785 / 1,103
784.出発の日
しおりを挟む
今日はいよいよ辺境領へと出発する日だ。
こどもの頃から遠足や楽しい遊び予定の前日には、興奮しすぎてよく眠れない事が多かった。そんな俺だからもしかしたら眠れないかもなとちょっとだけ不安だったけど、どうやら余計な心配だったみたいだ。
窓から入ってくる太陽の光で自然と目を覚ました俺は、ちいさくあくびを洩らしながらむくりと起き上がった。
部屋の中はすっかり明るくなってるけど、別に俺が寝坊したとかじゃない。
遠距離移動のためには早起きして早朝から動くというのが鉄則だけど、今回は領主様が一緒だから特別なんだって。出発はお昼過ぎだって聞いてたから、こんな時間までのんびりできて俺としてはありがたいけどね。
あれ、でもハルがいないな。どこにいったんだろうと寝ぼけた頭でぼんやりと考えていると、不意にガチャリとドアが開いた。
「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト」
寝てる間に帰ってくるつもりだったのにと苦笑しながら、ハルは手にもっていたカゴを持ちかえて俺に見せてくれた。
「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」
もしかしてとワクワクしながら覗き込んでみれば、カゴの中にはたっぷり具材の挟まった分厚いサンドイッチがいくつも並んでいた。俺の好きなマルックスのサンドもあるし、ハルの好きなステーキのサンドもあるみたいだ。
栄養バランスを考えてなのか、サラダやグリル野菜、スープまで添えられている。朝昼兼用になるように考えて、ボリュームたっぷりに作ってくれたんだろうな。
「わー美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」
せっかくならレーブンさんも一緒に食べて欲しかったけど、今の時間帯も黒鷹亭は忙しいから仕方ないよね。
辺境領でも絶対にレーブンさんへのお土産を探そうとこっそり決意しながら、俺はレーブンさんの気持ちのこもったご飯を美味しくいただいた。
しっかりと用意を終えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンさんの姿があった。
「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」
ハルがそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンさんはよしよしちゃんと食べたなと笑みを浮かべた。
「どれもすっごく美味しかったです!」
ありがとうございましたと勢い込んで告げれば、レーブンさんはくすぐったそうに笑って手を振った。
「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」
悪くねぇなと楽し気に笑っていたレーブンさんは、不意に表情を曇らせた。
「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」
ハルは不思議そうにそう尋ねた。
「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」
俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなとハルは続けたけれど、レーブンさんはそういう事じゃないんだと首を振った。
「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」
ハルはさらりとそう続けた。俺がハルを守ろうとすることも、当たり前に受け入れてくれているのが嬉しい。
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」
まさかなと言いたげに続けたハルに、レーブンさんはすぐに頷いた。
「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」
ハルはそう言ってくれてるけど、レーブンさんは心配してくれてるって事だよね。うまくいかなかったらとか、俺が拒絶されないかなとか考えてくれてるんだろうか。
そう思ったけど、レーブンさんの心配の方向性は俺が思っているものとは全く違うものだった。
「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」
ハルと二人で顔を見合わせてから、首を傾げてしまった。
「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」
気に入ってもらえるのって、良い事じゃない?
「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」
えっと、ちょっと褒めすぎじゃないかな。いやレーブンさんがそう思ってくれてるんだって思えば、それはまあ嬉しいんだけどね。
でもそこまで言われたら褒められすぎて恥ずかしい。頬を赤く染めて視線を向ければ、ハルは重々しく頷いて同意を返していた。うわーなんだか余計に恥ずかしい。
「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」
それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとまで言われてしまった。これって本気で言ってる…よね?
焦る俺の隣で、ハルは良い笑顔で頷いた。
「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」
えっと…その心配は、いらないんじゃないかな。
こどもの頃から遠足や楽しい遊び予定の前日には、興奮しすぎてよく眠れない事が多かった。そんな俺だからもしかしたら眠れないかもなとちょっとだけ不安だったけど、どうやら余計な心配だったみたいだ。
窓から入ってくる太陽の光で自然と目を覚ました俺は、ちいさくあくびを洩らしながらむくりと起き上がった。
部屋の中はすっかり明るくなってるけど、別に俺が寝坊したとかじゃない。
遠距離移動のためには早起きして早朝から動くというのが鉄則だけど、今回は領主様が一緒だから特別なんだって。出発はお昼過ぎだって聞いてたから、こんな時間までのんびりできて俺としてはありがたいけどね。
あれ、でもハルがいないな。どこにいったんだろうと寝ぼけた頭でぼんやりと考えていると、不意にガチャリとドアが開いた。
「あ、アキト、起きてた?」
「うん、おはようハル」
「おはようアキト」
寝てる間に帰ってくるつもりだったのにと苦笑しながら、ハルは手にもっていたカゴを持ちかえて俺に見せてくれた。
「今日の出発はゆっくりだって言ったら、レーブンが用意してくれたんだ」
もしかしてとワクワクしながら覗き込んでみれば、カゴの中にはたっぷり具材の挟まった分厚いサンドイッチがいくつも並んでいた。俺の好きなマルックスのサンドもあるし、ハルの好きなステーキのサンドもあるみたいだ。
栄養バランスを考えてなのか、サラダやグリル野菜、スープまで添えられている。朝昼兼用になるように考えて、ボリュームたっぷりに作ってくれたんだろうな。
「わー美味しそう!」
「そろそろ食堂は閉まる時間帯だから、部屋でゆっくり食べろって言ってたよ」
「嬉しいなー後でお礼言わないと」
「うん、そうしよう」
せっかくならレーブンさんも一緒に食べて欲しかったけど、今の時間帯も黒鷹亭は忙しいから仕方ないよね。
辺境領でも絶対にレーブンさんへのお土産を探そうとこっそり決意しながら、俺はレーブンさんの気持ちのこもったご飯を美味しくいただいた。
しっかりと用意を終えて階下へ下りていくと、受付にはレーブンさんの姿があった。
「おはよう、アキト」
「おはようございます」
「レーブン、これ。ありがとう」
ハルがそっと差し出したカゴをちらりと見て、レーブンさんはよしよしちゃんと食べたなと笑みを浮かべた。
「どれもすっごく美味しかったです!」
ありがとうございましたと勢い込んで告げれば、レーブンさんはくすぐったそうに笑って手を振った。
「気にすんな。俺がお前らに食わせたかっただけだ」
「本当に美味かったよ」
「ハルがそう言うのは珍しいな」
悪くねぇなと楽し気に笑っていたレーブンさんは、不意に表情を曇らせた。
「…俺は心配だよ」
「なあ、レーブン、何がそんなに心配なんだ?」
ハルは不思議そうにそう尋ねた。
「辺境領は確かにすごく安全な場所ってわけじゃないが、最近はスタンピードも起きてないし危険度は下がってるぞ」
「ああ、それは知ってる」
「全ての魔物に勝てるとまでは言えないが、アキトと俺なら負けない事はできるだろう」
俺とアキトは戦闘面での相性も良いからなとハルは続けたけれど、レーブンさんはそういう事じゃないんだと首を振った。
「アキトの事は俺が全力で守るし、アキトだって俺を守ってくれるから大丈夫だ」
ハルはさらりとそう続けた。俺がハルを守ろうとすることも、当たり前に受け入れてくれているのが嬉しい。
「いや、そういう意味じゃねぇよ」
「じゃあ俺の両親との顔合わせの方が心配なのか?」
まさかなと言いたげに続けたハルに、レーブンさんはすぐに頷いた。
「ああ」
「アキトは…きっと気に入られるよ」
ハルはそう言ってくれてるけど、レーブンさんは心配してくれてるって事だよね。うまくいかなかったらとか、俺が拒絶されないかなとか考えてくれてるんだろうか。
そう思ったけど、レーブンさんの心配の方向性は俺が思っているものとは全く違うものだった。
「そんな事は俺だって分かってるんだよ」
「え?」
「は?」
ハルと二人で顔を見合わせてから、首を傾げてしまった。
「むしろ俺が気にしてるのは、気に入られすぎちまう可能性の方だ!」
「気に入られすぎる?」
「可能性?」
気に入ってもらえるのって、良い事じゃない?
「こんなに性格も良くて、可愛げもあって、素直で人たらしなアキトだぞ?あの最強夫婦にも気に入られるに決まってるだろう!」
えっと、ちょっと褒めすぎじゃないかな。いやレーブンさんがそう思ってくれてるんだって思えば、それはまあ嬉しいんだけどね。
でもそこまで言われたら褒められすぎて恥ずかしい。頬を赤く染めて視線を向ければ、ハルは重々しく頷いて同意を返していた。うわーなんだか余計に恥ずかしい。
「あの…」
「ハル、絶対にアキトをトライプールに連れて帰ってこいよ。このまま辺境領に住めとか言われたら俺とローガンの名前を使って良い」
それでも無理なら、領主とかけあって直接乗り込むからなとまで言われてしまった。これって本気で言ってる…よね?
焦る俺の隣で、ハルは良い笑顔で頷いた。
「まかせてくれ、レーブン。絶対にアキトと一緒に帰ってくるからな」
えっと…その心配は、いらないんじゃないかな。
150
お気に入りに追加
4,148
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる