783 / 905
782.【ハル視点】忙しい一日
しおりを挟む
ルタスとワルトに譲ってもらった席で、俺達はレーブンが作ってくれた朝食を堪能した。毎日日替わりで味付けや具材の変わるスープに、美味しいパン、果物やサラダまで、今日もどれも文句なしに美味かった。
食事を終えた後は、自分たちの部屋に戻って辺境領行きのための荷物の準備だ。
普段の依頼でもよく使っているテントや採取用の手袋、それに装備品に問題が無いかをきっちり点検しながら、ひとつずつ魔導収納鞄の中へとしまいこんでいく。
俺の我儘で、アキトの持っている剣や投げナイフの手入れもさせてもらった。
最近はアキトは基本的に魔法ばかり使っているから、剣はほとんどただの飾りになっている。それでも辺境領に行くなら魔法だけじゃない攻撃手段も持っておいて欲しいんだとそう主張したら、アキトはお願いしますと快く任せてくれた。
武器も防具も採取関係の物も、問題なく荷造りはできただろう。
「アキト、これも手分けして持っていこう」
カチャカチャと音を立てながらテーブルの上に並べていくのは、色々な種類のポーションだった。傷を回復するためのポーションから解毒用のポーションまで、ずらりと並んだ瓶の量に、アキトはぱちぱちとまばたきを繰り返していた。
こうやってみると、確かにすごい量に見えるよな。気持ちは分かるんだが、ポーションだけはきちんと揃えておきたい。
俺がまだ幽霊だった頃、アキトが大怪我をしたあの日の後悔を繰り返したくは無いからな。
「はい、これがアキトの分だよ。右から順番に下級、中級、最高級の回復薬だから注意してね」
順番にポーションの瓶を指差しながら説明をすれば、アキトは真剣な表情で観察を始めた。正直に言えば最高級の回復薬さえ覚えていてくれれば、どんな怪我でも治す事はできる。でもそれを言ったら、呆れられそうだよなと俺は口をつぐんだ。
「すごい…綺麗だね」
「アキト、何かあったら躊躇せずに使ってね?」
「え」
「値段を考えてとか、綺麗だからもったいないとか、考えずに使って欲しい」
本気で危険な時にアキトがそんな事を考えるとは思わないけれど、それでも念のために言っておきたかった。口うるさいと言われても良いと覚悟の上での言葉に、アキトは真剣な表情で答えてくれた。
「さすがにそれはしないよ。危ないと思ったらちゃんと使う」
「うん、そうして」
「後は…何かあったっけ?魔物避けもさっきもらったし」
普段なら俺がまとめて持っている事が多い滅多に使わないような物も、今回はきちんと等分にして分けなおしている。もしもの時に一人だけが物資を持っていると、もう一人の生存率が下がるからな。
辺境領ではそれが常識――というより、これも一種の祈りのようなものだ。
「そうしておいた方がいざという時に仲間や伴侶の心配をせずに、全力が出せるっていう先人の知恵だよ」
「はーそうなんだ」
俺の世界ではそういうのをゲン担ぎって言うんだよ、とアキトは教えてくれた。なるほどゲン担ぎか。覚えておこう。
俺の魔道具の点検が終わった所で、今度は二人で顔を寄せ合い買い忘れた物が無いかを確認していく。
「おそらく必要は無いとは思うんだが…携帯食料はもうすこし欲しいな」
「そうなんだ。俺は果実水がかなり減ってたよ」
果実水はアキトのお気に入りだからと色んな所で色んな味を買い足しているんだが、それでもそろそろなくなりそうなのか。俺の方の果実水もそう言えば減ってきてたな。
「うん、果実水は必要だね」
「携帯食料は、前に行った雑貨屋さんかな?」
買い足したいものをいくつか紙に書き出して、俺達はまた街へと飛び出した。
「ただいまー」
「アキト、おかえり」
「ハルもおかえり」
「ふふ、ただいま」
いつものやりとりをした俺達は、荷物を下ろすとどちらともなくふうーと大きく息を吐いた。ため息というよりも達成感の息だな。
今日はあれから、買い忘れた物を順番に買って回った。途中で屋台で買い食いをしたりしながら、俺の家族への手土産を二人で選んだりもした。
買った物もその場で全て等分に分けておいたから、これで準備は完了だな。時間が無かったわりにはしっかりと用意ができたな。
ああ、でももう一つだけ、忘れてはいけない事があったか。
椅子に座ったままぼんやりとしているアキトに、俺は意を決して声をかけた。
「アキト」
「ん?」
「えっと…アキトにプレゼントしたいものがあるんだけど…」
「えっと…プレゼント?」
何で急に?と言いたげに首を傾げたアキトの目の前で、俺はプレゼントの包みを取り出すとそっとテーブルの上に載せた。
「これを、アキトに貰って欲しいんだ」
食事を終えた後は、自分たちの部屋に戻って辺境領行きのための荷物の準備だ。
普段の依頼でもよく使っているテントや採取用の手袋、それに装備品に問題が無いかをきっちり点検しながら、ひとつずつ魔導収納鞄の中へとしまいこんでいく。
俺の我儘で、アキトの持っている剣や投げナイフの手入れもさせてもらった。
最近はアキトは基本的に魔法ばかり使っているから、剣はほとんどただの飾りになっている。それでも辺境領に行くなら魔法だけじゃない攻撃手段も持っておいて欲しいんだとそう主張したら、アキトはお願いしますと快く任せてくれた。
武器も防具も採取関係の物も、問題なく荷造りはできただろう。
「アキト、これも手分けして持っていこう」
カチャカチャと音を立てながらテーブルの上に並べていくのは、色々な種類のポーションだった。傷を回復するためのポーションから解毒用のポーションまで、ずらりと並んだ瓶の量に、アキトはぱちぱちとまばたきを繰り返していた。
こうやってみると、確かにすごい量に見えるよな。気持ちは分かるんだが、ポーションだけはきちんと揃えておきたい。
俺がまだ幽霊だった頃、アキトが大怪我をしたあの日の後悔を繰り返したくは無いからな。
「はい、これがアキトの分だよ。右から順番に下級、中級、最高級の回復薬だから注意してね」
順番にポーションの瓶を指差しながら説明をすれば、アキトは真剣な表情で観察を始めた。正直に言えば最高級の回復薬さえ覚えていてくれれば、どんな怪我でも治す事はできる。でもそれを言ったら、呆れられそうだよなと俺は口をつぐんだ。
「すごい…綺麗だね」
「アキト、何かあったら躊躇せずに使ってね?」
「え」
「値段を考えてとか、綺麗だからもったいないとか、考えずに使って欲しい」
本気で危険な時にアキトがそんな事を考えるとは思わないけれど、それでも念のために言っておきたかった。口うるさいと言われても良いと覚悟の上での言葉に、アキトは真剣な表情で答えてくれた。
「さすがにそれはしないよ。危ないと思ったらちゃんと使う」
「うん、そうして」
「後は…何かあったっけ?魔物避けもさっきもらったし」
普段なら俺がまとめて持っている事が多い滅多に使わないような物も、今回はきちんと等分にして分けなおしている。もしもの時に一人だけが物資を持っていると、もう一人の生存率が下がるからな。
辺境領ではそれが常識――というより、これも一種の祈りのようなものだ。
「そうしておいた方がいざという時に仲間や伴侶の心配をせずに、全力が出せるっていう先人の知恵だよ」
「はーそうなんだ」
俺の世界ではそういうのをゲン担ぎって言うんだよ、とアキトは教えてくれた。なるほどゲン担ぎか。覚えておこう。
俺の魔道具の点検が終わった所で、今度は二人で顔を寄せ合い買い忘れた物が無いかを確認していく。
「おそらく必要は無いとは思うんだが…携帯食料はもうすこし欲しいな」
「そうなんだ。俺は果実水がかなり減ってたよ」
果実水はアキトのお気に入りだからと色んな所で色んな味を買い足しているんだが、それでもそろそろなくなりそうなのか。俺の方の果実水もそう言えば減ってきてたな。
「うん、果実水は必要だね」
「携帯食料は、前に行った雑貨屋さんかな?」
買い足したいものをいくつか紙に書き出して、俺達はまた街へと飛び出した。
「ただいまー」
「アキト、おかえり」
「ハルもおかえり」
「ふふ、ただいま」
いつものやりとりをした俺達は、荷物を下ろすとどちらともなくふうーと大きく息を吐いた。ため息というよりも達成感の息だな。
今日はあれから、買い忘れた物を順番に買って回った。途中で屋台で買い食いをしたりしながら、俺の家族への手土産を二人で選んだりもした。
買った物もその場で全て等分に分けておいたから、これで準備は完了だな。時間が無かったわりにはしっかりと用意ができたな。
ああ、でももう一つだけ、忘れてはいけない事があったか。
椅子に座ったままぼんやりとしているアキトに、俺は意を決して声をかけた。
「アキト」
「ん?」
「えっと…アキトにプレゼントしたいものがあるんだけど…」
「えっと…プレゼント?」
何で急に?と言いたげに首を傾げたアキトの目の前で、俺はプレゼントの包みを取り出すとそっとテーブルの上に載せた。
「これを、アキトに貰って欲しいんだ」
応援ありがとうございます!
69
お気に入りに追加
3,899
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる