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807.【ハル視点】幽霊だらけの街なみ
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辺境領の中がこんなに幽霊だらけだとは、さすがに想像すらしていなかったな。
以前の俺には幽霊を見る能力なんて一切無かったから、この状況がこの街では当たり前なのか、それとも何らかの理由があって集まってきているのかすら分からない。
他の街でも幽霊をみかける事はあったが、ここまで多いのは初めて見た。
「すごいね…ハル」
「あ、ああ…すごいな、アキト」
戸惑う俺と違って、咄嗟に何がとは言わずに声をかけてくれるアキトの機転はすばらしいな。本当に幽霊の対処に慣れているんだな。いや、慣れるしかなかったんだろうか。
きっと何も知らない人から見れば、俺達はただ辺境領の活気あふれる街並みに驚いてる観光客にでも見えるんだろうな。実際には幽霊あふれる街並みに驚いているわけだが。
ああ、でもいつまでもここで立ち尽くしていても仕方ないか。少なくともアキトが教えてくれたような危険そうな幽霊はいない事をさっと確認してから、案内を再開する事に決めた。
「こっちだよ、アキト」
「うん、ありがとう」
この状況でも笑顔を浮かべてお礼を言えるアキトに感心しつつまっすぐに道を進んでいくと、ずらりと大きな建物が並ぶ大通りへと出た。
「この街の建物は黒い色を使うんだね?」
まじまじと建物を観察していたアキトが、不意に振り返ってそう尋ねてきた。
「ああ、他の地域ではあまり使われない素材を使ってるんだよ」
「え、そうなの?統一感があって格好良いよね」
どうやらヴァコクを使った建物は、アキトの好みにあったようだ。
「あの黒い木はヴァコクという素材なんだ」
「へーヴァコクかぁ」
「ちなみにあの黒色は染めてあるとか塗ってあるとかそういうのじゃなくてね、木材そのものの色なんだよ」
「素材の色が黒いんだ!?」
興味深そうにじーっとヴァコクを観察していたアキトは、これって使われてる理由とかあるの?と真剣な表情で尋ねてくる。
これだけ使われるなら理由がある筈だと考えるのは、冒険者として素材と向き合っているからだろうか。
「ああ、ヴァコクはかなり燃えにくいんだ」
「え…燃えにくいって…木なのに?」
この素材を初めて知った人は、みんなそれを尋ねるんだよな。俺も初めて知った時は聞いたなと思い出しながら、俺は説明を続けた。
「そう、木なのに。ちなみに火魔法を投げつけたぐらいじゃ燃えないよ」
「えーそれはすごいね」
感心しつつもすこし不思議そうな表情を浮かべているのは、なんで燃えないじゃなくて燃えにくいなの?とでも考えているんだろうな。
「一応燃えにくいって言うのにも理由があるよ。さすがにドラゴンの炎には耐えられなかったんだ」
昔は何があっても燃えないと言っていたが、一度ドラゴンに燃やされてからは燃えにくいと表現するようになった。まあ実際にそうそうドラゴンが街中に現れる事なんて無いから、もはや言葉遊びみたいなものなんだが。
アキトが気にかけた物をあれこれと説明しながらゆっくりと進んでいけば、辿り着いたのは大きな広場だ。広場の真ん中には大きな噴水があって、色とりどりの屋台や露店がずらりと立ち並んでいる。
色とりどりの珍しい果物や野菜が山積みになっていて、呼び込みの声や値切りの元気な声がそこかしこから聞こえてくる。
他の街と比べても遜色が無いぐらいには賑やかな市場だ。
「ここはこの領で一番大きな市場なんだ。特に食べ物が色々あってお勧めだよ」
「へー食べ物がお勧めなんだ」
アキトはキョロキョロと楽し気に周りを見渡した。
「あ、あれは初めて見たかも」
「ん?どれ?」
「あのトゲトゲしてる黄色のやつ」
「あーあれはね…」
味から由来まで詳しく説明をしてから、気になるなら寄っていく?と俺は笑顔で尋ねた。寄り道をする時間ぐらいはあるからと思っての提案だったが、アキトは少しだけ考えてからふるふると首を振った。
あれ?寄りたいと返ってくると思ったんだけどな。
「興味はあるけど、今日はハルの家族に会うのが一番大事な予定だから」
「…っ!そう…だね。また改めて見に来ようか」
さらりと一番大事な予定と言ってくれるなんて。可愛いアキトを思いっきり抱きしめたい気持ちと戦いながら、俺は誤魔化すようにニコリと笑みを浮かべた。
「うん、約束しよ」
へへと笑ったアキトのあまりの可愛さに、いつもの癖で思わず手を差し出してしまった。すぐさま握り返してくれるのが嬉しい。領主城前の森に入るまでは手を繋いでいても良いか。
周りの気配だけはきちんと探っておこうと思って視線をあげると、キョロキョロと周りを見渡しているまだ幼いこどもの幽霊二人組が目に止まった。顔は全く似てないから、別に兄弟とかでは無いんだろうな。
「いない…」
「いないねぇ」
少し年上に見える少年の言葉に、年下の少年がしょんぼりと肩を落として答える。
「つぎはあっちにいってみよっか」
「ん、あきらめない」
「ぜーったい、みつけようね」
「がんばる」
会話の内容からしておそらく誰かを探しているんだろう。もしここが人目が無い場所なら、優しいアキトはきっと声をかけていただろうな。
少年たち二人が市場を抜けて大通りの方へと去って行くのを、アキトは無言のままじっと見送った。
以前の俺には幽霊を見る能力なんて一切無かったから、この状況がこの街では当たり前なのか、それとも何らかの理由があって集まってきているのかすら分からない。
他の街でも幽霊をみかける事はあったが、ここまで多いのは初めて見た。
「すごいね…ハル」
「あ、ああ…すごいな、アキト」
戸惑う俺と違って、咄嗟に何がとは言わずに声をかけてくれるアキトの機転はすばらしいな。本当に幽霊の対処に慣れているんだな。いや、慣れるしかなかったんだろうか。
きっと何も知らない人から見れば、俺達はただ辺境領の活気あふれる街並みに驚いてる観光客にでも見えるんだろうな。実際には幽霊あふれる街並みに驚いているわけだが。
ああ、でもいつまでもここで立ち尽くしていても仕方ないか。少なくともアキトが教えてくれたような危険そうな幽霊はいない事をさっと確認してから、案内を再開する事に決めた。
「こっちだよ、アキト」
「うん、ありがとう」
この状況でも笑顔を浮かべてお礼を言えるアキトに感心しつつまっすぐに道を進んでいくと、ずらりと大きな建物が並ぶ大通りへと出た。
「この街の建物は黒い色を使うんだね?」
まじまじと建物を観察していたアキトが、不意に振り返ってそう尋ねてきた。
「ああ、他の地域ではあまり使われない素材を使ってるんだよ」
「え、そうなの?統一感があって格好良いよね」
どうやらヴァコクを使った建物は、アキトの好みにあったようだ。
「あの黒い木はヴァコクという素材なんだ」
「へーヴァコクかぁ」
「ちなみにあの黒色は染めてあるとか塗ってあるとかそういうのじゃなくてね、木材そのものの色なんだよ」
「素材の色が黒いんだ!?」
興味深そうにじーっとヴァコクを観察していたアキトは、これって使われてる理由とかあるの?と真剣な表情で尋ねてくる。
これだけ使われるなら理由がある筈だと考えるのは、冒険者として素材と向き合っているからだろうか。
「ああ、ヴァコクはかなり燃えにくいんだ」
「え…燃えにくいって…木なのに?」
この素材を初めて知った人は、みんなそれを尋ねるんだよな。俺も初めて知った時は聞いたなと思い出しながら、俺は説明を続けた。
「そう、木なのに。ちなみに火魔法を投げつけたぐらいじゃ燃えないよ」
「えーそれはすごいね」
感心しつつもすこし不思議そうな表情を浮かべているのは、なんで燃えないじゃなくて燃えにくいなの?とでも考えているんだろうな。
「一応燃えにくいって言うのにも理由があるよ。さすがにドラゴンの炎には耐えられなかったんだ」
昔は何があっても燃えないと言っていたが、一度ドラゴンに燃やされてからは燃えにくいと表現するようになった。まあ実際にそうそうドラゴンが街中に現れる事なんて無いから、もはや言葉遊びみたいなものなんだが。
アキトが気にかけた物をあれこれと説明しながらゆっくりと進んでいけば、辿り着いたのは大きな広場だ。広場の真ん中には大きな噴水があって、色とりどりの屋台や露店がずらりと立ち並んでいる。
色とりどりの珍しい果物や野菜が山積みになっていて、呼び込みの声や値切りの元気な声がそこかしこから聞こえてくる。
他の街と比べても遜色が無いぐらいには賑やかな市場だ。
「ここはこの領で一番大きな市場なんだ。特に食べ物が色々あってお勧めだよ」
「へー食べ物がお勧めなんだ」
アキトはキョロキョロと楽し気に周りを見渡した。
「あ、あれは初めて見たかも」
「ん?どれ?」
「あのトゲトゲしてる黄色のやつ」
「あーあれはね…」
味から由来まで詳しく説明をしてから、気になるなら寄っていく?と俺は笑顔で尋ねた。寄り道をする時間ぐらいはあるからと思っての提案だったが、アキトは少しだけ考えてからふるふると首を振った。
あれ?寄りたいと返ってくると思ったんだけどな。
「興味はあるけど、今日はハルの家族に会うのが一番大事な予定だから」
「…っ!そう…だね。また改めて見に来ようか」
さらりと一番大事な予定と言ってくれるなんて。可愛いアキトを思いっきり抱きしめたい気持ちと戦いながら、俺は誤魔化すようにニコリと笑みを浮かべた。
「うん、約束しよ」
へへと笑ったアキトのあまりの可愛さに、いつもの癖で思わず手を差し出してしまった。すぐさま握り返してくれるのが嬉しい。領主城前の森に入るまでは手を繋いでいても良いか。
周りの気配だけはきちんと探っておこうと思って視線をあげると、キョロキョロと周りを見渡しているまだ幼いこどもの幽霊二人組が目に止まった。顔は全く似てないから、別に兄弟とかでは無いんだろうな。
「いない…」
「いないねぇ」
少し年上に見える少年の言葉に、年下の少年がしょんぼりと肩を落として答える。
「つぎはあっちにいってみよっか」
「ん、あきらめない」
「ぜーったい、みつけようね」
「がんばる」
会話の内容からしておそらく誰かを探しているんだろう。もしここが人目が無い場所なら、優しいアキトはきっと声をかけていただろうな。
少年たち二人が市場を抜けて大通りの方へと去って行くのを、アキトは無言のままじっと見送った。
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