生まれつき幽霊が見える俺が異世界転移をしたら、精霊が見える人と誤解されています

根古川ゆい

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778.【ハル視点】仮眠

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「あー…なるほど。それじゃあ今日は色々買って回ってたのか」
「ああ、だいたいの物は揃えられたと思う」
「そうか…二人とも依頼の時とは違う疲れ方をしてるだろうから、部屋で待ってたらどうだ?」

 レーブンはアキトと俺を心配そうに見つめながら、そう提案してくれた。

 きちんと時間を決めた約束をしてるわけじゃないから、いつローガンが来るかは分からないからだそうだ。

 それにしても、レーブンにこうして気づかわれるのにもすっかり慣れてしまったな。最初はアキトのついでに程度の扱いだったと思うんだが、いつの間にか俺個人の事も気にかけてくれるようになっていた。

 アキトの父親代わりということは、俺も義理の息子扱いなんだろうか。

 もしアキトと出会う前の俺に、将来的にレーブンから気づかわれるようになるぞと言っても信じてもらえないだろうな。

 そんな事をぼんやりと考えながら、俺はアキトに視線を向けた。

「アキト、レーブンの言葉に甘えようか」
「いいんですか?」
「ああ、ここでずっと待たせるわけにも行かないからな」

 確かに受付の前にずっといたら、逆に邪魔になるだろうな。

「ローガンが来たらちゃんと呼びに行くから、安心してゆっくりしててくれ」
「ありがとう、レーブン」
「レーブンさん、ありがとうございます」
「おう、どういたしまして」

 優しい笑みを浮かべたレーブンに見送られて、俺達は黒鷹亭の自室へと戻った。



「アキト、疲れた?」

 自分たちの部屋に戻るなり、ぼーっと虚空を見つめていたアキトに俺は思わず声をかけた。

「うん、ちょっと疲れたかも。ハルも?」
「ああ、俺も疲れたな」

 甘えるように俺も疲れたと声に出せば、アキトは何の前触れもなく浄化魔法を発動した。

「ありがとう」
「どういたしまして」

 さっと二人分の身体を清めたアキトは、そのままごろんとベッドに寝転がった。幸せそうにふわふわだと目を細めて笑う姿が、たまらなく可愛い。

「ハルも一緒にどう?」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてそう誘ってくるアキトに、俺は少しだけ考えてからそうだなと隣に寝転がった。確かに黒鷹亭のベッドは、柔らかくて寝心地が良いな。

「でもこうして寝転がると…なんだか急に眠くなってくるな」

 小さくあくびをしながら、俺はぽそりとそう呟いた。自分で思っているよりも、俺も疲れていたらしい。

「うん、わかる…」

 アキトもふわーと思いっきりあくびをしてから同意を返してくれる。

「寝ちゃだめっておもうと…よけいねむい…」

 既に半分眠りかけのアキトは、目をつむっては開いてを何度も何度も繰り返している。きっと後で呼びにきてくれるレーブンに、迷惑をかけたら駄目だと思っているんだろうな。

 そのまま寝て良いよと俺から声をかけるべきだろうか。レーブンが呼びに来たら、さすがに俺は目が覚める自信があるから二人とも眠ってしまっても問題は無いだろう。

 そう考えて口を開こうとした時には、アキトはもう完全に眠りに落ちていた。すーすーとうっすらと聞こえてくる規則的な寝息を聞いていると、自然と眠気が増してくる。

 ああ、俺もひと眠りするか。そう思って俺はそっと目を閉じた。



 自然と目が覚めた俺は、まずはちらりとアキトに視線を向けた。さっきと同じ姿勢のままで寝ているアキトを確認してから、今度は窓の外へと視線を向ける。どうやらまだそれほど時間は経っていないようだ。

 騎士の任務時には、交代制で数分の仮眠だけで済ませる事もある。それに慣れているせいか、どうやら俺は昼寝に向いていないらしい。

 アキトとのんびりと昼寝ができないのは少しだけ寂しいが、そのおかげで幸せそうに眠るアキトを眺められるんだから良しとしよう。



 しばらくしてレーブンが部屋へと向かってきている気配に気づいた俺は、アキトに声をかけた。

「アキト」
「んー…は…る…って!俺寝てた!?」

 飛び起きたアキトに俺は柔らかく笑いかけながら、そっと窓の外を指差した。

「まだそんなに経ってないよ、ほら」

 慌てて窓の外へと視線を向けたアキトは、ホッとした様子でようやく笑みを浮かべた。

「はー良かった。ぐっすり寝すぎて、すっごく長い間寝ちゃったかと思った」
「もうすこし寝かせておいてあげたかったんだけど…たぶんそろそろ…」

 俺がそう言った瞬間、部屋のドアがノックされる音が聞こえてきた。さっと立ち上がってドアを開ければ、予想通りそこにはレーブンが立っていた。

「アキト、ハル。ローガンが来たぞ」
「分かった、知らせてくれてありがとう」
「ありがとうございます」
「ああ、気にすんな」

 部屋を出て前を歩く背中についていけば、何故かそのままレーブンの私室のドアの前へと案内された。

 受付は良いのかと思わず受付カウンターに視線を向ければ、そこには明らかに疲れた顔をしたルタスの姿があった。まだ土汚れのついた装備を身につけたままだから、今は多分依頼帰りなんだろう。

「それじゃあ、ルタス、あとは頼んだぞ」
「おう、まかせてくれー」

 アキトと俺に気づくとルタスはひらひらと手を振りながら、レーブンに向かってそう答えた。

「そんなに時間はかからないと思うが…」
「分かってるって。話しをする間ここにいて手伝うだけで、美味しい料理と酒を出してくれるってんだから、文句なんてないよ!」

 ああ、なるほど。ルタスはその条件で受付の交代を受け入れたのか。依頼帰りで疲れている所に、レーブンの料理と酒を出すと言われれば大抵の奴は飛びつくだろう。

「むしろごゆっくりー」

 わざと俺とアキトに聞こえるように条件を口にしてくれただろうルタスの気遣いに感謝しながら、俺はレーブンの部屋の中へと足を踏み入れた。
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