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849.俺の出身地は

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 どうしよう。何て答えれば良いんだろう。

 もし俺が言いたくないですと答えれば、きっとここにいる優しい人達はすぐに引いてくれるだろう。

 説得力のある理由なんてパッとは思いつけないけど、仕切りなおせばハルが相談にのってくれるしきっと一緒に考えてくれる。

 でも、ハルの家族に嘘を吐くのは――嫌だな。

 まだ会って数時間の相手なのにおかしいと思うかもしれないけど、俺の体質を本気で心配してくれてるし、俺の事も家族だと言ってくれる。そんな人達だからね。

 それにもしうまく誤魔化せたとしても、いつかは話さないと駄目になるよね。

 ぐるりと広間の中を見回してみる。

 今この部屋の中にいるのは、ケイリーさんとグレースさん、それにファーガスさんとマチルダさん、ウィリアムさんとジルさん、キースくんに、ラスさんだけだ。

 執事のボルテさんは、ごゆっくりどうぞってラスさんを置いて出て行っちゃったからね。

 ラスさんなんて本当についさっき会ったばかりの相手だけど、あのレーブンさんとローガンさんのお父さんってだけで俺の警戒心は作動しなかった。

 うんとひとつ頷いてから、俺はハルへと視線を向けた。色々と考え込んでいる俺の事を、どうやらハルはずっと見つめていたみたいだ。

「ハル…」
「アキトが言いたいと思ったなら、もちろん言っても良いと思うよ」

 優しく笑いかけながら、ハルはさらりと続けた。

「ただし、俺は何よりもアキトを優先するから…それは許して欲しいな」
「でも…」

 ハルが家族を大好きで、家族もハルを大好きなのはもう分かってる。

「アキトは気にするかもしれないけど、そこは譲れないから――先に言っておくけど、もし万が一アキトに手を出すつもりなら、家族でも容赦しない。俺はどんな手を使ってでもアキトを守るために戦うよ」

 低い声でそう続けたハルに、慌てて声をあげたのはキースくんだ。

「あの、言いにくいことなら、言わなくて良いです…よ?」

 変な事を聞いてごめんなさいと呟いたキースくんは、うっすらと涙で滲んだ目で俺とハルを見つめていた。

「ううん、大丈夫!えっと…俺の出身地なんですが…」

 誰かがごくりとつばを飲んだ音が、やけに大きく聞こえた。

「俺の故郷はたぶん魔法陣でも行けない場所なんです。俺は異世界から来たので」

 ここまで来たら勢いだと一息にそう言いきってみたけれど、誰も何も言わなかった。それなりの人数がいるのに、部屋の中はしんと静まり返ったままだ。

 しばしの沈黙の後、最初に声を上げたのはグレースさんだった。

「へーアキトは異世界人だったのか!もっとすごい事言われるのかと身構えちゃったよ」
「「もっとすごい事…?」」

 俺とハルの言葉が、綺麗に重なってしまった。

「そうそう、私は追手がかかってる他国の貴族の家出少年かと思ったな」

 からりと笑って告げたグレースさんの隣で、ケイリーさんは何度も頷いている。え、頷くって事はケイリーさんも同じような事を考えてたって事?そもそも俺が他国の貴族には見えないと思うんだけど…。

「そっちか。俺は数年前の村ごとダンジョンに飲み込まれた、あの事例を思い浮かべていたよ」

 え、村ごとダンジョンに飲み込まれるとかあるの!?あまりにびっくりしてファーガスさんをまじまじと見つめれば、ふわりと笑って説明を付け加えてくれた。

「幸運な事にその村は何故か魔物が入れない状態なんだ。だから、今も村人は無事に生活はできているよ」

 ただし高難易度のダンジョンの最下層近くに位置しているため、そう簡単に外から辿り着く事は出来ない状態らしい。最近はそこを拠点に活動している冒険者も増えてきているから、なかなかに活気のある場所になっているそうだ。

 あ、ちなみに魔道具を使った転移も、ダンジョンの内と外は繋げないんだって。初めて知りました。

「はーい、俺は呪われた家族に一人だけ逃がされた説だねー」
「ああ、実際にありましたからね」

 ウィルさんが笑顔でそんな事を口にすれば、ジルさんもすぐに同意を返した。えっと…それも、実際にあった事なんですね。

「ちゃんと家族の呪いを解いて、再会させるの大変だったよねー」
「ええ」

 マチルダさんは俺が幼い頃に攫われてきたせいで、故郷の事をはっきりと思い出せないのかと思っていたらしいよ。

 みなさんあの一瞬でそんな色々な事を考えていたのか。

「…なあ、なんでそんなに余裕のある反応なんだ…?」

 わいわいと盛り上がるみんなをまっすぐに見つめながら、怪訝そうにハルはそう尋ねた。うん、確かに気になるよね。
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