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793.【ハル視点】ウマを眺めるアキト
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俺達がここに着いてからほどなくして、領主様の移動のための準備はどうやら無事に終了したようだ。今はバタバタと忙しそうに動き回っている人もいなくなり、辺りにはすこしだけ穏やかな空気が流れている。
広場の端の方には、待機中に使用するための長椅子がいくつも置かれているようだ。ずっとこのまま立ちっぱなしで待つよりも、長椅子に移動しようとアキトに提案してみようか。
そう思ってちらりと視線を向けてみれば、アキトはキラキラと輝く目で世話係に世話をやかれているウマを眺めていた。
ああ、さっきストに挨拶をされる前も、ウマを眺めていたもんな。
アキトらしいといえばアキトらしいなと笑いながら、俺は驚かせないようにそっと声をかけた。
「アキト、もうちょっと近づいてみる?」
「あ…見てたのバレてた?」
気づかれていないつもりだったらしいアキトは、俺の言葉を聞くなり恥ずかしそうに頬を染めた。
「まあね。それにウマもちょっと気にしてるよ」
「え、そう…かな?」
「アキトが俺と話してる間、何頭かこっちを見てたから」
「えー馬にもバレてたんだ。嫌がってないかな?」
「それはな無いね。アキトのキラキラした目で見られて嫌がるウマなんていないよ」
むしろお前が話しかけたせいでそこの可愛い人がこちらを見なくなったじゃないかと、まるで俺に文句でも言いたそうな雰囲気だった。
さすがにそれはアキトに伝えたりはしないけどな。
「それで、もうちょっと近づいてみる?」
「んー…いや、やめとく」
領主城の立派なウマを間近で見られるとなれば、きっとすぐに頷くと思ったんだが…やめておくのか。すこしだけ不思議に思いながらじっと見つめれば、アキトは困り顔で続けた。
「あんな立派な馬を近くで見れるのはもちろん嬉しいんだけどね。今から馬車をひくっていう大事な仕事前なのに、俺が近づいたせいで気を散らさせたくないから」
そこでウマの事を一番最初に気づかうのが、アキトらしいな。
「でももうちょっと見てて良いかな」
「この距離なら問題無いよ」
そう答えれば、アキトはまたキラキラした目でウマを見つめ始めた。
どうやら先ほどの熱い視線とウマの反応で、アキトがウマに好意的な事には気づかれていたようだ。世話係の人達まで笑みを浮かべて小さく手を振ってくる。
滅多にいないウマ好きに出逢えて嬉しいんだろうな。
なんで手を振ってくれてるんだろうと言いたげなアキトに、俺は笑いながら声をかけた。
「たぶん馬好きの同士だってバレたんじゃない?」
「そう…かな?」
へへと照れくさそうに笑ったアキトは、小さく手を振り返した。
そんな風にのんびりと待ち時間を過ごしていると、あわただしく領主様が広場へと駆けこんできた。
「遅くなったね。みんな待たせてすまない!」
「いえ、お気になさらず。準備は全て終わっております」
「みんなありがとう」
領主様はそれぞれに少し申し訳なさそうに声をかけて周りながら、俺とアキトの前まで歩いてきた。
「ハロルドとアキトくんも、待たせてすまないね」
「いえ、それほど待ってませんよ」
慌てて手を振って答えたアキトの隣で、俺は笑って答えた。
「アキトは大好きなウマがじっくり見れてご機嫌ですよ」
「ウマ…?」
「はい!立派な体つきで強そうで。それにお世話してる人との信頼関係があって、すごいなーって見てました!」
元気に答えるアキトに、俺と領主様は視線を交わすとふはっと笑った。
先に出立していく馬車をその場にいた全員で見送ってから、俺達はすぐに隊列を組み目の前にある護衛隊員の拠点詰所の建物へと入る事になった。
もし悪用されてしまった際にも対処ができるようにと、基本的に魔法陣の設置場所はきちんと考え抜いて決められている。辺境領では衛兵の詰所の地下にあるし、ここトライプールでは一番警備が厚いこの建物に出るようにしてある。
階段を下りながら小声でアキトに説明すれば、興味深そうに聞いてくれた。
それにしても、ここは相変わらず暗いな。もっと明るく魔道具で照らす事ももちろんできるんだが、ここには必要最小限の灯りしか設置されていない。めをこらしても階段が見えるのがやっとというぐらいの明るさだ。
まあこれはその方が警備が楽だからという理由でわざとそうしてあるんだが。
アキトが暗い所が苦手じゃなくて良かったなと考えながら、俺は無心に階段を下り続けた。
ようやく階段を下りきった先には、石でできた巨大な扉が待ち構えていた。領主様の持つ首飾りのような見た目の鍵をかざせば、扉はギギギと音を立てながらゆっくりと開いていく。
いよいよ魔法陣の間に到着だな。
広場の端の方には、待機中に使用するための長椅子がいくつも置かれているようだ。ずっとこのまま立ちっぱなしで待つよりも、長椅子に移動しようとアキトに提案してみようか。
そう思ってちらりと視線を向けてみれば、アキトはキラキラと輝く目で世話係に世話をやかれているウマを眺めていた。
ああ、さっきストに挨拶をされる前も、ウマを眺めていたもんな。
アキトらしいといえばアキトらしいなと笑いながら、俺は驚かせないようにそっと声をかけた。
「アキト、もうちょっと近づいてみる?」
「あ…見てたのバレてた?」
気づかれていないつもりだったらしいアキトは、俺の言葉を聞くなり恥ずかしそうに頬を染めた。
「まあね。それにウマもちょっと気にしてるよ」
「え、そう…かな?」
「アキトが俺と話してる間、何頭かこっちを見てたから」
「えー馬にもバレてたんだ。嫌がってないかな?」
「それはな無いね。アキトのキラキラした目で見られて嫌がるウマなんていないよ」
むしろお前が話しかけたせいでそこの可愛い人がこちらを見なくなったじゃないかと、まるで俺に文句でも言いたそうな雰囲気だった。
さすがにそれはアキトに伝えたりはしないけどな。
「それで、もうちょっと近づいてみる?」
「んー…いや、やめとく」
領主城の立派なウマを間近で見られるとなれば、きっとすぐに頷くと思ったんだが…やめておくのか。すこしだけ不思議に思いながらじっと見つめれば、アキトは困り顔で続けた。
「あんな立派な馬を近くで見れるのはもちろん嬉しいんだけどね。今から馬車をひくっていう大事な仕事前なのに、俺が近づいたせいで気を散らさせたくないから」
そこでウマの事を一番最初に気づかうのが、アキトらしいな。
「でももうちょっと見てて良いかな」
「この距離なら問題無いよ」
そう答えれば、アキトはまたキラキラした目でウマを見つめ始めた。
どうやら先ほどの熱い視線とウマの反応で、アキトがウマに好意的な事には気づかれていたようだ。世話係の人達まで笑みを浮かべて小さく手を振ってくる。
滅多にいないウマ好きに出逢えて嬉しいんだろうな。
なんで手を振ってくれてるんだろうと言いたげなアキトに、俺は笑いながら声をかけた。
「たぶん馬好きの同士だってバレたんじゃない?」
「そう…かな?」
へへと照れくさそうに笑ったアキトは、小さく手を振り返した。
そんな風にのんびりと待ち時間を過ごしていると、あわただしく領主様が広場へと駆けこんできた。
「遅くなったね。みんな待たせてすまない!」
「いえ、お気になさらず。準備は全て終わっております」
「みんなありがとう」
領主様はそれぞれに少し申し訳なさそうに声をかけて周りながら、俺とアキトの前まで歩いてきた。
「ハロルドとアキトくんも、待たせてすまないね」
「いえ、それほど待ってませんよ」
慌てて手を振って答えたアキトの隣で、俺は笑って答えた。
「アキトは大好きなウマがじっくり見れてご機嫌ですよ」
「ウマ…?」
「はい!立派な体つきで強そうで。それにお世話してる人との信頼関係があって、すごいなーって見てました!」
元気に答えるアキトに、俺と領主様は視線を交わすとふはっと笑った。
先に出立していく馬車をその場にいた全員で見送ってから、俺達はすぐに隊列を組み目の前にある護衛隊員の拠点詰所の建物へと入る事になった。
もし悪用されてしまった際にも対処ができるようにと、基本的に魔法陣の設置場所はきちんと考え抜いて決められている。辺境領では衛兵の詰所の地下にあるし、ここトライプールでは一番警備が厚いこの建物に出るようにしてある。
階段を下りながら小声でアキトに説明すれば、興味深そうに聞いてくれた。
それにしても、ここは相変わらず暗いな。もっと明るく魔道具で照らす事ももちろんできるんだが、ここには必要最小限の灯りしか設置されていない。めをこらしても階段が見えるのがやっとというぐらいの明るさだ。
まあこれはその方が警備が楽だからという理由でわざとそうしてあるんだが。
アキトが暗い所が苦手じゃなくて良かったなと考えながら、俺は無心に階段を下り続けた。
ようやく階段を下りきった先には、石でできた巨大な扉が待ち構えていた。領主様の持つ首飾りのような見た目の鍵をかざせば、扉はギギギと音を立てながらゆっくりと開いていく。
いよいよ魔法陣の間に到着だな。
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