上 下
768 / 1,112

767.カルツさんとローガンさん

しおりを挟む
 久しぶりの再会だったから色々話したい事はあったんだけど、それはカルツさん本人から優しい笑顔で止められてしまった。

「まだこれから色々な所に行かないとでしょう?」

 商売の関係で何度も辺境領に行ったというカルツさんいわく、辺境領に行くための準備はやりすぎだと思うぐらいしておいた方が良いんだって。

「そうなんですか」
「ええ…でもアキトさんにはハルさんがついているんですから、こんな一商人の忠告は必要なかったですね」

 ハルさんがハロルド様だって知っているのに、ついつい口から出てしまいましたと苦笑いを浮かべたカルツさんに、ハルはゆるりと首を振った。

「いいえ。アキトと俺を心配しての忠告、ありがたく受け取ります」
「そう言って頂けると助かります」

 ふふと笑ったカルツさんは、俺とハルをじっと見つめてから口を開いた。

「それでは、またお二人にお会いできる日を楽しみにしていますね」
「はい、ありがとうございます」
「カルツさん、絶対にまた会いにきますから!」
「ええ、ぜひ。お待ちしてます」

 穏やかな笑みを浮かべて手を振ってくれるカルツさんに、俺とハルも小さく手を振って別れた。



 スラテール商会の小道から更に奥へと進んだ裏路地の階段を、俺とハルは手を繋いだままゆっくりと下っていく。狭い階段で手を繋いでいるせいでちょっと歩きにくいんだけど、前から人は来てないからまあ良いかな。

 なんだかハルの手を離したくない気分なんだ。

「アキト、次はどこに行きたい?」

 ハルの質問に、俺はんーと考えこんでから答えた。

「えーっと…ローガンさんの所はどうかな?」

 たしか白狼亭は、スラテール商会からもそんなに遠くなかった筈だよね。そう思って提案してみたんだけど、ハルは困り顔で頭をかいた。

「あれ?ここからだとそんなに遠くなかったと思ったんだけど、間違ってた?」
「うん、それは正解なんだけどね…今日はたしか月に一度の買い出しで白狼亭は店休日だから…店に行っても会えないんだ」
「え、そうなの?」

 なんかお店に行けばローガンさんには会えると、勝手に思い込んじゃってたよ。

 ハルいわく、白狼亭は毎月一日に買い出しのためのお休みを取るんだって。常連にいつが休みだっていちいち説明するのが面倒だって、ローガンさんがその日に決めたらしい。

 ローガンさんらしいワイルドなエピソードだな。

 でもそっか。今日を入れても二日しか空きが無いんだから、今日のうちにローガンさんにも会いにいくつもりだったんだけどな。

「アキト、しょんぼりするのはまだ早いよ」
「え?」
「ローガンはね、買い出しの日はいつも黒鷹亭に行くらしいよ」
「黒鷹亭に?」

 本当にレーブンさんとローガンさんって仲良し兄弟だよね。

「ああ、良い酒があったとか珍しい食材があったとか、いちいちそういう理由をつけて顔を出すらしいんだ」

 白狼亭の常連が教えてくれたんだと、ハルは笑って続けた。

「じゃあ早く黒鷹亭に帰らないとだね!」
「うん。ちょっと急ごうか」

 ハルはそう言うとすっと手を上げて細い道を指差した。

「あっちの路地の方が近道なんだ。だからあそこの白い花の花壇を右に曲がって、その次の角で左だよ」

 的確に道案内をしてくれるハルにお礼を言ってから、また二人で路地を歩きだす。

「あ、そういえば、アキト」
「ん?」
「ちょっと気になってたんだが、クリスとカーディさんには挨拶しなくて良かったのか?」

 アキトが挨拶したい人に入るかと思っていたんだが、とハルは不思議そうに尋ねてくる。

 うん、俺もクリスさんとカーディにはできれば挨拶してから行きたいんだけどね、今回はできない理由があるんだ。

「あー…数日前にさ、カーディにばったり会ったでしょ?」

 再会した場所がまたしても広場の屋台の前で、しかもお互い屋台飯を買い込んでる所だったのにはカーディと二人で笑ってしまった。

「ああ、会ったな」
「あの時にね、カーディがこっそり教えてくれたんだけど」
「そういえば二人だけで話してる時間があったな」

 久しぶりなんだし話してて良いよって、ハルは別の屋台に並びに行ってくれたんだよね。

「クリスさんが、今度は水属性のドラゴンの魔石を手に入れたんだって言ってたんだ」

 しかもそれは前にイーシャルで取引して手に入れた火属性の物よりも、更に大きな魔石だったらしい。小さな声でそう続ければ、ハルは明らかに呆れ顔で苦笑を浮かべた。

「あー…なるほど。もうある程度想像はできたな」

 うん、ハルの想像通りだと思うよ。

「その魔石のせいで、今はまた新しい魔道具開発に夢中なんだーって言ってたんだ。だからその…邪魔したら駄目かなーと思って」
「ああ、そうだな…まああの二人ならメロウかレーブンから情報が回るだろうしな」

 ハルはそう言って、いざとなればレーブンに伝言を頼んでおこうと笑って続けた。

「あ、黒鷹亭見えてきた!」
「普段とは違う道にしてみたんだが、こっちの道の方が近い気がするな…?」
「うん、確かにそんな感じだね」

 のんびりとそんな事を喋りながら、俺達は揃って黒鷹亭のドアをくぐった。
しおりを挟む
感想 318

あなたにおすすめの小説

突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています

ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた 魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。 そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。 だがその騎士にも秘密があった―――。 その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

自己評価下の下のオレは、血筋がチートだった!?

トール
BL
一般家庭に生まれ、ごく普通の人生を歩んで16年。凡庸な容姿に特出した才もない平凡な少年ディークは、その容姿に負けない平凡な毎日を送っている。と思っていたのに、周りから見れば全然平凡じゃなかった!? 実はこの世界の創造主(神王)を母に持ち、騎士団の師団長(鬼神)を父に持つ尊い血筋!? 両親の素性を知らされていない世間知らずな少年が巻き起こすドタバタBLコメディー。 ※「異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ」の主人公の息子の話になります。 こちらを読んでいなくても楽しめるように作っておりますが、親の話に興味がある方はぜひズボラライフも読んでいただければ、より楽しめる作品です。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...