801 / 1,179
800.街並みを抜けて
しおりを挟む
ハルもさすがに今の二人は気になったみたいで、すこしもの言いたげに俺を見たけれど何も言わずにふうと一つ息を吐いた。人目があるから話題にしちゃ駄目だって、思い直してくれたんだろうな。
察しの良いハルらしい。
「アキト、行こうか」
「うん」
何事もなかったかのように市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いていた。登り坂ではあるけど、さっきの階段と比べたらただの散歩道みたいだ。
そういえば比較的小さ目なタイルみたいなのが敷かれている他の街とは違って、この街の道は大きな一枚の石が使われてるな。
これも何か魔物対策とかだったりするんだろうか。歩きやすくて俺は好きだけど。
そんな事を考えながら歩いていけば、不意にハルが立ち止まった。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
そう言いながら、ハルは見るからに頑丈な要塞のような見た目の建物をそっと指差した。
「いかつい…」
思わず口から漏れた俺の感想に、ハルは楽し気に笑った。
「トライプールと比べたらね」
うん。トライプールのは冒険者ギルドらしい見た目と、酒場っぽさが混在してるもんな。街に溶け込んでる感はトライプールの方があるけどね。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に、戦う拠点にするための建物なんだって。だからあんなに要塞みたいな雰囲気なのか。ちなみに街中にはいくつかそういう建物があるらしい。
そういう所も色々考えられてるんだなと感心しながら、もう一度ギルドに視線を向ける。えっと、うん、建物の前の道にいる存在感のある幽霊が、気になって仕方ない。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
何故か力いっぱいそんな言葉を叫んでいるのは、ムキムキマッチョなお兄さんだ。きっちりとサイズのあった装備を全身に身に着けていて、冒険者っぽい雰囲気の幽霊だ。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
全力で叫びながら走り去るお兄さんの声が、どんどん遠ざかっていく。うーん、幽霊にこの表現は変かもしれないけど、なんだか元気な人だな。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
ハルも俺と同じものを見て聞いてるから、案内の言葉もとぎれとぎれになってきている。すごく気持ちは分かるよ。俺も絶対ハルの説明に集中しきれてないもんね。
二人で手を繋いで更に歩いていくと、ハルが不意に視線を上げた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言ってハルが指差した建物は攻撃拠点というだけあって建物自体はやっぱりいかつかったけど、美しい模様の入った布が両脇に垂れ下がっていた。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
「これは辺境領の名産の布なんだ」
あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物らしい。建物の中はその織物を使った布や服、布製品なんかを売ってる場所なんだって。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品のお店に果物のお店、それに市場と布製品の商業組合か。行きたい所がいっぱいあって嬉しいな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、俺はちらりと視線だけを動かした。うん、やっぱりまた幽霊だね。
愁いを帯びた表情でぽつりとそう呟いた女性は、元の世界なら女優業が出来そうな程の美女だった。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
そんな美女を慰めているのは、男の色気満載のナイスミドルな男性だ。落ち着いた物腰だが、その声色からは深い悲しみを感じる。すごくお似合いの二人だな。幽霊だけど。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早にそこを後にした。
そこからもそれはもう色んな幽霊に遭遇したよ。姉さんと呼びたいぐらいカリスマ性のありそうなお姉さんに率いられた数人の男の霊とか、商人らしき頭の良さそうな幽霊たちとか、無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊とか。
みんな揃って何か…誰か?を探してるっぽいんだけど、これだけの人の心残りが同じ事って事もないよね。なんだかすこし不思議だけど、害はないからまあ良いか。
すっかり慣れてきたのか、ハルも一切反応はせずに普通に案内を続けてくれてる。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
ハルがそう言ったのは、大通りを上りきった先にある巨大な森の入口だった。
察しの良いハルらしい。
「アキト、行こうか」
「うん」
何事もなかったかのように市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いていた。登り坂ではあるけど、さっきの階段と比べたらただの散歩道みたいだ。
そういえば比較的小さ目なタイルみたいなのが敷かれている他の街とは違って、この街の道は大きな一枚の石が使われてるな。
これも何か魔物対策とかだったりするんだろうか。歩きやすくて俺は好きだけど。
そんな事を考えながら歩いていけば、不意にハルが立ち止まった。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
そう言いながら、ハルは見るからに頑丈な要塞のような見た目の建物をそっと指差した。
「いかつい…」
思わず口から漏れた俺の感想に、ハルは楽し気に笑った。
「トライプールと比べたらね」
うん。トライプールのは冒険者ギルドらしい見た目と、酒場っぽさが混在してるもんな。街に溶け込んでる感はトライプールの方があるけどね。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に、戦う拠点にするための建物なんだって。だからあんなに要塞みたいな雰囲気なのか。ちなみに街中にはいくつかそういう建物があるらしい。
そういう所も色々考えられてるんだなと感心しながら、もう一度ギルドに視線を向ける。えっと、うん、建物の前の道にいる存在感のある幽霊が、気になって仕方ない。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
何故か力いっぱいそんな言葉を叫んでいるのは、ムキムキマッチョなお兄さんだ。きっちりとサイズのあった装備を全身に身に着けていて、冒険者っぽい雰囲気の幽霊だ。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
全力で叫びながら走り去るお兄さんの声が、どんどん遠ざかっていく。うーん、幽霊にこの表現は変かもしれないけど、なんだか元気な人だな。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
ハルも俺と同じものを見て聞いてるから、案内の言葉もとぎれとぎれになってきている。すごく気持ちは分かるよ。俺も絶対ハルの説明に集中しきれてないもんね。
二人で手を繋いで更に歩いていくと、ハルが不意に視線を上げた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言ってハルが指差した建物は攻撃拠点というだけあって建物自体はやっぱりいかつかったけど、美しい模様の入った布が両脇に垂れ下がっていた。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
「これは辺境領の名産の布なんだ」
あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物らしい。建物の中はその織物を使った布や服、布製品なんかを売ってる場所なんだって。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品のお店に果物のお店、それに市場と布製品の商業組合か。行きたい所がいっぱいあって嬉しいな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、俺はちらりと視線だけを動かした。うん、やっぱりまた幽霊だね。
愁いを帯びた表情でぽつりとそう呟いた女性は、元の世界なら女優業が出来そうな程の美女だった。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
そんな美女を慰めているのは、男の色気満載のナイスミドルな男性だ。落ち着いた物腰だが、その声色からは深い悲しみを感じる。すごくお似合いの二人だな。幽霊だけど。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早にそこを後にした。
そこからもそれはもう色んな幽霊に遭遇したよ。姉さんと呼びたいぐらいカリスマ性のありそうなお姉さんに率いられた数人の男の霊とか、商人らしき頭の良さそうな幽霊たちとか、無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊とか。
みんな揃って何か…誰か?を探してるっぽいんだけど、これだけの人の心残りが同じ事って事もないよね。なんだかすこし不思議だけど、害はないからまあ良いか。
すっかり慣れてきたのか、ハルも一切反応はせずに普通に案内を続けてくれてる。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
ハルがそう言ったのは、大通りを上りきった先にある巨大な森の入口だった。
189
お気に入りに追加
4,204
あなたにおすすめの小説
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる