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800.街並みを抜けて
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ハルもさすがに今の二人は気になったみたいで、すこしもの言いたげに俺を見たけれど何も言わずにふうと一つ息を吐いた。人目があるから話題にしちゃ駄目だって、思い直してくれたんだろうな。
察しの良いハルらしい。
「アキト、行こうか」
「うん」
何事もなかったかのように市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いていた。登り坂ではあるけど、さっきの階段と比べたらただの散歩道みたいだ。
そういえば比較的小さ目なタイルみたいなのが敷かれている他の街とは違って、この街の道は大きな一枚の石が使われてるな。
これも何か魔物対策とかだったりするんだろうか。歩きやすくて俺は好きだけど。
そんな事を考えながら歩いていけば、不意にハルが立ち止まった。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
そう言いながら、ハルは見るからに頑丈な要塞のような見た目の建物をそっと指差した。
「いかつい…」
思わず口から漏れた俺の感想に、ハルは楽し気に笑った。
「トライプールと比べたらね」
うん。トライプールのは冒険者ギルドらしい見た目と、酒場っぽさが混在してるもんな。街に溶け込んでる感はトライプールの方があるけどね。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に、戦う拠点にするための建物なんだって。だからあんなに要塞みたいな雰囲気なのか。ちなみに街中にはいくつかそういう建物があるらしい。
そういう所も色々考えられてるんだなと感心しながら、もう一度ギルドに視線を向ける。えっと、うん、建物の前の道にいる存在感のある幽霊が、気になって仕方ない。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
何故か力いっぱいそんな言葉を叫んでいるのは、ムキムキマッチョなお兄さんだ。きっちりとサイズのあった装備を全身に身に着けていて、冒険者っぽい雰囲気の幽霊だ。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
全力で叫びながら走り去るお兄さんの声が、どんどん遠ざかっていく。うーん、幽霊にこの表現は変かもしれないけど、なんだか元気な人だな。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
ハルも俺と同じものを見て聞いてるから、案内の言葉もとぎれとぎれになってきている。すごく気持ちは分かるよ。俺も絶対ハルの説明に集中しきれてないもんね。
二人で手を繋いで更に歩いていくと、ハルが不意に視線を上げた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言ってハルが指差した建物は攻撃拠点というだけあって建物自体はやっぱりいかつかったけど、美しい模様の入った布が両脇に垂れ下がっていた。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
「これは辺境領の名産の布なんだ」
あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物らしい。建物の中はその織物を使った布や服、布製品なんかを売ってる場所なんだって。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品のお店に果物のお店、それに市場と布製品の商業組合か。行きたい所がいっぱいあって嬉しいな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、俺はちらりと視線だけを動かした。うん、やっぱりまた幽霊だね。
愁いを帯びた表情でぽつりとそう呟いた女性は、元の世界なら女優業が出来そうな程の美女だった。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
そんな美女を慰めているのは、男の色気満載のナイスミドルな男性だ。落ち着いた物腰だが、その声色からは深い悲しみを感じる。すごくお似合いの二人だな。幽霊だけど。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早にそこを後にした。
そこからもそれはもう色んな幽霊に遭遇したよ。姉さんと呼びたいぐらいカリスマ性のありそうなお姉さんに率いられた数人の男の霊とか、商人らしき頭の良さそうな幽霊たちとか、無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊とか。
みんな揃って何か…誰か?を探してるっぽいんだけど、これだけの人の心残りが同じ事って事もないよね。なんだかすこし不思議だけど、害はないからまあ良いか。
すっかり慣れてきたのか、ハルも一切反応はせずに普通に案内を続けてくれてる。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
ハルがそう言ったのは、大通りを上りきった先にある巨大な森の入口だった。
察しの良いハルらしい。
「アキト、行こうか」
「うん」
何事もなかったかのように市場から出てまた大通りを進んでいけば、そこからはゆるやかに傾斜した道が続いていた。登り坂ではあるけど、さっきの階段と比べたらただの散歩道みたいだ。
そういえば比較的小さ目なタイルみたいなのが敷かれている他の街とは違って、この街の道は大きな一枚の石が使われてるな。
これも何か魔物対策とかだったりするんだろうか。歩きやすくて俺は好きだけど。
そんな事を考えながら歩いていけば、不意にハルが立ち止まった。
「あそこに見えるのがこの街の冒険者ギルドだよ」
そう言いながら、ハルは見るからに頑丈な要塞のような見た目の建物をそっと指差した。
「いかつい…」
思わず口から漏れた俺の感想に、ハルは楽し気に笑った。
「トライプールと比べたらね」
うん。トライプールのは冒険者ギルドらしい見た目と、酒場っぽさが混在してるもんな。街に溶け込んでる感はトライプールの方があるけどね。
「あそこはいざという時の攻撃拠点なんだ」
もし街中まで魔物に侵入された時に、戦う拠点にするための建物なんだって。だからあんなに要塞みたいな雰囲気なのか。ちなみに街中にはいくつかそういう建物があるらしい。
そういう所も色々考えられてるんだなと感心しながら、もう一度ギルドに視線を向ける。えっと、うん、建物の前の道にいる存在感のある幽霊が、気になって仕方ない。
「あーもう!どこにいるんだよぉぉぉぉぉぉ!?」
何故か力いっぱいそんな言葉を叫んでいるのは、ムキムキマッチョなお兄さんだ。きっちりとサイズのあった装備を全身に身に着けていて、冒険者っぽい雰囲気の幽霊だ。
「ぜってぇ俺が見つけるぅぅぅぅぅ!」
全力で叫びながら走り去るお兄さんの声が、どんどん遠ざかっていく。うーん、幽霊にこの表現は変かもしれないけど、なんだか元気な人だな。
「えっと…、次はこっち…なんだけど…」
ハルも俺と同じものを見て聞いてるから、案内の言葉もとぎれとぎれになってきている。すごく気持ちは分かるよ。俺も絶対ハルの説明に集中しきれてないもんね。
二人で手を繋いで更に歩いていくと、ハルが不意に視線を上げた。
「あそこに見えてるのが商業組合の建物だよ。さっき他にもあるって言ってた攻撃拠点の一つなんだ」
そう言ってハルが指差した建物は攻撃拠点というだけあって建物自体はやっぱりいかつかったけど、美しい模様の入った布が両脇に垂れ下がっていた。
「あ、でも何かこっちは雰囲気が違う。あの布も綺麗だね」
「これは辺境領の名産の布なんだ」
あの布は、魔物から取れる糸を使って編まれた織物らしい。建物の中はその織物を使った布や服、布製品なんかを売ってる場所なんだって。
「え、それは気になる」
「よし、ここも帰る前に来ようか」
木工品のお店に果物のお店、それに市場と布製品の商業組合か。行きたい所がいっぱいあって嬉しいな。
「これだけ探しても見つからないなんて…」
不意に近くから聞こえてきた声に、俺はちらりと視線だけを動かした。うん、やっぱりまた幽霊だね。
愁いを帯びた表情でぽつりとそう呟いた女性は、元の世界なら女優業が出来そうな程の美女だった。
「そう簡単では無いという事だろうが、諦めなければ可能性はまだある。俺もあの人達を…悲しませたくはないんだがな…」
そんな美女を慰めているのは、男の色気満載のナイスミドルな男性だ。落ち着いた物腰だが、その声色からは深い悲しみを感じる。すごくお似合いの二人だな。幽霊だけど。
「アキト、行こうか」
「うん、買い物はまた今度ゆっくりね」
そう言い合いながら、俺達は足早にそこを後にした。
そこからもそれはもう色んな幽霊に遭遇したよ。姉さんと呼びたいぐらいカリスマ性のありそうなお姉さんに率いられた数人の男の霊とか、商人らしき頭の良さそうな幽霊たちとか、無言のままきょろきょろと視線だけを動かしている戦士らしき幽霊とか。
みんな揃って何か…誰か?を探してるっぽいんだけど、これだけの人の心残りが同じ事って事もないよね。なんだかすこし不思議だけど、害はないからまあ良いか。
すっかり慣れてきたのか、ハルも一切反応はせずに普通に案内を続けてくれてる。
「ここから先は領主城の敷地内だよ」
ハルがそう言ったのは、大通りを上りきった先にある巨大な森の入口だった。
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