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824.【ハル視点】兄弟との対話
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和やかな雰囲気になった部屋の中、その場にいる全員で立ったまま色々な話をした。
まずアキトに話しかけたのは、長兄のファーガス兄さんだ。
辺境領の現騎士団長を務めているファーガス兄さんは、今までに騎士団が倒した強い魔物の話や、珍しい素材の話をしてくれた。
俺も一緒になって感心するような情報が、そこかしこにちりばめられている。
「最近騎士団が手に入れた素材だと――中型の水色の魔石の中に、豆粒ほどの大きさの魔石が含まれているのが一番珍しいだろうな」
「ん?待ってくれファーガス兄さん、水色に…中の小さい方は何色だったんだ?」
ファーガス兄さんなら伝え忘れたという事はないだろう。わざとそこの情報をはぶいたのなら意味がある筈だ。
興味をそそられて身を乗り出しつつそう尋ねると、ファーガス兄さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「それがな、驚くことに赤色の魔石だったんだよ」
「は?水と火の魔石…?」
水の魔石は大きさによって異なる量の水が出せるし、火の魔石は細かい火力を調整することもできる。それはあくまでも常識レベルの知識だ。
だが火と水は元々が反発する属性だ。だからこそ魔道具に加工されていない限り、同時には使えないのが一般的だ。
でもその二種類が、元々魔石として合体してるという事は?俺と同じタイミングで、アキトもあまりにも珍しい現象に気づいたらしい。
「ファーガスさん、それはもしかして…」
「ああ、温かい湯が出る魔石だったよ」
キラキラと目を輝かせるアキトの反応は、たまらなく可愛い。風呂のある港町に行った時は、随分はしゃいでいたもんな。
いつかアキトと一緒に一軒家に住むようになったら、一般家庭にはあまり導入されていない魔道具式の風呂を作ろうと俺は密かに決意した。
続いては次兄のウィリアム兄さんだ。
ウィル兄は、辺境騎士団の情報収集部隊の隊長を務めている。有事の際には戦闘やダンジョン制圧にも出向くぐらいだから強さはもちろんかなりのものだが、人当たりの良さが情報収取任務に向いてるんだよな。
他の地域の事にも詳しいウィル兄さんからは、おすすめの地域や土産物、それにその土地の特産品の話をしてもらった。
「俺の一押しはやっぱり北国かな。食べ物は何を食べても美味しいし、太陽に照らされた雪原がキラキラしててすごく綺麗なんだよ!」
ウィル兄の明るくて軽快な口調で紹介されると、どの場所も行きたくなってくるから不思議だ。きっとこの調子で情報を集めてるんだろうな。
どの地域の話にも楽しそうに耳を傾けていたアキトだが、なかでも特に雪国の話にはかなり興味を持ったらしい。雪国かと呟いた様子からして、行ってみたいと思っているんだろう。
「いつか一緒に行こうね」
こっそりと耳元に顔を寄せて囁けば、キラキラと目を輝かせて頷いてくれた。ウィル兄さん、良い情報をありがとう。そう思いながら視線を向ければ、すこし呆れたような顔で笑われてしまった。
「あ、そういえばさ、トライプールの南にある国は、今はあまりお勧めできないから覚えておいて。なんかちょっと危険な気配がするんだよね」
トライプールの南の国――か。
「何か強大な魔物でも出そうなのか?」
「ううん、人同士の対立の方だね」
ああ、人同士の対立か。強い魔物なら種類によっては興味も湧くが、人同士の対立にはかけらも興味は無い。むしろ巻き込まれてしまうと面倒な事になる予感しかしない。
まあそうでなければ、ウィル兄がわざわざ伝えてきたりしないか。
「…そうか。巻き込まれないように気をつける。ウィル兄、情報ありがとう」
辺境領にとってトライプールの南の国は、直接関係も交流もない遠い場所だ。だからきっとこの情報は、俺と、それにアキトのために集めてくれたものだろう。
「ありがとうございます、ウィリアムさん」
アキトも嬉しそうに笑いながら、ウィル兄にお礼の言葉を告げる。
「どういたしましてーあ、また何か情報があったら、手紙出すから」
「ああ、助かるよ」
俺達が話しているのを待っている間に、キースはすこしだけ人見知りが戻ってきてしまったようだ。少しだけ恥ずかしそうな様子だったが、それでも自分からアキトに近づいていきそっと声をかける。
「あ、あの、アキトさんが…」
きっと勇気を振り絞って話しかけたんだろう。声をかけられたアキトは、さっとしゃがみこむと、優しい笑みを浮かべてうんうんと頷きながら聞いてくれている。
みんなはキースの行動に一瞬だけ驚いた顔をしたが、次の瞬間には成長を喜ぶ温かい笑みを浮かべて見守っている。
ここで変に声を出して、キースを萎縮させたくないからな。
「最初に使えるように、なった、魔法は何ですか?」
「最初の魔法は…浄化魔法だね」
ああ、そうだったな。あの時は同行していた幽霊のカルツさんが、浄化魔法が一番便利だって話をしていたんだった。アキトは説明を聞いただけで魔法を発動させたんだよな。
「浄化魔法ってむずかしいんですよ!すごいですね」
キースは目をキラキラと輝かせながら、興奮した様子で格好良い!と褒めている。
そうか、浄化魔法は難しいのか。まだうまく魔法が発動できずに悩んでいるキースには、絶対に説明を聞いただけでと発動したとは言うまい。
俺はそう決意しながら、照れくさそうに笑みを浮かべるアキトを見つめていた。
まずアキトに話しかけたのは、長兄のファーガス兄さんだ。
辺境領の現騎士団長を務めているファーガス兄さんは、今までに騎士団が倒した強い魔物の話や、珍しい素材の話をしてくれた。
俺も一緒になって感心するような情報が、そこかしこにちりばめられている。
「最近騎士団が手に入れた素材だと――中型の水色の魔石の中に、豆粒ほどの大きさの魔石が含まれているのが一番珍しいだろうな」
「ん?待ってくれファーガス兄さん、水色に…中の小さい方は何色だったんだ?」
ファーガス兄さんなら伝え忘れたという事はないだろう。わざとそこの情報をはぶいたのなら意味がある筈だ。
興味をそそられて身を乗り出しつつそう尋ねると、ファーガス兄さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「それがな、驚くことに赤色の魔石だったんだよ」
「は?水と火の魔石…?」
水の魔石は大きさによって異なる量の水が出せるし、火の魔石は細かい火力を調整することもできる。それはあくまでも常識レベルの知識だ。
だが火と水は元々が反発する属性だ。だからこそ魔道具に加工されていない限り、同時には使えないのが一般的だ。
でもその二種類が、元々魔石として合体してるという事は?俺と同じタイミングで、アキトもあまりにも珍しい現象に気づいたらしい。
「ファーガスさん、それはもしかして…」
「ああ、温かい湯が出る魔石だったよ」
キラキラと目を輝かせるアキトの反応は、たまらなく可愛い。風呂のある港町に行った時は、随分はしゃいでいたもんな。
いつかアキトと一緒に一軒家に住むようになったら、一般家庭にはあまり導入されていない魔道具式の風呂を作ろうと俺は密かに決意した。
続いては次兄のウィリアム兄さんだ。
ウィル兄は、辺境騎士団の情報収集部隊の隊長を務めている。有事の際には戦闘やダンジョン制圧にも出向くぐらいだから強さはもちろんかなりのものだが、人当たりの良さが情報収取任務に向いてるんだよな。
他の地域の事にも詳しいウィル兄さんからは、おすすめの地域や土産物、それにその土地の特産品の話をしてもらった。
「俺の一押しはやっぱり北国かな。食べ物は何を食べても美味しいし、太陽に照らされた雪原がキラキラしててすごく綺麗なんだよ!」
ウィル兄の明るくて軽快な口調で紹介されると、どの場所も行きたくなってくるから不思議だ。きっとこの調子で情報を集めてるんだろうな。
どの地域の話にも楽しそうに耳を傾けていたアキトだが、なかでも特に雪国の話にはかなり興味を持ったらしい。雪国かと呟いた様子からして、行ってみたいと思っているんだろう。
「いつか一緒に行こうね」
こっそりと耳元に顔を寄せて囁けば、キラキラと目を輝かせて頷いてくれた。ウィル兄さん、良い情報をありがとう。そう思いながら視線を向ければ、すこし呆れたような顔で笑われてしまった。
「あ、そういえばさ、トライプールの南にある国は、今はあまりお勧めできないから覚えておいて。なんかちょっと危険な気配がするんだよね」
トライプールの南の国――か。
「何か強大な魔物でも出そうなのか?」
「ううん、人同士の対立の方だね」
ああ、人同士の対立か。強い魔物なら種類によっては興味も湧くが、人同士の対立にはかけらも興味は無い。むしろ巻き込まれてしまうと面倒な事になる予感しかしない。
まあそうでなければ、ウィル兄がわざわざ伝えてきたりしないか。
「…そうか。巻き込まれないように気をつける。ウィル兄、情報ありがとう」
辺境領にとってトライプールの南の国は、直接関係も交流もない遠い場所だ。だからきっとこの情報は、俺と、それにアキトのために集めてくれたものだろう。
「ありがとうございます、ウィリアムさん」
アキトも嬉しそうに笑いながら、ウィル兄にお礼の言葉を告げる。
「どういたしましてーあ、また何か情報があったら、手紙出すから」
「ああ、助かるよ」
俺達が話しているのを待っている間に、キースはすこしだけ人見知りが戻ってきてしまったようだ。少しだけ恥ずかしそうな様子だったが、それでも自分からアキトに近づいていきそっと声をかける。
「あ、あの、アキトさんが…」
きっと勇気を振り絞って話しかけたんだろう。声をかけられたアキトは、さっとしゃがみこむと、優しい笑みを浮かべてうんうんと頷きながら聞いてくれている。
みんなはキースの行動に一瞬だけ驚いた顔をしたが、次の瞬間には成長を喜ぶ温かい笑みを浮かべて見守っている。
ここで変に声を出して、キースを萎縮させたくないからな。
「最初に使えるように、なった、魔法は何ですか?」
「最初の魔法は…浄化魔法だね」
ああ、そうだったな。あの時は同行していた幽霊のカルツさんが、浄化魔法が一番便利だって話をしていたんだった。アキトは説明を聞いただけで魔法を発動させたんだよな。
「浄化魔法ってむずかしいんですよ!すごいですね」
キースは目をキラキラと輝かせながら、興奮した様子で格好良い!と褒めている。
そうか、浄化魔法は難しいのか。まだうまく魔法が発動できずに悩んでいるキースには、絶対に説明を聞いただけでと発動したとは言うまい。
俺はそう決意しながら、照れくさそうに笑みを浮かべるアキトを見つめていた。
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