生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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844.料理の形式

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 飽きもせずに綺麗に飾り付けられた部屋の中をハルと二人で見回していると、ケイリーさんが優しく微笑みながら口を開いた。

「それじゃあそろそろ食事にしようか?」
「ああ、そうだな。きっと料理長がそわそわしてるだろうからな」

 楽し気に笑ったグレースさんは、俺とハルを手招きした。

「アキトはここで、ハルはこっちの席だよ」
「ありがとうございます」
「ああ、ありがとう」

 案内された席の場所まで俺とハルが移動する間に、皆もそれぞれの席の所へと散っていった。元々ある程度の席は決まってるのかな。



 最初に全員に配られたのは、飲み物で満たされた小さなグラスだった。お酒が一切飲めないというジルさんとキースくんの分はうっすら水色の果実水が入っていて、その他の人の分はワインみたいな赤いお酒が入っている。

 どちらも美味しそうだなと配られていく杯を眺めていると、俺の目の前にはなんと両方のグラスが差し出された。

「お酒も好きだとハルから聞いてはいるんだが…アキトくんは今日はどちらが良いかな?好きな方を選んで欲しいんだ」
「どっちを選ぶのが正解とかないからなー好きなの選んだら良いぞ?」

 先回りしてそんな風に教えてくれるグレースさんに、俺は笑顔で頷いた。メイドさんがトレイごと差し出してくれていた上から、俺はうっすら水色の果実水を選んだ。

 お酒も好きな俺だけど、もし緊張とか疲れとかのせいで変に酔ったら嫌だからな。ハルだけは少し意外そうに一瞬だけ俺を見たけど、ついでふわりと笑みを浮かべた。

「さて、それでは…」

 ケイリーさんがおもむろに口を開くと、広間の空気は一気にぴんと張り詰めた。しんと静まり返った部屋に、威厳のある声が響く。

「三男のハロルドが、良き伴侶候補アキトを連れて帰って来た事を祝して」

 ケイリーさんの言葉に続いて、俺とハル以外の全員が、祝してと短く唱和する声が広間に響いた。みんな優しい笑みを浮かべて祝ってくれているのが、なんだかたまらなく嬉しい。

 小さなグラスを空中に掲げて待ってくれている皆の視線に、俺とハルも慌ててグラスを掲げる。

 全員揃ったのを見たケイリーさんの合図で、全員揃ってグラスの中身を一気に飲み干した。本当に小さなグラスだから量はそんなに多くないんだけど、薄い水色の果実水は甘酸っぱくてとても美味しかった。

 思わず笑顔になった俺を見て、ハルはふふと優しく笑みを浮かべた。



 事前にハルからこの形式の可能性もあるよと聞いてはいたから驚きはしなかったんだけど、本当に順番に料理が運ばれてくるんだな。

 これはまるでコース料理みたいだなと考えながら、俺はくるくると軽やかにお皿を持って動きまわる給仕の人達を眺めていた。

「どうぞ」

 音も立てずにすっと目の前に置かれたのは、美しく繊細に盛り付けられたグリルの野菜だった。見た事のない野菜もたくさん使われているみたいだけど、かけられているソースが派手な蛍光色だったりはしない。

 むしろこの世界でいうところの少し地味な色合いなのは、もしかして俺への配慮だったりするんだろうか。

 ハルとハルの家族なら、そこまで考えてくれてる可能性も無いとは言えないよね。

 ちなみにこの給仕の仕方は、この国の貴族の正式な食事としては一般的なものらしい。

 俺の世界にもコース料理というのが存在すると話した時は、さすがにハルも驚いてた。

 もしかしたらこれも異世界人が持ち込んだ形式が定着したものなのかもしれないし、逆に金や時間をゆったりと使える貴族の贅沢として自然に発生したものなのかもしれない。

 ハルはそんな風に分析までしてくれてた。

 ちなみにこの世界の貴族の料理に、前菜とかメイン料理とかそういう順番は特に存在していないらしい。最初に小さなグラスの飲み物を全員で飲むのと、デザートで終わる所だけが決まってるんだって。

「ほら、アキトくんも食べてみて」

 ケイリーさんに優しく促されて、俺は脳内でいただきますと呟くとそっとフォークで野菜を口に運んだ。

 見た事のないその紫色の野菜は、シャキッとした食感のまるでアスパラのような味だった。水分があってみずみずしいのに、繊維質な所までアスパラそっくりだ。

「わ、美味しい!」
「ああ、それはチーラだね」

 さらりと挟まれたハルの説明に、俺は思わず目を輝かせた。階段を一緒に上った衛兵の人が、ぜひ食べてって言ってた野菜のうちの一つだ。

 確かにこれは美味しいな。
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