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836.【ハル視点】抱擁と愛おしさ
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愛おしい気持ちが抑えられなくなった俺は、家族の前だからとかそう言う事を考える余裕までなくなってしまった。
感情の赴くままにアキトの身体を腕の中に捕らえてきゅっと抱きしめれば、アキトは嫌がるでもなく縋るように胸元に抱き着いてくる。
あーアキトは本当に可愛いな。
もしかしたら、泣き顔を見せないために抱きしめてくれたとでも思っているのかもしれないな。
もちろんアキトの泣き顔を俺以外に見せたくないという気持ちもあるんだが、それ以上にただ抱きしめたくなっただけだとは言わないでおこう。
普段のアキトなら、冷静になればすぐに恥ずかしいと腕の中から抜け出していく。それなのに今日は、まだ俺の腕の中に大人しくおさまってくれている。
安心しきった様子で俺を見上げてくれる。ただそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
離れがたい気持ちで抱き合い続けていれば、いつまでたってもアキトを解放しない俺に呆れたのかウィル兄が揶揄うように口を開いた。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
泣きそうになっていたアキトにも気づいていたんだから、もっと前から抱擁に気づいていただろうに、さも今気づいたような言い方だ。
アキトのために気を使ってくれてるんだから、もちろん俺も文句は言わないが。
「あ、本当だ!」
母は笑い混じりの声でそう叫び、心配そうな父の声が続く。
「なんだ、どうかしたのか?」
もしかして本格的に泣いてしまったか?と聞きたそうだが聞けずにいる父を、俺はちらりと見つめてから口を開いた。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
こう言えば、アキトが本格的に泣いてしまったわけじゃないと伝わるだろう。
「そうか、足りなくなったんだな」
俺の意図に気づいただろうファーガス兄さんは、真面目ぶった真剣な声でそう答えた。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからなと、ファーガス兄さんはさらりと続ける。
アキトは格好良いと言いたげなキラキラした目をして兄の方をちらりと見ていたが、おそらくあれは、自分がマティさんとの抱擁の邪魔をされたくないだけだぞ。
まあそれはアキトには言わなくて良いか。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
まだしつこくアキトを抱きしめたままでいる俺の耳に、キースがぽつりとこぼしたそんな言葉が聞こえてきた。キースらしいというか、なんとも微笑ましくて可愛らしい感想だな。
次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきたから、兄弟達が両親がキースを抱きしめたんだろう。
アキトが身じろぎだしたから、そろそろ抱擁を解かないと駄目かな。そんな事を考えていれば、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。
人が来たと大慌てで俺の腕の中から飛び出すアキトを、俺はそっと解放した。
どうやら今回キースを抱きしめているのは、両親の方だったらしい。
「どうぞ」
幸せそうにニコニコと笑うキースを抱きしめたまま、父さんは何でもないようにそう答えた。まあ見られて困る用な使用人はいないからな。
声に応じて部屋へと入ってきたのは、俺の予想通り執事長のボルテだった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
父さんはうむとひとつ頷いてから答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
「もちろんです」
即答したアキトは、もう涙の気配はなくニコニコと微笑んでいる。
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
昔から少しも変わらない優雅な礼をしたボルテは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。アキトだけがそのドアをじっと見つめているのに気づいた俺は、そっと控え目に声をかける。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
まあアキトの事だから誰が来ても動じないだろうとは思うけれど、心配ぐらいはさせて欲しい。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガス兄さんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。長男も次男もどちらもまだ学生だから、あまりに急に決まった俺とアキトの来訪に対応しきれなかったんだろう。
明らかに申し訳なさそうな顔をして説明をするファーガス兄さんに、アキトはぶんぶんと慌てた様子で首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
マティさんに会うのは、かなり久しぶりだな。
感情の赴くままにアキトの身体を腕の中に捕らえてきゅっと抱きしめれば、アキトは嫌がるでもなく縋るように胸元に抱き着いてくる。
あーアキトは本当に可愛いな。
もしかしたら、泣き顔を見せないために抱きしめてくれたとでも思っているのかもしれないな。
もちろんアキトの泣き顔を俺以外に見せたくないという気持ちもあるんだが、それ以上にただ抱きしめたくなっただけだとは言わないでおこう。
普段のアキトなら、冷静になればすぐに恥ずかしいと腕の中から抜け出していく。それなのに今日は、まだ俺の腕の中に大人しくおさまってくれている。
安心しきった様子で俺を見上げてくれる。ただそれだけの事が、こんなにも嬉しい。
離れがたい気持ちで抱き合い続けていれば、いつまでたってもアキトを解放しない俺に呆れたのかウィル兄が揶揄うように口を開いた。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
泣きそうになっていたアキトにも気づいていたんだから、もっと前から抱擁に気づいていただろうに、さも今気づいたような言い方だ。
アキトのために気を使ってくれてるんだから、もちろん俺も文句は言わないが。
「あ、本当だ!」
母は笑い混じりの声でそう叫び、心配そうな父の声が続く。
「なんだ、どうかしたのか?」
もしかして本格的に泣いてしまったか?と聞きたそうだが聞けずにいる父を、俺はちらりと見つめてから口を開いた。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
こう言えば、アキトが本格的に泣いてしまったわけじゃないと伝わるだろう。
「そうか、足りなくなったんだな」
俺の意図に気づいただろうファーガス兄さんは、真面目ぶった真剣な声でそう答えた。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからなと、ファーガス兄さんはさらりと続ける。
アキトは格好良いと言いたげなキラキラした目をして兄の方をちらりと見ていたが、おそらくあれは、自分がマティさんとの抱擁の邪魔をされたくないだけだぞ。
まあそれはアキトには言わなくて良いか。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
まだしつこくアキトを抱きしめたままでいる俺の耳に、キースがぽつりとこぼしたそんな言葉が聞こえてきた。キースらしいというか、なんとも微笑ましくて可愛らしい感想だな。
次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきたから、兄弟達が両親がキースを抱きしめたんだろう。
アキトが身じろぎだしたから、そろそろ抱擁を解かないと駄目かな。そんな事を考えていれば、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。
人が来たと大慌てで俺の腕の中から飛び出すアキトを、俺はそっと解放した。
どうやら今回キースを抱きしめているのは、両親の方だったらしい。
「どうぞ」
幸せそうにニコニコと笑うキースを抱きしめたまま、父さんは何でもないようにそう答えた。まあ見られて困る用な使用人はいないからな。
声に応じて部屋へと入ってきたのは、俺の予想通り執事長のボルテだった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
父さんはうむとひとつ頷いてから答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
「もちろんです」
即答したアキトは、もう涙の気配はなくニコニコと微笑んでいる。
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
昔から少しも変わらない優雅な礼をしたボルテは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。アキトだけがそのドアをじっと見つめているのに気づいた俺は、そっと控え目に声をかける。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
まあアキトの事だから誰が来ても動じないだろうとは思うけれど、心配ぐらいはさせて欲しい。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガス兄さんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。長男も次男もどちらもまだ学生だから、あまりに急に決まった俺とアキトの来訪に対応しきれなかったんだろう。
明らかに申し訳なさそうな顔をして説明をするファーガス兄さんに、アキトはぶんぶんと慌てた様子で首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
マティさんに会うのは、かなり久しぶりだな。
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