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802.攻撃してきた人の名は
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「全く…すこしぐらい考えて欲しかったんだが?」
怒りを隠さずに低い声でそう続けたハルは、目の前に立つその人をもう一度じろりと睨みつけた。あんな目で見られたら俺なら耐えられないと思うんだけど、睨まれたその人は軽い調子で答えた。
「悪い悪い」
「返事が軽い!…アキトを怖がらせるような事をするなんて…」
眉間にしわを寄せたまま、ハルはぶつぶつと文句を口にした。
――えっと、やりとりからして、何だか知り合いっぽい?な。でもまだ油断はできないよね。一方的に攻撃してきた人だし。
こっそりと魔力を練りながら二人のやり取りを黙って見つめていれば、不意にその人は俺の方へと視線を向けた。ぱちりと視線が合った瞬間、面白そうに笑みを浮かべる。
「いや、怖がってはいないだろう?今も魔力を練っていつでも攻撃できるようにしてるぐらいだし」
あ、バレてた。
ハルはえっと驚いた様子でこちらに視線を向けると、本当だとぼそりと呟いた。
だって急に攻撃してきた上に、ハルばっかり狙うからついね。人相手に魔法を放つ心の準備までしっかりできちゃってたよ。
「あーアキト、驚かせてすまない。その魔力は散らしてくれるかな」
困り顔のハルの言葉と態度を見てそっと魔力を散らせば、ハルはふうーと一つ大きく息を吐いた。なんだかかなり疲れた様子だ。
「えっと…?」
知り合いなの?と視線だけで尋ねてみれば、ハルはすぐに口を開いた。
「本当に驚かせてごめんね、アキト。―――この人はグレース」
「どうも、初めまして。グレースだ」
「あ、初めまして、アキトです」
ぎこちなく答えた俺をまっすぐ見つめてくる意思の強そうなその目は、太陽の光を浴びた新緑のような色だった。赤みがかった茶色の髪の色と相まって、なんだか温かい森のような印象を受ける人だ。
あれ…?この赤みがかった茶色の髪の色って…ハルのお兄さんであるウィリアムさんの髪と全く同じ色だよね。え。待って。ウィリアムさんと同じ髪の色をしていて、名前がグレースさん?
――って事はもしかして…?嫌な予感を感じながらゆるりと首を傾げた俺に、ハルは苦笑しながら続けた。
「うん、俺の母親だよ」
「え、えっと…待って?母…親…?」
確かハルのお母さんは、元金級の冒険者の女性だって言ってたよね?
思わずまじまじと観察してしまったけど、目の前にいる人はどう見ても男性にしか見えない。身に着けている鎧が、身体の線が出ない作りだからとかも関係あるのかな。
唯一見えている腕を見ても明らかに俺よりも筋肉量も多いし、身長だって俺よりは高いぐらいだ。一応ハルよりはちょっとだけ低いのかな。
すごく男前な男性に見えるんだけど…。
「え…女性…?」
「ああ、そうだな。一応性別的には女に分類されるぞ?」
ニッと笑ったその笑顔は、悪戯っぽく笑った時のハルの笑顔にすごくよく似ていた。
「す、すみません!失礼な事を」
つまり俺はハルのお母さん相手に魔力を練り上げて攻撃しようとした上に、面と向かって女性?なんてどう考えても失礼な事を聞いてしまったって事だ。これ以上の失敗は無いんじゃないかと思うぐらいの大失敗だ。
ようやく全てを理解した俺は、大慌てで謝った。
「いやいや、それは慣れてるから全く気にしなくて良いよ」
それぐらい些細な事だとおおらかに笑ったグレースさんに、ハルは呆れ顔で横から口を挟んだ。
「うん、まあ、普通の母親は息子を本気で攻撃しないからね」
「なんだよ、それぐらいいつもの事だろう?」
まあそうだけどと当たり前のように答えたハルに、すこしだけ驚いてしまった。あれがハルの実家では普通なのか。もしかして腕試しの一環とかだったのかな。
「それにしても、お前も強くなったな」
そう楽し気に続けたグレースさんに、ハルは苦笑を洩らした。
「ありがとう」
「そんな事より!まさか君がハルに対応を任せずに、即座に魔力を練るとは思ってなかったよ」
「う…すみません」
「謝らなくて良いさ。ハルを守ろうとしてくれたんだろう?そこまで大事にしてくれるっていうのは、親としては嬉しい事だよ」
ふふと笑った笑顔が柔らかくて、あ、本当にハルのお母さんなんだとじわじわと実感が湧いてきた。
「私は君を心から歓迎するよ、アキトと呼んでも?」
「あ、はい、もちろんです」
「私の事はグレースと呼んでくれ」
「グレースさんですね」
「よし、それじゃあ歓迎の準備はできてるから行こうか」
グレースさんはそう言うと、俺達の前を悠々と歩き出した。
怒りを隠さずに低い声でそう続けたハルは、目の前に立つその人をもう一度じろりと睨みつけた。あんな目で見られたら俺なら耐えられないと思うんだけど、睨まれたその人は軽い調子で答えた。
「悪い悪い」
「返事が軽い!…アキトを怖がらせるような事をするなんて…」
眉間にしわを寄せたまま、ハルはぶつぶつと文句を口にした。
――えっと、やりとりからして、何だか知り合いっぽい?な。でもまだ油断はできないよね。一方的に攻撃してきた人だし。
こっそりと魔力を練りながら二人のやり取りを黙って見つめていれば、不意にその人は俺の方へと視線を向けた。ぱちりと視線が合った瞬間、面白そうに笑みを浮かべる。
「いや、怖がってはいないだろう?今も魔力を練っていつでも攻撃できるようにしてるぐらいだし」
あ、バレてた。
ハルはえっと驚いた様子でこちらに視線を向けると、本当だとぼそりと呟いた。
だって急に攻撃してきた上に、ハルばっかり狙うからついね。人相手に魔法を放つ心の準備までしっかりできちゃってたよ。
「あーアキト、驚かせてすまない。その魔力は散らしてくれるかな」
困り顔のハルの言葉と態度を見てそっと魔力を散らせば、ハルはふうーと一つ大きく息を吐いた。なんだかかなり疲れた様子だ。
「えっと…?」
知り合いなの?と視線だけで尋ねてみれば、ハルはすぐに口を開いた。
「本当に驚かせてごめんね、アキト。―――この人はグレース」
「どうも、初めまして。グレースだ」
「あ、初めまして、アキトです」
ぎこちなく答えた俺をまっすぐ見つめてくる意思の強そうなその目は、太陽の光を浴びた新緑のような色だった。赤みがかった茶色の髪の色と相まって、なんだか温かい森のような印象を受ける人だ。
あれ…?この赤みがかった茶色の髪の色って…ハルのお兄さんであるウィリアムさんの髪と全く同じ色だよね。え。待って。ウィリアムさんと同じ髪の色をしていて、名前がグレースさん?
――って事はもしかして…?嫌な予感を感じながらゆるりと首を傾げた俺に、ハルは苦笑しながら続けた。
「うん、俺の母親だよ」
「え、えっと…待って?母…親…?」
確かハルのお母さんは、元金級の冒険者の女性だって言ってたよね?
思わずまじまじと観察してしまったけど、目の前にいる人はどう見ても男性にしか見えない。身に着けている鎧が、身体の線が出ない作りだからとかも関係あるのかな。
唯一見えている腕を見ても明らかに俺よりも筋肉量も多いし、身長だって俺よりは高いぐらいだ。一応ハルよりはちょっとだけ低いのかな。
すごく男前な男性に見えるんだけど…。
「え…女性…?」
「ああ、そうだな。一応性別的には女に分類されるぞ?」
ニッと笑ったその笑顔は、悪戯っぽく笑った時のハルの笑顔にすごくよく似ていた。
「す、すみません!失礼な事を」
つまり俺はハルのお母さん相手に魔力を練り上げて攻撃しようとした上に、面と向かって女性?なんてどう考えても失礼な事を聞いてしまったって事だ。これ以上の失敗は無いんじゃないかと思うぐらいの大失敗だ。
ようやく全てを理解した俺は、大慌てで謝った。
「いやいや、それは慣れてるから全く気にしなくて良いよ」
それぐらい些細な事だとおおらかに笑ったグレースさんに、ハルは呆れ顔で横から口を挟んだ。
「うん、まあ、普通の母親は息子を本気で攻撃しないからね」
「なんだよ、それぐらいいつもの事だろう?」
まあそうだけどと当たり前のように答えたハルに、すこしだけ驚いてしまった。あれがハルの実家では普通なのか。もしかして腕試しの一環とかだったのかな。
「それにしても、お前も強くなったな」
そう楽し気に続けたグレースさんに、ハルは苦笑を洩らした。
「ありがとう」
「そんな事より!まさか君がハルに対応を任せずに、即座に魔力を練るとは思ってなかったよ」
「う…すみません」
「謝らなくて良いさ。ハルを守ろうとしてくれたんだろう?そこまで大事にしてくれるっていうのは、親としては嬉しい事だよ」
ふふと笑った笑顔が柔らかくて、あ、本当にハルのお母さんなんだとじわじわと実感が湧いてきた。
「私は君を心から歓迎するよ、アキトと呼んでも?」
「あ、はい、もちろんです」
「私の事はグレースと呼んでくれ」
「グレースさんですね」
「よし、それじゃあ歓迎の準備はできてるから行こうか」
グレースさんはそう言うと、俺達の前を悠々と歩き出した。
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