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785.領主邸へ
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ハルと約束をとりつけて安心したのか、黒鷹亭の外にまで見送りに来てくれたレーブンさんは優しい笑顔だった。
心配そうな顔で見送られるよりもやっぱり笑顔の方が良いから、ハルとレーブンさんの約束にはあえて触れない事に決めたよ。
「いってくる」
「いってきます!」
ハルと並んで声をかければ、レーブンさんは満足そうに頷いてくれた。
「ああ、いってこい!気を付けてな!」
絶対に帰ってこいよという言葉にぶんぶんと手を振って、俺達はそのまま領主邸へと向かった。
丘の上にあるトライプールの領主城の前には、今日も門番さん達が立っていた。近づけば物腰柔らかに対応してくれる人達だってもう知ってるけど、遠くから見たら無表情でなかなかに威圧感がある。
いや、たぶんわざと威圧感を出してるんだろうな。その方が強そうに見えるから。そんな事を考えながら歩いていくと、すぐに門番さん達の前に辿り着いた。
そういえば前回みたいに呼ばれてきたって証明する手紙とかは無いけど、今回はどうやって証明するんだろう。
俺がそう考えている間に、ハルはさっと小さなカードのような物を取り出して門番さんに手渡していた。なるほど、ちゃんと招待状代わりの物をもらってたのか。
俺達は何の問題もなく、あっさりと領主城の中へと招き入れてもらえた。
「お待ちしておりました」
敷地内に入るなりそう声をかけてきたのは、門の内側を少し進んだ所に立っている護衛らしき男性だった。上から下まできっちりと全身装備で固めていて、強そうな人だ。
出発はお昼過ぎとしか聞いてなかったけど、この人はずっとここで俺達を待ってくれていたんだろうか。
「待たせてすみません」
反射的に謝った俺に、大きく目を見開いた男性は次の瞬間にはふわりと笑みを浮かべた。
「謝罪は不要ですよ。私は仕事として案内役を任されただけですから」
「あ、じゃあありがとうございます」
謝るのが駄目ならお礼の方だよねと言葉を重ねれば、またしても男性は楽し気に笑みを浮かべた。
「アキト、気にしなくて大丈夫だよ。案内してもらおう?」
ハルの言葉に男性はふふと笑ってから、すぐに前に立って歩き出した。
「こちらへどうぞ」
男性の先導で俺達が向かったのは、この前は近づかなかった一画だった。領主城ほどではないけれど立派な建物がどどんと建っている。
建物の前には広場のような広大なスペースがあり、そこには馬車がいくつも並んでいた。まだ馬の姿は無いけれど、街道でみかけるような馬車とは豪華さが違う。中でも真ん中辺りにある馬車は、トライプール領主様の家紋が大きくついていて一際立派だ。
「あれ…?馬車?」
今日は魔法陣で移動するのに?と不思議に思ってぽつりと呟けば、ハルが小声で教えてくれた。
「領主様が外出してるって対外的に示すために、あの馬車は街道を通って辺境領に向かうんだ」
「えっ…そんな事までするんだ?」
「ああ、不自然に思われないように…ね」
つまりそれって偽装工作だよね。そこまでして魔法陣の事を隠してるのか。俺もちゃんと秘密を守れるように頑張ろう。
案内されるまま馬車の後ろ側に回りこめば、そこにはたくさんの人の姿があった。
明らかに完全武装の強そうな人達は多分護衛の人達かな。普段着で忙しそうに移動している人達は箱や袋を抱えているから、荷物の準備をしている人達だろう。あ、馬の世話をしてる人達もいる。どの馬も綺麗だなと思わず見惚れていると、ハルにくいっと手を引かれた。
あ、そうだよね。今は馬を見つめてる場合じゃないよね。
こちらに気づいてすぐに近づいてきたのは、驚くほど大きな弓を背負った男性だった。
俺の中で弓と言うとイコールブレイズのイメージなんだけど、ブレイズの弓は軽くて数が打てるのが強味だった。でもこの人の弓はそれとは全然違うんだろうなと、詳しくない俺にも分かった。
たぶんこれだけ大きかったら手数は少なくなると思う。でもその分一撃が重そうだ。
「こんにちは。私は今回の護衛の隊長を務めるストといいます。はじめまして」
すこし威圧感のある見た目からは想像できないほど優しい笑みを浮かべて、ストさんはそう声をかけてくれた。
「はじめまして。アキトです」
にっこりと笑みを浮かべたストさんは、ちらりとハルに視線を向けた。ハルははじめましてとも言わないし名乗ったりもしなかったから、たぶん知り合いなんだろうな。
「おそらくついてからはすぐに別行動になると思いますが、何かあればいつでも頼ってくださいね」
「その言葉、ありがたく受け取ります」
ハルは固い言葉で返したけど、ストさんはそんなハルの肩をぽんっと叩いて笑って離れていった。
「ハル、ストさんは知り合い…だよね?」
「ああ、あっちは仕事中だから言葉も固いままだけどな」
普段はあんなんじゃないぞと笑ったハルいわく、ストさんは白狼亭の常連さんのうちの一人らしい。ローガンさんのステーキが大好きで、ハルとストさんどっちの方がより白狼亭の常連かって喧嘩した事もあるらしい。
ちなみにその時はローガンさんに、どっちでも良いが喧嘩する奴らに食わせるステーキは無いぞって言われて終了したらしい。
なんともローガンさんらしいエピソードだね。
心配そうな顔で見送られるよりもやっぱり笑顔の方が良いから、ハルとレーブンさんの約束にはあえて触れない事に決めたよ。
「いってくる」
「いってきます!」
ハルと並んで声をかければ、レーブンさんは満足そうに頷いてくれた。
「ああ、いってこい!気を付けてな!」
絶対に帰ってこいよという言葉にぶんぶんと手を振って、俺達はそのまま領主邸へと向かった。
丘の上にあるトライプールの領主城の前には、今日も門番さん達が立っていた。近づけば物腰柔らかに対応してくれる人達だってもう知ってるけど、遠くから見たら無表情でなかなかに威圧感がある。
いや、たぶんわざと威圧感を出してるんだろうな。その方が強そうに見えるから。そんな事を考えながら歩いていくと、すぐに門番さん達の前に辿り着いた。
そういえば前回みたいに呼ばれてきたって証明する手紙とかは無いけど、今回はどうやって証明するんだろう。
俺がそう考えている間に、ハルはさっと小さなカードのような物を取り出して門番さんに手渡していた。なるほど、ちゃんと招待状代わりの物をもらってたのか。
俺達は何の問題もなく、あっさりと領主城の中へと招き入れてもらえた。
「お待ちしておりました」
敷地内に入るなりそう声をかけてきたのは、門の内側を少し進んだ所に立っている護衛らしき男性だった。上から下まできっちりと全身装備で固めていて、強そうな人だ。
出発はお昼過ぎとしか聞いてなかったけど、この人はずっとここで俺達を待ってくれていたんだろうか。
「待たせてすみません」
反射的に謝った俺に、大きく目を見開いた男性は次の瞬間にはふわりと笑みを浮かべた。
「謝罪は不要ですよ。私は仕事として案内役を任されただけですから」
「あ、じゃあありがとうございます」
謝るのが駄目ならお礼の方だよねと言葉を重ねれば、またしても男性は楽し気に笑みを浮かべた。
「アキト、気にしなくて大丈夫だよ。案内してもらおう?」
ハルの言葉に男性はふふと笑ってから、すぐに前に立って歩き出した。
「こちらへどうぞ」
男性の先導で俺達が向かったのは、この前は近づかなかった一画だった。領主城ほどではないけれど立派な建物がどどんと建っている。
建物の前には広場のような広大なスペースがあり、そこには馬車がいくつも並んでいた。まだ馬の姿は無いけれど、街道でみかけるような馬車とは豪華さが違う。中でも真ん中辺りにある馬車は、トライプール領主様の家紋が大きくついていて一際立派だ。
「あれ…?馬車?」
今日は魔法陣で移動するのに?と不思議に思ってぽつりと呟けば、ハルが小声で教えてくれた。
「領主様が外出してるって対外的に示すために、あの馬車は街道を通って辺境領に向かうんだ」
「えっ…そんな事までするんだ?」
「ああ、不自然に思われないように…ね」
つまりそれって偽装工作だよね。そこまでして魔法陣の事を隠してるのか。俺もちゃんと秘密を守れるように頑張ろう。
案内されるまま馬車の後ろ側に回りこめば、そこにはたくさんの人の姿があった。
明らかに完全武装の強そうな人達は多分護衛の人達かな。普段着で忙しそうに移動している人達は箱や袋を抱えているから、荷物の準備をしている人達だろう。あ、馬の世話をしてる人達もいる。どの馬も綺麗だなと思わず見惚れていると、ハルにくいっと手を引かれた。
あ、そうだよね。今は馬を見つめてる場合じゃないよね。
こちらに気づいてすぐに近づいてきたのは、驚くほど大きな弓を背負った男性だった。
俺の中で弓と言うとイコールブレイズのイメージなんだけど、ブレイズの弓は軽くて数が打てるのが強味だった。でもこの人の弓はそれとは全然違うんだろうなと、詳しくない俺にも分かった。
たぶんこれだけ大きかったら手数は少なくなると思う。でもその分一撃が重そうだ。
「こんにちは。私は今回の護衛の隊長を務めるストといいます。はじめまして」
すこし威圧感のある見た目からは想像できないほど優しい笑みを浮かべて、ストさんはそう声をかけてくれた。
「はじめまして。アキトです」
にっこりと笑みを浮かべたストさんは、ちらりとハルに視線を向けた。ハルははじめましてとも言わないし名乗ったりもしなかったから、たぶん知り合いなんだろうな。
「おそらくついてからはすぐに別行動になると思いますが、何かあればいつでも頼ってくださいね」
「その言葉、ありがたく受け取ります」
ハルは固い言葉で返したけど、ストさんはそんなハルの肩をぽんっと叩いて笑って離れていった。
「ハル、ストさんは知り合い…だよね?」
「ああ、あっちは仕事中だから言葉も固いままだけどな」
普段はあんなんじゃないぞと笑ったハルいわく、ストさんは白狼亭の常連さんのうちの一人らしい。ローガンさんのステーキが大好きで、ハルとストさんどっちの方がより白狼亭の常連かって喧嘩した事もあるらしい。
ちなみにその時はローガンさんに、どっちでも良いが喧嘩する奴らに食わせるステーキは無いぞって言われて終了したらしい。
なんともローガンさんらしいエピソードだね。
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