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812.【ハル視点】着替え
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包みを開ければ、そこにあるのはこだわり抜いて作った礼服だ。鮮やかな黒い布に、アキトの眼と髪の色から連想した、黒と茶色の刺繍が細やかに入れられている。
アキトに俺の色をまとってもらうなら、俺もアキトの色をまといたい。そんな我儘で勝手に用意したものだが、アキトにも喜んでもらえたのは嬉しい誤算だったな。
そんな事を考えながらも着替えを終えた俺は、大きな鏡へと向き直った。途端に視界に飛び込んできた自分の姿に、自然と笑みがこぼれてしまった。
トライプール騎士団の制服は白基調だし、冒険者の時は白か茶色系の服を選ぶ事が多い。黒は元々好きな色ではあるんだが、自分には似合わないような気がして滅多に選ぶ事はなかった。
そんな俺だから似合うかどうかとすこしだけ心配していたんだが――どうやらそんな心配は必要なかったらしい。アキトの色を身に着けた俺は、思った以上にしっくりと馴染んでいる。
まあアキトの色が似合う事が嬉しくて、顔はだらしなく緩んでいるけどな。
こんな顔でアキトの前には出れないな。軽く自分の頬を叩いて気合を入れてから、俺はそっとついたてから出た。
「アキト、どう?着替え終わった?」
アキトのいるついたてに向かって声をかければ、元気な声がかえってきた。
「うん!」
「…じゃあこっちに出てきて。あの服を着たアキトを、俺に見せて?」
より正確に言うなら、俺の色に包まれたアキトを見せて欲しい――だな。きっとアキトにはよく似合うから。
見せて欲しいと甘えるように言葉を重ねる。
アキトはすぐについたてから出てきてくれたんだが、情けない事に俺はアキトの姿を見るなり、褒め言葉の一つも出せずに固まってしまった。
アキトの艶やかな黒髪に、白い布地と金色と紫の刺繍がよく映えている。この服はアキトの黒髪を目立たせるための服だと言っても、過言では無いかもしれない。
ついそんな事を考えてしまうぐらい、礼服を着こなしているアキトは美しかった。
ああ、華奢な身体に沿うように作られた、あの服の形もよく似合っているな。今度あの形で他の服も作ってもらっても良いかもしれない。
誰にも見せたくないなんて言葉が、じわりと浮かんでは消えて行った。
お互いがお互いをただまじまじと見つめる時間が過ぎてから、俺は目を細めてアキトへと近づいた。
「アキト、よく似合ってる。惚れ直した」
「ハルの方こそ、すっごく格好良いよ。…俺も惚れ直した」
小声でぽつりと付け加えられた言葉に自然と頬が緩んだ。惚れ直したと言ってもらえるのは光栄だな。
照れくさそうに笑うアキトは、驚くほど可愛い。
「あー、このままアキトを抱きしめて俺の部屋に連れていきたいな」
ふざけた振りをして本音を告げる。そのままベッドに連れ込みたいとはさすがに口にはしなかったが、できるものなら実行したい気分だ。
「えっと…ハルのご家族に挨拶はさせて欲しいな」
「うん、分かってるんだけどね。想像以上に似合ってるから、誰にも見せたくないと思って」
「うん、気持ちは分かるけどね」
気持ちは分かってくれるんだ。あー可愛い。本当に可愛いな。このまま口づけたい衝動をなんとかこらえて、俺は何でもないようなふりをして続けた。
「そうも言ってられないから、髪、整えようか」
小さな櫛を取り出した俺は、アキトの髪に手を伸ばした。
しっかりと二人揃って身なりを整えてから、俺達は今執事の案内で城の中の長い廊下を歩いている。
そこかしこに置かれている絵画や鎧、剣などの飾りをゆったりと眺めながら、俺達はゆっくりと廊下を進んでいく。
こういう場所は飾られているものを鑑賞しながら歩くのがマナーだと事前に説明はしていたんだけど、アキトはキラキラと目を輝かせながら楽しんでいる。
あまりにアキトが楽しそうに見ているからか、執事はすこし遠回りの道を選んで案内しているようだ。こちらの道はすこし遠回りにはなるが、確かにアキトが好きそうな物が多いからな。俺に文句は無い。
こどもの頃の俺たち兄弟の絵や、辺境領の名所を描いた絵、それに父の鎧と剣を見ては目を輝かせるアキトが可愛くて、俺も結構楽しんでしまった。
「ハル様、アキト様、こちらです」
俺とアキトの顔を順番に見つめた執事は、そっとドアを開いてくれた。
「どうぞお入り下さい」
失礼しますと声をかけて入室すれば、アキトも続いて足を踏み入れた。大きな暖炉のある部屋の中に並んでいるのは、父と母、それに二人の兄と弟だった。それぞれの伴侶はこの後の食事会に連れてくるつもりなんだろう。
「父上、母上、ハロルドが伴侶候補を連れて戻ってまいりました」
ここは儀礼通りに対応しようとすっと胸の前で騎士の礼をした俺の横に、アキトは寄り添うように立ってぺこりと頭を下げた。
「よくぞ帰った。そしてようこそ、ハロルドの伴侶候補殿」
声をかけられてるまで待ってから、アキトはすっと頭をあげた。
「ご紹介します。私の伴侶候補、アキト ヒイラギです」
「はじめまして、アキト ヒイラギと申します」
緊張のせいか少しだけぎこちないが、それもまた慣れない感じで可愛らしい。そう思うのは伴侶候補の欲目だろうか。
アキトと目があった父は、ニッコリと優し気な笑みを浮かべた。威圧感のある体格とあの広く知られてる逸話のせいで怖がられるからと、必死で身に着けた対外的な笑顔だ。
「私がこの家の家長、辺境領伯ケイリー・ウェルマールだ」
笑顔を絶やさずに怖がらせないようにと気を使って挨拶をしている所申し訳ないんだが、アキトは多分今本物だーとか感動していると思うよ。
アキトに俺の色をまとってもらうなら、俺もアキトの色をまといたい。そんな我儘で勝手に用意したものだが、アキトにも喜んでもらえたのは嬉しい誤算だったな。
そんな事を考えながらも着替えを終えた俺は、大きな鏡へと向き直った。途端に視界に飛び込んできた自分の姿に、自然と笑みがこぼれてしまった。
トライプール騎士団の制服は白基調だし、冒険者の時は白か茶色系の服を選ぶ事が多い。黒は元々好きな色ではあるんだが、自分には似合わないような気がして滅多に選ぶ事はなかった。
そんな俺だから似合うかどうかとすこしだけ心配していたんだが――どうやらそんな心配は必要なかったらしい。アキトの色を身に着けた俺は、思った以上にしっくりと馴染んでいる。
まあアキトの色が似合う事が嬉しくて、顔はだらしなく緩んでいるけどな。
こんな顔でアキトの前には出れないな。軽く自分の頬を叩いて気合を入れてから、俺はそっとついたてから出た。
「アキト、どう?着替え終わった?」
アキトのいるついたてに向かって声をかければ、元気な声がかえってきた。
「うん!」
「…じゃあこっちに出てきて。あの服を着たアキトを、俺に見せて?」
より正確に言うなら、俺の色に包まれたアキトを見せて欲しい――だな。きっとアキトにはよく似合うから。
見せて欲しいと甘えるように言葉を重ねる。
アキトはすぐについたてから出てきてくれたんだが、情けない事に俺はアキトの姿を見るなり、褒め言葉の一つも出せずに固まってしまった。
アキトの艶やかな黒髪に、白い布地と金色と紫の刺繍がよく映えている。この服はアキトの黒髪を目立たせるための服だと言っても、過言では無いかもしれない。
ついそんな事を考えてしまうぐらい、礼服を着こなしているアキトは美しかった。
ああ、華奢な身体に沿うように作られた、あの服の形もよく似合っているな。今度あの形で他の服も作ってもらっても良いかもしれない。
誰にも見せたくないなんて言葉が、じわりと浮かんでは消えて行った。
お互いがお互いをただまじまじと見つめる時間が過ぎてから、俺は目を細めてアキトへと近づいた。
「アキト、よく似合ってる。惚れ直した」
「ハルの方こそ、すっごく格好良いよ。…俺も惚れ直した」
小声でぽつりと付け加えられた言葉に自然と頬が緩んだ。惚れ直したと言ってもらえるのは光栄だな。
照れくさそうに笑うアキトは、驚くほど可愛い。
「あー、このままアキトを抱きしめて俺の部屋に連れていきたいな」
ふざけた振りをして本音を告げる。そのままベッドに連れ込みたいとはさすがに口にはしなかったが、できるものなら実行したい気分だ。
「えっと…ハルのご家族に挨拶はさせて欲しいな」
「うん、分かってるんだけどね。想像以上に似合ってるから、誰にも見せたくないと思って」
「うん、気持ちは分かるけどね」
気持ちは分かってくれるんだ。あー可愛い。本当に可愛いな。このまま口づけたい衝動をなんとかこらえて、俺は何でもないようなふりをして続けた。
「そうも言ってられないから、髪、整えようか」
小さな櫛を取り出した俺は、アキトの髪に手を伸ばした。
しっかりと二人揃って身なりを整えてから、俺達は今執事の案内で城の中の長い廊下を歩いている。
そこかしこに置かれている絵画や鎧、剣などの飾りをゆったりと眺めながら、俺達はゆっくりと廊下を進んでいく。
こういう場所は飾られているものを鑑賞しながら歩くのがマナーだと事前に説明はしていたんだけど、アキトはキラキラと目を輝かせながら楽しんでいる。
あまりにアキトが楽しそうに見ているからか、執事はすこし遠回りの道を選んで案内しているようだ。こちらの道はすこし遠回りにはなるが、確かにアキトが好きそうな物が多いからな。俺に文句は無い。
こどもの頃の俺たち兄弟の絵や、辺境領の名所を描いた絵、それに父の鎧と剣を見ては目を輝かせるアキトが可愛くて、俺も結構楽しんでしまった。
「ハル様、アキト様、こちらです」
俺とアキトの顔を順番に見つめた執事は、そっとドアを開いてくれた。
「どうぞお入り下さい」
失礼しますと声をかけて入室すれば、アキトも続いて足を踏み入れた。大きな暖炉のある部屋の中に並んでいるのは、父と母、それに二人の兄と弟だった。それぞれの伴侶はこの後の食事会に連れてくるつもりなんだろう。
「父上、母上、ハロルドが伴侶候補を連れて戻ってまいりました」
ここは儀礼通りに対応しようとすっと胸の前で騎士の礼をした俺の横に、アキトは寄り添うように立ってぺこりと頭を下げた。
「よくぞ帰った。そしてようこそ、ハロルドの伴侶候補殿」
声をかけられてるまで待ってから、アキトはすっと頭をあげた。
「ご紹介します。私の伴侶候補、アキト ヒイラギです」
「はじめまして、アキト ヒイラギと申します」
緊張のせいか少しだけぎこちないが、それもまた慣れない感じで可愛らしい。そう思うのは伴侶候補の欲目だろうか。
アキトと目があった父は、ニッコリと優し気な笑みを浮かべた。威圧感のある体格とあの広く知られてる逸話のせいで怖がられるからと、必死で身に着けた対外的な笑顔だ。
「私がこの家の家長、辺境領伯ケイリー・ウェルマールだ」
笑顔を絶やさずに怖がらせないようにと気を使って挨拶をしている所申し訳ないんだが、アキトは多分今本物だーとか感動していると思うよ。
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