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822.【ハル視点】アキトからの信頼
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ちらりと視線を向けて様子を伺えば、アキトは困ったような表情を浮かべて自身の二の腕をぐっと掴んでみていた。自分に筋肉があればとか考えていそうな表情だ。
ああ、アキトがすごく気にしているじゃないか。
「アキト、兄がごめんね…」
「ううん、大丈夫だよ」
あんな表情をしていたのに、アキトはすぐにぶんぶんと首を振って否定した。
思わずじろりと睨んでしまったが、ファーガス兄さんはしょんぼりと肩を落として反省中だった。あんなに華奢な年下の子にひどい事を言ってしまったなんて…と衝撃を受けているんだろうな。
まあ、兄さんにフォローを入れるつもりは無いけどな。
俺はその場にいる全員をぐるりと見回してから、みせつけるように自慢げな笑みを浮かべた。
「アキトの魔法は本当にすごいんだけど――こればっかりは、いくら俺が口で説明しても信じられないよね」
お前がそこまで言うのか?と言いたげな視線を父とファーガス兄さんから向けられたけれど、綺麗に無視をして続ける。母はすっかりアキト側に立っているらしく、楽し気に頷いていた。
「アキトの魔法の腕前を見て貰わないと理解できないと思うんだ」
「ほほう。アキトくんの腕前は、そんなにすごいのか?」
いつの間に反省から戻ってきたのか、ファーガス兄さんは真剣な表情でそう尋ねてきた。
「ああ、金級のドロシーが、弟子と認めるぐらいだからな」
辺境領では金級冒険者のリストは毎年欠かさず入手しているから、きっと名前ぐらいは知っているだろう。そう思ってアキトの師匠であるドロシーの名前を出せば、ウィル兄さんは驚いた様子で口を開いた。
「あのドロシーさんが?」
そこであのという言葉が出ると言う事は、おそらくドロシーは辺境領にも来た事があるんだろうな。そう思って聞いていたんだが、予想外にも母が不思議そうに首を傾げた。
「でも確かあいつは弟子はとらないって言ってなかったか?」
話した事があるほどの知り合いなのかと内心では密かに驚きつつも、平静を装って俺は答えた。
「ギルドの講習でメロウが呼んだんだが、アキトの事を気に入ってな」
同じ感覚派だった事もすこしは関係があるかも知れないが、おそらくアキトの人柄だろうな。
「それじゃあ今から」
「待った!」
すぐに見せてくれと続きそうな母の言葉を、俺は慌てて遮った。
「今は顔合わせの場だろ?さすがに今からすぐにとは言わせないからね?」
「ええー?」
「ええーとか言わない!今日は駄目だからね!」
「…分かった。じゃあ後日な」
「そうか。日程が決まったら、私もぜひ参加させて欲しいな」
面白いと言いたげな笑みを浮かべた父の言葉に、ファーガス兄さんとウィル兄さんもすぐさま参加を表明してきた。
「あの…僕もアキトさんの魔法見たいです!」
人見知りのキースも、控え目に手をあげながらそう主張している。うんうん、本当にアキトの前では緊張しなくなってきたみたいで何よりだ。
ついさっき今すぐにと口走りそうになった母も、当然だが私も参加するぞと笑顔で言いきった。
「あの素早さで魔力を練れるなら、きっと攻撃魔法自体もすごいだろうからな」
母は魔法が得意じゃないんだが、そこはきちんと理解しているんだな。
さて、ここまでは勝手に盛り上がってしまったけれど、後はアキトの意思を確認しないとな。もしここでアキトに無理だと言われたとしても、俺が認めるほどの魔法の腕前があるんだと印象付ける事ができただろうしな。
「まあでもアキトが嫌だって言うなら、俺は無理強いしないし、みんなにも無理強いはさせないからね?」
分かってるよねと周りを睨んで牽制すれば、アキトは可愛い笑みをこぼした。
「アキト、どう思う?」
言葉にはしない表情の変化まで読み取るつもりだったが、アキトはあっさりと答えた。
「うん、分かった。後日ね」
あまりにも素直に魔法の披露を受け入れたアキトに、家族たちは少しだけ驚いた様子を見せた。まあ驚くよな、俺もすこしだけ驚いているくらいだ。
「本当に良いのかい?」
父に至っては、あからさまに心配そうな表情を浮かべてアキトの顔をじっと見つめている。もしかしたら断れないだけじゃないか?って不安になっている顔だな。
確かにこれだけの顔ぶれの前で魔法を披露しろと言われれば、普通の人なら全力で拒絶してもおかしくない事ではあるか。
心配そうにアキトを見つめる周囲の反応に反して、アキトは思わず見惚れてしまうような笑みを浮かべた。
「自分の魔法の腕前はそんなにすごくはないと、自分では思ってますけど」
やっぱり自分の魔法の腕前についての認識は、それぐらいなのか。ことあるごとにアキトの魔法はすごいと教えているつもりなんだがな。
「――でも、ハルがみなさんに見せようとするなら見せます。そこには絶対に意味があるので」
アキトがそう断言したその瞬間の、俺の気持ちが分かるだろうか。
自分の腕前を誇っているわけでも、実力を自慢したいというわけでもない。ただ俺の判断だけを信じて、慣れない相手の前でも実力を披露する。
そんな心からの信頼を寄せられている事が嬉しくて、くすぐったくて、愛おしい気持ちになった。
あー多分今の俺は相当緩んだ顔をしているんだろうな。
そう思った瞬間、こそこそと話す周りの声が聞こえてきた。
「うわーあのハルがこの表情」
「我が息子ながらだらしの無い顔だな」
「父さんも母さん見てる時あんな目してるよ?」
「本当に良い人に出逢えたんだな」
「アキトさんと、魔法のお話し、したいなー」
キースはまあ良いとして、聞こえてるぞ。
ああ、アキトがすごく気にしているじゃないか。
「アキト、兄がごめんね…」
「ううん、大丈夫だよ」
あんな表情をしていたのに、アキトはすぐにぶんぶんと首を振って否定した。
思わずじろりと睨んでしまったが、ファーガス兄さんはしょんぼりと肩を落として反省中だった。あんなに華奢な年下の子にひどい事を言ってしまったなんて…と衝撃を受けているんだろうな。
まあ、兄さんにフォローを入れるつもりは無いけどな。
俺はその場にいる全員をぐるりと見回してから、みせつけるように自慢げな笑みを浮かべた。
「アキトの魔法は本当にすごいんだけど――こればっかりは、いくら俺が口で説明しても信じられないよね」
お前がそこまで言うのか?と言いたげな視線を父とファーガス兄さんから向けられたけれど、綺麗に無視をして続ける。母はすっかりアキト側に立っているらしく、楽し気に頷いていた。
「アキトの魔法の腕前を見て貰わないと理解できないと思うんだ」
「ほほう。アキトくんの腕前は、そんなにすごいのか?」
いつの間に反省から戻ってきたのか、ファーガス兄さんは真剣な表情でそう尋ねてきた。
「ああ、金級のドロシーが、弟子と認めるぐらいだからな」
辺境領では金級冒険者のリストは毎年欠かさず入手しているから、きっと名前ぐらいは知っているだろう。そう思ってアキトの師匠であるドロシーの名前を出せば、ウィル兄さんは驚いた様子で口を開いた。
「あのドロシーさんが?」
そこであのという言葉が出ると言う事は、おそらくドロシーは辺境領にも来た事があるんだろうな。そう思って聞いていたんだが、予想外にも母が不思議そうに首を傾げた。
「でも確かあいつは弟子はとらないって言ってなかったか?」
話した事があるほどの知り合いなのかと内心では密かに驚きつつも、平静を装って俺は答えた。
「ギルドの講習でメロウが呼んだんだが、アキトの事を気に入ってな」
同じ感覚派だった事もすこしは関係があるかも知れないが、おそらくアキトの人柄だろうな。
「それじゃあ今から」
「待った!」
すぐに見せてくれと続きそうな母の言葉を、俺は慌てて遮った。
「今は顔合わせの場だろ?さすがに今からすぐにとは言わせないからね?」
「ええー?」
「ええーとか言わない!今日は駄目だからね!」
「…分かった。じゃあ後日な」
「そうか。日程が決まったら、私もぜひ参加させて欲しいな」
面白いと言いたげな笑みを浮かべた父の言葉に、ファーガス兄さんとウィル兄さんもすぐさま参加を表明してきた。
「あの…僕もアキトさんの魔法見たいです!」
人見知りのキースも、控え目に手をあげながらそう主張している。うんうん、本当にアキトの前では緊張しなくなってきたみたいで何よりだ。
ついさっき今すぐにと口走りそうになった母も、当然だが私も参加するぞと笑顔で言いきった。
「あの素早さで魔力を練れるなら、きっと攻撃魔法自体もすごいだろうからな」
母は魔法が得意じゃないんだが、そこはきちんと理解しているんだな。
さて、ここまでは勝手に盛り上がってしまったけれど、後はアキトの意思を確認しないとな。もしここでアキトに無理だと言われたとしても、俺が認めるほどの魔法の腕前があるんだと印象付ける事ができただろうしな。
「まあでもアキトが嫌だって言うなら、俺は無理強いしないし、みんなにも無理強いはさせないからね?」
分かってるよねと周りを睨んで牽制すれば、アキトは可愛い笑みをこぼした。
「アキト、どう思う?」
言葉にはしない表情の変化まで読み取るつもりだったが、アキトはあっさりと答えた。
「うん、分かった。後日ね」
あまりにも素直に魔法の披露を受け入れたアキトに、家族たちは少しだけ驚いた様子を見せた。まあ驚くよな、俺もすこしだけ驚いているくらいだ。
「本当に良いのかい?」
父に至っては、あからさまに心配そうな表情を浮かべてアキトの顔をじっと見つめている。もしかしたら断れないだけじゃないか?って不安になっている顔だな。
確かにこれだけの顔ぶれの前で魔法を披露しろと言われれば、普通の人なら全力で拒絶してもおかしくない事ではあるか。
心配そうにアキトを見つめる周囲の反応に反して、アキトは思わず見惚れてしまうような笑みを浮かべた。
「自分の魔法の腕前はそんなにすごくはないと、自分では思ってますけど」
やっぱり自分の魔法の腕前についての認識は、それぐらいなのか。ことあるごとにアキトの魔法はすごいと教えているつもりなんだがな。
「――でも、ハルがみなさんに見せようとするなら見せます。そこには絶対に意味があるので」
アキトがそう断言したその瞬間の、俺の気持ちが分かるだろうか。
自分の腕前を誇っているわけでも、実力を自慢したいというわけでもない。ただ俺の判断だけを信じて、慣れない相手の前でも実力を披露する。
そんな心からの信頼を寄せられている事が嬉しくて、くすぐったくて、愛おしい気持ちになった。
あー多分今の俺は相当緩んだ顔をしているんだろうな。
そう思った瞬間、こそこそと話す周りの声が聞こえてきた。
「うわーあのハルがこの表情」
「我が息子ながらだらしの無い顔だな」
「父さんも母さん見てる時あんな目してるよ?」
「本当に良い人に出逢えたんだな」
「アキトさんと、魔法のお話し、したいなー」
キースはまあ良いとして、聞こえてるぞ。
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