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771.朝の目覚めは

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 翌朝、俺がふっと何となく目を開いたのは、窓の外がようやくうっすらと明るくなり始めたぐらいの頃だった。普段ならまだ確実に眠っている時間帯だと思う。

 あれ、なんでこんなに早く目が覚めたんだろう?

 不思議に思いながらも何も考えずにいつものくせでうーんと伸びをしそうになった俺は、そこでぴたりと動きを止めた。部屋の中があまりにも静か過ぎる事に、そこでようやく気がついたからだ。

 え、これはもしかして?と、身体は一切動かさずにちらりと視線だけを動かしてみれば、視線の先には予想通り幸せそうに眠っているハルの姿があった。

 あ、やっぱり!ハルはまだ寝てるんだ!

 最近は何故か俺よりも先に起きてる事が多くて、ちょっとだけ残念に思ってたんだよね。

 俺、寝てるハルの顔を見るのって好きなんだ。起きてる時のハルももちろん大好きなんだけどね。起きてる時はあんまりじっくり観察できないから…一回だけそれをやったら、恥ずかしいぐらい甘い言葉を贈られてしまったから今は我慢してるんだ。

 それにしても見れば見るほど整った顔立ちだな。起きてる時は格好良いなって印象が強いんだけど、眠ってる時のハルは綺麗さが目立つというか…ついつい見惚れてしまうんだよね。

 眠るハルをじーっと見つめていた俺は、そこであれ?とひとつの疑問を抱いた。

 …俺、昨日いつの間に眠ったんだろう?寝ようとした所も覚えてないし、ベッドに入った所も覚えてない。

 えーっと、確か昨日は帰っていくローガンさんを見送った後、受付業務に戻るレーブンさんと別れてすぐに自分たちの部屋へと戻ったんだよね。

 あ、そういえば何か軽く食べない?って、ハルに提案されたな。

 ルセフさんの所でご馳走を食べたから別にいらないかなーと思ったんだけど、ハルいわくこのまま寝たら夜に目が覚めそうなんだって事だったから、俺も付き合う事になったんだ。

 あんなに恥ずかしそうに言われたら、俺も何か食べるよってなるのも仕方ない。

 屋台で買ってあった大きな肉の串焼きを嬉しそうに食べるハルの隣で、このぐらいお肉を食べないと筋肉はつかないんだろうかと考えてたのも思い出せた。

 そうそう、ハルがとっておきだよって出してくれたその手のひら大の果物は、皮は綺麗な蛍光緑で一皮むけば中身は真っ赤っていうなんとも奇抜な見た目のものだった。

 見た目は派手だけどアキトはきっと好きだよと勧められて恐る恐る一口齧ってみれば、口内に広がったのは甘酸っぱい苺のような味だった。

 名前も聞いた筈なのに、全然思い出せないな…。ハルが起きてきたら聞いてみないと。

 それにしてもあれは本当に美味しかったな。真っ赤な果汁が手とか口周りにいっぱいつくのだけが難点だったけど。たぶん客観的に見たら、結構なスプラッタ映像に見えちゃうと思うんだ。

 食べながら、後で浄化魔法かけなきゃって思ってたくらいだもんな。

――ってあれ?食べてる所まではちゃんと覚えてるんだけど、浄化魔法をかけた覚えは無いよね。

 ちらっと自分の手を見てみたけど、食べてる最中についてしまっていたあの真っ赤な果汁は綺麗さっぱりなくなってる。

 うわー、これって多分、ハルが浄化魔法をかけてくれたって事だよね。

 しかも食べてる途中までしか記憶が無い上に、最後に覚えてるのは眠いなぁって気持ちだけ。

 えー…もしかして…俺、果物齧りながらそのまま眠っちゃったってこと?うわー食べながら寝るってこどもか!もう立派な大人なのに…?なんて恥ずかしい!やってしまった。

 思わず身悶えてしまった俺がハッと視線をあげれば、ハルが楽しそうに微笑みながら俺を見つめていた。

「わ、ごめん、ハル!起こしちゃった!?」
「いや、こっちこそごめんね」

 なんで謝られたんだろうと思うよりも前に、ハルは苦笑しながら続けた。

「実はだいぶ前から起きてたし、アキトの表情がくるくる変わるのを見てたんだ」

 あーなるほど。俺が動揺してる所を全部見てたって事か。

「昨日は迷惑かけてごめんなさい」
「え、迷惑なんかじゃないよ?むしろ疲れてたのに俺に付き合わせてごめんね。もっと早く寝かせてあげれば良かったなーとは思ったけど」
「いやいや、俺が自分で眠いって主張すれば良かっただけだから謝らないで」
「そう?」
「それにしても、食べながら寝るとかこどもみたいだね…恥ずかしい…」

 ぽつりとそう呟いた俺に、ハルはそんな事無いよと優しく笑って続けた。

「俺の前だと無防備なのはむしろ嬉しいからね。それに可愛かったよ」

 ふふと笑ってそう言いきったハルに、俺は真っ赤になりながら勘弁してと返す事しかできなかった。
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