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790.辺境領のお勧めは
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「それにしても…あんた達が木彫りの店と果物屋をお勧めするとは思わなかったな」
酒のうまい店とかならまだ納得できるんだがと、ハルは不思議そうに首を傾げながら呟いた。
「あれ、ハルは知らなかったか?こいつの息子、今は木彫りの店をやってるんだぞ」
「へえ、そうなのか?」
「ちなみにこいつの娘は、果物屋をやってる」
そう教えてくれた皆さんの手は、さっき主張しあっていたあのお二人を指差している。ああ、なるほど自分の家族のお店をお勧めしたかったのか。
「ちょっと待て!確かに息子は店をやってるが、別にそういう基準で選んでねぇぞ!もし息子がやってなくても俺は木彫りの店を勧めてた!」
「またまたー」
「家族思いがバレたからって照れるなって」
「本当だって!」
斧を背負った男性は、もしアキトくんが近くに住んでるなら俺はきっと机や椅子の店を勧めてたよと続けた。辺境領の家具はかなり質が高いのに、比較的安価で手に入るんだそうだ。
でもトライプールまで持ちかえる事を考えたら、魔導収納鞄の容量を圧迫しない木彫りの像が一番のお勧めなんだって。
他の地域では動物の木彫りが多いけど、辺境では木々や森、お花なんかの植物や、武器や防具なんていうすこし珍しいものもあるらしい。
それはぜひ見てみたいな。レーブンさん達へのお土産にも良いかもしれないし、黒鷹亭の部屋に置くための像が欲しいと思ってたからちょうど良い。
「おい、それをいうなら、俺だって娘に関係なく果物を勧めてたぞ!」
弓を背負った男性は、揶揄う周りにうるさいと叫んでから俺に向かって優しく笑いかけてきた。
「辺境領には珍しい果物が本当に多いんだよ」
「はい、ハルからも聞きました」
「ところでアキトくん、果物は好きかい?」
「はい、好きです!それに俺、果実水が好きなんですけ」
「おお、果実水が好きなら絶対に寄ってくれ!珍しい果物を使った果実水もあるからね」
そうなんだとちらりと視線を向ければ、ハルは寄ってみようかと笑顔で頷いてくれた。
「俺はやっぱりミラルースの食事が一番だと思うぞ」
「あー…うん、あそこは美味いからな」
「」
あ、ミラルースってお店の名前は覚えてる。ステーキが美味しいんだって言ってた、ハルのお気に入りのお店だったはず。
「ミラルースはアキトと一緒に行きたい店に最初から入ってるよ」
「あーおまえあそこのステーキ好きだよな」
ハルのステーキ好きって、辺境領の人にも知られてるんだね。
「いやいや、他の街から来たなら、魔道具とかも珍しいんじゃないか?」
そう教えてくれたのは大きな盾を背負った男性だった。
辺境領の市場や屋台では、近くにあるダンジョン産の魔道具が破格の値段で売られている事もあるらしい。ただ性能が良くないものを高値で売りつけようとする商人も、ごく稀に混じっていたりするそうだ。
「そのあたりは俺達衛兵が見回ってるんだが、逃げ足が早くてな」
「まあ目利きなハルと一緒なら、絶対に騙されないしきっと楽しめるぞ」
良い物が無いか探しに行ってみなとくわしい場所を教えてくれた。
「あ、武器とかもダンジョン産の変わったのがあったりするよ」
「バカ、後衛の魔法使いだって言ってただろうが」
「あ、俺、旦那が魔法使いだから、魔法使い用のローブとか杖をいーっぱい売ってる店知ってるぞ!」
「そういえば冒険者ギルドの隣の武器屋も、最近は魔法使い用にって色々作ってたな」
わいわいと盛り上がる衛兵さん達の会話は、どんどん膨らんでいく。そのどれもが興味深いんだから、辺境領ってすごい場所なんだな。
それになんだか皆の辺境領への郷土愛を感じて、ほっこりしてしまった。
「あ、でも辺境領の一番の名所って言ったら、やっぱり領主城だけどな!」
「違いねぇ」
「普通の観光なら外から見るだけだが、アキトくんは中にも入れるんだしな」
今度は辺境領の領主城のみどころをお勧めしてくれる衛兵さん達の会話に耳を傾けていると、不意に一人の衛兵さんが大きな声をあげた。
「あ、やばい!」
「なんだ、どうしたー?」
「いや、ハルとアキトくんを引き留めすぎてるって話だよ!」
「それは…やばいな」
「俺らが最強夫婦に怒られる!」
ぽつりとそう呟いた衛兵さんに、皆はそうだったそうだったとと大慌てだ。
「よし、ハル、アキトくん。急いで領主邸に向かってくれ!」
「ああ、上まで案内する!」
「こっちだ!」
てきぱきとした動きに驚いていると、ハルがぽんと肩を叩いた。
「ごめん、アキト。こういう人達なんだ」
「うん、楽しい人達だね」
この賑やかで親し気な雰囲気――俺は好きだなと答えれば、ハルは俺だけに聞こえるぐらいの小さな声で、俺も好きだよと少し恥ずかしそうに答えてくれた。
酒のうまい店とかならまだ納得できるんだがと、ハルは不思議そうに首を傾げながら呟いた。
「あれ、ハルは知らなかったか?こいつの息子、今は木彫りの店をやってるんだぞ」
「へえ、そうなのか?」
「ちなみにこいつの娘は、果物屋をやってる」
そう教えてくれた皆さんの手は、さっき主張しあっていたあのお二人を指差している。ああ、なるほど自分の家族のお店をお勧めしたかったのか。
「ちょっと待て!確かに息子は店をやってるが、別にそういう基準で選んでねぇぞ!もし息子がやってなくても俺は木彫りの店を勧めてた!」
「またまたー」
「家族思いがバレたからって照れるなって」
「本当だって!」
斧を背負った男性は、もしアキトくんが近くに住んでるなら俺はきっと机や椅子の店を勧めてたよと続けた。辺境領の家具はかなり質が高いのに、比較的安価で手に入るんだそうだ。
でもトライプールまで持ちかえる事を考えたら、魔導収納鞄の容量を圧迫しない木彫りの像が一番のお勧めなんだって。
他の地域では動物の木彫りが多いけど、辺境では木々や森、お花なんかの植物や、武器や防具なんていうすこし珍しいものもあるらしい。
それはぜひ見てみたいな。レーブンさん達へのお土産にも良いかもしれないし、黒鷹亭の部屋に置くための像が欲しいと思ってたからちょうど良い。
「おい、それをいうなら、俺だって娘に関係なく果物を勧めてたぞ!」
弓を背負った男性は、揶揄う周りにうるさいと叫んでから俺に向かって優しく笑いかけてきた。
「辺境領には珍しい果物が本当に多いんだよ」
「はい、ハルからも聞きました」
「ところでアキトくん、果物は好きかい?」
「はい、好きです!それに俺、果実水が好きなんですけ」
「おお、果実水が好きなら絶対に寄ってくれ!珍しい果物を使った果実水もあるからね」
そうなんだとちらりと視線を向ければ、ハルは寄ってみようかと笑顔で頷いてくれた。
「俺はやっぱりミラルースの食事が一番だと思うぞ」
「あー…うん、あそこは美味いからな」
「」
あ、ミラルースってお店の名前は覚えてる。ステーキが美味しいんだって言ってた、ハルのお気に入りのお店だったはず。
「ミラルースはアキトと一緒に行きたい店に最初から入ってるよ」
「あーおまえあそこのステーキ好きだよな」
ハルのステーキ好きって、辺境領の人にも知られてるんだね。
「いやいや、他の街から来たなら、魔道具とかも珍しいんじゃないか?」
そう教えてくれたのは大きな盾を背負った男性だった。
辺境領の市場や屋台では、近くにあるダンジョン産の魔道具が破格の値段で売られている事もあるらしい。ただ性能が良くないものを高値で売りつけようとする商人も、ごく稀に混じっていたりするそうだ。
「そのあたりは俺達衛兵が見回ってるんだが、逃げ足が早くてな」
「まあ目利きなハルと一緒なら、絶対に騙されないしきっと楽しめるぞ」
良い物が無いか探しに行ってみなとくわしい場所を教えてくれた。
「あ、武器とかもダンジョン産の変わったのがあったりするよ」
「バカ、後衛の魔法使いだって言ってただろうが」
「あ、俺、旦那が魔法使いだから、魔法使い用のローブとか杖をいーっぱい売ってる店知ってるぞ!」
「そういえば冒険者ギルドの隣の武器屋も、最近は魔法使い用にって色々作ってたな」
わいわいと盛り上がる衛兵さん達の会話は、どんどん膨らんでいく。そのどれもが興味深いんだから、辺境領ってすごい場所なんだな。
それになんだか皆の辺境領への郷土愛を感じて、ほっこりしてしまった。
「あ、でも辺境領の一番の名所って言ったら、やっぱり領主城だけどな!」
「違いねぇ」
「普通の観光なら外から見るだけだが、アキトくんは中にも入れるんだしな」
今度は辺境領の領主城のみどころをお勧めしてくれる衛兵さん達の会話に耳を傾けていると、不意に一人の衛兵さんが大きな声をあげた。
「あ、やばい!」
「なんだ、どうしたー?」
「いや、ハルとアキトくんを引き留めすぎてるって話だよ!」
「それは…やばいな」
「俺らが最強夫婦に怒られる!」
ぽつりとそう呟いた衛兵さんに、皆はそうだったそうだったとと大慌てだ。
「よし、ハル、アキトくん。急いで領主邸に向かってくれ!」
「ああ、上まで案内する!」
「こっちだ!」
てきぱきとした動きに驚いていると、ハルがぽんと肩を叩いた。
「ごめん、アキト。こういう人達なんだ」
「うん、楽しい人達だね」
この賑やかで親し気な雰囲気――俺は好きだなと答えれば、ハルは俺だけに聞こえるぐらいの小さな声で、俺も好きだよと少し恥ずかしそうに答えてくれた。
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