上 下
776 / 1,103

775.【ハル視点】カルツさんへ報告を

しおりを挟む
 見送りのためにと家の前まで出てきてくれたルセフ達四人は、優しい笑みを浮かべていた。

「依頼の後なのに、わざわざ見送りありがとう」

 全員の顔を見回してからそう言えば、遠慮するなとか自分がしたいだけだからとかそんな優しい言葉が口々に返ってくる。本当にこいつらは気の良い奴ばかりだな。

 アキトが知り会った冒険者パーティーが、こいつらで良かったと心から思う。

「あっちでも頑張ってこいよ」
「絶対にまた会おうな」
「気を付けていってらっしゃい」
「二人とも楽しんできてねー」

 改めてそう言ってくる皆の言葉が嬉しくて、アキトと俺は顔を見合わせてから笑い合った。人に恵まれているのは良い事だな。また会いたいと思える。

「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます。いってきます」



 幸せな気分の俺達は、そのままスラテール商会へと続く裏路地を進んで行った。

 予想外にもルセフ達の家で昼飯まで食べさせてもらったから、もしかしたらもうカルツさんも帰ってきているかもしれない。

 そう思ってスラテール商会の店の横にある小道へと向かってみれば、ひっそりと存在している花壇を見つめているカルツさんの姿を発見した。

「あ!」

 カルツさんがいると気づいた瞬間、アキトは嬉しそうに声を洩らした。相手がカルツさんじゃなかったら、妬いていたかもしれないと思うぐらい嬉しそうな声だった。

「おや?アキトさん、ハルさん」

 声に反応してさっとこちらを見たカルツさんは、俺達に気づくとすぐににっこりと嬉しそうに笑みを浮かべた。

 アキトもきっと嬉しそうに笑みを浮かべているんだろうなと微笑ましい気持ちで視線を向ければ、何故かアキトは下を向いてうつむいてしまっていた。

 あーこれは周りに人がいるかどうかを確認せずに声を出した事を、反省しているんだろうな。街中に幽霊がいても反応せずに流せるアキトだが、相手がカルツさんとなると気が緩んだんだろう。

 少しぐらいなら俺が誤魔化すから頼ってくれても良いんだがな。そう思いながら、俺はそっと目を閉じた。アキトを安心させるためには、早く周りの気配を探らないとな。

「…えっと、ハル?」

 カルツさんに話しかけても良いかなと言いたげな声を聞きながら、俺は更に気配探知の範囲を広げた。

 スラテール商会の店内ではカルツさんの息子さんが店番をしているようだが、今は女性の客と商談中のようだ。裏路地を歩いていたご老人は、左に曲がったからこちらには来ない。表通りを歩く人達はまだまだ遠い距離だから、声は聞こえないな。

 そこまで確認してから、俺はぱちりと目を開いた。

「心配しなくても大丈夫みたいだよ。とりあえず近くには人の気配は無いから」
「ええ、ここは滅多に使われない道ですからね」

 お久しぶりですと笑って挨拶をしてくれたカルツさんいわく、この店の横にある小道はかなり長い期間に渡って工事の都合で閉鎖されていた事があるらしい。

 地元の人はこの道を使わない事に慣れてしまったし、特にどこかへの近道になるわけでもないからと滅多に使われていないそうだ。

 なるほど、そんな理由で最近は使われなくなっていたのか。だがそのおかげでカルツさんと話しやすいのだから、ありがたい話しだな。

「カルツさん、改めてお久しぶりです」
「お久しぶりです」
「ええ、お二人ともお元気そうで何よりです」

 少しだけ申し訳なさそうな表情になったカルツさんは小声で続けた。

「えーっと…以前話した情報収集の話でしたら、まだめぼしい情報は集まっていないんですが…」

 すみませんと続きそうなカルツさんの言葉に、アキトと俺は慌てて手を振った

「いえ、そういう理由じゃないです!」
「そうですよ。そんなに簡単に情報が集まってくるとは思っていないですから」
「そうですか」

 ホッとした様子を見せたカルツさんは、優しく微笑みながらアキトと俺をじっと見つめてきた。おそらく俺達が話を切り出すのを待ってくれているんだろう。

「アキトと俺は二人で辺境領に行く事になったんです」
「ああ。もしかして…ハロルド様の実家との顔合わせですか?」

 カルツさんは俺の事は知ってるようだったから、この流れも驚きはしない。

「はい!」
「俺の実家から、愛しの伴侶候補を連れて早く会いに来いと…」
「それはそれは、お二人ともおめでとうございます」

 俺達の辺境領行きをあまりにもあっさりとと受け入れてお祝いの言葉をくれたカルツさんに、俺はゆるりと首を傾げた。

「カルツさんは、驚かないんですね」
「ええ、私は辺境領とも取引のある商家の人間でしたから…ね。数度しかお会いした事はありませんが、あなたのご両親がどのような人かは分かっています」

 少なくとも息子の選んだ人と会う事もせずに文句を言うような人達では無いでしょう?と悪戯っぽい笑みでカルツさんは続けた。

「…そういう風に言ってくれる人は珍しいですね」

 だいたいは怖いとか会いたくないとか、頑張れとか言われるからな。規格外の両親な事は俺も分かっているからそう言われても別に苛立ったりはしないし理解はできるんだが、ここまであっさりと受け入れられるのは正直嬉しいものだな。

「お嫌でしたか?」
「いえ…嬉しいです」
「ハルさんとアキトさん、トライプールへはまた帰って来られるんですよね?」
「「はい!」」

 即答した俺達に、カルツさんはふふと楽し気に笑ってくれた。

「遠い場所からにはなりますが、お二人の無事のお帰りを祈っていますよ。いってらっしゃい」
「「いってきます」」
しおりを挟む
感想 315

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...