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827.抱擁
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優しく声をかけて抱きしめてくれたハルの機転のおかげで、ハルのご家族の前でみっともなく泣き顔を晒す事は何とか避ける事ができた。
さすがに初対面の場なのにここで泣くのは、ちょっとね。成人男性としてはかなり恥ずかしい事だし、きっと周りの人達も戸惑うと思うんだ。
あー本当に泣き出さずに済んで良かったな、こういう所がさすがハルだよね。しみじみとそんな事を噛み締めながら、まだ俺はすっぽりとハルの腕の中におさまっていた。
いやだってさ、ハルの腕の中ってすごく安心するし、何よりすごく落ち着くんだよね。一回入ってしまったら、自分からもう良いから離してなんてなかなか言えないんだ。良い香りもする、それはもう魔性の腕の中なんだよ。
ここから抜け出さないと駄目だとは分かってるけど、もう少しだけここにいたい。
そんな気持ちでのんびりしてしまっていた間に、どうやら俺とハルの抱擁はみんなに気づかれてしまったらしい。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
揶揄うような明るい声でそう言っているのは、まず間違いなくウィリアムさんだよね。
「あ、本当だ!」
「なんだ、どうかしたのか?」
笑い混じりのグレースさんの声に続いて、心配そうなケイリーさんの声も聞こえてきた。
ここで『俺が泣きそうだったので』とは言わないだろうなと思いながら聞いてたんだけど、ハルの返事は予想外のものだった。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
あのー、ハル?本当にそんな理由で良いの?というかそれは理由になるのかな?
「そうか、足りなくなったんだな」
ファーガスさんが真剣な声でそう答えているのが聞こえてくる。あー、そっか。それはこの家族の間では、普通に理由として成立するんだね。本当に伴侶に甘い人達なんだ。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからと、ファーガスさんはあまりにもさらりと続けた。そこをさらりと言えるの、格好良いな。落ち着いた大人感を感じてしまう。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
あ、キースくんの可愛い感想が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきた。きっとこれは羨ましそうなさっきの発言を聞いたご兄弟がご両親が、キースくんを抱きしめたんだろうな。
恥ずかしくてここから出にくいような状況ではあるけど、その光景はちょっとだけ見たい。
そんな事を考えていると、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。人が来たと大慌てでハルの腕の中から飛び出せば、キースくんがご両親に左右から抱きしめられているのが見えた。
照れくさそうにしつつも嬉しそうなキースくんが、すごく可愛い。
「どうぞ」
幸せそうなキースくんを抱きしめたまま、ケイリーさんは普通にそう答えた。
部屋に入ってきたのは、俺達をここまで案内してくれた執事さんだった。
この家族には普段からよくある事なのか、キースくんに抱き着いているお二人を見ても、執事さんは眉一つ動かさなかった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
ケイリーさんはうむとひとつ頷いて答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
わざわざ俺に確認をとってくれる律儀なケイリーさんに、俺は笑顔で答えた。
「もちろんです」
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
すっと見惚れるほどに優雅な礼をみせた執事さんは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
思わず閉まったドアを見つめていた俺に、にっこりと笑ったハルがすかさずそう教えてくれた。誰が来るんだろう?と心配していると思われたんだろうか。
執事さんのドアの閉め方って音が何もしないのがすごいよなーって、ただ観察してただけだとはさすがに言えない。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガスさんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。あまりにも申し訳なさそうな顔をするファーガスさんに、俺はぶんぶんと慌てて首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
ファーガスさんがあれだけ大事にしている伴侶さんは、どんな人なのか興味が湧いてきた。
さすがに初対面の場なのにここで泣くのは、ちょっとね。成人男性としてはかなり恥ずかしい事だし、きっと周りの人達も戸惑うと思うんだ。
あー本当に泣き出さずに済んで良かったな、こういう所がさすがハルだよね。しみじみとそんな事を噛み締めながら、まだ俺はすっぽりとハルの腕の中におさまっていた。
いやだってさ、ハルの腕の中ってすごく安心するし、何よりすごく落ち着くんだよね。一回入ってしまったら、自分からもう良いから離してなんてなかなか言えないんだ。良い香りもする、それはもう魔性の腕の中なんだよ。
ここから抜け出さないと駄目だとは分かってるけど、もう少しだけここにいたい。
そんな気持ちでのんびりしてしまっていた間に、どうやら俺とハルの抱擁はみんなに気づかれてしまったらしい。
「あれー、気づいたらハルがアキトくんを抱きしめてるー?」
揶揄うような明るい声でそう言っているのは、まず間違いなくウィリアムさんだよね。
「あ、本当だ!」
「なんだ、どうかしたのか?」
笑い混じりのグレースさんの声に続いて、心配そうなケイリーさんの声も聞こえてきた。
ここで『俺が泣きそうだったので』とは言わないだろうなと思いながら聞いてたんだけど、ハルの返事は予想外のものだった。
「いや、ちょっとアキトが足りなくなったから、補充をしてるだけだよ」
あのー、ハル?本当にそんな理由で良いの?というかそれは理由になるのかな?
「そうか、足りなくなったんだな」
ファーガスさんが真剣な声でそう答えているのが聞こえてくる。あー、そっか。それはこの家族の間では、普通に理由として成立するんだね。本当に伴侶に甘い人達なんだ。
「アキトは俺の伴侶候補なんだから、何も問題は無いだろう?」
「ああ、そうだな。まあもし仮にお前たちが伴侶候補になる前だとしても、俺たちが邪魔をしたりはしないけどな」
愛しい人との抱擁は大事な時間だからと、ファーガスさんはあまりにもさらりと続けた。そこをさらりと言えるの、格好良いな。落ち着いた大人感を感じてしまう。
「ほんとだ…ぎゅーってしてる……良いなぁ」
あ、キースくんの可愛い感想が聞こえてきたと思ったら、次の瞬間には楽し気な笑い声が聞こえてきた。きっとこれは羨ましそうなさっきの発言を聞いたご兄弟がご両親が、キースくんを抱きしめたんだろうな。
恥ずかしくてここから出にくいような状況ではあるけど、その光景はちょっとだけ見たい。
そんな事を考えていると、不意に部屋のドアが控え目にノックされた。人が来たと大慌てでハルの腕の中から飛び出せば、キースくんがご両親に左右から抱きしめられているのが見えた。
照れくさそうにしつつも嬉しそうなキースくんが、すごく可愛い。
「どうぞ」
幸せそうなキースくんを抱きしめたまま、ケイリーさんは普通にそう答えた。
部屋に入ってきたのは、俺達をここまで案内してくれた執事さんだった。
この家族には普段からよくある事なのか、キースくんに抱き着いているお二人を見ても、執事さんは眉一つ動かさなかった。
「皆様のご用意ができました」
「そうか」
ケイリーさんはうむとひとつ頷いて答えた。
「こちらへご案内してもよろしいでしょうか?」
「あーアキトくん、他にも君に紹介したい家族がいるんだが、ここに呼んでも良いだろうか?」
わざわざ俺に確認をとってくれる律儀なケイリーさんに、俺は笑顔で答えた。
「もちろんです」
「アキトくんさえ良いなら、ここに案内してくれ」
「かしこまりました」
すっと見惚れるほどに優雅な礼をみせた執事さんは、そのまま部屋を出ると音も立てずにドアを閉めて去っていった。
「アキト、今から来るのは兄さんの伴侶たちだから、何も心配はしなくて良いからね」
思わず閉まったドアを見つめていた俺に、にっこりと笑ったハルがすかさずそう教えてくれた。誰が来るんだろう?と心配していると思われたんだろうか。
執事さんのドアの閉め方って音が何もしないのがすごいよなーって、ただ観察してただけだとはさすがに言えない。
「うん、ありがとう」
「そうだ、アキトくん。私のこどもたちは、また日を改めて紹介させてもらえるかな?」
ファーガスさんのこどもたちは、今日は都合が悪くてこの場には顔を出せないらしい。あまりにも申し訳なさそうな顔をするファーガスさんに、俺はぶんぶんと慌てて首を振った。
「気にしないでください。しばらくこちらに滞在するのでいつでも大丈夫です」
「そうか、アキトくん、ありがとう。まずは伴侶の紹介からさせてくれ」
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