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805.顔合わせのご挨拶
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「お会いできて光栄です」
本物だーなんて考えながらも、咄嗟にそう返せたのは運が良かったかもしれない。
「ねえ、礼儀作法にのっとったやりとりはもう終わりにしませんか?」
不意にそう声をあげたのは、ケイリーさんの隣に並んで立っているドレスを着た女性だった。赤茶色の髪を美しく結い上げているその女性は、太陽に照らされた木々のような緑の瞳で俺とハルをじっと見つめている。
あれって、グレースさん…だよね?さっきまではショートカットに鎧だったのに、今はドレスに結い上げた髪、うっすらとお化粧まで施されている。こうして見るとすごく美人な人だったんだな。
声と話し方もさっきと違ってすごく女性的だ。
ケイリーさんは驚いた様子で、大きく目を見開いてグレースさんを見つめていた。
「グレース…?」
「アキトは別にそういう作法とかにうるさくないから」
大丈夫大丈夫と笑って答えたグレースさんは、もうさっき会った時と同じようなくだけた喋り方だった。見た目は美しい女性なのに、喋り方は男性的ですこしだけ違和感がある。
「…ちょっと待て、グレース。なぜ君がそれを知ってるんだ?」
「えー?」
「ハル、もしかして…」
ケイリーさんは困り顔でハルに視線を向ける。
「ああ、来たよ、俺の腕試しに」
「あ、バラすなよ、ハル!」
グレースさんが口止めをしようとするけれど、ハルはバラすに決まってるだろと普通に返している。
「今回は伴侶候補が一緒に来るんだから、腕試しは挨拶の後にって皆で決めただろう?」
「決めたけどさーそう考える裏をかかないと意味が無いだろ?」
「裏をかくって…」
「実際、ハルもそう考えてたから油断しきってたし」
「あー…うん。確かに油断はしてたな」
「一番油断した所を狙った方が、意味があるだろ」
「いや、そうは言っても、アキト君の立場になって考えたら…」
「そうだよ、俺は良いけど、アキトがいるんだからもう少しぐらい考えてくれても…」
厳しい視線を向けて文句を言うハルと、怖い顔で叱るケイリーさんに詰め寄られても、グレースさんはニコニコと笑って流している。
「二人とも怪我はしなかったんだから良いじゃないか」
あの迫力を前にしてそう言いきれるって、すごいな。グレースさんは強い人だ。ハルだけを狙って攻撃してきた事に腹を立ててたけど、あれが家族では当たり前の腕試しだって言われたら文句なんて言えないし。
そんな事を考えなからハルとご両親のやりとりを眺めていると、後ろからそっと声をかけられた。
「アキトくん、騒がしくてすまないね」
穏やかな声に慌てて振り返れば、そこにはハルとそっくりな風貌の男性が立っていた。身長はたぶんハルと同じぐらいだけど、身体の厚みはハルよりもありそうだ。キリリと引き締まった表情が、クールな雰囲気によく似合っている。
「はじめまして。私はファーガス、ハルの一番上の兄だ」
「はじめまして、アキトと言います」
この人が五歳も上なのにたまに双子に間違われるってハルが言ってたお兄さんか。
「ハルの伴侶候補に会える日が来るとは思ってなかったよ、これからよろしく」
ファーガスさんはそう言うなり、ふわりと笑みを浮かべた。あ、ハルと同じ笑い方だ。
「こちらこそよろしくおねがいします」
「あ、ファ―ガス兄さんが抜け駆けしてるー!アキト君、久しぶり」
ひょこっとファーガスさんの後ろから顔を出しながら軽い口調で声をかけてくれたのは、船の上でも会ったハルの二番目のお兄さんウィリアムさんだ。
「ウィリアムさん、お久しぶりです!」
「船で会った時から、君がハルの伴侶候補になってくれたら良いのにーって思ってたんだ」
あの後すぐに伴侶候補になったんだって?とニコニコ笑顔で尋ねられた俺は、照れながらもこくりと頷いた。
「はい、あの船の上で…」
「そっかそっかー」
「兄様たち、僕も挨拶したい…です」
聞こえてきた小さな声にそっと視線を下げれば、ウィリアムさんの腰に後ろから抱き着くようにして立っている少年の姿が見えた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
顔の見えない少年にとりあえずそう挨拶をしてみれば、照れくさそうに笑いながら少年は顔を見せてくれた。
うわーすっごい美少年だ。
金髪の髪の毛はすこし癖があるのかふわふわとあちこちにはねていて、上目遣いに見つめてくる目はグレースさん譲りの新緑の色だ。絵画とかで天使を描く時のモデルができそうな美少年って言ったら、通じるかな。
「はじめまして、アキトです」
できるだけ優しい声で話しかければ、少年は嬉しそうに笑みを返してくれた。
「僕はキースといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
きっと照れ屋なんだろうなと分かるのに、それでも頑張って挨拶してくれたのが嬉しい。可愛いなぁと微笑みながら見つめていると、ファーガスさんとウィリアムさんの手が優しくキースくんの頭を撫でた。
本物だーなんて考えながらも、咄嗟にそう返せたのは運が良かったかもしれない。
「ねえ、礼儀作法にのっとったやりとりはもう終わりにしませんか?」
不意にそう声をあげたのは、ケイリーさんの隣に並んで立っているドレスを着た女性だった。赤茶色の髪を美しく結い上げているその女性は、太陽に照らされた木々のような緑の瞳で俺とハルをじっと見つめている。
あれって、グレースさん…だよね?さっきまではショートカットに鎧だったのに、今はドレスに結い上げた髪、うっすらとお化粧まで施されている。こうして見るとすごく美人な人だったんだな。
声と話し方もさっきと違ってすごく女性的だ。
ケイリーさんは驚いた様子で、大きく目を見開いてグレースさんを見つめていた。
「グレース…?」
「アキトは別にそういう作法とかにうるさくないから」
大丈夫大丈夫と笑って答えたグレースさんは、もうさっき会った時と同じようなくだけた喋り方だった。見た目は美しい女性なのに、喋り方は男性的ですこしだけ違和感がある。
「…ちょっと待て、グレース。なぜ君がそれを知ってるんだ?」
「えー?」
「ハル、もしかして…」
ケイリーさんは困り顔でハルに視線を向ける。
「ああ、来たよ、俺の腕試しに」
「あ、バラすなよ、ハル!」
グレースさんが口止めをしようとするけれど、ハルはバラすに決まってるだろと普通に返している。
「今回は伴侶候補が一緒に来るんだから、腕試しは挨拶の後にって皆で決めただろう?」
「決めたけどさーそう考える裏をかかないと意味が無いだろ?」
「裏をかくって…」
「実際、ハルもそう考えてたから油断しきってたし」
「あー…うん。確かに油断はしてたな」
「一番油断した所を狙った方が、意味があるだろ」
「いや、そうは言っても、アキト君の立場になって考えたら…」
「そうだよ、俺は良いけど、アキトがいるんだからもう少しぐらい考えてくれても…」
厳しい視線を向けて文句を言うハルと、怖い顔で叱るケイリーさんに詰め寄られても、グレースさんはニコニコと笑って流している。
「二人とも怪我はしなかったんだから良いじゃないか」
あの迫力を前にしてそう言いきれるって、すごいな。グレースさんは強い人だ。ハルだけを狙って攻撃してきた事に腹を立ててたけど、あれが家族では当たり前の腕試しだって言われたら文句なんて言えないし。
そんな事を考えなからハルとご両親のやりとりを眺めていると、後ろからそっと声をかけられた。
「アキトくん、騒がしくてすまないね」
穏やかな声に慌てて振り返れば、そこにはハルとそっくりな風貌の男性が立っていた。身長はたぶんハルと同じぐらいだけど、身体の厚みはハルよりもありそうだ。キリリと引き締まった表情が、クールな雰囲気によく似合っている。
「はじめまして。私はファーガス、ハルの一番上の兄だ」
「はじめまして、アキトと言います」
この人が五歳も上なのにたまに双子に間違われるってハルが言ってたお兄さんか。
「ハルの伴侶候補に会える日が来るとは思ってなかったよ、これからよろしく」
ファーガスさんはそう言うなり、ふわりと笑みを浮かべた。あ、ハルと同じ笑い方だ。
「こちらこそよろしくおねがいします」
「あ、ファ―ガス兄さんが抜け駆けしてるー!アキト君、久しぶり」
ひょこっとファーガスさんの後ろから顔を出しながら軽い口調で声をかけてくれたのは、船の上でも会ったハルの二番目のお兄さんウィリアムさんだ。
「ウィリアムさん、お久しぶりです!」
「船で会った時から、君がハルの伴侶候補になってくれたら良いのにーって思ってたんだ」
あの後すぐに伴侶候補になったんだって?とニコニコ笑顔で尋ねられた俺は、照れながらもこくりと頷いた。
「はい、あの船の上で…」
「そっかそっかー」
「兄様たち、僕も挨拶したい…です」
聞こえてきた小さな声にそっと視線を下げれば、ウィリアムさんの腰に後ろから抱き着くようにして立っている少年の姿が見えた。
「こんにちは」
「…こんにちは」
顔の見えない少年にとりあえずそう挨拶をしてみれば、照れくさそうに笑いながら少年は顔を見せてくれた。
うわーすっごい美少年だ。
金髪の髪の毛はすこし癖があるのかふわふわとあちこちにはねていて、上目遣いに見つめてくる目はグレースさん譲りの新緑の色だ。絵画とかで天使を描く時のモデルができそうな美少年って言ったら、通じるかな。
「はじめまして、アキトです」
できるだけ優しい声で話しかければ、少年は嬉しそうに笑みを返してくれた。
「僕はキースといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
きっと照れ屋なんだろうなと分かるのに、それでも頑張って挨拶してくれたのが嬉しい。可愛いなぁと微笑みながら見つめていると、ファーガスさんとウィリアムさんの手が優しくキースくんの頭を撫でた。
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