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803.ついに到着、ハルの実家

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 うねうねと曲がりくねった道をしばらく歩いていくと、ついに遠くに領主城の立派な門が見えてきた。トライプールの装飾の多い美しい門とはまた違った、無骨で頑丈そうな門だった。

「やっと着いたね。疲れてない?」

 心配そうに顔を覗き込んできたハルに大丈夫と笑顔で答えていると、グレースさんがそれじゃあ私はここでとあまりに唐突に切り出した。

「え…?」

 このまま一緒に領主城の中まで行くのかなと思ってたのに、なんで急にここで別れるんだろう。目的地は一緒なのに?

「アキト、また後でな」

 質問する間もなくニッと笑ったグレースさんは、急に駆け出すと近くに生えていた巨大な木にしがみついた。驚くほどのスピードで、そのままスルスルと木を登っていく。あんなに立派で重そうな鎧を着てるのに、信じられないほどの身軽さだ。

 俺、木登り得意な方だと思ってたけど、グレースさんには負けるな。うん。

「えっと…なんで急に行っちゃったんだろう?」

 見上げたハルは、苦笑しながら教えてくれた。

「ああ、あれは逃げたんだよ」
「逃げた…?」
「うん、きっと俺の腕試しのために勝手に抜け出してきたんだと思うよ」

 全くと笑ったハルがスタスタと無造作に門の方へと足を進めれば、立派な門は音も立てずにスムーズに開いていった。

 真正面から見る辺境領の領主城は、まるで要塞のような見た目をしていた。攻撃拠点だと聞いた建物よりもさらにいかつい作りだ。

 あ、でもこの建物、本の中の説明で想像してた通りの作りだ。という事は裏庭には赤い果物のなる木があったりするんだろうか。

 すこしだけワクワクしながらハルの後に続いて門をくぐれば、建物の前にはずらりとたくさんの人が整列していた。

「おかえりなさいませ、ハロルド様。そしてようこそいらっしゃいました、伴侶候補様」

 一歩前に出た仕事の出来そうなキリリとした老齢の執事さんは、そう言って深々と俺達に向かってお辞儀をしてくれた。周りに控えていたずらりと並んだメイドさん達も、揃ってスカートをかるくつまんだ挨拶をしてくれる。

「ああ、ただいま。こちらが私の伴侶候補、アキト ヒイラギだ」
「アキト ヒイラギです。はじめまして」
「ご丁寧にありがとうございます。それではハロルド様、アキト様、こちらへどうぞ」

 服装を整えるための部屋をご用意しておりますと声をかけられて、俺はそこでようやくグレースさんに会った時思いっきり普通の服だったなと気が付いた。



「あれは急にやってきた母が悪いんだから、服装なんて全く気にしなくて良いよ」

 二人きりになった部屋の中で服装について尋ねてみれば、ハルは笑って首を振った。

「それより、先にああいう事があるかもって話してなくてごめんね。腕試しは紹介してからだと思ってたから…俺もさすがに驚いたよ」

 驚かせてごめんねと、心底申し訳なさそうに謝られてしまった。ハルってあれでも驚いてたのか。あんなに一瞬で落ち着いて対応できてたのに。

「あーあと、お手伝い勝手に断ってごめんね」

 今は俺達はこの部屋に二人きりだけど、実は案内された時には着替えの手伝いをするための人達が何人も待機してくれてたんだ。男性も女性も数人ずついて、この人が良いと指名もできますとまで言ってくれたんだけど、ハルが全員断った。

 俺も人に服を着替えさせてもらうなんて慣れない事はしたく無いから別に良いんだけど、勝手に断った事を少しだけ気にしていたらしい。

「着替えを手伝ってもらうのは俺も慣れてないから…断ってくれて良かったよ」
「そう言ってくれると助かるよ。ただの嫉妬なんだけどね」

 へにゃりと笑ってそんな事を呟いたハルが可愛くて、俺はううと小さく呻いた。

「そ、それじゃあ、お互い着替えよっか」

 大き目の部屋は真ん中の辺りについたてのような物がいくつか立てられていて、二つにわけられている。片方のついたての方を指差して尋ねれば、ハルもそうだねとすぐに頷いてくれた。

 ついたての中へと滑りこめば、そこには大きな鏡と魔道具の灯りが立っていた。ご丁寧に服を置くためだろうテーブルもきちんと置いてくれてある。

 俺はハルから貰った服の包みを取り出して、そっとそこに載せた。ガサガサと音を立てながら包みを開いてみれば、ため息がでそうなぐらい綺麗なあの服が現れた。

 ハルが俺のために作ってくれたというあの礼服だ。

 テーブルの上に載せた服のボタンをいそいそと外していきながら、まじまじと観察する。

 うん、ボタンはちょっと多そうだけど、特に着るのが難しくはなさそうかな。一人で着れそうな事にすこしだけ安堵しながら、俺は着ていた服をバサバサと脱ぎ捨てていった。
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