生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

文字の大きさ
上 下
780 / 1,179

779.【ハル視点】ローガンに挨拶を

しおりを挟む
 部屋に入ると真っ先に目に飛び込んできたのは、所せましと山のような食材が並べられたテーブルだった。

 どっさりと積み上げられた食材の山に驚いてその場に立ち尽くす俺達に、レーブンは苦笑を浮かべた。

「あー初めて見たらびっくりするか。いつもの事なんだが…ほら、こっちだ」

 言われるがままについていくと、山のような食材の向こう側には埋もれるようにして作業中のローガンの姿があった。

「よう、何か俺に用事があるんだって?ちょっと待ってくれよー」

 軽やかに喋りながらも、ローガンの手は流れるように食材を仕分けし続けている。見惚れるほどの手際の良さだな。

「これ、レーブンの分な」

 ローガンは巨大な肉の塊を切り分けてレーデの葉っぱで包みなおすと、そのままレーブンに差し出した。おそらく何かの魔物肉なのだろうその肉の大きさに、アキトはキラキラと目を輝かせている。

 すごい大きさだねと言いたげなアキトの視線に、俺も笑って小さく頷きを返す。たしかに、これはかなりの大きさだ。まあレーブンは躊躇うでも驚くでもなく慣れた様子ですぐに受け取っていたから、二人にとってはこの大きさも当たり前なんだろう。

「おう、ありがとう。代金はいくらだ?」
「いや、これはこないだの酒の分にしてくれ」
「…いいのか?」

 俺の方が得だろう?と尋ねたレーブンに、ローガンはからりと笑って答えた。

「ああ、あれはうまかったからな、気にすんな」

 酒の値段じゃなくて味で決めるあたりがこの兄弟らしいな。

「分かった。それなら遠慮なく」
「よし、あとはこれを渡せば…」

 さくさくと仕分けを続けていたローガンの動きに見惚れている間に、テーブルの上の物は綺麗に無くなっていった。

「アキト、ハル。すまない、待たせたな」

 申し訳なさそうなローガンに俺はすぐに首を振った。

「いや、急に割り込んだのは俺達の方だからな」
「それで…何かあったのか?」

 どんな話でも聞くぞと言いたげな緊張感のあるローガンの態度に、俺は思わずちらりとレーブンに視線を向けた。

「レーブン、何も話してないのか?」
「ひでぇだろー聞いても何も教えてくれなかったんだぞ」

 不服そうにそう続けたローガンに、レーブンは仕方ないだろうがと軽く返した。

「自分たちで説明したいから、こいつに会いたいって言ったんだろ?」

 そうじゃなかったら、俺から伝えてくれって言ってただろうと言いたげなレーブンに俺は苦笑を返した。まあ、そうだな。アキトは自分で伝えたいから会いたいと言った筈だ。

「まあ、レーブンが落ち着いてるからそこまでひどい話しじゃないんだろうと、ある程度想像はついてるんだが…な」

 それでも心配しないわけじゃないんだとさらりと続けたローガンに、アキトは慌てて声をあげた。

「あの、俺とハルはハルのご家族に挨拶するために辺境領に行く事になったんです!」

 ローガンは一瞬だけ驚いた様子で目を見張ったが、次の瞬間には満面の笑みを浮かべた。

「おお、そうなのか。それはめでてぇな!おめでとう、アキト、ハル」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「ただ…今の時期だと谷経由は危なくねぇか?」

 辺境領に行くのにはいくつかのルートがあるが、一番よく使われるのが今ローガンが口にしたイドーレの谷経由の道のりだ。普段は一番安全なルートなんだが、今の時期だと繁殖のために移動する魔物の群れに遭遇する恐れがある。

 一瞬でそこまで考えて尋ねてきたローガンに密かに感心しながら、俺はゆるりと首を振った。

「いや、領主様と一緒に行くから…」

 ちらりとドアを見て防音結界が発動しているかどうかを確認したローガンは、そこでニヤリと笑みを浮かべた。

「領主様の魔法陣か」
「正解だ」
「それなら危険度は下がるな」

 ホッとした様子のローガンは、辺境領は危険もある場所ではあるが思いっきり楽しんで来いよと笑って続けた。

 きっとアキトなら楽しめるぞと、ローガンはレーブンと二人がかりで辺境領のお勧めのお店を教えこみ始めた。これには俺も、思わず横からあれこれと口を挟んでしまった。

 アキトが聞き上手で楽しそうにするから、余計にな。

「あー…帰って仕込みをしなくて良いなら、このまま食事でもと言いたいとこなんだが…」

 しばらく話し込んでいたローガンは、残念そうに肩を落として呟いた。

「だな。ちなみにこいつら明後日出発らしいぞ」
「…明日も店休むか…?」

 真剣な目でそうぶつぶつと呟き出したローガンに、今度は俺が慌てて声をあげる。

「待て待て、白狼亭の常連は店休日あけの営業を心待ちにしてるんだからやめてくれ」

 元々ローガンは買い出しの日とレーブンとの食事会の日は、間を開けて予定を組むようにしている筈だ。俺の知る限り、二日連続で休みにした事は無いだろう。

 そんな中で俺たちのために店を休ませるなんて、他の常連たちに申し訳なさすぎる。そう必死で主張すれば、ローガンは笑って分かったよと口にした。

「明後日は見送りにはこれないと思うが…ハル、アキト、絶対揃って帰ってこいよ」
「ああ、分かってる」
「はい!」
「帰ってきたら、また四人で食事会しようや!」
「楽しみにしてる」

 その時はステーキも焼いてやろうなー常連に免じてと、ローガンは楽しそうに揶揄ってくる。他の事ならうるさいと返す所だが、ローガンのステーキと聞くと拒否もできないな。否定しない俺を、ローガンは嬉しそうに見つめてくるから反応に困ってしまう。

 散々俺を揶揄ったローガンは、満足したのか不意にアキトと俺に向き直った。

「いってらっしゃい、良い旅をな」
「「はいっ!」」
しおりを挟む
感想 329

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!

ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。

竜王陛下、番う相手、間違えてますよ

てんつぶ
BL
大陸の支配者は竜人であるこの世界。 『我が国に暮らすサネリという夫婦から生まれしその長子は、竜王陛下の番いである』―――これが俺たちサネリ 姉弟が生まれたる数日前に、竜王を神と抱く神殿から発表されたお触れだ。 俺の双子の姉、ナージュは生まれる瞬間から竜王妃決定。すなわち勝ち組人生決定。 弟の俺はいつかかわいい奥さんをもらう日を夢みて、平凡な毎日を過ごしていた。 姉の嫁入りである18歳の誕生日、何故か俺のもとに竜王陛下がやってきた!?   王道ストーリー。竜王×凡人。 20230805 完結しましたので全て公開していきます。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...