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821.【ハル視点】母の自慢話
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「きちんと反省してくれよ」
「はーい、もう分かったって。ちゃんともう一回アキトにも謝るから」
「ああ、そうしてくれ」
父さんと母さんは、そんな会話をしながら集まっている俺達の方へと近づいてきた。
「アキト、改めて何の説明もせずに腕試しに巻き込んで――本当にすまなかった」
まっすぐに目を見つめながらの謝罪の言葉だ。謝罪を受け取ったアキトは、すぐにいいえと首を振った。
「驚きはしましたけど、ハルの家族の中では当たり前の事だったんですよね」
あれは単なる腕試しだったし、殺意がなかったのは分かっているのでと、アキトはあまりにもあっさりと謝罪を受け入れた。
「ありがとう、アキト」
母は許されたと満足そうだが、これはアキトが優しいおかげだからね?
「ちょっとあっさり許しすぎじゃないか?」
思わずそんな風に口を挟んでしまった。まぁ間違いなく聞こえていたはずの母は、ニコニコと嬉しそうに父を振り返っただけだったが。
「ケイリー、アキトに許してもらえたぞ」
「うん、ちゃんと見てたよ。アキトくん、本当にすまなかった」
私の監視不足だと父にまで謝られたアキトは、慌てた様子でぶんぶんと首を振った。反応が可愛いな。
「ところで、腕試しって何をされたの?」
しんと一瞬だけ静かになった部屋の中に、ウィル兄の明るい声が響いた。
うん、さすがウィル兄だな。室内の空気が一気に明るくなった気がする。こういう気遣いはウィル兄が一番だ。
「木の上から狙われたんだよ」
そう答えれば、ファーガス兄さんはふむと一言呟いた。
「木の上から狙うって事は――弓か?」
「そうそう、予想通り弓矢だよ」
「ほう…ハルは何本だった?」
「5本だな」
手を広げて見せながら答えれば、ウィル兄が声をあげた。
「え、待って、ハル。5本で終わったの?」
「ああ、5本だったよ」
「へー、どうやって止めさせたんだ?」
次回のために教えてくれと、ウィル兄さんはあっさりと頭を下げてみせた。
まぁ俺とウィル兄は、基本的には近距離攻撃だからな。弓も得意なファーガス兄さんとは違うから、本当に参考にしたかったんだろう。
「アキトの前で何してくれてるんだって、俺がナイフを投げた」
「なるほど。距離を投げナイフで稼いだのか、やるなぁ」
「ハル兄さん、すごい!」
キースに尊敬の眼差しで見つめられるのは、やっぱり嬉しいものだな。もっと兄として頑張ろうと思える。
「確かにハルもよくやったが――私が一番驚いたのはアキトの反応だな。ハルが一本目の矢を切り捨てた時には、既に魔力を練り始めていたからな」
さっきからやけに母さんがソワソワしてるなと思ってはいたが、それが言いたかったのか。
「アキトくんが…?」
「え…?」
「魔力を…?」
父さん、ファーガス兄さん、ウィル兄さんが揃ってアキトを大きく見開いた目で見つめているなか、キースだけは目を輝かせて上目遣いにアキトを見上げている。
「もしかしてアキトさんは魔法使いなの?」
あ、魔法に釣られてキースの口調から敬語が消えたな。家族以外には全員敬語で話すキースだから、これは良い傾向だ。
「えっと、うん。そうだよ」
アキトが同じく敬語を消してそう答えれば、キースはさらにキラキラと目を輝かせた。
「魔法使い、すごい!」
「ありがとう」
微笑ましい二人のやりとりの横で、母は嬉しそうに説明を続ける。
「しかもアキトはな、あの一瞬できちんと周りを警戒して、いつでも攻撃魔法を放てるようにしていたんだぞ」
魔法使いでもあそこまで素早く魔力を練れるやつはそうはいないと、母はニコニコと笑顔で続けた。
うん、本当にアキトのことを気に入ったんだな。自分のことのように自慢して回る母の姿に、ついつい笑みがこぼれてしまった。
母とキース以外は、ただ驚いた様子でじーっとアキトを見つめているんだがな。
「…あーアキトくん、その…咄嗟にハルを守ろうとしたの…か?」
父の恐る恐るといった様子の問いかけに、アキトはこくりと頷いてから答えた。
「あ、はい」
「――ハルを…君が?」
ファーガス兄さんの質問には、申し訳ないがアキトが答えるよりも前に、俺が隣から答えた。
「ファーガス兄さん、アキトは強いぞ?」
あえて睨むような視線で見つめればファーガス兄さんは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「いや弱いと言いたいわけじゃないんだが…」
そう言いながら、ファーガス兄さんの視線がアキトの華奢な腕に向いたのが分かった。
ああ、うん。確かにアキトは客観的に見て強そうには見えないかもしれないな。だが魔法使いの強さは肉体の強さに依存しない。
それぐらいはみんなも知っているだろうに?
「はーい、もう分かったって。ちゃんともう一回アキトにも謝るから」
「ああ、そうしてくれ」
父さんと母さんは、そんな会話をしながら集まっている俺達の方へと近づいてきた。
「アキト、改めて何の説明もせずに腕試しに巻き込んで――本当にすまなかった」
まっすぐに目を見つめながらの謝罪の言葉だ。謝罪を受け取ったアキトは、すぐにいいえと首を振った。
「驚きはしましたけど、ハルの家族の中では当たり前の事だったんですよね」
あれは単なる腕試しだったし、殺意がなかったのは分かっているのでと、アキトはあまりにもあっさりと謝罪を受け入れた。
「ありがとう、アキト」
母は許されたと満足そうだが、これはアキトが優しいおかげだからね?
「ちょっとあっさり許しすぎじゃないか?」
思わずそんな風に口を挟んでしまった。まぁ間違いなく聞こえていたはずの母は、ニコニコと嬉しそうに父を振り返っただけだったが。
「ケイリー、アキトに許してもらえたぞ」
「うん、ちゃんと見てたよ。アキトくん、本当にすまなかった」
私の監視不足だと父にまで謝られたアキトは、慌てた様子でぶんぶんと首を振った。反応が可愛いな。
「ところで、腕試しって何をされたの?」
しんと一瞬だけ静かになった部屋の中に、ウィル兄の明るい声が響いた。
うん、さすがウィル兄だな。室内の空気が一気に明るくなった気がする。こういう気遣いはウィル兄が一番だ。
「木の上から狙われたんだよ」
そう答えれば、ファーガス兄さんはふむと一言呟いた。
「木の上から狙うって事は――弓か?」
「そうそう、予想通り弓矢だよ」
「ほう…ハルは何本だった?」
「5本だな」
手を広げて見せながら答えれば、ウィル兄が声をあげた。
「え、待って、ハル。5本で終わったの?」
「ああ、5本だったよ」
「へー、どうやって止めさせたんだ?」
次回のために教えてくれと、ウィル兄さんはあっさりと頭を下げてみせた。
まぁ俺とウィル兄は、基本的には近距離攻撃だからな。弓も得意なファーガス兄さんとは違うから、本当に参考にしたかったんだろう。
「アキトの前で何してくれてるんだって、俺がナイフを投げた」
「なるほど。距離を投げナイフで稼いだのか、やるなぁ」
「ハル兄さん、すごい!」
キースに尊敬の眼差しで見つめられるのは、やっぱり嬉しいものだな。もっと兄として頑張ろうと思える。
「確かにハルもよくやったが――私が一番驚いたのはアキトの反応だな。ハルが一本目の矢を切り捨てた時には、既に魔力を練り始めていたからな」
さっきからやけに母さんがソワソワしてるなと思ってはいたが、それが言いたかったのか。
「アキトくんが…?」
「え…?」
「魔力を…?」
父さん、ファーガス兄さん、ウィル兄さんが揃ってアキトを大きく見開いた目で見つめているなか、キースだけは目を輝かせて上目遣いにアキトを見上げている。
「もしかしてアキトさんは魔法使いなの?」
あ、魔法に釣られてキースの口調から敬語が消えたな。家族以外には全員敬語で話すキースだから、これは良い傾向だ。
「えっと、うん。そうだよ」
アキトが同じく敬語を消してそう答えれば、キースはさらにキラキラと目を輝かせた。
「魔法使い、すごい!」
「ありがとう」
微笑ましい二人のやりとりの横で、母は嬉しそうに説明を続ける。
「しかもアキトはな、あの一瞬できちんと周りを警戒して、いつでも攻撃魔法を放てるようにしていたんだぞ」
魔法使いでもあそこまで素早く魔力を練れるやつはそうはいないと、母はニコニコと笑顔で続けた。
うん、本当にアキトのことを気に入ったんだな。自分のことのように自慢して回る母の姿に、ついつい笑みがこぼれてしまった。
母とキース以外は、ただ驚いた様子でじーっとアキトを見つめているんだがな。
「…あーアキトくん、その…咄嗟にハルを守ろうとしたの…か?」
父の恐る恐るといった様子の問いかけに、アキトはこくりと頷いてから答えた。
「あ、はい」
「――ハルを…君が?」
ファーガス兄さんの質問には、申し訳ないがアキトが答えるよりも前に、俺が隣から答えた。
「ファーガス兄さん、アキトは強いぞ?」
あえて睨むような視線で見つめればファーガス兄さんは、申し訳なさそうに眉を下げた。
「いや弱いと言いたいわけじゃないんだが…」
そう言いながら、ファーガス兄さんの視線がアキトの華奢な腕に向いたのが分かった。
ああ、うん。確かにアキトは客観的に見て強そうには見えないかもしれないな。だが魔法使いの強さは肉体の強さに依存しない。
それぐらいはみんなも知っているだろうに?
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