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828.ファーガスさんの伴侶
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なんとなくハルのお兄さんの伴侶さん達は二人揃ってやって来るのかと思ってたんだけど、今日は別々に一人ずつこの部屋に案内されてくるスタイルらしい。
「あ、別に二人の仲が悪いからーとかそういうのじゃないから、そこは安心してね!」
にっこりと笑ったウィリアムさんの説明によると、元々は二人一緒に案内される筈だったんだって。でも、ウィリアムさんの伴侶のジルさんが、私は船の上でご挨拶はしているのでと遠慮したそうだ。
「多分ね、アキトに会った事のない姉さんに、周りを気にせずにゆっくり挨拶する時間を取って欲しかったんだと思うよ。ジルは優しいから…」
ふふと笑ったウィリアムさんは、優しい笑みを浮かべている。うーん、さらりと惚気られてしまった。
これはただの予想だけど、ジルさんは多分俺の事も気づかってくれたんじゃないかな。二人同時にやって来るよりも、せめて時間差の方がまだ気が楽だろうとか、そういう事を考えてくれたんじゃないかな。
そういう気づかいのできる人なんだな。
「うん、優しい人ですね、ジルさん」
「わー分かってくれるのー?」
アキトくんも本当に良い子だねぇと、何故かウィリアムさんに頭を撫でられてしまった。明らかにこども扱いだけど、撫で方が優しいから受け入れてしまう。
もしかしてハルが嫌がらないかなと思わず視線を向けてしまったけど、ハルはニコニコと笑顔で俺とウィリアムさんのやりとりを眺めていた。
これはセーフらしい。
「あ、アキト、一つだけ良いかな?」
「ん?なに?」
「一応先に言っておきたいんだけど…ファーガス兄さんの伴侶は…その…かなり、強烈な人なんだ」
強烈な…人?強烈な人って…どんな人?
言葉の意味もハルの意図も分からない。
どういう意味?と俺が尋ねようとするよりも先に、正面からまるで地を這うような低い低い声が聞こえてきた。
「ハル…今のはどういう意味だ?」
驚いてバッと視線を上げれば、そこには真顔のファーガスさんが立っていた。うっすらと細めた目でじっとハルを見つめているその姿からは、恐ろしいほどの威圧感が漂ってくる。
自分に向けられたものでもないのに、思わずこの場から全力で逃げ出したくなってしまう程の迫力だった。
「急に怒らないでくれよ?言葉通りの意味だよ」
あの威圧感を真正面から受け止めている筈のハルは、少しも悪びれずに笑顔を浮かべてそう答えた。
つ、強いな、ハル。
「あんなに美しい人を捕まえて…強烈だと?」
「いや、確かに姉さんは美人だとは思うよ。でも、初対面で浮かぶ感想が『強烈』なのは事実でしょ?」
美人な女性だけど、初対面で浮かぶ感想が強烈…なの?うーん、よりいっそう想像がつかなくなったな。
遠い目をしながら二人のやり取りを聞いていると、不意にファーガスさんが動いた。
「……そうだな。確かに事実ではある」
「だろう?」
「一応確認するが、さっきの言葉に俺の伴侶を批判する意図は無かったんだな?」
「もちろんだ!俺は姉さんの事を尊敬しているんだからな」
「…そうか」
小さな声でそう呟いたファーガスさんは、ふうーっと一つ大きく息を吐いた。途端に部屋の中に漂っていた威圧感は、一気に消え去っていく。
あー…怖かった。今の威圧感は今までに出逢ったどんな魔物よりも、恐怖と身の危険を感じたな。ファーガスさんは強いってハルから聞いた事はあったけど、まさかここまでとは。正直に言って、想像以上だった。
ふうーと思わず俺も息を吐いた所で、部屋のドアが控えめにノックされた。
「失礼いたします」
「ああ、どうぞ」
ケイリーさんの返事を待ってから、談話室のドアは執事さんの手によって開かれた。
全員が見守る中、部屋の中へと颯爽と進んできたのは、真っ赤な髪を結い上げて濃い緑色のドレスを着こなした迫力のある女性だった。
迫力のある女性って言葉は、世間一般的には誉め言葉じゃないかもしれないけど、何故かその言葉がこの人にはぴったりな気がしたんだ。もちろん良い意味でね。
ハルが強烈な人と言ったのも、この人を見たら納得がいってしまった。確かにこの女性は、強烈な人だと思う。何が強烈って存在感がすごい。
しなやかに引き締まった褐色の肌に、思わず目が行ってしまう真っ赤な髪。キリリと切れ長の赤茶色の瞳には、意思の強さがにじみ出ている気がする。
ドアを入った所でぴたりと立ち止まったその女性は、部屋の中にいる全員を見回してからドレスのスカートを持ってお辞儀をした。
それは思わず見惚れてしまうほどに、優雅で洗練された動きだった。
「あ、別に二人の仲が悪いからーとかそういうのじゃないから、そこは安心してね!」
にっこりと笑ったウィリアムさんの説明によると、元々は二人一緒に案内される筈だったんだって。でも、ウィリアムさんの伴侶のジルさんが、私は船の上でご挨拶はしているのでと遠慮したそうだ。
「多分ね、アキトに会った事のない姉さんに、周りを気にせずにゆっくり挨拶する時間を取って欲しかったんだと思うよ。ジルは優しいから…」
ふふと笑ったウィリアムさんは、優しい笑みを浮かべている。うーん、さらりと惚気られてしまった。
これはただの予想だけど、ジルさんは多分俺の事も気づかってくれたんじゃないかな。二人同時にやって来るよりも、せめて時間差の方がまだ気が楽だろうとか、そういう事を考えてくれたんじゃないかな。
そういう気づかいのできる人なんだな。
「うん、優しい人ですね、ジルさん」
「わー分かってくれるのー?」
アキトくんも本当に良い子だねぇと、何故かウィリアムさんに頭を撫でられてしまった。明らかにこども扱いだけど、撫で方が優しいから受け入れてしまう。
もしかしてハルが嫌がらないかなと思わず視線を向けてしまったけど、ハルはニコニコと笑顔で俺とウィリアムさんのやりとりを眺めていた。
これはセーフらしい。
「あ、アキト、一つだけ良いかな?」
「ん?なに?」
「一応先に言っておきたいんだけど…ファーガス兄さんの伴侶は…その…かなり、強烈な人なんだ」
強烈な…人?強烈な人って…どんな人?
言葉の意味もハルの意図も分からない。
どういう意味?と俺が尋ねようとするよりも先に、正面からまるで地を這うような低い低い声が聞こえてきた。
「ハル…今のはどういう意味だ?」
驚いてバッと視線を上げれば、そこには真顔のファーガスさんが立っていた。うっすらと細めた目でじっとハルを見つめているその姿からは、恐ろしいほどの威圧感が漂ってくる。
自分に向けられたものでもないのに、思わずこの場から全力で逃げ出したくなってしまう程の迫力だった。
「急に怒らないでくれよ?言葉通りの意味だよ」
あの威圧感を真正面から受け止めている筈のハルは、少しも悪びれずに笑顔を浮かべてそう答えた。
つ、強いな、ハル。
「あんなに美しい人を捕まえて…強烈だと?」
「いや、確かに姉さんは美人だとは思うよ。でも、初対面で浮かぶ感想が『強烈』なのは事実でしょ?」
美人な女性だけど、初対面で浮かぶ感想が強烈…なの?うーん、よりいっそう想像がつかなくなったな。
遠い目をしながら二人のやり取りを聞いていると、不意にファーガスさんが動いた。
「……そうだな。確かに事実ではある」
「だろう?」
「一応確認するが、さっきの言葉に俺の伴侶を批判する意図は無かったんだな?」
「もちろんだ!俺は姉さんの事を尊敬しているんだからな」
「…そうか」
小さな声でそう呟いたファーガスさんは、ふうーっと一つ大きく息を吐いた。途端に部屋の中に漂っていた威圧感は、一気に消え去っていく。
あー…怖かった。今の威圧感は今までに出逢ったどんな魔物よりも、恐怖と身の危険を感じたな。ファーガスさんは強いってハルから聞いた事はあったけど、まさかここまでとは。正直に言って、想像以上だった。
ふうーと思わず俺も息を吐いた所で、部屋のドアが控えめにノックされた。
「失礼いたします」
「ああ、どうぞ」
ケイリーさんの返事を待ってから、談話室のドアは執事さんの手によって開かれた。
全員が見守る中、部屋の中へと颯爽と進んできたのは、真っ赤な髪を結い上げて濃い緑色のドレスを着こなした迫力のある女性だった。
迫力のある女性って言葉は、世間一般的には誉め言葉じゃないかもしれないけど、何故かその言葉がこの人にはぴったりな気がしたんだ。もちろん良い意味でね。
ハルが強烈な人と言ったのも、この人を見たら納得がいってしまった。確かにこの女性は、強烈な人だと思う。何が強烈って存在感がすごい。
しなやかに引き締まった褐色の肌に、思わず目が行ってしまう真っ赤な髪。キリリと切れ長の赤茶色の瞳には、意思の強さがにじみ出ている気がする。
ドアを入った所でぴたりと立ち止まったその女性は、部屋の中にいる全員を見回してからドレスのスカートを持ってお辞儀をした。
それは思わず見惚れてしまうほどに、優雅で洗練された動きだった。
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