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798.長い階段
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はぁはぁと荒い息を吐きながら、目の前に続く階段を見据える。いつもよりも重く感じる足を気合で動かして、一歩ずつ、一歩ずつ階段を上っていく。
「アキト、大丈夫?」
心配そうなハルに、俺は視線を合わせてこくりと頷いた。
「ここの階段は長いからなぁ」
「何段あるんだろうな、ここの階段って」
「あー、毎回何段あるか数えようとは思うんだが、長すぎて途中で飽きるんだよな」
「気持ちは分かる」
「ここはアキトくんにはつらいだろう」
「大丈夫か?」
「無理はするなよ?」
「座ってのんびり休憩するって手もあるぞ」
口々にそう声をかけてくれるのは、俺達を先導してくれている衛兵さん達だ。
こっちの世界に来てから依頼だ採取だってよく動いてるから、前よりも体力も筋肉もついたと思うんだけどなぁ。階段を上るのはまた違う筋肉なんだろうかなんて、ついつい考えてしまう。
「まだ…行けます!」
正直に言えば限界は近いんだけどね。
でも俺以外の人はみんな余裕の顔でこの階段を上ってるんだよ。なんなら息すら上がってないぐらいの余裕っぷりだ。
そんななかで俺だけがここでもう無理なんて――言いたくないよね。そんな意地だけで、俺は一段ずつ階段を踏みしめて進んでいる。
辺境領の魔法陣がある地下室は、トライプールよりもさらに深い所に位置しているんだって。つまり外に出るためには、この驚くほど長い階段をひたすら上る必要があるんだ。
しかもここの階段の作りがまた問題なんだよね。らせん状になってるせいで、ゴールが目に見えないんだよ。もうそろそろ着くかなーと思いながら曲がっても曲がっても、また階段が続くという無限ループだ。
いや、終わりはあるんだろうけどさ。
「アキト、アキトさえ良ければ抱き上げて歩くけど…どうかな?」
優しいハルの気づかいに溢れた提案に、周りがわっと一気に盛り上がる。
「おっ、それは良いな!」
「アキトくん、甘えたら良いぞ」
「ハルなら余裕でいけるだろ」
「自分の伴侶候補のためなら、俺だってできるわ」
「ああ、それは良い鍛錬になりそうですね」
あれ、ロイさんだけなんかちょっとズレてるような?
うん、ハルならきっと俺ぐらい余裕で抱き上げて、そのまま進んでくれるだろうな。分かってるけど、ここまで来たら最後まで頑張りたい。
「ありがとう。でも、まだ大丈夫!」
俺の返事を予想していたのか、ハルは優しい笑顔を浮かべてそうかと呟いた。
「無理はしないようにね?」
そう言いながらそっと果実水を手渡してくれたハルに、お礼を言って受け取った。
普段からお気に入りのよく飲んでる果実水だけど、今日はいつも以上に美味しく感じるな。気づいてなかったけど、結構喉が乾いてたんだ。
「まああともうちょっとだよ」
「そうそう、頑張れ」
みんなに励まされながら、俺はなんとか最後まで自力で上りきった。
衛兵さん達からは、アキトは見た目よりも根性あるなとすごく褒めてもらったよ。見た目よりってのはちょっと気になるけど、なんでも途中で諦めて運んでもらう人も多いんだって。
「あのさ…ハル、領主様もこの階段で行ったの?」
「ああ、貴族は運んでもらう人も多いだろうけど、きっとトライプールの領主様は自分で上るだろうね」
あの優し気な雰囲気なのに、自分で上れるんだ。まあハルの親戚だもんな。
辺境領にいる間にまた会おうなーと明るく声をかけてくれる衛兵さん達に笑顔で手を振って、俺とハルは建物を後にした。
一歩外にでればトライプールとは比べものにならないほど巨大な城壁が、視界に飛び込んでくる。
「うわぁ…おっきな城壁…」
「ここまで大きいのは、この国でもここぐらいかな。初めて見ると圧倒されると評判だよ」
「うん、これはすごいね」
「アキト、ようこそ辺境領都ウェルマールへ」
にこっと笑ってそう言ってくれたハルに、俺もにこにこと笑顔を返す。なんだか改めて辺境領に来れたんだなーって実感が湧いたよ。
「辺境領の衛兵詰所は、大門が見える位置にあるんだ」
そう言ってハルが指差した方を見れば、確かに大きな城壁に相応しい巨大な門がちらりと見えていた。距離はちょっとありそうだけど、いざという時に対応しやすい位置なんだろうな。
「これから街中を通って、領主城へと向かうよ」
「うん、分かった。ハル、案内お願い」
「まかせて」
嬉しそうに案内してくれるハルに続いて、俺は意気揚々と街中へと足を踏み入れた。
まさか辺境領がこんな感じだとは――想像もしてなかったからね。
辺境領は強い魔物も多いし、ダンジョンも近くにある。それにスタンピードも何度も起きている危険な場所だ。普通に生活をするだけでも大変な所だっていうのは、異世界出身の俺でも知ってる常識だ。
ハルははっきりとは言わなかったけど、今までのスタンピードや魔物の襲撃では残念ながら死者も多かったんだと思う。
それにしてもこんなに幽霊が多いなんて、嘘だろう?
ーーーーーーーーーーーー
本日から更新を再開させて頂きました。
無事に隔離期間を乗り越えて戻ってきましたー。
私信の方のしおりが減ったら、あちらは削除させていただきます。
ご心配のメッセージ下さった皆様、ありがとうございました。
最後までお付き合い頂ければ幸いです。
「アキト、大丈夫?」
心配そうなハルに、俺は視線を合わせてこくりと頷いた。
「ここの階段は長いからなぁ」
「何段あるんだろうな、ここの階段って」
「あー、毎回何段あるか数えようとは思うんだが、長すぎて途中で飽きるんだよな」
「気持ちは分かる」
「ここはアキトくんにはつらいだろう」
「大丈夫か?」
「無理はするなよ?」
「座ってのんびり休憩するって手もあるぞ」
口々にそう声をかけてくれるのは、俺達を先導してくれている衛兵さん達だ。
こっちの世界に来てから依頼だ採取だってよく動いてるから、前よりも体力も筋肉もついたと思うんだけどなぁ。階段を上るのはまた違う筋肉なんだろうかなんて、ついつい考えてしまう。
「まだ…行けます!」
正直に言えば限界は近いんだけどね。
でも俺以外の人はみんな余裕の顔でこの階段を上ってるんだよ。なんなら息すら上がってないぐらいの余裕っぷりだ。
そんななかで俺だけがここでもう無理なんて――言いたくないよね。そんな意地だけで、俺は一段ずつ階段を踏みしめて進んでいる。
辺境領の魔法陣がある地下室は、トライプールよりもさらに深い所に位置しているんだって。つまり外に出るためには、この驚くほど長い階段をひたすら上る必要があるんだ。
しかもここの階段の作りがまた問題なんだよね。らせん状になってるせいで、ゴールが目に見えないんだよ。もうそろそろ着くかなーと思いながら曲がっても曲がっても、また階段が続くという無限ループだ。
いや、終わりはあるんだろうけどさ。
「アキト、アキトさえ良ければ抱き上げて歩くけど…どうかな?」
優しいハルの気づかいに溢れた提案に、周りがわっと一気に盛り上がる。
「おっ、それは良いな!」
「アキトくん、甘えたら良いぞ」
「ハルなら余裕でいけるだろ」
「自分の伴侶候補のためなら、俺だってできるわ」
「ああ、それは良い鍛錬になりそうですね」
あれ、ロイさんだけなんかちょっとズレてるような?
うん、ハルならきっと俺ぐらい余裕で抱き上げて、そのまま進んでくれるだろうな。分かってるけど、ここまで来たら最後まで頑張りたい。
「ありがとう。でも、まだ大丈夫!」
俺の返事を予想していたのか、ハルは優しい笑顔を浮かべてそうかと呟いた。
「無理はしないようにね?」
そう言いながらそっと果実水を手渡してくれたハルに、お礼を言って受け取った。
普段からお気に入りのよく飲んでる果実水だけど、今日はいつも以上に美味しく感じるな。気づいてなかったけど、結構喉が乾いてたんだ。
「まああともうちょっとだよ」
「そうそう、頑張れ」
みんなに励まされながら、俺はなんとか最後まで自力で上りきった。
衛兵さん達からは、アキトは見た目よりも根性あるなとすごく褒めてもらったよ。見た目よりってのはちょっと気になるけど、なんでも途中で諦めて運んでもらう人も多いんだって。
「あのさ…ハル、領主様もこの階段で行ったの?」
「ああ、貴族は運んでもらう人も多いだろうけど、きっとトライプールの領主様は自分で上るだろうね」
あの優し気な雰囲気なのに、自分で上れるんだ。まあハルの親戚だもんな。
辺境領にいる間にまた会おうなーと明るく声をかけてくれる衛兵さん達に笑顔で手を振って、俺とハルは建物を後にした。
一歩外にでればトライプールとは比べものにならないほど巨大な城壁が、視界に飛び込んでくる。
「うわぁ…おっきな城壁…」
「ここまで大きいのは、この国でもここぐらいかな。初めて見ると圧倒されると評判だよ」
「うん、これはすごいね」
「アキト、ようこそ辺境領都ウェルマールへ」
にこっと笑ってそう言ってくれたハルに、俺もにこにこと笑顔を返す。なんだか改めて辺境領に来れたんだなーって実感が湧いたよ。
「辺境領の衛兵詰所は、大門が見える位置にあるんだ」
そう言ってハルが指差した方を見れば、確かに大きな城壁に相応しい巨大な門がちらりと見えていた。距離はちょっとありそうだけど、いざという時に対応しやすい位置なんだろうな。
「これから街中を通って、領主城へと向かうよ」
「うん、分かった。ハル、案内お願い」
「まかせて」
嬉しそうに案内してくれるハルに続いて、俺は意気揚々と街中へと足を踏み入れた。
まさか辺境領がこんな感じだとは――想像もしてなかったからね。
辺境領は強い魔物も多いし、ダンジョンも近くにある。それにスタンピードも何度も起きている危険な場所だ。普通に生活をするだけでも大変な所だっていうのは、異世界出身の俺でも知ってる常識だ。
ハルははっきりとは言わなかったけど、今までのスタンピードや魔物の襲撃では残念ながら死者も多かったんだと思う。
それにしてもこんなに幽霊が多いなんて、嘘だろう?
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