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837.【ハル視点】言葉選びを失敗
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てっきりマティさんとジルさんは一緒に来るんだと思っていたんだが、どうやら今日は別々に一人ずつこの部屋に案内されてくるらしい。
「あ、別に二人の仲が悪いからーとかそういうのじゃないから、そこは安心してね!」
にっこりと笑ったウィル兄の説明によると、元々は二人は一緒に案内されてくる予定だったそうだ。だが、ジルさんが、私は船の上でご挨拶はしているのでと遠慮したらしい。
「多分ね、アキトに会った事のない姉さんに、周りを気にせずにゆっくり挨拶する時間を取って欲しかったんだと思うよ。ジルは優しいから…」
ふふと笑ったウィル兄は、優しい笑みを浮かべつつも自慢げにそう続けた。さらりと惚気られてしまったな。
「うん、優しい人ですね、ジルさん」
「わー分かってくれるのー?アキトくんも本当に良い子だねぇ」
そう言いながら、ウィル兄はそっとアキトの頭に手を伸ばした。アキトに触れる前に、きちんと俺の表情を確認する辺りがウィル兄らしいな。
もちろんアキトに気があるわけではなくただの家族の触れ合いだと分かっているから、俺が拒否したりはしないんだが。
こくりと小さく頷けば、ウィル兄は優しくアキトの頭を撫で始めた。
アキト本人は撫でられた事に嬉しそうにしながらも、ちらりと俺に視線を向けてきた。もしかして俺が嫌がってないかと心配になったのか。
俺はニコニコと分かりやすい笑みを浮かべて、アキトを安心させる事にした。
ああ、そうだ。マティさんが来る前に、これだけは言っておかないと駄目かな。俺はそう考えて口を開いた。
「あ、アキト、一つだけ良いかな?」
「ん?なに?」
「一応先に言っておきたいんだけど…ファーガス兄さんの伴侶は…その…かなり、強烈な人なんだ」
客観的に見れば、見た目はかなり美しい女性だと思う。性格も良いしアキトに意地悪をするような人では決してない。
ただ見た目と性格が一致していないんだよな。
中身は凛々しくて格好良い人で、いざ戦闘となれば俺も楽には勝たせてもらえないほどの実力の持ち主だ。
不思議そうに首を傾げたアキトに詳しい説明をするために口を開くよりも先に、正面からまるで地を這うような低い低い声が聞こえてきた。
「ハル…今のはどういう意味だ?」
――ああ、やってしまった。
まるで戦場にいるかのような威圧感を漂わせているファーガス兄さんを見て、最初に思ったのはそれだった。本気で怒っているらしく、ファーガス兄さんの顔には一切の感情がない。
返答次第では許さないぞと言いたげな威圧感を向けられているが、別に俺はマティさんを侮辱したわけでも批判したわけでも無い。
だからこそ俺はファーガス兄さんをまっすぐ見返して、あえて笑みを浮かべてみせた。
「急に怒らないでくれよ?言葉通りの意味だよ」
隣で慌てているかもしれないアキトが落ち着けるように、堂々とした態度を意識する。
「あんなに美しい人を捕まえて…強烈だと?」
まだ不服そうなファーガス兄さんに、俺はさらに続けた。
「いや、確かに姉さんは美人だとは思うよ。でも、初対面で浮かぶ感想が『強烈』なのは事実でしょ?」
どこにでもいるようない人じゃないからと匂わせれば、兄さんは少しだけ考え込んでから口を開いた。
「……そうだな。確かに事実ではある」
「だろう?」
「一応確認するが、さっきの言葉に俺の伴侶を批判する意図は無かったんだな?」
「もちろんだ!俺は姉さんの事を尊敬しているんだからな」
これは事実だからと即座に断言すれば、ようやく納得してくれたらしい。
「…そうか」
小さな声でそう呟いたファーガス兄さんは、ふうーっと一つ大きく息を吐いた。途端に部屋の中に漂っていた威圧感は、一気に消え去っていく。
視界の端でアキトとキースもふうと息を吐いたのが見えた。
俺が言葉選びを間違えたせいで、巻きこんでしまってすまないな。自分では全く自覚していなかったが、アキトを家族に紹介できた事に浮かれていたんだろうな。
一人反省していると、部屋のドアが控えめに外からノックされた。
「失礼いたします」
「ああ、どうぞ」
父さんの返事を待ってから、談話室のドアは執事であるボルテの手によって開かれた。
全員が見守る中、部屋の中へと颯爽と進んできたのは、真っ赤な髪を結い上げて濃い緑色のドレスを着こなしたマティさんだった。
容姿だけを客観的に見れば美しい女性なんだが、立ち方や動きにまで謎の迫力があるんだよな。もしかしたら強さがにじみ出てしまっているんだろうか。
さっきのファーガス兄さんみたいにあえて威圧しているわけでも無いんだが、実際に初対面で圧倒されて動揺する人は一定数いる。
アキトはといえば、この人がファーガス兄さんの伴侶さんかと言いたげに失礼にならない程度に興味深そうに見つめている。
うん、そこで動じないのがアキトだよな。
ドアを入った所でぴたりと立ち止まった姉さんは、部屋の中にいる全員をくるりと見回してからドレスのスカートを持ってお辞儀をした。それは見惚れてしまうほどに優雅で洗練された動きだった。
「あ、別に二人の仲が悪いからーとかそういうのじゃないから、そこは安心してね!」
にっこりと笑ったウィル兄の説明によると、元々は二人は一緒に案内されてくる予定だったそうだ。だが、ジルさんが、私は船の上でご挨拶はしているのでと遠慮したらしい。
「多分ね、アキトに会った事のない姉さんに、周りを気にせずにゆっくり挨拶する時間を取って欲しかったんだと思うよ。ジルは優しいから…」
ふふと笑ったウィル兄は、優しい笑みを浮かべつつも自慢げにそう続けた。さらりと惚気られてしまったな。
「うん、優しい人ですね、ジルさん」
「わー分かってくれるのー?アキトくんも本当に良い子だねぇ」
そう言いながら、ウィル兄はそっとアキトの頭に手を伸ばした。アキトに触れる前に、きちんと俺の表情を確認する辺りがウィル兄らしいな。
もちろんアキトに気があるわけではなくただの家族の触れ合いだと分かっているから、俺が拒否したりはしないんだが。
こくりと小さく頷けば、ウィル兄は優しくアキトの頭を撫で始めた。
アキト本人は撫でられた事に嬉しそうにしながらも、ちらりと俺に視線を向けてきた。もしかして俺が嫌がってないかと心配になったのか。
俺はニコニコと分かりやすい笑みを浮かべて、アキトを安心させる事にした。
ああ、そうだ。マティさんが来る前に、これだけは言っておかないと駄目かな。俺はそう考えて口を開いた。
「あ、アキト、一つだけ良いかな?」
「ん?なに?」
「一応先に言っておきたいんだけど…ファーガス兄さんの伴侶は…その…かなり、強烈な人なんだ」
客観的に見れば、見た目はかなり美しい女性だと思う。性格も良いしアキトに意地悪をするような人では決してない。
ただ見た目と性格が一致していないんだよな。
中身は凛々しくて格好良い人で、いざ戦闘となれば俺も楽には勝たせてもらえないほどの実力の持ち主だ。
不思議そうに首を傾げたアキトに詳しい説明をするために口を開くよりも先に、正面からまるで地を這うような低い低い声が聞こえてきた。
「ハル…今のはどういう意味だ?」
――ああ、やってしまった。
まるで戦場にいるかのような威圧感を漂わせているファーガス兄さんを見て、最初に思ったのはそれだった。本気で怒っているらしく、ファーガス兄さんの顔には一切の感情がない。
返答次第では許さないぞと言いたげな威圧感を向けられているが、別に俺はマティさんを侮辱したわけでも批判したわけでも無い。
だからこそ俺はファーガス兄さんをまっすぐ見返して、あえて笑みを浮かべてみせた。
「急に怒らないでくれよ?言葉通りの意味だよ」
隣で慌てているかもしれないアキトが落ち着けるように、堂々とした態度を意識する。
「あんなに美しい人を捕まえて…強烈だと?」
まだ不服そうなファーガス兄さんに、俺はさらに続けた。
「いや、確かに姉さんは美人だとは思うよ。でも、初対面で浮かぶ感想が『強烈』なのは事実でしょ?」
どこにでもいるようない人じゃないからと匂わせれば、兄さんは少しだけ考え込んでから口を開いた。
「……そうだな。確かに事実ではある」
「だろう?」
「一応確認するが、さっきの言葉に俺の伴侶を批判する意図は無かったんだな?」
「もちろんだ!俺は姉さんの事を尊敬しているんだからな」
これは事実だからと即座に断言すれば、ようやく納得してくれたらしい。
「…そうか」
小さな声でそう呟いたファーガス兄さんは、ふうーっと一つ大きく息を吐いた。途端に部屋の中に漂っていた威圧感は、一気に消え去っていく。
視界の端でアキトとキースもふうと息を吐いたのが見えた。
俺が言葉選びを間違えたせいで、巻きこんでしまってすまないな。自分では全く自覚していなかったが、アキトを家族に紹介できた事に浮かれていたんだろうな。
一人反省していると、部屋のドアが控えめに外からノックされた。
「失礼いたします」
「ああ、どうぞ」
父さんの返事を待ってから、談話室のドアは執事であるボルテの手によって開かれた。
全員が見守る中、部屋の中へと颯爽と進んできたのは、真っ赤な髪を結い上げて濃い緑色のドレスを着こなしたマティさんだった。
容姿だけを客観的に見れば美しい女性なんだが、立ち方や動きにまで謎の迫力があるんだよな。もしかしたら強さがにじみ出てしまっているんだろうか。
さっきのファーガス兄さんみたいにあえて威圧しているわけでも無いんだが、実際に初対面で圧倒されて動揺する人は一定数いる。
アキトはといえば、この人がファーガス兄さんの伴侶さんかと言いたげに失礼にならない程度に興味深そうに見つめている。
うん、そこで動じないのがアキトだよな。
ドアを入った所でぴたりと立ち止まった姉さんは、部屋の中にいる全員をくるりと見回してからドレスのスカートを持ってお辞儀をした。それは見惚れてしまうほどに優雅で洗練された動きだった。
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