791 / 1,103
790.辺境領のお勧めは
しおりを挟む
「それにしても…あんた達が木彫りの店と果物屋をお勧めするとは思わなかったな」
酒のうまい店とかならまだ納得できるんだがと、ハルは不思議そうに首を傾げながら呟いた。
「あれ、ハルは知らなかったか?こいつの息子、今は木彫りの店をやってるんだぞ」
「へえ、そうなのか?」
「ちなみにこいつの娘は、果物屋をやってる」
そう教えてくれた皆さんの手は、さっき主張しあっていたあのお二人を指差している。ああ、なるほど自分の家族のお店をお勧めしたかったのか。
「ちょっと待て!確かに息子は店をやってるが、別にそういう基準で選んでねぇぞ!もし息子がやってなくても俺は木彫りの店を勧めてた!」
「またまたー」
「家族思いがバレたからって照れるなって」
「本当だって!」
斧を背負った男性は、もしアキトくんが近くに住んでるなら俺はきっと机や椅子の店を勧めてたよと続けた。辺境領の家具はかなり質が高いのに、比較的安価で手に入るんだそうだ。
でもトライプールまで持ちかえる事を考えたら、魔導収納鞄の容量を圧迫しない木彫りの像が一番のお勧めなんだって。
他の地域では動物の木彫りが多いけど、辺境では木々や森、お花なんかの植物や、武器や防具なんていうすこし珍しいものもあるらしい。
それはぜひ見てみたいな。レーブンさん達へのお土産にも良いかもしれないし、黒鷹亭の部屋に置くための像が欲しいと思ってたからちょうど良い。
「おい、それをいうなら、俺だって娘に関係なく果物を勧めてたぞ!」
弓を背負った男性は、揶揄う周りにうるさいと叫んでから俺に向かって優しく笑いかけてきた。
「辺境領には珍しい果物が本当に多いんだよ」
「はい、ハルからも聞きました」
「ところでアキトくん、果物は好きかい?」
「はい、好きです!それに俺、果実水が好きなんですけ」
「おお、果実水が好きなら絶対に寄ってくれ!珍しい果物を使った果実水もあるからね」
そうなんだとちらりと視線を向ければ、ハルは寄ってみようかと笑顔で頷いてくれた。
「俺はやっぱりミラルースの食事が一番だと思うぞ」
「あー…うん、あそこは美味いからな」
「」
あ、ミラルースってお店の名前は覚えてる。ステーキが美味しいんだって言ってた、ハルのお気に入りのお店だったはず。
「ミラルースはアキトと一緒に行きたい店に最初から入ってるよ」
「あーおまえあそこのステーキ好きだよな」
ハルのステーキ好きって、辺境領の人にも知られてるんだね。
「いやいや、他の街から来たなら、魔道具とかも珍しいんじゃないか?」
そう教えてくれたのは大きな盾を背負った男性だった。
辺境領の市場や屋台では、近くにあるダンジョン産の魔道具が破格の値段で売られている事もあるらしい。ただ性能が良くないものを高値で売りつけようとする商人も、ごく稀に混じっていたりするそうだ。
「そのあたりは俺達衛兵が見回ってるんだが、逃げ足が早くてな」
「まあ目利きなハルと一緒なら、絶対に騙されないしきっと楽しめるぞ」
良い物が無いか探しに行ってみなとくわしい場所を教えてくれた。
「あ、武器とかもダンジョン産の変わったのがあったりするよ」
「バカ、後衛の魔法使いだって言ってただろうが」
「あ、俺、旦那が魔法使いだから、魔法使い用のローブとか杖をいーっぱい売ってる店知ってるぞ!」
「そういえば冒険者ギルドの隣の武器屋も、最近は魔法使い用にって色々作ってたな」
わいわいと盛り上がる衛兵さん達の会話は、どんどん膨らんでいく。そのどれもが興味深いんだから、辺境領ってすごい場所なんだな。
それになんだか皆の辺境領への郷土愛を感じて、ほっこりしてしまった。
「あ、でも辺境領の一番の名所って言ったら、やっぱり領主城だけどな!」
「違いねぇ」
「普通の観光なら外から見るだけだが、アキトくんは中にも入れるんだしな」
今度は辺境領の領主城のみどころをお勧めしてくれる衛兵さん達の会話に耳を傾けていると、不意に一人の衛兵さんが大きな声をあげた。
「あ、やばい!」
「なんだ、どうしたー?」
「いや、ハルとアキトくんを引き留めすぎてるって話だよ!」
「それは…やばいな」
「俺らが最強夫婦に怒られる!」
ぽつりとそう呟いた衛兵さんに、皆はそうだったそうだったとと大慌てだ。
「よし、ハル、アキトくん。急いで領主邸に向かってくれ!」
「ああ、上まで案内する!」
「こっちだ!」
てきぱきとした動きに驚いていると、ハルがぽんと肩を叩いた。
「ごめん、アキト。こういう人達なんだ」
「うん、楽しい人達だね」
この賑やかで親し気な雰囲気――俺は好きだなと答えれば、ハルは俺だけに聞こえるぐらいの小さな声で、俺も好きだよと少し恥ずかしそうに答えてくれた。
酒のうまい店とかならまだ納得できるんだがと、ハルは不思議そうに首を傾げながら呟いた。
「あれ、ハルは知らなかったか?こいつの息子、今は木彫りの店をやってるんだぞ」
「へえ、そうなのか?」
「ちなみにこいつの娘は、果物屋をやってる」
そう教えてくれた皆さんの手は、さっき主張しあっていたあのお二人を指差している。ああ、なるほど自分の家族のお店をお勧めしたかったのか。
「ちょっと待て!確かに息子は店をやってるが、別にそういう基準で選んでねぇぞ!もし息子がやってなくても俺は木彫りの店を勧めてた!」
「またまたー」
「家族思いがバレたからって照れるなって」
「本当だって!」
斧を背負った男性は、もしアキトくんが近くに住んでるなら俺はきっと机や椅子の店を勧めてたよと続けた。辺境領の家具はかなり質が高いのに、比較的安価で手に入るんだそうだ。
でもトライプールまで持ちかえる事を考えたら、魔導収納鞄の容量を圧迫しない木彫りの像が一番のお勧めなんだって。
他の地域では動物の木彫りが多いけど、辺境では木々や森、お花なんかの植物や、武器や防具なんていうすこし珍しいものもあるらしい。
それはぜひ見てみたいな。レーブンさん達へのお土産にも良いかもしれないし、黒鷹亭の部屋に置くための像が欲しいと思ってたからちょうど良い。
「おい、それをいうなら、俺だって娘に関係なく果物を勧めてたぞ!」
弓を背負った男性は、揶揄う周りにうるさいと叫んでから俺に向かって優しく笑いかけてきた。
「辺境領には珍しい果物が本当に多いんだよ」
「はい、ハルからも聞きました」
「ところでアキトくん、果物は好きかい?」
「はい、好きです!それに俺、果実水が好きなんですけ」
「おお、果実水が好きなら絶対に寄ってくれ!珍しい果物を使った果実水もあるからね」
そうなんだとちらりと視線を向ければ、ハルは寄ってみようかと笑顔で頷いてくれた。
「俺はやっぱりミラルースの食事が一番だと思うぞ」
「あー…うん、あそこは美味いからな」
「」
あ、ミラルースってお店の名前は覚えてる。ステーキが美味しいんだって言ってた、ハルのお気に入りのお店だったはず。
「ミラルースはアキトと一緒に行きたい店に最初から入ってるよ」
「あーおまえあそこのステーキ好きだよな」
ハルのステーキ好きって、辺境領の人にも知られてるんだね。
「いやいや、他の街から来たなら、魔道具とかも珍しいんじゃないか?」
そう教えてくれたのは大きな盾を背負った男性だった。
辺境領の市場や屋台では、近くにあるダンジョン産の魔道具が破格の値段で売られている事もあるらしい。ただ性能が良くないものを高値で売りつけようとする商人も、ごく稀に混じっていたりするそうだ。
「そのあたりは俺達衛兵が見回ってるんだが、逃げ足が早くてな」
「まあ目利きなハルと一緒なら、絶対に騙されないしきっと楽しめるぞ」
良い物が無いか探しに行ってみなとくわしい場所を教えてくれた。
「あ、武器とかもダンジョン産の変わったのがあったりするよ」
「バカ、後衛の魔法使いだって言ってただろうが」
「あ、俺、旦那が魔法使いだから、魔法使い用のローブとか杖をいーっぱい売ってる店知ってるぞ!」
「そういえば冒険者ギルドの隣の武器屋も、最近は魔法使い用にって色々作ってたな」
わいわいと盛り上がる衛兵さん達の会話は、どんどん膨らんでいく。そのどれもが興味深いんだから、辺境領ってすごい場所なんだな。
それになんだか皆の辺境領への郷土愛を感じて、ほっこりしてしまった。
「あ、でも辺境領の一番の名所って言ったら、やっぱり領主城だけどな!」
「違いねぇ」
「普通の観光なら外から見るだけだが、アキトくんは中にも入れるんだしな」
今度は辺境領の領主城のみどころをお勧めしてくれる衛兵さん達の会話に耳を傾けていると、不意に一人の衛兵さんが大きな声をあげた。
「あ、やばい!」
「なんだ、どうしたー?」
「いや、ハルとアキトくんを引き留めすぎてるって話だよ!」
「それは…やばいな」
「俺らが最強夫婦に怒られる!」
ぽつりとそう呟いた衛兵さんに、皆はそうだったそうだったとと大慌てだ。
「よし、ハル、アキトくん。急いで領主邸に向かってくれ!」
「ああ、上まで案内する!」
「こっちだ!」
てきぱきとした動きに驚いていると、ハルがぽんと肩を叩いた。
「ごめん、アキト。こういう人達なんだ」
「うん、楽しい人達だね」
この賑やかで親し気な雰囲気――俺は好きだなと答えれば、ハルは俺だけに聞こえるぐらいの小さな声で、俺も好きだよと少し恥ずかしそうに答えてくれた。
174
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる