへと視線を向けた。色々と考え込んでいる俺の事を、どうやらハルはずっと見つめていたみたいだ。

「ハル…」
「アキトが言いたいと思ったなら、もちろん言っても良いと思うよ」

 優しく笑いかけながら、ハルはさらりと続けた。

「ただし、俺は何よりもアキトを優先するから…それは許して欲しいな」
「でも…」

 ハルが家族を大好きで、家族もハルを大好きなのはもう分かってる。

「アキトは気にするかもしれないけど、そこは譲れないから――先に言っておくけど、もし万が一アキトに手を出すつもりなら、家族でも容赦しない。俺はどんな手を使ってでもアキトを守るために戦うよ」

 低い声でそう続けたハルに、慌てて声をあげたのはキースくんだ。

「あの、言いにくいことなら、言わなくて良いです…よ?」

 変な事を聞いてごめんなさいと呟いたキースくんは、うっすらと涙で滲んだ目で俺とハルを見つめていた。

「ううん、大丈夫!えっと…俺の出身地なんですが…」

 誰かがごくりとつばを飲んだ音が、やけに大きく聞こえた。

「俺の故郷はたぶん魔法陣でも行けない場所なんです。俺は異世界から来たので」

 ここまで来たら勢いだと一息にそう言いきってみたけれど、誰も何も言わなかった。それなりの人数がいるのに、部屋の中はしんと静まり返ったままだ。

 しばしの沈黙の後、最初に声を上げたのはグレースさんだった。

「へーアキトは異世界人だったのか!もっとすごい事言われるのかと身構えちゃったよ」
「「もっとすごい事…?」」

 俺とハルの言葉が、綺麗に重なってしまった。

「そうそう、私は追手がかかってる他国の貴族の家出少年かと思ったな」

 からりと笑って告げたグレースさんの隣で、ケイリーさんは何度も頷いている。え、頷くって事はケイリーさんも同じような事を考えてたって事?そもそも俺が他国の貴族には見えないと思うんだけど…。

「そっちか。俺は数年前の村ごとダンジョンに飲み込まれた、あの事例を思い浮かべていたよ」

 え、村ごとダンジョンに飲み込まれるとかあるの!?あまりにびっくりしてファーガスさんをまじまじと見つめれば、ふわりと笑って説明を付け加えてくれた。

「幸運な事にその村は何故か魔物が入れない状態なんだ。だから、今も村人は無事に生活はできているよ」

 ただし高難易度のダンジョンの最下層近くに位置しているため、そう簡単に外から辿り着く事は出来ない状態らしい。最近はそこを拠点に活動している冒険者も増えてきているから、なかなかに活気のある場所になっているそうだ。

 あ、ちなみに魔道具を使った転移も、ダンジョンの内と外は繋げないんだって。初めて知りました。

「はーい、俺は呪われた家族に一人だけ逃がされた説だねー」
「ああ、実際にありましたからね」

 ウィルさんが笑顔でそんな事を口にすれば、ジルさんもすぐに同意を返した。えっと…それも、実際にあった事なんですね。

「ちゃんと家族の呪いを解いて、再会させるの大変だったよねー」
「ええ」

 マチルダさんは俺が幼い頃に攫われてきたせいで、故郷の事をはっきりと思い出せないのかと思っていたらしいよ。

 みなさんあの一瞬でそんな色々な事を考えていたのか。

「…なあ、なんでそんなに余裕のある反応なんだ…?」

 わいわいと盛り上がるみんなをまっすぐに見つめながら、怪訝そうにハルはそう尋ねた。うん、確かに気になるよね。
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

処理中です...