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834.飾り付けの秘密
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楽しそうに声を上げて笑い続けるグレースさんに、ハルは珍しく不服そうに眉間に皺を寄せた。そういうむっとした不機嫌そうな表情をしてても格好良いんだから、ハルってすごいよね。
「母さん、なにがそんなに面白いんだ?」
「はー悪い悪い。ハルの不思議そうな顔が面白くて…なぁケイリー?」
分かるだろう?と急に話を振られたケイリーさんは、そうだなとあっさりとその言葉を肯定した。
うーん、俺はハルの表情が面白いなんて思ったこと、一度もないんだけどな。いつも格好良いし、たまに可愛いところが見えたりはするけど、面白い?
「面白い…ですか?」
疑問をそのまま口にすれば、グレースさんはふふと笑ってから答えてくれた。
「そうそう。ハルの表情がくるくる変わるのが、面白いんだ」
「きっとアキトくんのおかけで、感情が顔に出るようになったんだな」
ケイリーさんはしみじみとそう呟いた。
「……前は、出てなかったのか?」
「ああ、今ほどは出てなかったな。まあ俺たちは家族だから、お前の感情を読み取る事はできていたんたがな」
「ハル兄さんは、いつも笑顔だったからね」
僕も分かるよと、キースくんも自慢げに教えてくれる。
「そうそう、だから俺アキトくんと喋るハルを見て、あんなにびっくりしたんだもん」
「…アキトと出逢ってから自分が変わったとは思っていたんだが、そんなに表情が変わっていたのか…?」
「うん、かなり変わってるよ」
良い方向にだけどなと、マチルダさんは柔らかく笑っている。
「そういえば、ハルさんの首を傾げる仕草は初めて見ましたね。アキトくんが同じ仕草をしているのを何度か見たので、おそらく一緒にいるうちにうつってしまったのでは?」
そんな冷静な分析をしながら声をかけてきたのは、ジルさんだ。
あー、うん。まだ幼い頃から、俺には首を傾げる癖があったな。まさかあれがハルにうつっちゃってる…?
そういえばハルってたまに首を傾げてるよね。まさかそれが、俺のせいだとは思ってもみなかった。
「わーごめんね、ハル」
慌ててそう謝れば、ハルはぶんぶんと首を振った。
「アキト、お願いだから謝らないで。俺はね、むしろ嬉しいよ」
「え…?」
「無意識のうちにアキトの癖がうつるぐらい、一緒にいられたって事だからね」
それに、まだ気づいていないだけで、もしかしたらアキトにも俺の何かの癖がうつってるのかもしれないよねとハルは嬉しそうに続ける。
ハルの癖が俺にうつってたら…あー、うん、それは確かに嬉しいかもしれない。
「うん、確かに嬉しいかも!」
元気に答えた俺をハルは抱きしめてくれたんだけど、周りからは楽し気な笑い声が巻き起こった。
「それで?何でここまで飾り付けされてるの?」
みんなの笑いがひと段落するのを待って、ハルはそう尋ねた。
「それがなぁ、ハルの伴侶候補が来るなら、きちんと歓迎の気持ちを形にして見せたいって言い出してな?」
「言い出したって…誰が?」
ハルはゆるりと首を傾げて、そう尋ねた。
あーそれが、俺の癖がうつったやつか。その事実に気づいてしまうと、何だかくすぐったい気持ちになってしまう。もちろん嬉しいんだけどね。
「きっかけは執事長とメイド長だな。まぁ参加した人数はもっと多いんだが」
「もっと多い…ってどういう意味だ?」
「はいはーい!あの天井の布飾りはジルと俺が選んだやつだよ!辺境領の特産の布から選んでてね、色合いにもこだわったんだー」
明るい声でそう宣言したウィリアムさんは、ジルさんに抱きつきながらそっと天井を指差した。照れ臭そうにしながらも、ジルさんがウィリアムさんを振り払う素振りは無い。
「私とファーガスは、二人で花を選んだよ」
そう言いながら、マチルダさんは近くにある花にちらりと視線を向ける。
「どんな花が好きかが分からなかったからな。あえて色とりどりにしてみたんだ」
バランスを取るのはかなり難しかったけどそこはマティの感性でなんとかなと、ファーガスさんは笑顔で続ける。確かにすごく色とりどりなのに、不思議と馴染んでるんだよね。どうやらファーガスさんとマチルダさんには、お花選びのセンスまであるらしい。
「はいっ!僕は母さんと父さんと一緒に、あの灯りをえらびました」
キースくんもニコニコ笑いながら、そう教えてくれた。
「先に布が決まっていたからな、それに合う灯りを選んだんだ」
「あー、私はそういうのは苦手だから、ほぼキースとケイリーが選んだんだけどな」
「でも一緒にえらんだよ?」
「あーまあな」
なるほど、ここの飾りはみんなが選んでくれたものだったのか。
「ほらボルテも」
ケイリーさんに促された執事さんは、苦笑しながらも一礼してから口を開いた。執事さんの名前はボルテさんっていうんだね。
「…私とメイド長は、皆様に選んで頂いた物の配置を決めさせて頂きました」
その後の最終的な飾り付けは、使用人総出で行いましたと執事さんはさらりと続けた。
「そうなのか…」
そんなにたくさんの人が、この飾り付けに関わってくれてるのか。
その秘密を知ってから見ると、元々綺麗だと思っていた飾り付けがさらに綺麗に見えてくるから不思議だ。
「その話を聞いたら、さらに綺麗に見えてきますね」
「気に入って頂けたなら何よりです」
にっこりと笑って答えてくれた執事さんに、俺は目を見つめながらお礼の言葉を告げた。
「本当に、ありがとうございます」
「俺からも、ありがとう。皆にもお礼を言っておいてもらえるか?」
「もちろんです」
深々とお辞儀をしたボルテさんは、優しい笑みを浮かべて快諾してくれた。後でハルと二人でお礼に何かできないか相談しよう。
「母さん、なにがそんなに面白いんだ?」
「はー悪い悪い。ハルの不思議そうな顔が面白くて…なぁケイリー?」
分かるだろう?と急に話を振られたケイリーさんは、そうだなとあっさりとその言葉を肯定した。
うーん、俺はハルの表情が面白いなんて思ったこと、一度もないんだけどな。いつも格好良いし、たまに可愛いところが見えたりはするけど、面白い?
「面白い…ですか?」
疑問をそのまま口にすれば、グレースさんはふふと笑ってから答えてくれた。
「そうそう。ハルの表情がくるくる変わるのが、面白いんだ」
「きっとアキトくんのおかけで、感情が顔に出るようになったんだな」
ケイリーさんはしみじみとそう呟いた。
「……前は、出てなかったのか?」
「ああ、今ほどは出てなかったな。まあ俺たちは家族だから、お前の感情を読み取る事はできていたんたがな」
「ハル兄さんは、いつも笑顔だったからね」
僕も分かるよと、キースくんも自慢げに教えてくれる。
「そうそう、だから俺アキトくんと喋るハルを見て、あんなにびっくりしたんだもん」
「…アキトと出逢ってから自分が変わったとは思っていたんだが、そんなに表情が変わっていたのか…?」
「うん、かなり変わってるよ」
良い方向にだけどなと、マチルダさんは柔らかく笑っている。
「そういえば、ハルさんの首を傾げる仕草は初めて見ましたね。アキトくんが同じ仕草をしているのを何度か見たので、おそらく一緒にいるうちにうつってしまったのでは?」
そんな冷静な分析をしながら声をかけてきたのは、ジルさんだ。
あー、うん。まだ幼い頃から、俺には首を傾げる癖があったな。まさかあれがハルにうつっちゃってる…?
そういえばハルってたまに首を傾げてるよね。まさかそれが、俺のせいだとは思ってもみなかった。
「わーごめんね、ハル」
慌ててそう謝れば、ハルはぶんぶんと首を振った。
「アキト、お願いだから謝らないで。俺はね、むしろ嬉しいよ」
「え…?」
「無意識のうちにアキトの癖がうつるぐらい、一緒にいられたって事だからね」
それに、まだ気づいていないだけで、もしかしたらアキトにも俺の何かの癖がうつってるのかもしれないよねとハルは嬉しそうに続ける。
ハルの癖が俺にうつってたら…あー、うん、それは確かに嬉しいかもしれない。
「うん、確かに嬉しいかも!」
元気に答えた俺をハルは抱きしめてくれたんだけど、周りからは楽し気な笑い声が巻き起こった。
「それで?何でここまで飾り付けされてるの?」
みんなの笑いがひと段落するのを待って、ハルはそう尋ねた。
「それがなぁ、ハルの伴侶候補が来るなら、きちんと歓迎の気持ちを形にして見せたいって言い出してな?」
「言い出したって…誰が?」
ハルはゆるりと首を傾げて、そう尋ねた。
あーそれが、俺の癖がうつったやつか。その事実に気づいてしまうと、何だかくすぐったい気持ちになってしまう。もちろん嬉しいんだけどね。
「きっかけは執事長とメイド長だな。まぁ参加した人数はもっと多いんだが」
「もっと多い…ってどういう意味だ?」
「はいはーい!あの天井の布飾りはジルと俺が選んだやつだよ!辺境領の特産の布から選んでてね、色合いにもこだわったんだー」
明るい声でそう宣言したウィリアムさんは、ジルさんに抱きつきながらそっと天井を指差した。照れ臭そうにしながらも、ジルさんがウィリアムさんを振り払う素振りは無い。
「私とファーガスは、二人で花を選んだよ」
そう言いながら、マチルダさんは近くにある花にちらりと視線を向ける。
「どんな花が好きかが分からなかったからな。あえて色とりどりにしてみたんだ」
バランスを取るのはかなり難しかったけどそこはマティの感性でなんとかなと、ファーガスさんは笑顔で続ける。確かにすごく色とりどりなのに、不思議と馴染んでるんだよね。どうやらファーガスさんとマチルダさんには、お花選びのセンスまであるらしい。
「はいっ!僕は母さんと父さんと一緒に、あの灯りをえらびました」
キースくんもニコニコ笑いながら、そう教えてくれた。
「先に布が決まっていたからな、それに合う灯りを選んだんだ」
「あー、私はそういうのは苦手だから、ほぼキースとケイリーが選んだんだけどな」
「でも一緒にえらんだよ?」
「あーまあな」
なるほど、ここの飾りはみんなが選んでくれたものだったのか。
「ほらボルテも」
ケイリーさんに促された執事さんは、苦笑しながらも一礼してから口を開いた。執事さんの名前はボルテさんっていうんだね。
「…私とメイド長は、皆様に選んで頂いた物の配置を決めさせて頂きました」
その後の最終的な飾り付けは、使用人総出で行いましたと執事さんはさらりと続けた。
「そうなのか…」
そんなにたくさんの人が、この飾り付けに関わってくれてるのか。
その秘密を知ってから見ると、元々綺麗だと思っていた飾り付けがさらに綺麗に見えてくるから不思議だ。
「その話を聞いたら、さらに綺麗に見えてきますね」
「気に入って頂けたなら何よりです」
にっこりと笑って答えてくれた執事さんに、俺は目を見つめながらお礼の言葉を告げた。
「本当に、ありがとうございます」
「俺からも、ありがとう。皆にもお礼を言っておいてもらえるか?」
「もちろんです」
深々とお辞儀をしたボルテさんは、優しい笑みを浮かべて快諾してくれた。後でハルと二人でお礼に何かできないか相談しよう。
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