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783.【ハル視点】こだわりの正装
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テーブルに載せた大きな紙包みを、アキトは興味深そうにまじまじと見つめている。包みの大きさに驚いてはいるみたいだが、少なくとも嫌そうでは無いな。
はたしてアキトに喜んでもらえるかどうか。正直に言えば自信は無いが、まずは開けて貰わないと話もできないと、俺は控え目にアキトに声をかけた。
「アキト、開けてみて」
うんとひとつ頷くと、アキトは丁寧に包みを開き始めた。
ほどなくして中から出てきたのは、たくさんのこだわりを詰め込んで仕立ててもらった服の上下だ。
細身のアキトに似合うだろうすっきりとした服の形に、布はグバー織の白い生地を選んだ。クバー織は品質の高さももちろんだが、肌ざわりが柔らかくて着心地が良い。こだわりの形とこだわりの布には、俺の瞳と髪の色である紫と金色の糸で細かな刺繍を入れてもらった。
刺繍の図案にはかなり悩んだが、依頼した先の職人から勧められた祝福や守護の意味を持つモチーフや文字の中から選んだ。
客観的に見ても美しい作りの服だと思うんだが…。
平静を装いながらも内心ではドキドキしながら、俺はアキトの反応を待った。
「えっと、これって…」
そこでアキトは言葉を途切れさせた。指先がそっと優しく刺繍の部分を撫でたが、それでも続きの言葉は出てこなかった。
ここまでわかりやすく俺の色で揃えたのは、すこしやりすぎだっただろうかと、急に不安になってくる。
「ごめん、ちょっと重かったかな?」
「え…いや…」
「最初からアキトが両親に会う時のためにって用意してたわけじゃないんだ。これは本当だよ」
もしアキトが普段の依頼時の装備で会いに行ったとしても、俺の両親は全く気にしない。そんな事を気にしていられるような安全な領地じゃなかったからな。だから両親との顔合わせのために用意したものじゃないというのは本当だ。
「ただこういう服は一着ぐらいはあっても困らないものだし、いざ必要になった時に急いで探すとなるとろくなものが見つからないから、時間のあるうちに作ってもらおうと…」
例えば騎士団の行事に招待された時や、友人の祝いの席に招かれた時だ。自分の服はどうでも良いが、アキトのための服なら細かい所までこだわりたい。既製品の中で似合うものがあれば良いが、見つからなくて妥協するなんて絶対に嫌だ。
そんな一心で選んだ服だが――アキトも自分で選びたかったかもしれないよな。
「ハル!」
「はい…」
この服は嫌だと言われたら受け入れようと覚悟を決めたけれど、うなだれたまま視線だけをちらりと上げて見たアキトは、予想外にもニコニコと嬉しそうに笑っていた。
あれ、怒ってないし呆れてないのか?
「これって俺のためにわざわざ用意してくれたのかなって思っただけで、怒ってないよ」
「…本当?」
本当だよとコクコク頷いてくれるアキトに、俺はやっと少しだけ肩の力を抜いた。
「…俺がアキトに似合うだろうなと思って選んだ布と服の形に、俺の目と髪の色の糸で刺繍までしてもらったのに?」
この服を着ていたら、誰が見てもアキトは隣にいる俺の伴侶候補だと分かるだろう。そんな服をわざわざ選ばれて嫌じゃないのかと続ければ、アキトはふふと柔らかい笑みを浮かべた。
「うん、ハルの気持ちがこもってて、俺は嬉しいよ――独占欲でしょう?」
ここで嬉しいと言いきれるのが、アキトだな。
「…アキトはやっぱり…男前、だね」
「えーと…ありがとう?」
俺の反応に戸惑いながらも、アキトは笑顔でそう答えてくれた。
「あ、あのさ…ハルの服は?」
「俺のは黒い布にツヤのある黒と茶色で刺繍をしたものにしたよ」
アキトの服と同じグバ―織の黒の生地に、ツヤのある黒色と茶色で刺繍を施してもらった。俺の方はすこし騎士団の制服に通ずるような形に作ってもらってある。
「これと対になるように作ってあるんだ。その――勝手にアキトの色を意識した服を作ってごめんね」
アキトの色を纏いたいとそう思って選んだものだけど、これも許可を貰ってから作った方が良かったかもしれない。先走っていた自分が恥ずかしくてそう告げれば、アキトはむっと不機嫌そうな顔を作って答えた。
「むしろここで俺の色を使ってない服にしてたら拗ねたかもしれない。俺だってハルへの独占欲ぐらいあるんだからね」
そんな可愛い事を言ってくれるアキトがたまらなく愛おしくて、思わず顔中に口づけを降らせてしまった。なんとか押し倒さずに我慢できたのは奇跡かもしれない。
「あ、そういえばハル、ひとつだけ聞きたいんだけど」
「ん?何?」
「これって辺境領に移動するときから着ていくの?」
「いや今回は顔合わせが目的だから、玄関まで家族が出迎えには来ないんだ。だからまずは執事に声をかけてから、別室で着替える事になると思うよ」
確か長兄の伴侶候補が言えに顔合わせに来た時もそうしていたから、きっとそうなるだろう。
「その後で改めて顔合わせの場所を設けてくる筈だからね。さすがに辺境領の危険性を考えて、着飾って来いとは言われないから安心して」
アキトはなるほどとひとつ頷いてくれた。
「あー…うちの家族は形式とかあまり気にしないから、本当は別に着替えたりしなくても良いんだけどね」
ただ俺の色をまとったアキトを、家族に紹介したいという俺の我儘だ。俺は申し訳ない気分で苦笑しながらも続けた。
「…でも、アキトは俺のだって主張したいから着て欲しいな」
「着るよ!絶対着るよ!」
アキトはハイッと元気に手をあげると、少しも考えずに即答してくれた。あまりの勢いに思わず大きく目を見開いてしまったけれど、アキトはそんな俺を気にせずに続けた。
「汚れたり破れたりしたら嫌だなーって思っただけだよ。せっかくハルに貰ったんだから大事にしたい…」
そんな殺し文句を愛おしそうに服を見つめながら言われたら、俺の理性なんて一瞬で焼ききれそうになる。
「明日出発じゃなかったら思う存分可愛がれたのになー」
思わず口にした俺の本音に、アキトが小さく頷いたのには気づかなかった事にした。
はたしてアキトに喜んでもらえるかどうか。正直に言えば自信は無いが、まずは開けて貰わないと話もできないと、俺は控え目にアキトに声をかけた。
「アキト、開けてみて」
うんとひとつ頷くと、アキトは丁寧に包みを開き始めた。
ほどなくして中から出てきたのは、たくさんのこだわりを詰め込んで仕立ててもらった服の上下だ。
細身のアキトに似合うだろうすっきりとした服の形に、布はグバー織の白い生地を選んだ。クバー織は品質の高さももちろんだが、肌ざわりが柔らかくて着心地が良い。こだわりの形とこだわりの布には、俺の瞳と髪の色である紫と金色の糸で細かな刺繍を入れてもらった。
刺繍の図案にはかなり悩んだが、依頼した先の職人から勧められた祝福や守護の意味を持つモチーフや文字の中から選んだ。
客観的に見ても美しい作りの服だと思うんだが…。
平静を装いながらも内心ではドキドキしながら、俺はアキトの反応を待った。
「えっと、これって…」
そこでアキトは言葉を途切れさせた。指先がそっと優しく刺繍の部分を撫でたが、それでも続きの言葉は出てこなかった。
ここまでわかりやすく俺の色で揃えたのは、すこしやりすぎだっただろうかと、急に不安になってくる。
「ごめん、ちょっと重かったかな?」
「え…いや…」
「最初からアキトが両親に会う時のためにって用意してたわけじゃないんだ。これは本当だよ」
もしアキトが普段の依頼時の装備で会いに行ったとしても、俺の両親は全く気にしない。そんな事を気にしていられるような安全な領地じゃなかったからな。だから両親との顔合わせのために用意したものじゃないというのは本当だ。
「ただこういう服は一着ぐらいはあっても困らないものだし、いざ必要になった時に急いで探すとなるとろくなものが見つからないから、時間のあるうちに作ってもらおうと…」
例えば騎士団の行事に招待された時や、友人の祝いの席に招かれた時だ。自分の服はどうでも良いが、アキトのための服なら細かい所までこだわりたい。既製品の中で似合うものがあれば良いが、見つからなくて妥協するなんて絶対に嫌だ。
そんな一心で選んだ服だが――アキトも自分で選びたかったかもしれないよな。
「ハル!」
「はい…」
この服は嫌だと言われたら受け入れようと覚悟を決めたけれど、うなだれたまま視線だけをちらりと上げて見たアキトは、予想外にもニコニコと嬉しそうに笑っていた。
あれ、怒ってないし呆れてないのか?
「これって俺のためにわざわざ用意してくれたのかなって思っただけで、怒ってないよ」
「…本当?」
本当だよとコクコク頷いてくれるアキトに、俺はやっと少しだけ肩の力を抜いた。
「…俺がアキトに似合うだろうなと思って選んだ布と服の形に、俺の目と髪の色の糸で刺繍までしてもらったのに?」
この服を着ていたら、誰が見てもアキトは隣にいる俺の伴侶候補だと分かるだろう。そんな服をわざわざ選ばれて嫌じゃないのかと続ければ、アキトはふふと柔らかい笑みを浮かべた。
「うん、ハルの気持ちがこもってて、俺は嬉しいよ――独占欲でしょう?」
ここで嬉しいと言いきれるのが、アキトだな。
「…アキトはやっぱり…男前、だね」
「えーと…ありがとう?」
俺の反応に戸惑いながらも、アキトは笑顔でそう答えてくれた。
「あ、あのさ…ハルの服は?」
「俺のは黒い布にツヤのある黒と茶色で刺繍をしたものにしたよ」
アキトの服と同じグバ―織の黒の生地に、ツヤのある黒色と茶色で刺繍を施してもらった。俺の方はすこし騎士団の制服に通ずるような形に作ってもらってある。
「これと対になるように作ってあるんだ。その――勝手にアキトの色を意識した服を作ってごめんね」
アキトの色を纏いたいとそう思って選んだものだけど、これも許可を貰ってから作った方が良かったかもしれない。先走っていた自分が恥ずかしくてそう告げれば、アキトはむっと不機嫌そうな顔を作って答えた。
「むしろここで俺の色を使ってない服にしてたら拗ねたかもしれない。俺だってハルへの独占欲ぐらいあるんだからね」
そんな可愛い事を言ってくれるアキトがたまらなく愛おしくて、思わず顔中に口づけを降らせてしまった。なんとか押し倒さずに我慢できたのは奇跡かもしれない。
「あ、そういえばハル、ひとつだけ聞きたいんだけど」
「ん?何?」
「これって辺境領に移動するときから着ていくの?」
「いや今回は顔合わせが目的だから、玄関まで家族が出迎えには来ないんだ。だからまずは執事に声をかけてから、別室で着替える事になると思うよ」
確か長兄の伴侶候補が言えに顔合わせに来た時もそうしていたから、きっとそうなるだろう。
「その後で改めて顔合わせの場所を設けてくる筈だからね。さすがに辺境領の危険性を考えて、着飾って来いとは言われないから安心して」
アキトはなるほどとひとつ頷いてくれた。
「あー…うちの家族は形式とかあまり気にしないから、本当は別に着替えたりしなくても良いんだけどね」
ただ俺の色をまとったアキトを、家族に紹介したいという俺の我儘だ。俺は申し訳ない気分で苦笑しながらも続けた。
「…でも、アキトは俺のだって主張したいから着て欲しいな」
「着るよ!絶対着るよ!」
アキトはハイッと元気に手をあげると、少しも考えずに即答してくれた。あまりの勢いに思わず大きく目を見開いてしまったけれど、アキトはそんな俺を気にせずに続けた。
「汚れたり破れたりしたら嫌だなーって思っただけだよ。せっかくハルに貰ったんだから大事にしたい…」
そんな殺し文句を愛おしそうに服を見つめながら言われたら、俺の理性なんて一瞬で焼ききれそうになる。
「明日出発じゃなかったら思う存分可愛がれたのになー」
思わず口にした俺の本音に、アキトが小さく頷いたのには気づかなかった事にした。
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